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第三章 進君と舞香の関係 3

本日1話の投稿です。

読んでくださっていただいた方が楽しんでいただけると幸いです。

紋章(タトゥー)の解除に失敗した進だったが、それで舞香に対する鬱憤が消滅したわけではない。

 相変わらず舞香の弱点を見つけることもできていない。

 そこで、次善の策として、舞香に嫌味を言って溜飲を下げてみる事にした。

「姫様って、お兄さんの事が好きだって話を聞いたんだけど」

舞香が兄に女の子として全く相手にされていない事を知っている進は、いつもの放課後二人きりの時に、怒鳴られるのを覚悟の上で、そう舞香に嫌味を言ってみた。

進は舞香の怒る顔を見て、心の中で笑ってやるつもりだったのだ。

だが、今日の舞香はどこか変だった。進の意に反して、舞香は怒鳴ったりせず、

「あんた、知ってたんだ」

 淡々と語り始めてしまった。

 自分の意図通りでない舞香の反応に進は焦ったが、もうどうしようもなかった。

「舞香のお父さんって平流法術の当主だったんだ。それで、お母さんは源流法術の当主なの。お兄ちゃんはその二人の長男として二つの流派の(おさ)となるべく生まれて来た存在なの」

「へえ、そうなの」

 進にはそんな単調な反応しかできなかったが、舞香は進の反応などお構いなしに続けた。

「そんなお兄ちゃんの事を舞香は小さい頃からカッコいいと思っていた。ウチって舞香が小さい頃にお父さんが亡くなって、お母さんや叔母さんも仕事で忙しくて、お兄ちゃんが舞香の遊び相手だったから余計そう思っていた。それに、お兄ちゃん、舞香と違って頭が良くて遊んでいてすごく楽しかったから、結婚するならお兄ちゃんしかいないってずっと思っていたんだ。でもね……」

 それまで楽しそうに話していた舞香の声のトーンが下がった。

「ある日、叔母さんが女の子を産んだの」

「それって……綾香ちゃんの事かい?」

「そうよ。綾香が生まれてすぐ、お母さんと叔母さんは二人を結婚させるって決めちゃったわ。『舞香もお兄ちゃんのお嫁さんになる!』って言ってみたけど、お母さんも叔母さんも笑うだけで相手にしてくれなかった」

 ――ま、当然の反応だな。

 進は舞香の母親や叔母さんが健全な思考の持ち主である事に安堵した。

「更にショックだったのは、その後舞香いろいろ調べたんだけど、従兄弟同士は結婚できるけど兄妹は結婚できないって知ったことだったわ。完全に負けた、とその時は思ったわ。それでも舞香がお兄ちゃんの事をあきらめきれなかったのは、お兄ちゃんが綾香に対して本気だったのが悔しかったから」

「会長が綾香ちゃんに対して本気だって?」

 ――そうなのか?会長の素行を見る限りそうは思えんが。

「どうしてそんな事が分かるんだい?」

「それは、お兄ちゃんの態度を見ていれば分かるわ。あんた、男の子が本気の女の子に対してどういう態度を取るか分かる?」

「えっ……ごめん。分からない」

 進はこの問いに答えられなかった。自分でも情けないと思ったが、できないものは仕方が無かった。

「あんた、そんなだから彼女いないのよ」

「すんません」

「まあ、いいわ。その答えはね、『必死さ』よ」

「必死さ?」

「そうよ。男は遊びで口説こうとしている女に笑顔で接する事はあっても、必死になる事は絶対にないのよ。お兄ちゃんを見ていればそれがよく分かるわ。お兄ちゃんね。綾香に対してだけはものすごく必死になるの」

「そう言われても。というか、会長はどんなふうに必死なの」

「そりゃあ、もうすごいわよ。綾香が熱を出して寝込めば一晩中付きっきりで看病するし、綾香がかすりキズでも負おうものなら添い寝してやって、『痛いの、痛いの、飛んで行け』何てやるんだから。浮気でつき合っている女はもちろん、舞香にだってそんなことはしないわよ」

――まさか、あの会長が!

 舞香の話を聞いた進は驚きを隠せなかった。というのも、進の知っている誰彼構わず女の子に手を出す会長と舞香の話す一人の女の子に尽くす会長とではイメージにギャップがあり過ぎるからだ。

「だから、舞香に勝ち目が無いのはわかっているんだよね。でも、あきらめきれないの。いつも、あんたから見たら派手に見えるかもしれないこんなカッコをしているのも、派手好きなお兄ちゃんにちょっとでもふり向いてもらいたいからなんだよね。好きでこんなカッコウをしている訳じゃないんだ」

 そう言う舞香の顔はどこか寂しそうだった。

その舞香の顔を見た進は吃驚した。なぜ進が吃驚したのかというと、舞香が寂しそうな顔をしたからではなく、その舞香の顔が進の理想とする清楚な女の子が持っているはずの憂いを帯びた顔そのものだったからである。

だから、進は何となく舞香に感情移入してしまい、ついつい余計な事を聞いてしまった。

「そんなに綾香ちゃんの事が邪魔なら排除すればいいじゃないか。姫様は会長に近付いて来る女の子にそうしているんだろ?他の女の子にしている様に、何でしないんだい?」

――言っちゃった・

進は自分の発言を後悔したが、今日の舞香はやはりどこか変だ。復讐女王(リベンジクイーン)や綾香の件など絶対触れて欲しくない話題だっただろうに、その進の心ない問いに怒ったりせず、舞香はその思いをきちんと話してくれたのだ。

「このバカ!そんなのできるわけがないでしょ。綾香はあの子が生まれた時からずっと一緒で、妹みたいな存在なのよ。そりゃあ、お兄ちゃんの婚約者の座から引きずり降ろしたいと思ったことがないと言えばウソになるけど、綾香とはお兄ちゃん以外のことでは仲がいいの。一緒に服を買いに行ったり、髪を切りに行ったり、映画を見に行ったりするの。そんな子に手を出せるわけがないでしょ。だからね」

「だから?」

「最近、舞香、限界を感じてきているの。このままお兄ちゃんと綾香の関係が進んで行くのを黙って見守るしかない。それでも、お兄ちゃんのことをあきらめきれないの。そんなもどかしい自分の気持ちに耐えられなくなってきているの」

「平さん」

「お兄ちゃんに近付く女の子たちにヒドイことをするのも、お兄ちゃんに近付くのを止めさせるためだけではなく、その溜まった鬱憤を晴らすという目的もあるのよ。あんた、今の話を聞いて舞香のこと、幻滅したでしょ?」

「いや、そんな事は」

だが、言葉とは裏腹にそう言う進の顔は明らかに引いていた。それを見た舞香は、

「別にいいのよ。舞香もわかっているの。自分が本当に最低な女だって。こんな女、お兄ちゃんに相手にされなくて当然だよね」

 そこまで言うと、進と相対している事が耐えられなくなったのだろう。クルッとひるがえると進に対して背を向けてしまった。舞香の肩は小刻みに震え、背中の方からはその様子がよく分かった。

 ――自分でも悪い事をしているって、分かってはいるんだな。こいつ、実は……

 舞香の話を聞いた進は今まで舞香にされてきた酷い仕打ちも忘れて、舞香の事を実はそれほど悪い人間ではないのではないかと思い始めていた。

 進は改めて舞香を見てみた。

 舞香の背中を見た進は驚いた。多分、幻覚なのだろうが、舞香の背中から寂しさの成分を帯びた匂いが立ち昇っているのを見てしまったからだ。それは本当に幻覚だったのだが、

 ――この背中に、触ってみたい。触って舞香の匂いの正体を確かめたい。

 そう思った進は、舞香の背中を触ろうと手を伸ばした。その時。


本日あと4話投稿します。

11時、14時、18時、22時の予定です。

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