第五章 進君と恋愛大作戦の関係 8
本日1話目の投稿です。
第5章完です。
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翌日の夕刻、進と舞香はラブレターで指定した校舎裏の花壇へ向かった。もう春も半ばとなり、花壇には初等部の生徒が植えたチューリップが咲き乱れているはずであった。
「何で僕まで一緒に行かなければならないんだ」
隅田川先輩の件もあり、完全にやる気を喪失した進がそう愚痴るも、
「いいじゃないの。あんたも、この舞香様がお兄ちゃんをモノにする瞬間を目に焼き付けておきなさいよ」
えらく強気な舞香は、進を強引に引っ張って行くのであった。
「いた、いた、いた」
校舎の陰から花壇の様子を窺った舞香は、花壇横の木の側に人影を確認すると興奮してはしゃぎ始めた。
はしゃぐ舞香に対して進は冷静だった。
――何か、あの人影変だぞ。
進は花壇の側の人影に違和感を覚えたのだった。
夕日の逆光で顔こそ見えなかったが、確かに人影が着ている制服は男子生徒の物だったし、人影は身長も高く、百九十三センチある龍之介の人影っぽかった。ただ、足元が茂みで隠されているのが進の気になった点だった。
――でも、何て言うか。微妙な体の揺らぎとか、そう言うのが人間っぽい感じじゃないんだよな。
その進ですら気が付いている事実に、舞香は興奮のあまり気が付いていないのだ。
「お兄ちゃん、すぐ行くからね」
気が付くどころか、そんな風に上機嫌で花壇の方へ行こうとしている。
「ちょっと、待てよ。あれ、何か変じゃないか」
「何言ってんのよ。あれはお兄ちゃんに決まっているでしょ」
進の忠告を舞香は一顧だにせず、止める進を振り切ると、頭の中がすっかりお花畑の舞香は花壇へと向かった。
「お兄ちゃん」
舞香は喜びながら背中からその兄と思しき人影に甘い口調で声を掛けたが返事は無い。
「もう、お兄ちゃん、ってば!」
もう一度声を掛けても同じだ。
「お兄ちゃん、いい加減にして」
しびれを切らした舞香が、強引に人影に触ると、
「ばあっ」
いきなり人影が振り返り、そう舞香を驚かせてきた。
「ひっ」
あまりに突然の事に驚きすくんだ舞香が、バタッと、腰を抜かしてその場に倒れ込んだ。
「クスクス」
「ははは」
すると、人影の中と近くの木の陰から同時に笑い声が起こった。
――何だ、何だ。一体何が起こったんだ。
想定外の異変に吃驚仰天した進が校舎の陰から出て行き、まだ花壇の所で腰を抜かしている舞香の側まで行き庇うように寄り添ってやると、怪しげな声の主たちは正体を現した。
「舞香ちゃん、ビックリした?」
「よ、お前ら、元気か」
怪しげな声の主の正体は、龍之介と綾香であった。
「これ、これ。この大きな台座。龍君背が高いから、龍君並みの高身長に見せかけるための台座を探すのは大変だったんだよ」
と、大きな木製の台座を指しながら言ったのは綾香である。
龍之介と綾香の説明によると、要は、綾香が龍之介に擬態して舞香を驚かす為にここで待ち伏せていたという訳で、更に龍之介がその様子を木陰から窺っていたのだった。
事の顛末を話してくれた後、龍之介は進と舞香に思いもよらぬ言葉を投げかけて来た。
「それにしても、お前ら、俺を嵌めて笑い者にしようなんていい度胸じゃないか」
――えっ、僕たちが嵌めるもクソも、嵌めて来たのはそっちじゃないのか。
当然進も、そして舞香もそう思ったが、龍之介は件のラブレターを取り出してくると、
「これ、岩清水の字じゃないか。女の子の字っぽく偽装しているが、トメとかハネとか、そういう細かい字の癖までは、覆い隠せていないぞ。残念だったな」
と、説明してくれた。この龍之介の説明を聞いた進と舞香は落胆した。
「会長たちには、全て最初からばれていたという訳ですか」
「そうだよ。だからね、龍君が、『二人にやり返してやろうぜ』って言いだして、私にこんな事をさせたんだよ」
この綾香の説明を聞いた所で、それまで黙っていた舞香が、突然、大声で喋り始めた。
「そっか、舞香たちの計画ばれちゃったんだ。折角お兄ちゃんにイタズラしようと二人で計画したのに。イスム、残念だったね。テヘッ」
それだけ言うと、舞香は、
「あはははははははははははは!」
後はひたすら壊れた音楽プレイヤーの様に笑い続けた。
「ははは」
「ふふふ」
舞香が笑うのを見て龍之介と綾香も笑い始めたが、進はすぐには笑う気になれなかった。
目の前でバカみたいに笑っている舞香の事が痛々しく感じられたからだ。
――これじゃあ、こいつがあまりにも可哀想過ぎる。
進は舞香の事をそう真剣に憐れんでやった。だが、舞香は事の真相を兄たちに知られたくなくて必死に笑って誤魔化しているのだ。となれば、進もつきあってやらねばならない。
「かははっはは」
龍之介たちが笑い始めてからものの十秒も経たないうちに進も大笑いし始めた。
かくして、舞香の作戦はまたしても大失敗に終わったのだった。
本日あと1話投稿です。
20時の予定です。
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