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追伸 ラプラスは無駄になった  作者: カザリナの月


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第13話 全てを根絶させる外来種

 生存圏が保たれているのは理想ではなく現実を受け入れた結果でしかない。それは助け合うことで共生を成り立たせた理想の姿という事ではない。互いに滅んでしまわない程度に捕食と増殖の釣り合いがとれたに過ぎず、それを前提とした上で共存しているに過ぎない。


 この世界では人の生存圏など途に失ってしまっている。人はアルカロイドによる幻覚に閉じこもり、バイオロイドもその使()()()()()()()だけが体裁を保ち続けている状態にある。もし中央プラントが雄型のバイオロイドを完成させたのなら、バイオロイドの存在目的が違ったものなるに違いない。


 もしその時が訪れたなら。

 人から次世代のバイオロイドへと、この世界で夢を見る者達が移り変わったということだ。



「もしボクが単性型ラプラスなら……、雄型」


 はぁ、はぁ…… はぁ うぅ

「もし、あなたが雄なら中央プラントよ」


「それでは雌型のバイオロイド。失敗作だからここに送致された」


 はぁ、はぁ、はぁはっ、ふー

「あははは 可笑しいーー、あははは。上手いこと言うわね」


「…… ボクは単性型ラプラスではなくて… 、」


 はぁ、はー、はぁ、ぅふぃ、はー

「心配ないわ、だって”あなた“を作るとき、わたしのDNAを渡しておいたの」


「その ()()() というのはどちらですか?」


 はぁ、はぁ、はぁ……

「当然、リロリアナよ」



 視点も定まらずにベッドで悶えていたピアナジュは、水を求めて洗面所へと向かい蛇口をひねる。だが水は出ない。元栓が閉まっているのかと洗面台の下にある扉を開けて元栓を回すと、その配管の脇にはジベレリン溶液が立て置かれていた。溶液がまだ入っているボトルを握りしめると立ち上がって蛇口をひねり水を出しっ放なした。


「水が… 水が欲しい。水が欲しい水が欲しい水が欲しい水、水……」


 自分の意思とは関係なくジベレリン溶液の入ったボトルのキャップを開けて口に含んで……、嘔吐した。


 うぅー、ゲェっ オォエーー  ぶッフ


 ボトボトと喉の奥につまる嘔吐物が洗面台に出尽くすと鏡を見た。


「いてもいなくても……、会えなかった」



 タマリアの部屋を元に戻すと、ピアナジュはリロリアナの元へと帰った。自分が何のためにこんな事をやっているのか半分くらいでも分かっていたなら、理不尽なことにも気が紛れたのかもしれない。少し歩いた瓦礫の陰で尻もちをつく様に座り、仰向けに寝転がって遮られた空の端っこを眺めていた。


 タマリアのバイオロイドに『あんな特別なものなのに』と言われたことを思い返していた。あのバイオロイドだって単性型ラプラス、それこそ特別なんじゃないのか……、と。考えてみれば特別も何も33体も単性型ラプラスが作れるのにそれのどこが特別というのだろう。


 薄い雲が少しだけ日差しを和らげる。管制機関の職員達が言ったことに嘘か間違いがあるのだとすれば何があるというのだろう? そう考えて身を(よじ)って横向きに丸まった。リロリアナがいつからここで隔離生活を送っているのかも知らない。だが、あそこにいる6体がリロリアナの成長に合わせたバイオロイドだというのなら10年前後。バイオロイドにとって人が経年変化が大きいと、それが同一人物と識別することは困難である。


「ボクで7体目。直ぐに8体目が配属されるんだろうな」


 もし8体目が来たのなら、リロリアナとリロダアリのDNAを配合し、製造された単性型ラプラスだろう。だがそれはかなり不明瞭な部分がある。リロリアナの言う通り『リロダリアが勝手に死んだ』というのなら、研究材料とされることに絶望してしまったというのがしっくりくる。雄型が死んで雌型が残ったということになる。そう、姉のリロリアナが弟であるリロダリアと入れ替わったのはその時なのだろう。



 雄型が未だ作れないのに単性型ラプラスって一体なんなんだ?



 ピアナジュに専門的な知識がある筈もなく、バイオロイドの製造方法など知る由もない。だが生物である以上、原理原則は避けられない部分は想像がつく。単性型のバイオロイドと生殖するということなのだろう、アルカロイドによる幻覚に溺れて。各生物の生殖メカニズムなど学術的にしか理解が及ばない、管制機関の観葉植物達も凡そそういうことなのだろう。


 リロリアナが言う『あんな観葉植物に何を言われようが関係ないわ』というのはバイオロイドであるピアナジュにも言えることではあるが……。



 生まれた時に採取されたDNAと経年により変化したDNAを配合したのか



 ピアナジュにとって、繋がらなかった紐が結ばれてゆく。だがその紐は手足を縛っているものだと再確認しただけなのかもしれない。起き上がってリロリアナの元へと急いだ。ようやく長いアデリスタ探しの旅から帰ってきたピアナジュは主人の待つ場所に到着し、部屋の前で足を止めてドアのノブを見つめた。


「リロリアナです、失礼します」


 返事がない、外出しているのだろうか?


 暫くドアのノブを見つめていた。

 ノックをしようとすると部屋の中から声がした。


「入ってらっしゃい」


 何度も見ていた光景に意外なほど懐かしさを感じない。2時間ほど前にこのドアを開けた様な気がするくらい何事もなくリロリアナはベットで胡座をかいて、皿の上に乗った食べかけのパンナコッタにスプーンを刺し込んだまま、ジャスミンティーを飲んでいる。何もかも予定通りと言わんばかりに。



「ご機嫌よさそうね」

「ただいま戻りました」

「アデリスタとは会えたのかしら」

「いえ、会わせて貰えませんでした」


ティーカップをトレイの上のパンナコッタの乗った皿と並べる様に置くと、笑ったかの様に少し口角を上げた。


「まだプラントにいたのね」

「はい……、でもどうして」

「上出来よ。まだプラントにいるのが分かってよかったわ」

「管制機関の上級職員は研究中だと」

「実験中だなんて知的ぶってて上級だわ」



 トレイからパンナコッタを取り上げてスプーンから落ちそうなくらい掬い上げた。それを口には入れない。その殆どが滑り落ちてカップへと垂れる。次は少な目に掬い上げて口に入れた。今度はさっきより多く掬い上げてピアナジュの方うにスプーンを向けた。何となくその姿は年子の姉と妹の様であった。



「これね、食べればわかるわよ」

「何がわかるんですか?」

「食べたい味と違うって」

「お口に合いませんか?」

「食べ飽きた訳じゃないの。分かるかしら」

「比べるものが無ければ分かりません」


 リロリアナはスプーンを自分の口に入れると微笑んで目を閉じた。ピアナジュは今までとは違いリロリアナと少しだけ距離が遠くなった様な気になった。


 目の前の花弁がボクをラプラスへと蝕む。



つづく





※初期投稿時、掲載を優先するためイメージイラストは作成していません


※2025.10.27より修正と加筆を開始


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