第五章 進君と恋愛大作戦の関係 1
本日、ラストです。
楽しんでいただければ嬉しいです。
四月が終わり、五月になった。
世間ではゴールデンウィークだと騒いでいるが、金の無い岩清水家では家族で遊びに行く様な事も無く、進も連休の終わりに大星たちと遊ぶ約束をしているもののそれ以外は特に予定はなく、両親の代わりに弟妹たちと遊んでやったり勉強したりして過ごしていた。
去年は学校の宿泊所を借りてオカルト研で合宿をしていたらしいが、今年はこの前の電気工事の時に荒川が先生に手を焼かせたせいで許可が下りず、どこか適当な宿泊先を探そうにも世間がゴールデンウィークでは急にそんなものが見つかるはずもなく、
「しょうがない。代わりに夏休み合宿に力を入れるか。岩清水君」
「そうしましょう」
という事に相成ったのであった。
そんなゴールデンウィークのある日、進は完全休養日と決めていて、朝、日課の英語の文章を一つ読むというのをやった後は、ダラダラと過ごしていた。
すると夕方前になって、舞香から電話があった。
「イスム。今からジャージ着て家まで来なさい」
この前の事もあり、本当は行きたくなかった進だったが、彼は舞香の命令に逆らう事ができなかったので、仕方なく学校のジャージに着替えると家を出た。
柳家の屋敷に着くと、正門の所では舞香が待ち構えていて、
「遅い!」
急に呼び出したくせに偉そうに文句を言った。
その後二人で居間に向かうと、
「おう、岩清水。来たのか」
居間には、既に龍之介と綾香がいて食事をしていた。
「芋炊きを作ったんだけど、あんたも食べる?」
そう言って舞香が鍋から芋炊きをよそってくれたので、
「いただきます」
と、小腹を空かしていた進は喜んでいただくことにした。
「これも食べなさい」
更に舞香はおにぎりと金平ゴボウも出してくれた。舞香が妙に優しい事に進は何だか違和感を覚えたが、芋炊きもおにぎりも金平ゴボウも美味しかったので満足してそれについては忘れてしまった。
「岩清水君、それ美味しいでしょ」
食事をしていた進に綾香が声を掛けて来た。
どこへ行ったのか、龍之介と舞香の姿はいつの間にかその場から消えていた。その内舞香に関して言えば、進にご飯を出した後、「ニャン太、あんたもお腹空いたでしょ。お食べ」と飼い猫のニャン太に餌をやりながら頭をナデナデしてやる所までは見たのだが、今では餌を食って満腹になったニャン太がソファーの上にゴロンと寝転んでいるだけだった。
「今日、芋炊きと金平ゴボウを作ったのは舞香ちゃん何だよ」
「へえ、そうなの」
「舞香ちゃん、結構お料理上手何だよ。毎朝、私と一緒に龍君と自分の分のお弁当作っているしね」
「ふ~ん」
「だから、舞香ちゃんをお嫁さんにもらったら色々とお得だよ。毎日、美味しい家庭料理をたくさん作ってくれると思うよ」
「お得ねえ」
それを聞いて進は意外な感じがした。家庭料理という言葉が舞香に全く似合っていなかったからだ。
「この前、岩清水君もお弁当もらったんでしょ。あれも、龍君のお弁当を作る時に舞香ちゃんが一緒に作った物だったんだよ」
だが、綾香のその話を聞いた進は、そういえばと思った。
――舞香って派手なのに、爪には何も塗っていないんだよな。
それが料理をする為だったと分かり、進は舞香に家庭的な一面を感じて戸惑うのだった。
この前もらった弁当だって、
「あんた、いつも碌な物食べてないでしょう。いつも頑張ってくれている御褒美に、たまには良い物を食べさせてあげるから、これ食べなさい」
そう言って、家が貧乏なので毎日梅干し入りのおにぎりを二個食べているだけの進にくれた物だった。その弁当はとても美味しく、いや、美味し過ぎたから、
――これ、お手伝いさんの誰かが作った物なんだろうな。
そう進は思いこんでいたのだった。
――それがまさか舞香本人だったなんて。
進は目の前の家庭的な舞香と普段の傲慢な舞香とのイメージとのギャップに、どちらが本当の舞香の姿何だろうと悩み、悶々としながら食事をする羽目になったのだった。
食事が終わると、
「行くわよ]
進は居間から連れ出された。そして、龍之介、舞香、綾香の三人と一緒に駐車場にあるワゴン車に乗せられると、そのままワゴン車は発進した。
訳が分からない進が、舞香に聞いた。
「どこへ行くんだい」
「仕事」
「仕事?」
「そ。魍魎退治の仕事。あんた魍魎が見えるんでしょ。だったら、協力しなさい」
「魍魎退治だって!」
「そうよ。あんた、世界の真実を知りたいんでしょ。今からその願いを叶えてあげる」
そう言う舞香は、心なしか、生き生きしている様に進には思えた。そこには、この前、兄を籠絡しようとして失敗し、情けなさそうに塞ぎ込んでいた女の子の姿は無かった。
明日も2話投稿です。
10時、20時の予定です。
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