第五章 進君と恋愛大作戦の関係 2
本日1話目の投稿となります。
楽しんでいただけるとさいうぃです。
荷物持ち。
それは男の子の大切なお仕事。
少年は、姉、妹、母親、恋人、妻と女の子の荷物を持つ事を強制される事によって大人の男になって行くのである。もっとも、進の様にご主人様の荷物持ちをさせられる奴は珍しいが。
「お兄ちゃんって、結構メン食いなのよね。だから、美人に変装して他人のフリをして近づけば、舞香だと分からず手を出してくると思うのよね」
それが、舞香が龍之介を籠絡するための作戦だった。
――幾ら会長が女の子に対してバカでも、自分の妹と他人の区別がつかない程じゃないだろう。
進はそう思い忠告もしてやったが、
「大丈夫、ダイジョブ。お兄ちゃんのことは舞香が一番分かっているから」
舞香の決意は固く、作戦決行と相成ったのである。
学校帰りの平日の夕方、進は舞香の買い物に付き合わされていた。荷物持ちとして。
舞香の買い物の目的は龍之介を落とす為の勝負服を購入する事である。
「お兄ちゃんって、派手な女が好み何だよね。だったら、落とす為にはもっと気合入れて着飾らなきゃね」
そう舞香は言っているが、本当にそうなのかについて、進は疑義を抱いている。
――確かに、会長がつき合っている女の子にはそういう派手な子が多いようだけど、でも、本命の綾香ちゃんを見ると、全然派手じゃない。本当は、会長、地味でも態度とか性格が可愛らしいタイプの子が好きなんじゃないかな。
進はそう感じているのだが、どんな忠告も受け入れる気がないであろう舞香にそんなアドバイスをしてやる気にはならず口を噤んでいた。
舞香の買い物は某市の繁華街にある百貨店から始まった。
「これは平様。ようこそ、いらっしゃいました」
三階の婦人用衣料品売り場へ着くと、慇懃な態度で店員が舞香の事をそう出迎えた。
――舞香って、結構な常連さん何だな。デパートで、しかも、名前付きで歓迎されるなんて相当なものだな。
「本日は、お婆さまはいらっしゃらないのですか」
「ええ、今日は来ていないわね」
どうやら舞香はここへはよく祖母の美琴と一緒に来ているらしかった。
「そちらの方は、彼氏さんですか」
そう店員に言われた時には、進はちょっとだけドキッとしたのだが、
「違うわよ。こいつはただの荷物持ちよ」
「左様でございますか」
舞香にはっきりそう言われた時には、それが事実なのに、何だかがっくりする思いを進は味わったのだった。
それはそうと、舞香は凄まじい勢いで買い物をした。
「これ、どうかしら」
「はい、とてもお似合いで御座いますよ」
次々に試着して店員におだてられては、値札すらも見ずに、
「それじゃあ、いただこうかしら」
と、いう事を延々と繰り返していた。
舞香の買い物が一段落した時には、大きな紙袋二つ分の衣料品を買ってしまっていた。
――こんなに買って。どれだけ会長に見せるつもり何だよ。というか、無駄遣いにも程がある。
舞香の手により大量に買い込まれた衣料品を見て進はそう思ったが、舞香は進の目の前で更に驚くべき事をして見せた。
「じゃあ、支払いはこれで」
「いつもありがとうございます」
何と、舞香はこれらの支払いをクレジットカードでしたのである。
「おばあちゃんが、『あんたも女の子何だから、これで好きな服を買いなさい』って持たせてくれているの」
後で進は舞香にそう教えてもらったが、
――さすがにこれは甘やかし過ぎだろう。そういえば、舞香のお母さんが、『皆が舞香を甘やかす』って言っていたが、成程、まさにその通りだった訳か。
進は舞香の甘やかされっぷりに呆れるばかりだった。
「どうもありがとうございました。近々、うちの者がお屋敷に寄らせてもらうと思うので、お婆さまによろしくお伝えください」
百貨店での買い物が終わると、二人は郊外にあるショッピングセンターへ向かった。
「ほら、イスム。もっと必死にペダルをこがないと日が暮れちゃうわよ」
進の自転車の後ろ側に座っているだけの分際で、舞香は進に偉そうに命令していた。
もう既に大きい荷物を抱えているのでそんなに速くはこげなかったが、進は言われるがまま一生懸命ペダルをこいだ。
進は全身汗だくになり結構苦しかったが、唯一の救いは舞香の柔らかい胸が進の背中にぴったりとくっついていて、それがとても気持ち良かった事だけである。
まだまだ余裕だな。第三者が見ればそう思う所である。
ショッピングセンターに着くと、舞香は小物だとかアクセサリーだとかを物色し始めて、
「このウィッグどうかな」
「このツケまつ毛、どうかな」
今度は、進に同意を求めて来た。女性のファッションについて定見の無い進は、
「まあ、いいんじゃないの。似合っていると思うぞ」
そんな風に適当に答えていた。
「本当?じゃあ、買う」
だが、進の言葉を真に受けた舞香は、笑顔で次々に化粧道具やら小物やらを買いこんで行くのであった。
ここでも無駄遣いを繰り返す舞香を進は呆れ顔で眺めていたのだが、一つ、舞香の別の一面を見た思いがする事があった。
――こいつって、こんな可愛らしい笑顔ができたんだな。
それまで舞香の感じのよくない笑顔しか見た事がなかった進には、本当に嬉しそうに買い物をする舞香の清々しい笑顔が可愛らしく見えたのだった。
だからと言って、それで舞香に対する悪印象が拭えた訳ではないのだが。
買い物が終わると、舞香は進をショッピングセンター内のフードコートに誘ってくれた。
「今日はつき合わせて悪かったわね。お礼に好きなものオゴってあげるから、遠慮なく食べなさいよ」
進は既にかなりの体力を消耗していてお腹がペコペコだったので、この舞香の金言に喜んで従う事にした。
数あるフードコートのメニューの中で進がチョイスしたのは、腹ペコ男子高校生の味方『学生限定ワンコイン大盛りカツ丼』であった。
「あんたもヒョロイ様に見えて、やっぱり男の子なのね。ウチのお兄ちゃん程じゃないけど、そんな量よく食べられるわね」
「そうかな」
バクバクとカツ丼を頬張る進を見ながら、呆れと好奇心の入り混じった表情で舞香はそう言うのだった。
二人がそうやって仲良さげに一緒に食事をしている光景。
それは、第三者の目からは恋人同士がデートしているようにしか見えなかったのだが、二人はその点に全く気が付いていなかった。
本日、あと1話投稿します。20時の予定です。
よろしくお願いします。