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第五章 進君と恋愛大作戦の関係 7

本日2話目の投稿です。

お楽しみいただけると幸いです。

チュン、チュン。

 小鳥たちが一日の始まりを告げるかのように爽やかにさえずる。空も雲一つない青空でとても気持ちのいい朝だった。道往く人々の心もその天気同様に晴れ渡っていた。

 ただ一人の例外を除いては。

 その例外である進は朝っぱらから一人ブツブツ文句を言っていた。

「何で僕がこんな朝早くから学校へ行って会長の下駄箱にラブレターを入れなければならないんだ」

 進の足取りは重く学校へ行く途中も散々文句を言い続け、途中行き合う人たちからは、「何だろう」という好奇な目で見られるのであった。

「ダメ。これじゃあ、ダメ。書き直して」

 昨日、進は舞香から五回程書いたラブレターについてダメ出しされた。

 ――だったら、お前が書けよ。

 ダメ出しされる度に進は頭の血管がブチ切れそうになったものだったが、六回目にしてようやく、

「これだわ。これ。舞香が求めていたものはこれだわ」

 舞香のお許しが出たのであった。

 以下、件のラブレターの文面である。

『拝啓 平龍之介様 先日あなたをお見かけした時から私の心はあなたに奪われてしまいました。以来、あなたをお見かけする度に私の心臓はバクバクと激しく鼓動してそれを抑える事ができません。ですから、あなたにお会いしてこの思いを告げてすっきりしとうございます。明日放課後、校舎裏花壇にてお待ち申しておりますので、ぜひいらしてください。敬具 謎の美少女Xより』

 ――これ、ラブレターとしてはかなりの駄文だろう。大体ラブレターに『拝啓 敬具』の定型句を入れたりはしないだろう。堅苦し過ぎる。それに謎の美少女Xって、怪しさ爆発じゃないか。先日の衣装もそうだが、あいつのセンスたまに世間とズレている事があるよな。やっぱりいいとこのお姫様というのは、庶民とはどこか違うのかな。

 進が述懐した部分以外にも指摘すべき点が多々あるラブレターであるが、とにかく、最後は投げ遣りになって書いていた進自身がそう思う位酷い内容のラブレターだったのだ。だが、舞香はこれが気に入ったらしく、目出度く合格と相成ったのであった。

 そうこうしているうちに、進は学校へ着いた。学校に着いた進は周囲に誰も居ないのを確認すると、龍之介の下駄箱の扉を開けた。

「嫌な事はさっさと済ませるか」

 ラブレターを見るのも嫌な進は、汚い物にでも触るかのようにカバンからラブレターを取り出すと、ぽいっと龍之介の下駄箱に放り投げた。

「これで、本日最大のイベントは終わった。後は、何事もありませんように」

 進は踵を返すと、逃げるようにその場から離れようとした。

 だが、運命の問屋は進にそれを許さなかった。

「岩清水君」

 その場から離れようとした進にちょうど玄関に走りながら入って来た女生徒が声を掛けてきた。

「隅田川先輩!」

 その女生徒とは隅田川先輩であった。

「岩清水君、あなた今何をしていたの」

「いや、これは」

 進はてっきり男である会長の下駄箱にラブレターを入れたので何か言われるのかと思って慌てたのだが、隅田川の反応は進の予想と異なるものだった。

「君、彼女がいるのに浮気をしようとしているの」

「えっ」

 ――いや、確かに舞香と噂になったが。

「君、同じクラスの茶色い髪の可愛い女の子とつき合っているんでしょ。君、つき合っている女の子がいるのに他の女の子に手を出そうとしているの?」

 思わぬ隅田川の攻撃に驚いた進は反論を開始した。

「いや、これは違うんですよ。これは友達に頼まれて、そいつが恥ずかしいからって代わりにラブレターを入れただけ何です。何なら、下駄箱からラブレターを取り出して、中身を見てくれても構いませんよ」

「そうなの?」

「そうです。それに、僕、つき合っている女の子なんかいませんよ」

「ラブレターはともかく、そっちはウソでしょ。そういうウソをつくのは、お姉さん、あんまり感心しないな」

 ――どうしてこの人はそう思うんだろう。やっぱり、隅田川先輩もあの噂を信じているのだろうか。

 尚も疑わしげな眼で進の事を見てくる隅田川に対して、進は聞いてみる事にした。

「というか、やっぱり先輩も、僕と平さんがつき合っているという噂を信じているんですか」

「噂というか、二人が楽しそうにしている現場を見ちゃったのよね」

 だが、隅田川の回答は進の想像をはるかに超えたものだった。

「見た?」

「ええ。この前、理事長室で岩清水君とその子がイチャイチャしているとこを」

 ――何という事だ。というか、もしかしてあの噂の元凶はあなただったのですか。

 進は恐る恐る確認してみた。

「先輩、その事を誰かに話したりしましたか」

「ええ、ヒイ君には話したわね。他の人には話していないけど」

「もしかして荒川先輩が他の人に話したなんて事は」

「それは分からないわ。ただ、噂が広がっている所を見ると話した可能性は高いわね」

 憧れの先輩に完全に舞香とのことを誤解されている上、更に例の噂の発信源がその先輩だったと知った進は愕然とした。愕然として、進は頭が混乱しパニック状態になった。

 そして、自分でも思いもよらなかった事を口走った。

「違うんです」

「何が違うの」

「僕が舞香とつき合っている訳ないんです。だって」

「だって?」

「僕が好きなのは、隅田川先輩、あなた何ですから」

 ――ああ、言ってしまった。

 焦りと混乱から自分の思いを口走ってしまった進だったが、悔いはなかった。悔いはなかったが、隅田川の返事は進の予想通りのものだった。

「ダメよ、岩清水君。だって、私にはヒイ君がいるもの」

「それは、僕が隅田川先輩にアプローチしても脈無しってことですか」

「そういうこと」

 隅田川にはっきりとそう言われた進は泣きたくなったが、男が女の子にフラレたからと言って泣くのはとてもカッコ悪い事だと思い直すと、気丈に振る舞う事にした。

「そうですか。分かりました。あなたの事はきれいさっぱり忘れる事にします」

「本当にごめんね」

 隅田川先輩はペコリと頭を下げて進に謝った。これには進の方が慌てて、

「いや、いいんです。隅田川先輩に彼氏がいるのを知っていて告白したのは僕何ですから」

 と、すっかり恐縮してしまうのだった。

 こうして進は人生初の失恋を経験した。会長宛のラブレターの件といい、踏んだり蹴ったりの朝だった。

「まあ、この後もオカルト研に顔は出してね。岩清水君が来なくなったら、ひい君も悲しむし」

 そう言い残すと隅田川は去って行った。

 ――隅田川先輩はそう言うけれど、これで、オカルト研に行きづらくなったな。

 進はそう思ったが、昼休み、これで最後だと思ってオカルト研に行った進に、隅田川は、

「岩清水君、お茶飲む?」

 そう普段と変わらない態度で接してくれたのだった。

 その隅田川の態度に今朝の事は夢だったのかと進は思ったが、隅田川が今朝の事は秘密よ、とばかりにウィンクをしてきたので、今朝の事が本当の出来事であったと思い知るのであった。

 ――でも、これでオカルト研に行かなくなって、隅田川先輩に根性無しだと思われるのも癪だしな。

結局、その後もオカルト研に通い続ける進なのであった。


明日も2話投稿の予定です。

10時、20時投稿予定です。

よろしければ、感想などいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。


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