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第二章 進君と電気工事の関係 3

本日1話目の投稿です。

これで2章完です。

「後生だ。最期に言い残したい事があれば聞いてやる」

 そう言う龍之介の瞳を上目づかいに覗き込んだ進は、ゾッとした。

というのも、既に会長の瞳から憐憫の情が失せていたのを見た瞬間に悟ってしまったからだ。会長の瞳は、何と言うか、獲物を仕留める時の獣の瞳のように冷酷な感情で支配されていた。

――これから自分は死ぬんだ。

進ははっきりとそう感じざるを得なかった。十五年弱という短い人生だったが最早どうしようもない。進は、『蛇に睨まれた蛙』の心境を初めて理解した。

――会長は蛇で、僕は蛙だ。逃げようがない。

進の心に悲しみの感情が流入してきた。その勢いは凄まじくたちまち心の中は悲しみの感情で満ちた。満ちたのだが……それが心の容量を超え心の中から溢れ零れ落ちた時、心の外に追いやられていた他の感情と混ざり合い、進の中で一種の化学反応を起こすことになり、それがわずかながら進を落ち着かせた。

少しだけ落ち着いて我に返った進は、ふとある事に思い至る。

――最期に言い残したい事って、何だ?

会長の言う『最期に言い残したい事』。それは会長が与えてくれた最後のチャンス。助かりたかったら上手い事を言ってこの場を切り抜けてみせろ。そう会長が進に挑戦しているように聞こえた。

もちろん、それは進の勝手な思い込みに過ぎない。実際の龍之介はそんなつもりで言ったのではない。

だが、そう思い込んだ進は俄然やる気を取り戻し、何を言おうか考えに考えた。

――そうだ。最期に僕の夢を語ろう。

それが考えた末に出た結論であった。だが、自分の夢は何だという事で進は詰まってしまった。いつも周囲に言っているのは、「公務員になって安定した人生を送る」という事だが、それでは、多分、会長たちの心に突き刺さる事は無い。

だが、これに進の全てを賭けて事態を打開しなければ進の命運は尽きてしまう。進は必死に何を言うか考えたがすぐにはいい考えが浮かんでこなかった。

それでも、追い詰められて気持ちに余裕が無い進は、気が付いた時には不完全ながらも思いついた事を喋り始めてしまった。

「僕には夢がある」

「お前の夢とは何だ」

 当然龍之介に聞き返された進は適切な回答を所有していないので詰まってしまったが、不意にある事を思い出すと反射的にそれを話し始めていた。

 進が話し始めた夢。それはかの敬愛すべき先輩がいつも口にしている事だった。

「僕の夢、それはこの世界の真実を解明する事だ。それをやり残して逝くのはとても心残りだ」

 ――本当にこれでよかったのだろうか。

 言ってしまった後で進は自問したが、言ってしまった以上はもう引き返せなかった。

 進は龍之介と綾香の顔を見て様子を窺ったが、二人とも微妙な表情をしていた。失敗したかと進は落胆したが、ここに一人進に助け船を出してくれる人物がいた。

「あんた、中々面白い事言うのね」

 その人物とは、平舞香であった。

「あんた、見た目ヒョロイから、お勉強だけ頑張るつまらない人間かと思っていたら、秘かにそんな夢を持っていたんだ」

 舞香はどうやら進の発言に対して興味を持ってくれたみたいで、進の顔や全身をじろじろと見回した後で、

「まあ、いいんじゃないの。助けてやったら」

 と、龍之介たちに言ってくれた。

「でもね、舞香ちゃん。この人、一族の秘密を見てしまったんだよ。掟を破ってそんな人を野放しにしておいたら一族にどんな迷惑がかかるか分からないよ」

「綾香は心配性ね。そんなカビの生えた一族の掟なんか放っておけばいいのに。大体、舞香はこの位の事で人の生き死にをどうこうするっていうのはあまり好きじゃないんだよね」

 綾香の意見に対して舞香は自信ありげな顔でそう反論したが、

「だがな、舞香。俺は一応一族の(おさ)である身だ。みすみす掟破りが行われるのを、黙って見過ごす訳にはいかん」

 龍之介に言われると「う~ん」とたちまち困った顔をした。進の見る所、どうやら彼女は兄に対して逆らえないらしかった。だから、どうしようかと困った顔をしたのだが、それも少しの間だけの事で、すぐに妥協案を提示してくれた。

「それじゃあ、舞香、こいつを家来にする。ちょうど学校内で舞香のために働いてくれる男の家来が欲しかった所だし」

「家来って……まあ、確かにお前の家来だったら一応身内という事になり始末しなくて済むが、お前、こいつの管理はどうするんだ」

「管理?」

「そうだ。こいつが一族の秘密をばらさない様にどう管理するんだ。まさか、四六時中見張っているわけにもいかんだろう」

「もちろん、その点に関しては任せてよ。ちゃんと保険は掛けるから」

 それだけ言うと、舞香は進に近寄り、聞いてきた。

「あんただってここで始末されるよりは舞香の家来になりたいでしょ」

「はい」

 藁にもすがりたい思いの進には、舞香の提案を否応する余裕は無かった。

「それじゃあ、決まりね」

進の意思を確認した舞香は、徐に進の額に手を当てると、

「痛くないからね。すぐ終わるからね」

 注射をされるのを嫌がって泣き叫ぶ子供に諭すかのようにそう言うと、何やらぶつぶつ口の中で唱え始めた。

 ――一体、何なんだ。

 進がそう思っているうちに舞香の詠唱は終わり、それと同時に進は意識を失ってその場に崩れ落ちた。

進が次に意識を取り戻した時には自分の家の玄関の前に倒れていた。平舞香への連絡方法が書かれた紙を右手にしっかりと持って。

こうして進は目出度く平舞香の家来になった。


本日はあと2回投稿します。

13時と19時の予定です。

次回からは舞香の家来になった進君の話です。

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