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第九章 進君と紋章の関係 3

本日の投稿です。

9章完です。

よろしくお願いします。

「まだだ」

「えっ」

 進が突然大きな声を出したので、驚いた舞香はビクッと上体を反応させ、もう少しで短刀を落としそうになった。が、進はそんな舞香の様子には気がつかず続けた。

「まだ、最後の手段が残っているじゃないか」

「最後の手段って……何よ」

「僕と姫様。二人で協力してこの紋章(タトゥー)をぶっ壊すっていうのはどうかな」

「無理よ」

 進の提案を聞いた舞香は即座に否定した。

「だって、あんた、魂の力も生命エネルギーも操れないじゃない。そんな人間と協力するのなんて不可能よ」

 厳しい顔で進の提案を否定する舞香に対して進は自信たっぷりに言った。

「確かに僕は力を操れない。でも、操れないけれどもそれなりの力はあると思うよ。ほら、この前だって、相当の雑魚何だろうけど、蟲の魍魎を一匹仕留めたじゃないか」

「あっ!」

 舞香を口に手を当てながら大きな声を出した。

「君は力を操るのに長けているそうだから、君が僕の中の力を操って、君の力と合わせれば紋章を破壊する事ができるかもしれないじゃないか」

「そうね。確かにそれなら紋章を破壊する事ができるかもしれない。分かった。試してみるわ」

 舞香は馬乗りになっていた進の上から降りると、

「イスム、手を繋いで」

 進に命令した。

「お願いします」

 進が手を差し伸べると、舞香は手を繋ぎ、残った方の手を進の額にかざすと、先程と同じ儀式を行った。だが、

「ダメだわ」

 今度も上手くいかなかったようで、そう溜息混じりに言った。

「やっぱり、手を繋いだくらいじゃダメか。もっと体を密着させなきゃダメね」

「もっと密着って……どうするの?」

「そりゃあ」

 舞香は言い難いのか一瞬口籠ったが、すぐに覚悟を決めると、ボソッと小さな声で囁くように言った。

「あんたと、抱き合うとか」

 それを聞いた進はすぐさま反応した。

「そうかい?それじゃあ早速」

 そう言って進は腕を開いて舞香を抱きかかえる準備をしたが、肝心の舞香は、

「ダメ、ダメ」

 激しく首を振って嫌がった。

「ダメって、どうしてだい?」

「だって、こんなお天道様の下で、あんたと抱き合うなんて、恥ずかしいんだもん」

 この期に及んでも舞香はやはり我儘だった。

 ――さっき人類の為とか、一緒に死ぬとか言っていたのに、まさか、ここで躊躇するとは。さて、何か方法は無いかな。うん?

 ズボンのポケットに進の視線が行った。ポケットには財布が入っている。そして、節約家の進は財布の中にお金の他に各種ポイントカード及び無料券を入れていた。

「そうだ、いいものがあるよ」

 進はそう言うと、舞香の手を取って走り出した。

「ちょっと、イスム、どこへ行くつもりなのよ」

「いいから、いいから」

 そうやって五分後、二人が辿り着いたのは。

「はあ、はあ。イスム、ここって」

「そうだよ。前に会長が言っていたホテルだよ。ここなら誰にも見られる心配はないだろう」

 進たちが向かった先、それは龍之介がよく利用しているという河口の所にあるホテルだった。

 進が財布を見てホテルの事を思い出したのは龍之介からもらったホテルの無料券が財布に入っていたからだったのだ。というか、お前、捨てずに取っていたのかよ。

「イヤだよ。舞香、恥ずかしくて死んじゃうよ」

 進とホテルに入る事になりそうになった舞香はやはり駄々をこねたが、進に、

「しょうがないじゃないか。外で抱き合う方がもっと恥ずかしいんだろ」

 そう言われると、

「むむう。仕方がない」

 舞香は不満そうな顔をしながらも渋々了承した。

 だが、ホテルに入る所を人に見られるのが恥ずかしいのか、顔を隠す為、舞香は顔を進の体に押し当てる様にして進に身を寄せた。そして、二人はそのままの体勢でホテルへ入って行った。

「え~と、確かビデオでは……」

 ホテルの中に入った進は、この前大星の家で見た○Vビデオを思い出しながらテキパキと行動した。というのも、件のビデオにそういうシーンがあったからだ。

 ――まさか、この前の○Vビデオで得た知識が役に立つ日が来るとは。

 大星家での出来事が蘇り感慨深げになった進だったが、そんな進に対して、舞香は、

「あんた、意外にこういうのに詳しいのね」

 普段草食系で真面目だと思っていた男の意外な一面に驚き、好奇心に溢れた目で進の事を見るのだった。

 進が手続きを終えると正面の壁にある小さなアルミ製の枠の扉が開き、

「どうぞ」

中から中年女性の声がした。

進が扉に近付くと、中にいる受付のオバちゃんが進に話し掛けて来た。

「0315号室のお客様、『休憩(レスト)』は二千三百円ですよ」

「これで」

 進は龍之介からもらった無料券を受付のオバちゃんに渡した。

「これは……いつもご利用ありがとうございます。どうぞ」

「どうも」

 オバちゃんから『0315』という名札の付いたルームキーをもらうと、進は舞香を伴いホテルの奥へと入って行った。

 そのまま、二人はエレベーターに乗り込み部屋へ向かった。

「イスム、イスム。大きいベッドだね。これなら寝相の悪い舞香でもベッドから落ちる心配はないわねえ」

 ――ベッドから落ちるって。というか、お前、そんなに寝相悪いのかよ。将来こいつと結婚する男が可哀想だ。

 部屋へ入った舞香は、あれだけ入るのを嫌がっていたくせに、初めてのホテルに興味津々で部屋のあちこちをジロジロ見て回るのであった。もっとも、男の子と初めてホテルに入る女の子はこんなものであるが。

「あ、テレビがある。えい」

はしゃいだ舞香はその勢いのまま部屋の中にあったテレビのスイッチを押した。

「うん?有料チャンネル?何を放送しているのかな?」

「このバカ。何しているんだ。お金掛かっちゃうだろ」

 有料チャンネルのボタンを押そうとする舞香を進は慌てて止めた。進はこういう所の有料チャンネルで何を放送しているかちゃんと知っていた(大星由来の知識)。だから、舞香に見せてはいけないと思い、舞香を止めたのである。

「ええええぇぇぇ、イスムのケチ」

 当然、何が放送されているのか知らない我儘な舞香は進に不平を言ったが、

「そんなのはどうでもいいから、さっさとしないと時間がないんだろ」

 そう進に誤魔化されると、自分の使命を思い出したらしく、

「そうだったわね。それじゃあ、イスム、上の服を脱いで」

 そう進に命令した。

「ええ、服を脱ぐのか」

「当然。なるべく服とか通さない方が効率よくエネルギーを使えるんだから」

「分かった」

 進は仕方なく上着を脱ぎ始めた。

進が服を脱ぎ始めると、何と、その横で舞香も脱ぎ始めた。進が横にいるというのに、余りにも躊躇なく舞香が服を脱いでいくものだから、進は吃驚し、思わず聞いた。

「姫様も脱ぐの?」

「ええ、あたしも服を脱いだ方が、効率が上がるはずだから」

 慌てた顔の進に対して、舞香は真面目な顔でそう答えた。法術使いとしての舞香は意外に現実主義者(リアリスト)だったのだ。

 結局、進は薄いシャツ、舞香は薄い純白のキャミソール一枚という姿になった。舞香のキャミソールの下にはブラが透けて見えていた。

 ――何と言うか、クラの家で見た○V女優よりもスタイルがいいんじゃないのか。

それを見た進はゴクリと唾を飲み込んだ。

「恥ずかしいから、あんまりジロジロ見るな」

「ご、ごめん」

 あまりに進がジロジロ見るものだから舞香はそう牙を見せながら吠えた。幾ら法術使いとしての舞香が現実主義者でも恥ずかしものは恥ずかしいらしかった。

「さあ、始めるわよ。イスム、来て」

 舞香に促された進は、腕を開いて舞香に抱きついて行った。抱き合うと、互いの体温が伝わって来て、既に火照っていた体が更に熱くなり、二人とも顔どころか全身を真っ赤にした。

 だが、舞香は全身を真っ赤にしながらも片手を進の額にかざすと、口調だけは冷静な感じで、この辺り舞香はさすがに一流の法術使いだった、儀式の呪文を唱えた。

 舞香の呪文を聞きながら進は思った。

 ――この前の夢、正夢になっちゃったな。

 ただ、夢では二人は子作り?の為ホテルにいて今から子作り?をしようとしていたが、今現在は世界を破滅から救うためにホテルにいる。その点が夢とは違っていた。

 舞香が呪文を唱えると、二人の体が光りに包まれ始めた。二人を包む光はだんだん強くなって行き、それが最高潮に達した時。

 ――何だ、何だ。

 体の中をドス黒いものが通過するような感覚に進は支配された。だが、それもほんの一瞬の事で、

「終わったわ」

 舞香がそう言うと同時に二人を包んでいた光が消えた。

「これで、あんたの呪も消えたはずよ。肩の所を見てみて」

 舞香に促されるままに進が肩を見ると、確かに進の肩にあったはずの紋章が消えていた。

 きれいさっぱり、跡形もなく。

 事態が呑み込めずキョトンとしていた進が舞香に視線をやると、舞香は、

「おめでとう」

 と、ニッコリほほ笑みながら短く祝辞を述べた。そして、ようやく事態を把握した進と、

「やった、やった」

 手を叩いて喜び合い、ついには二人で抱き合うに至った。

しばらくの間は、興奮のあまり抱き合っている事を何とも思っていなかった舞香だったが、時間が経つにつれ、ハッと気が付いてしまった。

 あたし、何でイスムとこんな風に抱き合っているんだろう。しかも、こんなカッコで。

 現実に気が付いた舞香は急に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にすると、突然進の事をドンと突き放し、

「いつまで抱きついているのよ。このド変態!」

 無慈悲にも右の拳で進をぶん殴るのであった。舞香の右ストレートは進の下顎を的確に捉え、見事に進は吹っ飛んだ。

 ――そんな事を言われましても。

 薄れゆく意識の中で進はそう思ったが、進は幸せだった。吹き飛ばされる時に、どさくさ紛れに舞香の柔らかい胸に触る事ができ、その感触を堪能する事ができたからだ。

 結局、進は休憩の時間が終わるまでの残り時間を気絶して過ごす事になった。

 こうして、世界は破滅の危機から救われたのであった。

明日は3話投稿します。

本作ははあ素愁傷を投稿として終了となります。

本編2つとおまけ1つ投稿予定です。

1話目は10時投稿の予定です。

1話目と同時に新作も投稿します。

この作品を読んでくださった読者の方なら気に入ってもらえると思うので、そちらもよろしくお願いします。

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