野球ゲームを作りたい高千穂くん VS BL恋愛ゲームを作りたい桜橋さん
「文化祭の出し物なんにするか案ある人いるー?」
パソコン室で静かに奏でられていたキーボード音が止まった。
部員三人が仕事を終えて現れた担任の顔、その後お互いに顔を見た。
「え……やるの?」
「んー」
「そうか、そんな時期か……」
三人が担任を見た。その顔は『やらんとアカンで』とニヤついている。三人は仕方なくそれっぽい話を始めた。
「またゲームでも作って出す?」
「去年のシューティングゲームは中々に評判良かっな」
「今年は何やる? 格闘ゲーム? スポーツ?」
出し物というよりはゲームの話になると盛り上がる三人。最初に希望を出したのは部長の高千穂だった。
「俺、野球ゲーム作りたいな。育成するやつ」
「良いねぇ。弱小野球部が甲子園目指すやつだろ?」
高千穂の意見に副部長の橋下が賛同し、メモ書きに『育成野球ゲーム』と、ペンを走らせた。
「わたしは~……恋愛シミュレーションが良いなぁ」
「良いね。フラグ管理で様々なエンディング。やり甲斐があるじゃん?」
二人目の副部長である桜橋が両頬に手を当て少し恥ずかしそうに提案をすると、橋下がにこやかに『恋愛ゲーム』とペンを走らせた。
「橋下は? 何やりたい?」
「んんー? フフ。脱衣麻雀♪」
「「却下!!」」
「フフ。だよねぇ♪」
意見が纏まると、桜橋が「シナリオはまかせて!」と意気込みパソコンに向かった。
高千穂と橋下が椅子を滑らせ、後ろから作業の様子を見守る。
「野球詳しいのか?」
「フフン? こー見えてお兄ちゃんが元野球部だったりするの」
「それは頼もしいね」
「こう、熱くて熱中出来るような感じにしてくれよ!」
男二人がワイワイと賑やかしをしている間にも、桜橋は素早く作業を進めた。実はプログラミングが出来るのは桜橋だけで、高千穂と橋下はやる方専門であった。
──そして次の日
「少し出来たから見てみて」
「おお! 流石はゲーム部のエース!」
「よっしゃ! 部長の俺様のチェックは厳しいぞー!」
意気揚々と椅子に座る高千穂。
マウスを握り、作りかけのゲームを起動させた。
【俺の名は高千穂由紀夫。Jリーガーを目指してこの高校へやって来た! 夏の甲子園に出るために、まずは部員を集めよう!!】
「うん……まぁ修正点は終わってからでいいか」
「え? いきなりなんかあった?」
【渡部クン! 君、野球に興味ないかな!?】
【むむ! 勧誘でがんすね!? ならば河原で決闘でがんす!】
「……確かに熱くしろとは言ったけどさ」
「だめぇ?」
「う、うーん……」
【ハァハァ……!! 渡部クン……中々やるじゃないか……!!】
【ハァハァ……!! 高千穂クンの真空飛び膝蹴りも効いたでがんすよ!! 野球部に入ってもいいでがんすよ……!!】
──部員が500人増えた。
「待てい!!!!」
「へ?」
「最後にまとめて修正点を言おうとしたけど流石にこれはストップせざるを得ないぞ!?」
クルリと後ろを向く高千穂に、橋下が失笑を浮かべた。桜橋は何のことか見当もつかず、目を丸くして続きを待っている。
「何故500人も一気に増えた!?」
「え、一人一人じゃ面倒じゃない?」
「とんだマンモス高校だな!!」
「聞きました橋下さん? 今のご時世に『マンモス高校』ですってよ?」
「ハハ……」
話題を逸らされ、気まずくなった高千穂はパソコンに向かい直した。
【今日は球拾いだ!】
──球速が50km/h上がった。
「待てい!!!!」
「あーはいはい。直しときまーす」
【渡部クンの身体……中々に鍛えられてるね】
【高千穂クンこそ……】
【──チュンチュン】
──ヤる気が上がった。
「コラァァ!!!!」
思わずゲームを消し、桜橋に詰め寄る高千穂。
「まあまあ」と橋下が間へ入り、高千穂をなだめ始めた。
「成長は緩やかに、それとJリーガーをプロ野球選手に、そして部員を調整……それで良いかな?」
「最後のホモォ要素はぁぁ?」
「なによ、折角橋下くんご希望の脱衣要素も入れたのに……」
「ハハ……アリガトネー」
腕を組み、爪先を上げてトントンとリズムを刻み思考を巡らせた高千穂を見て、橋下がペンを取り出しメモの準備をした。
「友情的なトレーニングと、甲子園……それと彼女。うん、これは外せないな」
「野球ゲームなのに彼女いるの?」
「野球! 青春! 恋愛! 全部大事!」
「へーい……」
──また次の日
「うーん、徹夜したから眠いわ……チェックしてる間少し寝るわね」
「おつかれー」
「うっし! やるかー」
【俺の名は高千穂由紀夫。プロ野球選手を目指してこの高校へやって来た! 夏の甲子園に出るために、まずは部員を集めよう!!】
「お、ちゃんと直ってるな」
「だね」
【ハァハァ……!! 渡部クン……中々やるじゃないか……!!】
【ハァハァ……!! 高千穂クンのファイナル真空飛び膝蹴りも効いたでがんすよ!! 野球部に入ってもいいでがんすよ……!!】
──部員が5人増えた。
「何故ファイナルつけた?」
「さ、さぁ……?」
【今日は球拾いだ!】
──球速が1km/h上がった
「なんか最初がヤバかっただけに、急に成長がショボく見えるのは気のせいだろうか?」
「大丈夫、これが普通だと思うよ?」
【渡部クンの身体……中々に鍛えられてるね】
【高千穂クンこそ……上腕二頭筋なんか生唾モノでがんすねぇ!】
【──チュンチュン】
──渡部クンと熱い友情で結ばれた!!
「友情じゃないだろコレ!!」
「しーっ、起きちゃうよ」
【ついに県大会だ!】
「おっ! ついに野球するぞ……!!」
「……大丈夫かなぁ」
【肩がッッ!!】
【高千穂クン!? 大変でがんす!! 見た感じ四十肩でがんす!!】
【俺に構わずボールを投げるんだ渡部クン……!!】
【嫌でがんす!!】
「なんか茶番始まったぞ」
「茶番言わないであげて」
【そうでがんす!! オラが高千穂クンの肩になるでがんす!!】
【そんな事が出来るのか渡部クン!?】
【二人羽織投法でがんす!!】
【嗚呼……渡部クンの鼓動を背中で感じるよ……!!】
「…………」
「…………」
そっとゲームを消し、二人は全てを諦めた様に笑った。
文化祭には去年と同じシューティングゲームを出した。
2022.02に書いたまま放置されていたものにオチをつけたものです。