第一章 進君とオカルト大好き人間の関係 6
本日最後の投稿です。
第1章完となります。
ドタドタと重厚な音を立てながら歩く荒川に付いて行った進が辿り着いたのは、いつものオカルト研の部室だった。
オカルト研の部室に入った荒川は、電灯を一個だけ点け、カーテンを全部閉めて部屋の中を薄暗い状態にすると、いつもの自分の席に座り、徐に進に語りかけた。
「これを見てくれ」
そう言って荒川が進に渡してきたのは一枚の紙切れだった。
「何ですか、これ」
「まあ、取り敢えず読んでみてくれ」
荒川に紙に書いてある文章を読むように促された進は、言われるがままその紙に書かれている内容を読んでみた。たちまち進の顔に?マークが浮かんできた。
以下、その紙に書かれていた内容である。
『今週木曜日夕刻、本校変電設備の改修工事を行います。電灯、コンセント等校内の電気設備は一切使用不能となり、また、工事の妨げとなる可能性がありますので、生徒、教職員は午後五時までに必ず下校して下さい。以上 私立某市学院理事会』
それは電気工事の告知書だった。今日が火曜日だから明後日電気工事が行われるという事になる。
「先輩、これは?」
「三階の掲示板に張ってあるのをもらって来た」
――勝手に剥がして持って来ていいのかよ。というか、今聞いているのはそこじゃなく。
「そうじゃなくて、この電気工事がどうしたっていうんですか」
「その電気工事は怪しい。学校が生徒に隠して何かしようと企んでいる」
「はあっ?」
荒川が語り出したのは謎の荒川理論に基づいたとんでもない論理展開だった。
「何を言っているんですか。どこをどうしたら、この電気工事が怪しいんですか」
「それはだ、な。まず、第一に、この電気工事が急過ぎるという事がある。うちの変電設備って小中高合わせてかなりの数の学生が使うから、結構大きいだろ」
「まあ、大きい、かな?」
進は校舎の隅にある変電設備を思い出してみた。言われてみれば結構大がかりな設備な様な気がした。というのも、栄光学園の変電設備は学校どころか隣接する企業の研修所や工場との共用だからなのである。
「だろ。ということは、改修するにも大掛かりな工事が必要なはずで、今日決めたからと言って明日すぐに工事ができるわけがない。普通は、数週間、もしくは数カ月か先になるはず何だ」
「まあ、そうかもしれませんね。でも、この工事、実は大分前から決まっていて今日発表されたのかもしれませんよ」
「そんな事は無い。この工事が生徒や先生に与える影響はかなり大きい。何せ全員工事の邪魔だから帰れと言っているんだぜ。本当に大分前から工事が決まっていたのなら、もっと前に通告があるはず何だ」
「たまたま工事を引き受けてくれる工事業者があったんで急遽工事を実施するだけかもしれないじゃないですか」
「確かにその可能性もある。だが、俺は第二の理由でその可能性を否定した」
「第二の理由って、何ですか、それは」
荒川はコホンと一つ咳払いをすると、厳かな口調で自分の意見を述べ始めた。
「それは、な。この工事が木曜日に行われるからだ」
「何で木曜日に工事があったら怪しいんですか」
「こういう大きな工事は、普通、なるべく混乱を防ぐために週末に行うもの何だ。それなのにわざわざ平日の木曜日に実施している。それはなぜか?学校に急いで工事を行わなければならない別の理由があるからだ」
進はもうあきれてものが言えなくなった。
――木曜日に急な電気工事を行うから学校が何か企んでいる?そんな訳があるか!
「というか、先輩。仮に木曜日に学校が生徒に隠れて何かをするつもりであるとして、ですよ。先輩は一体どうするつもり何ですか」
「決まっているだろう。学校に忍び込んで学校の陰謀を暴いてやる」
荒川はしたり顔で、さも当然とばかりに言った。それに対して進は反射的に叫んでいた。
「止めてください!学校に隠れてそんな事をするなんて。もし先生に見つかったら怒られるだけじゃ済まないですよ。オカルト研、今だって部員三人で、人数ギリギリで、先生の覚えもめでたくないというのに、そんなことしたら最悪潰れちゃいますよ」
――オカルト研が潰れでもしたら、荒川先輩はともかく、隅田川先輩に会う機会が無くなるかもしれない。
不安と焦燥に駆られた進は荒川に強く激しい口調でそう言ったのだが、悲壮な思いの進に対して荒川の方はどこ吹く風で、
「我々オカルト研の目的は世の中の真理を追究する事である。その為にはオカルト研の存在を賭けるのも上等である」
などと平気でのたまうのだった。その荒川の態度が進の感情を沸騰させた。
「いい加減にしてください!この程度の電気工事で何を言っているんですか!この程度の工事が怪しいなんて言い出したら、世の中の工事の九十パーセントは世界政府の陰謀絡みですよ」
――世界政府って何だ。荒川先輩の話を聞いているうちに僕も少しずつ先輩に毒されつつあるのかな。
進は自分の表現に自己嫌悪を抱いたが、この表現は荒川には意外と効果があったらしく、滅多に感情をあ露わにしない後輩の態度と併せて荒川を黙らせてしまった。
キーンコーンカーンコーン。
その時昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴り、二人は解散したが、荒川はその後この話を蒸し返す事がなく、進はこの話はもう終わったのだと思っていた。
明日から第2勝を投稿します。
朝、昼、晩と1日3回投稿予定です。
次回から、霊能バトルの部分の描写が入ります。
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