終章 そこのけ、そこのけ、舞香が通る! 2
本日2話目の投稿です。
これに手本編終了です。
よろしくお願いします。
そして、さらなる悲劇が進と舞香を襲った。
進の紋章の暴走の件が、龍之介や現たちが厳重に隠していたにも拘らず、平・源両一族の連中にばれてしまったのだった。
というのも、進の呪の発動は発動の時点で地脈にもかなり影響を及ぼしかけており、その影響の大きさは平・源流のちょっとした術者ならば異常を察知する事ができるレベルであった為、無事?一族の連中に気付かれ、原因が究明されたという訳だ。
すぐさま柳家の屋敷に一族の連中が集められ会議が開かれた。この会議に進は出ていないのだが、但し進は別室に監禁されていた、伝え聞く話によると議論百出だったらしい。
「とんでもない奴だ」
「厳罰を与えろ」
会議では進に対して非難轟々の嵐で、極端な意見としては、
「そんな奴は一族の恥だ。殺してしまえ」
というのまで出ていたらしい。
「あのバカは本当に何も知らなかったんです。だから堪忍してやってください」
「殺すのだけは勘弁してやってください。代わりに、私が責任もって何でもさせますから」
舞香がそうやって必死に頭を下げて擁護してくれなければ、進がどうなっていたか分からない状況だったらしい。
――あの舞香が?僕の為に?
会議の様子を聞いた進はそう思ったが、よく話を聞くと、そのくらいしないと一族の人間は許してくれないような雰囲気だったらしい。結局、
「それじゃあ、今度こそお前がきっちりと管理しろ」
という事で収まり、進への処罰は無かった。全てが終わった後で、
「姫様、ありがとう。おかげで助かったよ」
進がお礼を言うと、舞香は、
「別にどうってことないよ。あんたには随分助けられているから、これくらい当然だよ」
照れくさそうに言うのだった。
ただ、この会議では、進を許す代わりに一つ条件が付けられた。
「また、紋章をつける生活に逆戻りか」
放課後、学校の屋上で夕焼け空を見ながら、進は寂しそうにそう呟いた。
そう一族が付けた条件。それは新たな呪を掛けて進を管理することだった。
その結果進に掛けられた新たな呪の内容は、『舞香を守る為に行動する事』だった。これにはペナルティーはない。ただ、進が無意識にそういう行動を選択する可能性が高くなるだけである。
これで進は舞香と一蓮托生の身になった訳だが、この呪の中身を提案したのは舞香の母親の現だということだった。
――まあ、命だけは助かった事だし、そういう生き方も悪くないか。
彼女が何を考えてこれを提案したのか、進には分かり過ぎるほど分かったが、進は文句を言わず現実を受け入れる事にした。
進自身、舞香の言う事を聞くのが以前ほど嫌ではなくなっていたのだった。
「まあ、そのぐらいの処分で済んでよかったじゃない。もっと重い処分になるんじゃないかって、舞香やお兄ちゃん、綾香やお母さんも心配していたんだから」
横に座っていた舞香が落ち込む進にそう慰めの言葉を掛けると、
「まあ、そうだな」
進は頷いた。
はあ。進は溜息をつくと、横に置いておいた紙袋から醤油煎餅を一つ取り出してバリバリ頬張り始めた。
その醤油煎餅は、今日の昼休み、どうやらホテルの件を隅田川先輩から聞きつけたらしい荒川先輩が、「岩清水君、とうとう彼女と結ばれたんだって。おめでとう。これはささやかながらお祝いだよ」と言いながらくれた物だった。
尚、荒川には、「ヒイ君、他の人に喋っちゃダメよ」と、隅田川からホテルの件に対して緘口令が出されているみたいで、だからこそ、他の人間に喋れない分鬱憤の溜まった荒川先輩は、進に茶目っ気たっぷりのお菓子をくれたりしてからかいに来たのだった。
――この醤油煎餅美味いんだけど、荒川先輩の茶目っ気の成分が入っているのかと思うと複雑だな。
進がそんな事を考えながら煎餅を頬張っていると、
「イスムだけズルい。舞香も食べたい。えい」
進が煎餅を食べるのを見ていて自分も食べたくなった舞香の手が横から伸びて来て、紙袋から煎餅を一つ掻っ攫った。
「うん、美味しい」
そして、舞香も煎餅を食べ始めるのだった。
――こいつ、人の事を大食らいみたいに言っていたけど、人の事は言えないんだよな。
その後も二人は代わる代わる袋から煎餅を取り出しては食べ続け、すっかり袋が空になった頃、何の前触れもなく舞香が話し始めた。
「あたし、猫が好きなのよね」
「うん?」
舞香の話は唐突過ぎて進には舞香が何を言いたいのか分かりかねたが、舞香は進に構わず話を続けた。
「あんた、うちで飼っているニャン太は知っているでしょ」
「ああ、知っているよ」
「ニャン太は、ね。道端に捨てられていたのを舞香とお兄ちゃんが拾ってきた猫なんだけど、ニャン太を拾う前に別の猫を拾おうとした事があったの」
「ふ~ん」
「でもね、その時はお付きの人に、『姫様、そんな事をなさってはダメですよ』とたしなめられて拾えなかったの。次の日、その子の様子を見に行ったら」
「見に行ったら?」
「その子はもう死んでいたわ。舞香、悔しかった。前の日、お付きの人なんか無視して連れて帰っていれば助けられたかもしれないのに。そう思ったわ」
そこまで言うと、舞香は進をじっと見た。進を見る舞香の眼は慈母神の様に優しかった。
「あんたって、その猫にどことなく似ているのよね。最初、学校であんたの事を助けたのも、あんたの顔があの時の猫にそっくりだったからなの。あの時助けてやれなかった猫が蘇って来て、助けてくれって言っているように感じたの。だから、あんたの事助けてあげたのよ」
「それは、つまり、姫様にとって、僕はペットみたいな存在だってことかい?」
「調子に乗るな!ニャン太は大事な家族だけど、あんたは単なる家来なんだからね。まあ、舞香は家来だからって別に差別するつもりはないけど、さ」
舞香は顔を赤くしながらそう言うと、赤くなった顔を進に見られたくないからなのか、そっぽを向いて黙り込んでしまった。
その舞香の横顔を見て、なぜだか進は小さい頃に出会ったイカの妖精さんの事を思い出した。思い出しはしたが、結局、妖精さんの正体に気付く事のない進なのであった。
というか、いい加減気付けよ。お前さん、鈍いにも程があるよ。
さてさて、進が妖精さんの正体に気付くのはいつの事やら。
あと1話投稿します。
23時の予定です。
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