第二章 進君と電気工事の関係 1
本日1回目の投稿となります。
拙い作品ですが、多くの方に読んでもらえると幸いです。
電気工事当日の放課後、進は生徒会室へ行った。昨日完成した集会の資料を先生たちへ提出するために取りに行く必要があったからである。オカルト研に寄らなかったのは、今日は五時までに下校しなければならないという制約があるため時間が無かったからである。
「あれ?会長は?」
進が生徒会室へ行って見ると、吉田、川上両先輩はいたが会長の姿は見えなかった。
「会長は用事があるからって帰っちゃったわよ」
――またか。月曜日からずっとじゃないか。
「それよりも、これ見て、これ。すっごく美味しいよ。岩清水君も食べなよ」
進は不満を抱いたが、先輩たちは会長が帰った事を気にしている風ではなく、それよりも今日会長がくれたというお菓子を、それは市内の著名菓子店で一日三十箱だけ限定販売されている有名なお菓子である、美味しそうにバクバク頬張る方に忙しかった。
「あ、もちろんいただきます」
先輩たちに勧められた進もお菓子を食したが、そのお菓子は噂に違わず美味しく進の会長に対する負の感情など一瞬でどこかへ吹き飛んでしまったのであった。
お菓子効果で上機嫌になった三人は、協力して職員室へ資料を運んだ。資料は結構な量があり全部運ぶのに三人で三往復を要する事になった。
「それじゃあね」
「どうも、さようなら」
仕事が終わると進はさっさと家路に就いた。その途中、校門前の事である。
「ほら、今日は電気工事があって邪魔になるからさっさと帰りなさい」
「イヤだ。今日の電気工事は学校の陰謀何だ。残って真相を暴いてやる」
「そんな訳ないでしょう。ほら、帰った、帰った」
体育倉庫の裏に隠れようとして警備員に見つかった荒川がつまみ出されようとしている現場を進は目撃した。荒川は排除しようとする警備員に対して尚も抵抗したが、結局、最後には、
「荒川、いい加減にしろ」
警備員に呼ばれて駆けつけて来た体育教師によってつまみ出されたのであった。
進はその様子を校舎の陰から見ているだけであった。なぜ進が荒川の事を助けようとしなかったのかというと、もし助けようとしたりすれば荒川の行動が荒川単独ではなくオカルト研としての行動だったと教師に思われる危険を避けるためであった。
尚、校舎に私設警備員を配置しているのは某市学院の売り口上の一つだ。
そもそも、某市学院を創立したのは現理事長の父、つまり龍之介たちの曽祖父なのであるが、創立当時から校舎に警備員を配置して生徒の安全を守って来たのである。
もう一つ付け加えると、某市学院に警備員を派遣しているのはJKK(日本完全完璧警備保障:Japan Kanzen Kanpeki Cecurityの略)という日本どころか世界でも三本の指に入る警備会社である。創業者は学園の創立者である前理事長であり、現在は某市学院の現理事長である龍之介たちの祖父が経営している。
――というか、結構警備厳しいんだな。まあ、さすがと言うべき何だろうな。
進はただの電気工事にしては警備が物々しい事に多少の違和感を覚えつつも、自分には関係の無い事だと考え騒動が収まるとさっさと校門を出た。
家に帰った後は、取り敢えず数学の教科書を開いて勉強していたのだが、そのうちに、
「あ、やばい」
学校に数学の問題集を忘れている事に気が付いた。問題集が無くてはこれ以上勉強を進める事はできなかった。進は机の上の時計を見た。時計は四時四十五分を指していた。
「間に合うか」
進は壁に掛けていた上着を手に取り羽織ると、
「もうすぐ、ご飯だよ」
と言う母親に構わず学校へ出かけた。
幸いなことに学校に着いた時まだ校門は開いていた。警備員も誰も残っていないか校内の巡回にでも行っているのだろう。校門の所には誰も居なかった。
進は駆けに駆けて教室へ行くと、机から問題集を取り出し、ホッと一息ついた。
乱れた呼吸を整えながら進はゆっくりと帰る事にした。もうみんな帰ってしまったのだろう。途中校内では生徒はおろか教職員にさえ会う事は無かった。
だが、校舎一階の下駄箱で、
「あれ、会長?」
龍之介の姿を進は目撃する事になった。しかも、
「あれは、平舞香と綾香ちゃんだっけ」
龍之介はその妹と従姉妹を伴っていた。「会長」進は三人に挨拶をして帰ろうとしたのだが、三人は進に気付く事なく足早に校庭の隅にある体育倉庫へ入って行った。
それを見た進は首を捻った。
「一体、誰も校内に居ないこんな時間に体育倉庫で何をするつもり何だろう。そう言えば……あの従姉妹の子は会長の許嫁だという事だし、妹の方も会長に惚れているという話だし、まさか」
想像した進の顔が真っ赤になった。体育倉庫の中で会長たちが三人で何かイケない事をするのではないかと勘繰ったからである。
――ここは生徒会の書記として風紀を正さねば。
変な正義感と最高レベルの好奇心が入り混じった複雑な感情を胸に抱き進は、倉庫側の林の木陰に隠れると、そこから倉庫の様子を窺った。
龍之介たちは中々出てこなかった。出てこなかった事が進の猜疑心を更に増大させた。
「中々出て来ないってことは、やっぱりそういう事をしているのだろうか。ここは……」
進が中に踏み込もうかどうか悩んでいると、突然倉庫の扉が開き、中から龍之介たちが出て来た。
「おや?」
出て来た三人を見て進が奇異な表情をしたのは、龍之介はまだしも女の子たちの恰好が変わっていたからだった。
龍之介は学校のジャージだった。これはまだ分かる。
だが、女の子二人は西洋の魔女が纏うような黒いマントを羽織っていた。しかもその下には妙にフリルが多くて可愛らしい服を着ていて、龍之介の殺風景なジャージと併せて考えて、三人がこれから何をするのか全く不明であった。
「行くぞ」
龍之介たちは倉庫から出てくると、どこかへ向かって歩き始めた。進は三人の後をこっそりついて行った。
本日、あと2回投稿予定です。
12時、20時くらいの予定です。
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