第一章 進君とオカルト大好き人間の関係 4
本日5話目の投稿です。
本日は1章6話まで投稿します。
よろしくお願いします。
「その子は、柳綾香ちゃん。五年生で会長の従姉妹さんね」
進の「あの会長を訪ねて来た初等部の女の子は誰ですか」という質問に答えてくれたのは十二年生で生徒会副会長の吉田麻里先輩だった。
「岩清水君、高校で外から入って来た組だから知らないんだね。会長を含めたあの三人組は、全員この学校の理事長の孫だから校内では有名人何だよ」
進にそう追加情報をくれたのは十一年生で生徒会会計の川上沙織先輩である。
吉田先輩は長い髪を三つ編みにし眼鏡を掛けていて、真面目が服を着た様な外見をしていた。実際外見通り成績も良いらしく先生たちの間では信頼されていた。
逆に川上先輩はショートカットでスポーツ少女っぽい外見をしていた。川上先輩は生徒会に来る前は陸上部に居て、怪我で陸上を続けられなくなり生徒会に来たのであった。
生徒会長たちが去った後生徒会室に現れたこの二人に、「会長に逃げられました」と、進は報告した。こういう事はよくあることなのだろう。二人は苦笑いをしつつも、
「まあ、仕方がないわね」
「それよりも、会長、今度は何くれるんだろうね」
会長が逃げた事よりも会長が奢ってくれる物の方に興味があるようであった。
進が二人から聞いた話によると、こういう時、会長はものすごくレアでかつ高価なお菓子をくれるのだそうだ。だから、甘い物に目がない先輩二人は仕事の苦労よりも報酬の方を期待してこういう態度を取っているのだった。
その後、仕事をしながら世間話として進は先程の女の子の事を聞いた。その答えが冒頭の二人の会話だったのであるが、この話にはまだ続きがある。
「綾香ちゃんはね、会長の許嫁なのよ」
「えっ、許嫁?それは婚約者ってことですか」
「そうよ。これも有名な話よ。二人は小さい頃から一緒に暮らしていてとっても仲がいいのよ」
「一緒に、って……それって、同棲しているってことですか」
進の早とちりでかつ的外れな質問を聞いた二人はクスクス笑いながらも、
「同棲というか、二人の御両親がお祖父さんのお屋敷で一緒に暮らしているというだけの話何だけどね。ほら、神通町にあるデカいお屋敷。あそこが会長の家なのよ」
と、ちゃんと答えてくれた。その屋敷については進も知っていた。ここ某市はある企業の企業城下町なのであるが、その屋敷はその企業の創業者一族の屋敷として市内で知らない者がいない屋敷なのである。
「ああ、そういうことですか」
自分の早とちりに気が付いた進は焦りと気恥ずかしさで顔を赤くしながらもある事に思い至り、先輩たちに更に質問した。
「というか、あの人、許嫁が居るのにあちこちで女の子に手を出しまくっているんですか」
「出しまくっているのよね」
先程述べなかった進が龍之介に対して唯一尊敬できない点。それが、この誰彼構わず女の子に手を出すという事なのである。
「まあ、あそこのお家はちょっと他と変わっているからね。岩清水君は、『復讐女王』の噂を聞いた事がある?」
「復讐女王?何ですか?それは?」
「会長の妹の舞香ちゃんの事よ。彼女は、ねえ、お兄さんである会長の事が好きで好きで堪らないの。しかも兄妹愛とかいうレベルではなく、一人の女の子としてね」
「兄妹なのに、ですか」
「そう。もっとも、会長は彼女の事を全然女の子としては見ていないみたいだけどね」
――それは健全な話だな。まあ、当たり前だが。
「ふ~ん」
「だからという訳ではないのだろうけど、彼女の嫉妬はものすごくてね。お兄さんに近寄って来る女の子を見つけては、手下の女の子を使ってその女の子たちに向かって、『二度とお兄ちゃんに近付くんじゃない』って脅しているらしいのよね」
「それで、復讐女王ですか」
「そういうこと」
その話はそれで終わった。会長がいないとはいえ会長の身内の悪口を生徒会室でこれ以上言うのは皆憚られたからだ。
ただ、この事は進の心に魚の骨の様に引っ掛かり、生徒会の仕事が終わり家に帰る途中も気にはなっていたのだが、そのうちに、
――まあ、どっちみちあの二人は僕にはあまり縁がない人間なのだし、今後接触があるとしても今日程度の事ぐらいだろう。だから、気にしても仕方がない。
そう考えられるようになり、就寝の時間になる頃にはすっかり気にならなくなっていた。
進がその考えが間違いであった事に気が付いたのはしばらく後の事であった。
本日は残り2話投稿の予定です。