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【第一話】異世界から来た二人

 短い真紅の髪と瞳を持つ高校一年生の主人公、赤羽心愛あかばねここあは一見普通の女子高校生であった。

 友達もいるし、勉強もスポーツもそこそこにそれなりの生活を送っていた。

 ルックスは別に、器量が悪いと言う訳ではないが、特別美人と言う訳でもなく、身長も平均的で男好きのする体もない、言葉通り極々普通の女子高生である。




 しかし、そんな彼女には誰にも言えない、悩みの種でもある特別な能力を持っていた。


 それは、【人の痛みが分かる】こと。


 一体どういうことなのかと説明すると、精神的な痛みだけではなく、肉体的な痛みまでもダイレクトに体感することができた。



 ある日の平日の朝。

 心愛はいつものように登校し学校の門をくぐり、教室に入向かっていると、背後から良く知った声が耳に入った。

「おっはよー!」

 声をかけて来たのは仲良しの、石川七海いしかわななみ橋本結菜はしもとゆなである。



「聞いてよー!

昨日さー、彼氏と喧嘩しちゃってさー」

「ええ、今度はまたどんな喧嘩したのよ?」

 などと他愛のない会話んしていると、背後からカップルが近付いて来る。


 すると突然、今まで何もなかった右腕に激痛が走り、左手で押さえる。

「どしたの、心愛?

急に腕なんか押さえて?」

「べっ、別になんでもないよ!」

 慌てて笑顔で誤魔化そうとすると、次は正面から男性教員が歩いて来る。



 心愛の隣を横切った瞬間、強烈な痛みに苛まれ、耐えられなくなりその場に膝をついた。

「ちょっ、どうしたの心愛?!」

「顔色悪いよ?」

青ざめた顔をする心愛を友人達は心配そうに見つめる。


「ごめん、ちょっと、保健室行って来んね…」

始終笑顔で誤魔化して重たい体を引きずってその場を立ち去った。



 廊下を曲がって誰もいないことを確認すると、心愛はその場でうずくまった。

(なんで…、なんでこんな体質なの…。

もう嫌だ…!)

 泣きじゃくっている心愛の後ろから、黒い影が現れる。



 不穏な気配にビクッと方を跳ねさせると、心愛は恐る恐る後ろを見た。



 するとそこには、明らかに人間ではない生き物が立っているではないか。

形こそ人間の姿を保ってはいるが、尖った耳、長い舌、長く伸びた鋭い爪、それはとても人間とは思えない姿をしている。




 心愛は、ひっと上ずった声を上げる。

「見つけた…ルビーハート…」

 化け物は舌なめずりをして、心愛を品定めするかのように見つめる。

 ビュッ、鋭い爪が切り裂かんと言わんばかりに伸びてくる。

 万事休すか。



 心愛は頭を抱えてうずくまった。

 しかし刃が舞う音が聞こえたかと思うと、怒号が飛んできた。

「おらぁ、心愛!

てめぇ、勝手に一人でうろつくなっつってんだろ!

(のルビーハート)は俺のなんだからな!」

 ビシッと、刀を突き付きつけられて、心愛は思わず表情がひきつる。

(あたしはあんたの物じゃない!

つか刀向けんな)

 心の中で毒を吐く。



 このやかましい少年の名前は、心白崎こころしろさき

 元異世界のブラン王国からやって来た、姫の護衛剣士で、白い天然パーマの髪に群青の目が特徴の17歳の少年である。

 彼にはある果たさなければいけない使命があった。

それは、【ルビーハート】を手にいれること。



 【ルビーハート】

 それは人の痛みが分かる者だけが持つ、特殊な赤い石。


 

 心を失くしてしまった者達が、喉から手が出るくらい欲しいとてもとても貴重な物。

 心を失ってしまった者は元々は普通の人間であり、それを失うと魔物となり誰彼構わず人を食らう。

 その苦しみから逃れる為…つまり人間に戻る力も秘められているのが、このルビーハートなのである。

 だから先程心愛を襲った化け物もまた、本来はただの人間であったのだ。



 ちなみに、そのルビーハートを手に入れる方法と言うのがこれまた厄介で、そうそれはー…。



 白崎は不機嫌そうな表情を浮かべながらも心愛に手を差し出す。

「ほら、手貸してやるから」

「ありがとう…」

 心愛は手を掴むと、ぐいっと強く引き寄せられた。

しかももう片方の手はちゃっかり腰に回されている。


「礼ならこっちの方がいい」

 白崎は唇を心愛に近付ける。

(ちょっ、ちょっ、ちょい待って!

いくらなんでも急過ぎるって!!)

 心愛がパニックを起こして心の中で叫んでいると、白崎の背後には黒い影が立っている。



 鋭く尖った爪で引き裂かんと手を振り上げる。

危ない!、心愛が叫びかけると後ろから銃弾が鳴り響いた。

 銃弾は的確に急所を打ち抜き、化け物は浄化され天へと旅立って行った。



◇◆◇



「ふん、相変わらず爪が甘いな」

 焼香の危険な臭いを漂わせながら、低い憂いを帯びた声が聞こえる。

 その声を聞くなり白崎が、額に大きな青アザを作ると、男を指差して

「てめぇ!今俺も殺そうとしただろ!」

と怒鳴り声を上げる。

「すまんな。化け物がでかくて見えなかった」

 男は本気なのかそうじゃないのか分からない、あくまで無表情のままでしれっと放った。



 彼の名前は、無心黒木むしんくろき

 彼もまたノワール王国と言う異世界から来た、拳銃使いの殺し屋で、耳が隠れる長さの黒い髪に紫水晶の目をした、17歳の少年である。

 同じくルビーハートを求めて異世界から遥々やって来たのだ。


 

 この二人、本当に対照的だよなぁ、と心愛は思う。




 黒木は白崎を横切ると、心愛を優しく抱き締めた。

 白崎が眉間に皺を寄せている。

「怖い思いをさせてすまなかった。

怪我はないか?」

 ぶっきらぼうでがさつな白崎とは違い、どこか慣れたような優しい扱われ方に、ドキドキと心愛は胸をときめかせながら、大丈夫と答えた。



 そうか、ならよかった。と黒木は心愛の頬を優しく撫でると、じっと心愛を見つめと、ゆっくりと唇を近付けて来る。

 全く抵抗しない様子の心愛を見かねた白崎が、後ろから思い切り頭を蹴り飛ばした。

「てめぇ!どさくさに紛れて何してがる!」

「貴様…。よくも邪魔してくれたな」

 許すまじ、と鋭い形相で睨みつけると、白崎を目掛けて発泡するが、間一髪でかわす。

「どわっ!銃は卑怯だぞ!素手で勝負しろ、素手で!」


「紳士であれば、そんな野蛮なことはしない」

 誰が紳士だ!と白崎も負けじとくらいつく。



 お互いの胸ぐらを掴みかからんとした時、禍々しいオーラに気付いた。

 心愛が怒っている。これはまずい。

「あんた達…いい加減にしなさい!!」

 天地がひっくり返す程の大声とともに、とびきりの平手を打つ音が二発鳴り響いた。



 ルビーハートを手に入れる方法、そう、それは心愛とキスすることだった。



◇◆◇



 白崎と黒木にはそれぞれルビーハートを手に入れなければいけない理由があった。


 白崎の場合は、ブラン王国の姫であり自分の護衛相手である、愛胡桃あいくるみを救う為だ。

 姫は元々心愛と同じ、ルビーハートを持つ心優しい女性であった。

 しかし、終わらぬ戦争と親しい者や民達が次々と死にゆく様を見ているうちに心を病んでしまい、ルビーハートを失い、化け物と化した。

 そんな姫を救う為にはどうしてもルビーハートが必要であった。

 しかし、ルビーハートを持つ者など、この世界では姫以外存在しない。



 戦争のない平和な時代であれば、ルビーハートを持つ物は辺り前のようにいたが、戦争が始まってからと言うもの、ルビーハートを持つ者は目に見えて減って行った。



 人の痛みが分かる者が全くいない訳ではなかったが、ルビーハートを持つには該当しない者ばかりだった。


 ルビーハートを持てるのは、人の痛みが分かりそれを憂い慈しむことができる者だけ。

 ルビーハートとは、それ程特殊な物なのである。



◇◆◇



 一方黒木はノワール王国では有数のルビーハートの持ち主であった。

 しかし、ある事件をきっかけに両親を亡くし、人買いに売り飛ばされ殺し屋となり、それから日に日に心が死んで行った。

 気付いたらルビーハートを亡くし化け物になってしまっていたのだ。

 幸いにも元々ルビーハートを持っていない人間とは違い、なんとか人間の心を保っている状態である。


 毎日毎日人殺す生活が嫌になり、人間の生活に戻る為にルビーハートが必要だったのだ。


 そして懸命に探した結果、この女子高生の元に辿り着いたのである。



◇◆◇



 ルビーハートを見つけたはいいものの、その入手方法に問題があった。

 いや、ありすぎたのだ。

 何故なら、その方法が彼女とキスをすることだからだ。


 二人で懸命に説得しようとしたが、心愛の返事はいつも否であった。

 どんな理由があろうと好きでもない相手とキスするなんてできない、これが心愛の言い分である。

 年頃の少女ならば当然と言えば当然の回答である。

だから二人はだったらせめて、好きになれるよう恋人になってはくれないか?と提案をした。

 そんなこんなで、異世界から来たこんな訳が分からない二人と恋人になることになったのであるー…。



◇◆◇


 心愛が自分の特異な体質に気付いたのは、小学二年生の時。

 きっかけこそはまともに覚えてはいないが、事故現場を目撃した時だったのはなんとなく覚えている。

 事故で亡くなった時の感情が他人とは違っていることに気付いたのだ。

 その時から化け物に襲われるようになり、今まで幾度も死ぬ思いを繰り返して来た。



 親や友達に言っても分かってくれない。

 いつも一人で辛い思いをして来た。

 だからこそこんな体質などなくなればいいのに、とずっと願い続けて来たのである。


「だからって好きでもない人とキスするなんて…」


 心愛は毎日そんなことを考えていた。




 「好きじゃない奴とキスしたくないなら、付き合えばいいじゃん」

 突拍子もないことを言い出したのは、白崎しろさきであった。

 心愛ここあは「はぁ?!」と声を上げる。

「ちょっと待ってよ!

それってつまり、偽りの恋人になれってこと?」

「そういうこと!」

 随分とあっけらかんと言ってくれる。



「そんなの嫌だよ!

 私にだって付き合う人を決める権利くらいある筈でしょ?!

 ねぇ、無心むしん君もそう思うよね?!」

 沈着冷静な無心なら、絶対に自分の味方になってれる、心愛は期待した。

 無心は顎に手を当ててうーむ、と考えると、

「白崎にしてはいい考えだな」

 と期待を裏切ることを言っている。

「だろ?」

 と白崎はとても得意気である。



 でも、付き合うって言ったってどうすればいいの?

彼氏いない歴=年齢の心愛は男性と付き合うことなんて全く検討もつかなかった。

 だったら、と白崎と黒木は何やら相談し始める。

「だったら、同棲しよう」

 とあり得ない答えが帰って来た。

 幸いにも、心愛は寮は高いからと安いけれどそれなりに広い1LDKの部屋に下宿しているので、誰にも干渉されることはない。

 だから、男性二人と三人で生活することも可能ではあった。


 だが、ちょっと待て。

 問題はそこではない。

 年頃の男女がひとつ屋根の下で生活をする、それがどういうことなのか二人は分かっているのだろうか?

 恐る恐る聞いてみる。

「ただ、一緒に飯食って、寝て、学校に行くだけだろ?」

 と言った。

 案の定である。

 心愛は脱力して、だったら大丈夫かもしれない、と身を任せてしまった。


 あくまでも二人の目的はルビーハートだし、大丈夫だよね…?


 心愛は自分にそう言い聞かせた。



◇◆◇



 二人と同棲することが決まった初日の朝。

 心愛はスマートフォンの電子音で目を冷ました。

 背伸びをしてカーテンを開けると、太陽系の光が燦々と降り注いでいる。

 いい朝だ、そう思っていたのは束の間であった。

「おい、てめぇ!

なんで先に豆腐入れんだよ!

普通最後だろうが!」

 朝っぱらから耳障りな声が脳天を突き抜ける。



 心愛は何故一人暮らしなのに男の声が聞こえるのか。

 まだ寝惚けているからか、頭が働かない。

 眠い目をこすりながら、キッチンに向かうと、制服にエプロン姿の白崎と黒木が料理をしていた。

 テーブルには、ご飯とベーコンと目玉焼きが三人分並んでいる。

 それでやっと、今日から同棲生活が始まったことを思い出したのだ。



 朝食をバナナとヨーグルトと牛乳だけで済ます心愛にとって、自分の為にこんな朝早くから朝食を作ってくれたのは非常に嬉しい。

 だがもう少し静かにしてくれないかと、心愛は頭が痛くなるのを感じた。

「また今日は何で喧嘩してるの?」

 寝起きの不機嫌な声で二人を見やると、味噌汁を作っていることに気が付いた。



 黒木が最初から豆腐を入れようとしていたらしい。

 なるほど、それは怒る、と心愛は納得した。

 どうやら、黒木は料理は苦手らしい。

「すまんな。この国の料理は分からんのだ」

 と珍しく素直に謝った。



 ああじゃない、こうじゃない、と白崎に指導されながらもやっとこさで朝ごはんが完成した。

「いただきます」

 心愛は醤油をかけた目玉焼きを口に運ぶ。

 すると、口の中に淡白ながらも優しい卵の風味が広がる。

(朝からこんなご飯が食べられるなら、同棲も悪くないなぁ)

 と思った。


「そういや、なんでこころ君って料理得意なの?

お姫様の護衛って料理とか必要なの?」

「姫様の護衛って言っても、元々は平民で貧乏な家だったたからな。

 五人兄妹の長男だし、できて当たり前だったから」

「そうなんだ…」

 こんなぶっきらぼうな奴でも、結構苦労してるんだ、と心愛は感心した。

 やっぱり、自分とは全く違う次元の人間なんだ、と改めて認識するのだった。

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