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5.


ブラン公に極秘で王宮へ招集する手紙が届いたのは、それからしばらくしてからの事だった。


「私も行っていいんですか?」


「五公の極秘会議とのことだが、王子からリリアンもつれてくるようにとのことだ」


王宮へ行くと、すでに、3人の公爵が席についていた。


「皆さんそろいましたね。急な招集にかかわらずお集まりいただきありがとうございます」


アルフレッドが議長を務めるようだ。


しかし、五公のはずなのに、ノワール公がいない。


「早速ですが。父が代替わりの確認のためノワール邸に赴いた後、戻っておりません。こちらにはしばらくノワール邸に逗留すると連絡がありました。護衛もついておりますので滅多なことはないと思いますが、状況が状況であるため、皆さんのお力をお借りしたいと思っています」


アルフレッドの父……王がノワール邸から3日ほど戻っていないという事だった。


「その前にいいかしら」


ルージュ公がひらりと手を挙げる。


「ブランの候補がいるけれど、候補にはまだ聞かせられないことも話すことになるのでは? それは良いのかしら」


「かまいません」


アルフレッドは即答した。


「そう? お嬢さんはそれでよいのかしら。秘密を知ってしまったら、もし候補を辞めても田舎には帰れないわよ」


「え……?」


「……大丈夫です。彼女は僕が守りますので」


リリアンを庇うようにアルフレッドが言う。


ルージュ公はにっこりと微笑んだ。


「まあ、青春ね。そういうのも良いけど、手続きは重要。他の公の皆様はお分かりですよね?」


そして、見渡すと厳かに宣言する。


「発議。ブラン候補の退出を求める。賛同の方は挙手を」


ジョーヌ公が真っ先に手を挙げた。そしてブラン公も。最後におずおずとブルー公が手を挙げる。


「公の総意は王様も逆らえないのよ、さ、お嬢さんは外に出ていてね」




+++




呼び出されたから来たのに、会議室から出されてしまった。


出る時に見た、アルフレッドの迷子のような顔。


リリアンを呼んだのはカイルの問題だからということもあるだろうが、大人たちに囲まれ、不安だったのだろうか。


ブラン公も賛同していたので、聞いてはいけない話になりそうなのだろう。


エントランスでブラン公を待つことにした。


そこでは小さな騒ぎが起きていた。


ノワールが押しかけてきたと言う。


3人の大柄な黒い騎士を連れたカイルが居た。


「会議が開かれているだろう。通せ」


騎士達は不自然なほど動かない。リリアンには騎士達がぼんやりとした黒い霧がかかっているように見えた。


リリアンは急いで会議室に戻った。ノックして、緊急事態であり、外では判断できないと告げる。


中から出てきたのはブルー公だった。どこか困ったような顔をしてリリアンの話を聞く。


「事情はわかった。知らせてくれてありがとう。ここで少し待ってて」


会議室の前で待つことしばし


「お待たせ。ノワール公を迎えに行きましょう」


今度はルージュ公がレイピアを片手に出てくる。


「私が一番強いから」


婦人とは思えない大股の足取りのルージュを慌てて追いかける。そういえば、ルーカスに、女同士ルージュ公に色々聞いたらいいと言われたことがあったな、と、思い出した。


一見怖そうだが、ルーカスがそういうなら悪い人では無いのだろう。


「あの!先ほどは私を庇ってくれたんですか?」


「あら、聡いのね。そうよ、候補から後継に、後継から公爵になる手続は五公と王しか知らない。聞いちゃったらもう公になるしかなくなっちゃうの。自分で選ぶのと強制的にそうなるのは違うでしょう」


ルージュ公はやさしい眼差しをリリアンに向けた。


「別に公爵が嫌な仕事ではないのよ。ただ、しっかり考える、自分で決意することが必要なの。別に断ってもいいんだから」


カイルが見えた。ルージュ公は歩みの速さを緩める。


そしてリリアンにだけ聞こえるようにつぶやいた。


「ノワールの家の子は可哀想」


そして、カイルに向けて言う。


「新ノワール公爵、ようこそ。ご案内するわ。護衛の方はこちらでお待ちいただいてね」




+++




ルージュ公はリリアンをエントランスに残し、カイルを伴い戻っていった。


他の公爵がそろう中、カイルが一人で何かできるとは思えない。しかし、不安でいっぱいだ。


「リリアンさん!」


そこにマグノリアが飛び込んできた。


「カイルが来たでしょう、何もなかったですか?」


「今のところ特に何も……」


「何か様子がおかしくなかったですか?」


「いえ、私にはわかりませんでしたけど、すれ違っただけなので……」


いつも冷静なマグノリアが取り乱している。


「代替わりをしてから何かおかしい気がするの。お父様も、王様も眠り込んでしまって、それなのにカイルは大丈夫だって言うのよ」


その時。微動だにしなかった大柄の騎士たちが、霧のように掻き消えた。


「!?」


リリアンは嫌な感じがして、会議室に走る。


扉を開けると、そこは戦場と化していた。


「アルフレッドよ、君も人徳がないね。人質にしても意味がないじゃあないか」


カイルはアルフレッドの首元に剣を突きつけているが、ルージュ公はお構いなしに攻撃している。しかし騎士は実体がないのか、レイピアが当たると霧散し攻撃が効かない。


カイルがリリアンを見てほほ笑んだ。


「ちょうどいい、殺してしまえばブランの代替わりも遅れるね」


黒い騎士がリリアンに迫る。リリアンはとっさに固く目を閉じる。


「だめよ、お兄様!!」


マグノリアの悲鳴のような声が聞こえた。続く衝撃はない。恐る恐る目を開けた。


リリアンをかばうようにマグノリアが立っていた。

マグノリアが崩れ落ちる。絨毯に赤黒いものが広がった。


カイルが顔を歪める。しかしカイルの口から出たのはマグノリアを責める言葉だった。


「邪魔をするな、マグノリア!」


「お前、なんてことを!!」


隙をついてアルフレッドがカイルの剣を奪い斬りかかる。カイルの前に黒い騎士が現れ応戦する。


崩れ落ちたマグノリアにブラン公が駆け寄り回復魔法をかける。


「マグノリア様!」


リリアンはマグノリアを呼ぶ。


マグノリアは弱々しく目を開けた。


「これはカイルの意思ではないわ、カイルはそんなことはしない… どうぞ、このことは不問に……お願い」


「マグノリア様」


マグノリアは気を失う。


剣をアルフレッドに奪われたカイルは、マグノリアを構わず魔術で応戦している。


「がッ」


ドン、と、壁に何かが激しくぶつかった。ルージュが血を流して倒れている。意識がない。


3人の黒騎士は煙のように姿を変え、ルージュ・ジョーヌ・ブルーに吸い込まれるように取り付いた。


ガキッ


っと音がして、カイルの魔術がアルフレッドを押さえつける。動けない。


「発議!!」


カイルが宣言する。


「王はただの人となり、すでに不要の存在だ。王家を廃止、人々は聖霊が直接導く。賛同者は挙手を!」


「!?」


意識がないはずのルージュ公の手がふらりと上がる。


「おい、さすがにそれは……おい、おかしいだろ」


戸惑うようにジョーヌ公が言うが、体が言うことを聞かないらしく、手が上がっていく。


同様にブルー公の手が動く。魔力が強いブルー公はそれを必死で抑えているようだ。


「公の半数が賛同すれば、王の決定を上回る。……王がいようといまいと、変わらないだろ?」


カイルはアルフレッドを見下ろし、壮絶な笑みを浮かべる。


動けないアルフレッドの手から剣をとると、構えた。


「国は僕たちが引き受けよう。君はここで……文字通り首になれ」


「だめーーーー!!!」


リリアンが光った。ブランの力はノワールと対になる。リリアンの光に当たり黒い霧が晴れる。


「なっ」


カイルの魔法が消える。アルフレッドはすかさず剣をうばいカイルを斬り付けた。




+++




ノワール親子の計画は明るみのものとなり、カイルと前ノワール公は処刑された。


処刑が決まるとすぐに聖霊ノワールは候補を選んだ。死期が近づくと候補は選ばれる。そして候補がいれば、ノワール公の死と同時に公爵は受け継がれる。


今回はノワールは一族とまったく別のところから選ばれた。仕切り直しなのかもしれない。


マグノリアは婚約破棄となり、ノワール領の最果ての修道院へ行くことになった。本人が希望したらしい。


マグノリアは最後まで、カイルは操られていたのだと減刑を訴えていたが、カイル自身が頑として自分の意志でやったと譲らなかった。


いろいろあってから、3年。リリアンは二十歳になった。


ブラン公の後継として正式に「リリアン・ブラン」となる。


「行こうか、リリアン」


アルフレッドが手を差し伸べる。後継となり養女となったリリアンは、アルフレッドと婚約することになった。


心優しいブランを中心としたアルフレッドの治世は、大変穏やかなものだった。



読んでいただきありがとうございました。


転生ものを書こうと思って、転生先の話として作成しました。本編はマグノリアに転生してカイルを中心に話を進めています。

よろしければそちらも見ていただければ嬉しいです。

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