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第8話 ラプラスと呼ばれる雄株の存在

もし機械が壊れてしまったら治せる?

挿絵(By みてみん)


だからかな、単純なものしかここには残らないんだ



 暗くて暖かい、それは目が覚める一歩手前 ────

 夢の途切れには()()()()幕が降ろされるから暗くなるのだという。『それじゃ暖かいのは?』、それは目が開いた時に肌寒さを感じさせることで『ベッドで包まって夢のエピローグに浸る』ための演出なのだとか。


 勿論、これは主人であるリロリアナの受け売りである。目を開けたピアナジュは大して寝てもいないのに経過した時間の長さも分からずにいた。膝を立てたまま仰向けになって、時々その膝を横に押し倒してはまた立てて、身体を起こすタイミングの先延ばしをしていた。


 まるでベットの上で世界を旅するリロダリア様のよう……

 ボクはいつだって寝て、起きているだけ。その真ん中はない


「起き上がって…… ブーツを履け」


 掛け声で()()()()()をなぞるのはバイオロイドであっても効果は高く、身体を起こして立ち上がった。転げたブーツに爪先を差し込みながら上手く立たせると、足を突っ込んでブーツを引っ張り上げた。ピアナジュは少しだけ高くなった視線にいつもと変わらぬ景色のピントが合うと旅のつづきを開幕した。辿ってきた線路からやや斜めに逸れて歩くことで、この旅路と中央プラントから西にへと伸びる線路と交わるのが少しだけ先延ばしになった。目的地には近くなった筈なのに、出来るだけ早く線路へと辿り着こうと気持ちは逸った。


 日が落ちても、日が昇っても歩き続けて数日が過ぎた頃、遠くに線路が見えてきた。ようやく線路と同じ進行方向で歩いて行けるところまで近づくと、トロッコが通り掛かるのを期待して時々後ろを振り返りながら歩き続けた。その期待は1日も過ぎずに訪れた。食材や物資を運び終えた5量編成のトロッコが前方から向かってきた。ピアナジュが線路の脇で両手を上げてジャンプを繰り返して注意を促すと少し前方でトロッコは停車した。ピアナジュが駆け寄るとトロッコを漕いでいた2体のバイオロイドも降りてきた。


「こんなところで貴方、何処から来たの?」

「今から中央プラントへ帰るところだよ、乗っていくかい」

「保護区に向う途中なんです」


「次の輸送は10日後だから一度中央プラントに来たらどうだい?」

「ありがとう、でも急いでいて。保護区はここからだと遠いの?」

「トロッコで半日ほどだよ」


 そうか……、まだ先だけど

 2、3日あれば到着できそうだ

 帰りはトロッコに乗せて貰って途中で降りれば


「このまま保護区へ向かうよ、帰りは乗せ貰えると助かるんだけど?」

「帰る? 保護区から何処へいくというんだい?」

「あ、いや。そうだね」

「随従者はどうしたんだい? それとも、」


 ピアナジュは口を挟んだ。

「ボクの名はリロリアナ。プレスNo.H/E CQ 6635-21 なんだ。だから大丈夫」

 上手く言えた。


「H/E …、人道配慮環境体だなんて珍しいな」

「いやー、驚いたなー。あぁ、つい…… ごめんなさいね」

 ピアナジュは首を横に振って笑うと話しを続けた。


「ところで保護区にいるアデリスタさんを知っていますか?」

「アデリスタ様は中央プラントだよ」

「そうなの? でもなぜ?」


「なんでも圏体からラプラス因子が見つかったって話さ」

「ラプラス因子だって」

「雄株を生み出せる可能性があるって噂になってるよ」


 雄株 ──── それは雌雄異株(しゆういしゅ)()()()()()()()()()バイオロイドに進化を齎すとされている。それ故、管制機関のバイオロイド達によって改質DNAを用いたエビジェネティクスによって長らく研究されていた。だが歴史上、バイオロイド化したことは一度もなく基礎研究も幾世紀も前に終えたとされている。


 バイオロイドの自己増殖による人間との生存圏云々など遥か昔に逆転済み、今更どんな進化を期待するというのだろう。管制機関の職員が今以上に高度な指示を遂行する必要があるとでも? バイオロイドに記憶と感情を植え付けて思い出を語らせるとでもいうのだろうか?



「そんな錬金術みたいなことを今でも管制機関がしているなんて……」


「詳しくは私達にも分からないけど、研究としては続けられていたんだよ」

「人のDNAを採取するのはバイオロイド化に必要と言われているからね」

「そうなんだ。…… 保護区にはいないのか」


「アデリスタ様に会うなら、乗っていくと良いよ」

「保護区で他に用がないのなら、だけど」

「うん、そうだね。他に用はないから乗せて貰えると助かるよ」


 はじめて操舵部分に乗り込んだピアナジュは好奇心で目を輝かせた。


「これってボクが漕いで構わない?」

「最初は重くて進行方向へ車輪を回すのにコツがいるからね」

「途中の平坦なところで代わってあげるよ」

「ホント。ありがとう」


 ピアナジュは歯車の構造を眺めていた。押し下げるタイミングで車輪が前後するだけの最も単純な機構、それ故に慣れが顕著に出てしまう、それに動力となるシーソーは互いの息が合わないと労力に見合った速度は出ない。ピアナジュは後部に設置された椅子に座ると先頭のバイオロイドが出発の合図をした。


「それじゃ出発するよ」


 バイオロイドがシーソーに体重かけてクランクが回転しはじめると《預かり場》で聞こえるいつもの掛け声を響かせた。


「シー、ソー、シー、カム、シー、ソー、シー、カム」


 ピアナジュも一緒に声を出して手を上げ下げする真似をしてタイミングを合わせた。風を切って走るトロッコはいつもの景色にも拘らず目移するピアナジュから一時だけでも、この先にある中央プラントのことを忘れさせることが出来た。


「リロリアナさん、出番だよ」

「よし、まかせて。シー、ソー、シー、カム、シー、ソー」



 アデリスタがリロリアナに何の用があるのか分からない。例えラプラス因子が見つかったとしても旅の目的は変わらない、せいぜい面会させて貰えないくらいのもだろう。

 

 このシーソーが上下しても支点の高さは変わらないまま

 バイオロイドと人間の主従関係が変わることのない様に

 ボクとリロリダリア様との主従関係は変わることはない


 ラプラスをボクは信じない。



つづく



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