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第二章 進君と電気工事の関係 2

本日、2話目の投稿です。

楽しんでいただけると、幸いです。

龍之介たち三人が向かった先は校内の隅っこにある祠だった。

 この祠は三人の曽祖父である初代理事長が学校を創立した際に、「学生と学校が共に幸ある未来を掴めますように」と祈願して建立したものだ。

この祠には毎日お供え物が供えられる事になっており、初等部、中等部、高等部の生徒が月替わりの交代制でする事になっている。今月は初等部の生徒が当番の月で今朝も誰か初等部の生徒がお供えをしたはずだった。

三人は祠の前に立つと、

「さあ、始めるか」

 何やら布袋から小さいナイフの様な物を取り出し、それを次々と地面に突き刺し始めた。

「一体何を始めるつもり何だろう」

 そんな風に三人を心配そうに見守っていた進がギョッとする様な事が起こったのは、その作業が終わった直後だった。

「か、刀、なのか?」

 作業を終えた龍之介と綾香が袋から取り出した物は、進の目からは、どこからどう見ても刀にしか見えない物だった。進の驚きをよそに取り出した刀を構えた龍之介は、

「それじゃあ、舞香、始めろ」

「うん、お兄ちゃん」

 慣れた口調で舞香に命令した。兄に命令された舞香は、地面に突き刺した剣で囲まれた中心部に立ち、そっと目を閉じると、何やらぶつぶつと呪文の様なものを唱えだした。

 何だ、何だと、何か変な感じがした進が身構えていると、ある瞬間、突然進の視界がパッと明るくなった。なぜだか地面が光り出し、それと同時に会長たちの目の前に怪物たちが現れた。

 ――荒川先輩の言っていた事は正しかった。学校の中にこんな怪物が潜んでいたなんて。

 怪物たちを実際に見てしまった進は荒川の慧眼に感服せざるを得なかった。

「綾香。俺はいつものように突撃するから、舞香の事は頼んだぞ」

「任せて、龍君」

 会長は舞香の事を綾香に任せると自らは怪物たちの中へ飛び込んで行った。

 進が見る限り怪物のボスと言うか、中心メンバ―は三匹だった。オオカミ男?の様なのが一匹に、吸血鬼?みたいなのが一匹。それに人造人間?みたいなのが一匹いた。そして、それら三匹を囲むように子分?の犬、コウモリ、蟲の集団が居た。

 龍之介は何の恐れを抱く事も無くそれらの集団のど真ん中に突っ込んで行くと、怪物たちに戦いを挑んだ。

 まず、犬とコウモリをまとめて二、三匹叩き斬ったかと思うと、襲いかかって来たオオカミ男と吸血鬼の攻撃をバックステップで軽くいなし、オオカミ男の方へ逆撃を掛けた。「ちぇすとおおお!」

 薩摩示現流張りの裂帛の気合い声と共に刀が鋭く振り降ろされると、

「ぐえっ」

 とオオカミ男の左腕が斬り飛ばされた。その隙をついて吸血鬼が再び会長に襲いかかったが、会長はその攻撃を今度は縦の方向の回避でかわすと、地面に着陸した瞬間、グサッと鈍い音と共に吸血鬼の右足を斬ってしまった。

 ――会長、すごい!

 龍之介の戦いぶりを見た進は目を輝かせた。

 ――前から運動神経のいい人だとは聞いていたけど、まさかあんな化け物たちと互角に戦えるような人だったなんて。

 進の気分は高揚しっぱなしで、固く握った拳からは汗が滴り落ちているほどだった。

 ――それに、会長もすごいけどあの子もすごい。

 とは、龍之介の従姉妹の綾香の事である。

 何せ怪物たちは数が多く、会長一人で捌くには限界があった。どうしても何匹かは会長の脇をすり抜けて舞香や綾香の方へ向かってくるのだった。

 会長のあまりの強さに驚愕した怪物たちは、女の子の方が弱いだろうと思ってこっちへ来ているのだろうが、その考えは見当違いもはなはだしかった。

 綾香も龍之介に負けず劣らず強いのであった。

 襲って来たコウモリと蟲を目にも止まらぬ剣戟の速さで斬って捨てると、自分たちの方へ来たボスの内の一匹である人造人間に対しては、

「えい」

 サッカーのオーバーヘッドキックの様に縦方向に回転しながら斬りつけていき、

「ぐえっ」

 と人造人間を頭から真っ向唐竹割に真っ二つにしてしまった。

 そんな風にして龍之介と綾香がほとんどの怪物を片づけた頃、

「終わり。地脈の修復は完了しました」

 と、舞香が瞑想を終えるとともに地面の輝きが消えた。そして辺りには元の静寂さだけが残った。

 龍之介たちの修羅場はこれで終わりだったが、進にとっての修羅場はここからだった。

 一連の戦いが終わって、興奮が冷め、我に返った進はふと思った。

 ――もしかして、自分は見てはならない者を見てしまったのではないか。

 そんな嫌な予感がした。

 ――多分、今日電気工事の予定があったのは、荒川先輩が言っていたように目の前のこの出来事を覆い隠すため何だろう。では、なぜ覆い隠す必要があるのか。

 進はガクガク震えた。

 ――人に見られたくないからに決まっているじゃないか。

 今さらながら恐くなった進は逃げる事にした。後ろを振り向きなるべく早くこの場から離れようとした。だが、恐怖で注意力が鈍っていたのだろう。

パキッ。

不注意な事に小枝を踏んづけてしまった。戦いが終わった直後で神経が敏感になっている会長たちはこの音を聞き逃さなかった。

「誰だ!そこにいるのは!」

 最悪な事に進はそう叫ぶ龍之介の方へ反射的に振り向いてしまった。

「岩清水、お前、岩清水なのか?」

 ばっちり顔を見られてしまった進は、もうどこにも逃げられないと思い観念してその場に立ち止まった。

「岩清水、お前、今のを見てしまったのか」

 進の方へ近づいてきながら会長はそう質問してきた。

「え~と」

「どう何だ。はっきりしろ」

「見ていません。オオカミ男や吸血鬼なんか見ていません」

 追い詰められて錯乱した進は、つい、見た事をそのまま言ってしまった。進の発言を聞いた龍之介の目が怪しく光り、口を噤む。代わりに綾香が龍之介に話しかける。

「残念だけど、これは始末しないといけない案件みたいだね」

 ――始末?始末って何だ。

 自分より年下の女の子の口から『始末』などという恐ろしげな言葉を聞いた進は震えあがった。

「でもな、綾香。こいつは開眼の儀何か受けていないはずだぜ。それなのに魍魎が見えたりするものかな」

「普通なら見えないはずだけど、元々見えなくても、たまに私たちの戦いの波動を受けると、開眼の儀を受けた時程ではないにしても、脳が刺激を受けて見えるようになる人も居るみたいだよ」

「そうか。でもなあ」

 尚も会長は逡巡している様子だったが、綾香は会長の背中を押すのを止めなかった。

「この人を思う龍君の気持ちは分かるけど、この人の発言からは明らかに見ているとしか思えないんだね。それなら、ちょっと可哀想だけど、始末するのが一族の掟だよ」

「そうだなあ。仕方がないか」

 龍之介は進の目の前に立つと、ゆっくりと進の顔に手を当て、

「それじゃあ、岩清水。覚悟しろよ」

 と、静かな口調で言った。その口調にはもう迷いはない様に進には感じられた。


本日はあと1話投稿します。

20時くらいの予定です。

乾燥いただけると嬉しいです。

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