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第5話 双子の姉弟は存在しなかった

今日も聞かない方がいいよね?

挿絵(By みてみん)


黙って耳を傾けても返事してくれないんだし



 心地よい風が葉を花弁を撫でつけて心皮に触れる。この荒野の在り方は自然に従っているからこそ、その繁栄ぶりを目に映すことができるのだろう。花壇や並木のように役割を強いてしまえば綺麗であっても四季の彩りに合わせて植え替えられ、整列の美しさ優先するあまり邪魔な枝葉は剪定される。


 廃線が遠くに見えてきた。あれを伝って歩けば、かつて駅があった場所へと辿り着く。そこに《預かり場》は設置されたままであるが、今後は旅のしらべを待つリロリアナの動向次第となるだろう。200年ほど年前なら食材の荷役作業者やそれを受け取る者、管理運営する者、様々なバイオロイドでごった返して賑わっていたというのだから衰退の加速度が年々増しているのは疑う余地がない。


 今ではここの寂れ具合に見合った合理的な判断が適用されて、3体のバイオロイドが駐在するのみ。時折り管制機関の者が訪れるだけの中継地点でしかない。それでもピアナジュにとって外出するには打ってつけの程よい場所には違いなかった。


 めずらしく今日は管制機関のバイオロイド達もお出ましの様だ。


「今日は配給日じゃないよ、リロダリアちゃん」

「いや、リロリアナちゃんの方かな?」

「それともピアナジュちゃんでよかったのかな?」


 駐在する3体のバイオロイドと会うのがまだ5度目だからといって《《区別がつかない》》という類いのものでもない。この駐在場所から移動したことのない彼らにとって会った事のないリロリアナやリロダリアのことを知る由はなかった。


 ピアナジュがここを訪れた際にした()()()()()を真に受けての反応であり、そして無論、今日からピアナジュが『リロリアナ』である。


「ボクはリロリアナだよ」

「ようやくリロリアナちゃんが旅してきてくれたのね」

「でもどうして1人できてしまったのかな?」

「弟さんやバイオロイドは?」


「それは世界を旅するのに、」

「貴方。圏体の識別をさせてもらいます」


 やりとりを聞いていたのかの様に隣の部屋から管制機関のバイオロイドが2体、口を割って入ってきた。それは通常のバイオロイドとは異なり、今、この世界を運営するに至る高度な指示を遂行出来る様に改良を加えられた精製品種だ。見た目からして人というよりは宇宙から来た者であるかのようである。頭頂部が長く、そして手足も肘や膝から先が長く、そのアンバランスさが進化の兆しを垣間見せている。


「あ、……いえ。分かりました」


 ピアナジュは上着を脱いで背中を見せると、管制機関の上役がもう一方に指示をして試験紙があてがわれた。試験紙が着色されてDNA情報が浮かび上がってゆく。当然ピアナジュにはそれがどいう仕組みか分かりはしない。ただ分かっているのは、リロリアナの圏体けんたいを識別されたということだけ。


 この区域で生存してる人間はリロリアナのみであるため照合に手間はかからない。試験紙といってもフィルムの様な透明なものの真ん中に線があり、そこから木の枝の様に左右に伸びて色とりどりに着色されてゆく。それを《《ここ》》に台帳化されて保管されているものと重ね合わせて確認するだけだ。


 原始的だが極めて普及した方式である。高精度なものを簡略化させた上で使い捨てられる簡便さが受けいられた結果である。そして識別精度は99.97%というのだから1万人に3人程度が容精密検査として中央プラントに連れて行かれるだけで済ませられる。要は彼らの興味を惹かない汎用性があれば自由を勝ち取る権利が与られるということだ。もしかするとそれが生物らしさなのかもしれない。


 そして人間としての尊厳を得られればバイオロイドが随従し豊かな生活保護を保証される。これがリロリアナの目的なのかもしれない。はじめて訪れる地域ではDNAの提出が義務付けれていて識別台帳が作成される。手間などはまったくないが人間であってもこの義務には従わなければいけない。


 仮にもし従わない場合は隔離保護対象となり軟禁生活を送ることになる。いや、応じて豊かな生活保護対象となっても、リロリアナの様に自主的に軟禁生活を送るのが普通であって汎用的な選択といえよう。


「生存者とは不合です。貴方のDNAを採取します」

「な、え、どういう事ですか」

「DNA採取に応じて下さい」


 DNAの採取は後頭部より下、首の付け根の部位に先の丸いマドラーの様なものを押し当てるだけで瞬時に終わる。蚊が血を吸うのと同じ原理だそうで痛みはなく、先の丸い部分全体で一定の細胞を吸収するという。採取部にパッチを貼り終了、そのパッチも皮膚組織に30分ほどで吸収されるタイプのものだ。


「ボクはピア、ピぁ……、ぴ、」

「もう一度言います。DNA採取に応じて下さい」


 言葉が出ない。ピアナジュであることを告白することに体が応じない。


「わ、分かりました」


 返答すると同時に器具を押し当てられパッチを貼られた。管制機関の職員も面倒なトラブルは避けたいというのが行動原理になっている。とはいえ結果によってどうなるかは別の話し。バイオロイドとはいえ人間のDNAを使用して作られたピアナジュは汎用バイオロイドではない。


「貴方の台帳が作成されました。一連の質問にお答え下さい」

「はい」


その先の答えにボクは絶望するしかない。



つづく



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