第六章 進君と魍魎退治の関係 5
本日1話目の投稿です。
第六章完です。
その蟲は虎視眈々と進たちの事を狙っていた。
蟲は龍之介に斬られて胴体が半分無くなっていた。その上、地脈の流れが正常に戻った事で回復する事も不可能になっていた。
本来ならばとっくに消えてしまってもおかしくは無いし、事実、あと少しすれば消えてなくなる運命なのだが、進たちに対する恨みだけで辛うじてこの世に存在し続けていた。
蟲はドックに固定してある船の錨を収めて置くスペースに隠れていた。隠れてじっと復讐の機会を窺っていたのだが、蟲はいよいよその機会が来たと思った。
進たちが完全に油断してペチャクチャ楽しそうに話し始めたからだ。本当ならば龍之介たちは魍魎の気配に対して敏感なので蟲の存在に気が付いてもおかしくなかったが、今にも消えかかっている蟲では気配が小さ過ぎて気が付かなかったのだった。
今にも消えそうな意識の中で狙いを定めた蟲は、一瞬体を弛緩させたかと思うと一気に残った力を振り絞って目標へ向かって突進した。
蟲の目標は舞香だった。蟲には四人の中で一番弱そうに見えたからだ。
だが、蟲にとって誤算だったのは四人の中に蟲に気が付いた人物がいた事である。
「危ない!」
その人物は舞香に蟲が向かって来ているのに気が付くと、咄嗟に舞香に向かって突進し、地面に押し倒した。
「イスム、いきなり何すんのよ!」
その人物とは進だった。
進に突き飛ばされた舞香は顔を真っ赤にして怒鳴ったが、次の瞬間、彼女の頭上を蟲がすごい速度で通り過ぎて行くと、赤い顔があっという間に蒼くなった。
進が蟲の存在に気が付いたのは完全なる偶然の産物であった。荷物を地面に置いた時、ふぅーと溜息を吐き、上を見上げたら、たまたま船の錨の所でもぞもぞしている蟲に気が付いたのであった。
蟲が舞香に向かっている事に気が付いた後の進の対応は早かった。すぐさま舞香に近寄ると彼女を地面に押し倒し、持っていた短刀を抜き蟲の攻撃に備えたのだった。この間、進以外の誰も蟲に対応できていない。
進により渾身の一撃を回避された蟲は、それでも何とか宙返りすると、再び舞香に向かって突進してきた。
「うわあああああ!」
その蟲に対して進は例の無茶苦茶に短刀を振り回す戦法で対応した。
無論、普通なら当たらないような攻撃だが、この時の蟲は最後の力を使い果たしてもうすぐ消え去ってしまう状態で、かつ、攻撃の軌道が直線的だったため上手い具合に攻撃を当てる事ができた。
グサッ。
進に真っ二つにされた蟲はこの世に一片の存在の証しも残す事なく消えて行った。
***
THIのドックからの帰り道、車の中で進は感じていた。
――どうして、こいつは不機嫌なんだ。そりゃあ、まあ、僕なんかに助けられたのが悔しいから何だろうけど。
そう舞香は不機嫌だった。しかもそれは進に対してだけで、他の二人に対しては普段通り接していたのだった。
「助かったわ」と、一応助けたお礼?は言ってもらったので進は文句を言わなかったが、とにかく感じが悪かった。
更に柳家屋敷について解散する時である。
「じゃあねえ、岩清水君」
「岩清水、気を付けて帰れよ」
「ええ、さようなら」
この時進は龍之介と綾香とはそうやって気持ちよく挨拶をして別れたのだが、
「イスム、じゃあね」
一応舞香もそう挨拶してくれたが、やっぱり感じは悪かった。しかも、である。進は聞いてしまったのだ。
「チッ」
舞香が別れ際にそう舌打ちするのを。
――綾香ちゃんは、舞香が『岩清水君の事好きなの』と言っていたとか言っていたが、今の態度を見ているととても信じられないな。どうやらデマだったらしい。
舞香の態度を見た進はそう思わざるを得ないのだった。
本日、あと1話投稿します。
20時の予定です。
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