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『episode 1』

学園もの、日常ものを書きたかったんや…。

これは続ける予定です。

聖都グリモワール学園。

此処は、制御も効かぬ魔獣や英雄になりたい魔法使いを生み出す由緒正しき名門である。


しかし、それ故に此処への入学は狭き門。何も持たないただの人間が受かる確率は0に等しく、少ないながらも人間がいるにも関わらずその多くは生徒の名門貴族どもである。


ただ、そんなグリモワール学園で最も大変なのはそんな常識無知なお嬢さまおぼっちゃまに常識を伝えることでも、魔法を一から無知な人間に教えることではない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〈グリモワール学園、男性職員寮〉


「…っ…。」


…チュンチュンと鳥の鳴き声。安眠妨害耳障りと言いたいところだが、長期休みというぬるま湯に使った俺の脳を覚醒させるにはちょうどいい目覚ましだ。時計を見れば午前5時。少し早めに起きてしまった。


ふかふかとした布団が身体を離さない。そんな冬が懐かしい。そろそろ、冬布団も片付けねばと横を見ると…。


「…。」


俺の横にスヤスヤと眠る少女の姿があった。黒髪ロングの…少女。普通なら俺はこの子となんかやっちまったのか〜?とか、少女が起きる前にトンズラ〜とか考えるべきではあるが、残念ながら俺にはそんな感情は湧かない。


髪を掻き上げ、ふぅっと溜息をつく。取り敢えず、目覚めのシャワーでも浴びよう。その後は、冷蔵庫の中と相談だな。そう思い、俺は浴室へと入っていった。


グリモワールの寮はとてもコスパが良い。

職員、生徒になれば、マンション一室レベルの高級部屋を無料で借りられるのだから。更には光熱費もそこまでかからず、考えなければならないのは自身の食料のみという。とはいえ、そこにたどり着くまでが鬼門なのだが…。


「…ふぅ。」


シャワーの栓を閉め、置いておいた白いタオルで髪を洗う。やっと、脳みそが動きを始めた。前を見れば、肌の白い中肉中背の目つきの悪い男が立っていた。濡れた青髪の…目つきの悪い男が。


「さて。」


適当な服を着て、冷蔵庫の中を見る。

…ろくなものは入ってない。まぁ、適当に作ろう。


じゅわっと少しとろけた金色の卵。その中に入っているのは余り物のベーコン。…完璧とは言い難いが、まぁ、食欲のないときでも食える朝ごはんの完成だ。


「…アインツ様?」


「…。」


…どうやら眠り姫も夢から解放されたようだ。とはいえ、目の上のたんこぶと言っていい、また、この人はまた何かに興味を持ったようだ。


「アインヅ様、昨晩はお楽しみでしたね?」


艶やかな少女の声で、少し色っぽくそう言う。わざとらしく、頬を赤らめて…。それを言うならば、服でも脱いでおけとも思うが…。


「その歳の女児はそんなこと言わないと思いますよ。ミネルヴァ校長。」


「あれ?そうですか?」


「次はなににご執心ですか。…全く。ほら、朝食の準備が整いましたので、お食べください。」


そう言うとぱぁっと女児らしい笑みを浮かべる…ミネルヴァ校長。彼女の体裁のため、言っておくが見た目通りの歳ではない。


グリモワール学園の校長、ミネルヴァ・クロノシスタス。その本来の歳の姿は誰も知らないが、実力は折り紙付きの大魔導士だ。今は大体…16から18の可憐な少女だろうか。


「いつも貴方の作るご飯は美味しいですね。」


「貴女が作らせているのでしょう。」


「当然ですっ。通い妻みたいなもんですからっ。あんな、購買のパンばかり食べていては身体も舌も腐ります。」


口元を膨らませて、怒るミネルヴァ校長。

…声を大にして言いたいが、無論、そのような懇ろな関係になった覚えはない。悔しいことに、小遣いすらもこの校長に握られてしまった。まぁ、此処に俺が入れるのはこの校長のおかげなので強くはでられないのだが。


「アインヅ様、浮気は許しませんからね。」


「付き合った覚えも、結婚した覚えもございませんが。」


「あらぁ、忘れたのですか?アインヅ様の熱烈な視線とアプローチにこのミネルヴァ、ハートを完全に射抜かれて…。」


…ダメだ。話が通じない。やんやんと腰をくねらせて、はぁぁ…とうっとりとしたように俺を見る。この熱のこもった視線は特段、苦手だ。表情には出さないが、あまり気持ちの良いものではない。


「それと、今日は話があるのです。」


食後のコーヒーの準備に台所に立つ。その後ろからミネルヴァ校長がそう言った。こういう時は大抵、ろくでもない話か、ろくでもない話の二択である。


「…断れば?」


「幼子の姿で、服を裂きながら、アインヅ様に乱暴されたと叫びます。」


「…。」


涼しい顔でなかなかに恐ろしいことを言う人だ。この人は生き物に危害は加えないが、社会的に殺そうとしてくる。予想通り、拒否権は無いようだ。ため息をつきつつも、湯気立つコーヒーを二人分、机の上に運ぶ。


「火傷しないように気をつけてください。」


「むうっ。何歳だと思ってるんですか。…あつっ。」


…だから言ったのに。

まだ、湯気立つコーヒーを一口冷まさずに飲もうとするからこうなる。涙目になりつつ、舌を出しながら、ハァ…ハァ…と冷ましている校長。本当、こういうところは抜けている。


「…で?話というのは?」


「ふぇ…こほんっ。では改めて。オスカー・アインヅ様。貴方を新学期の魔獣クラスのクラス担任に任命します。」


校長はそう言うと、再びコーヒーを数回冷ましながら飲む。優雅な朝のコーヒーブレイク…と、脳を騙すも流石の俺も動揺する。


「…は?も、もう一度…お願いできますか?」


「ですから、貴方を新学期の魔獣クラスの担任に任命すると言っているのです。既に推薦して、周りのお偉いさんは全て黙らせましたっ!!」


「…はぁ…。」


黙らせましたっ(ニコッ)じゃない。

なんてことだ。これまで、担任などやらずに部活顧問…しかも、年に数日しか動かない幽霊部の顧問で人生を謳歌していたというに。恐らく、今日一のため息が出てしまった。


「あっ!!大変、もうこんな時間ですっ。」


「…あっ。」


…新学期到来の時期。といえば、新入生たちの所謂、入学式がある。そう、その時間が差し迫っているのだ。時計から目を離し、校長に向けると校長は二十代後半ほどに成長していた。


「アインヅ様、それでは学園にて。」


耳打ちでそう言うとそそくさと俺の部屋から出ていった。足取りが重い。しかし、決まってしまったものは仕方ない。


「…まぁ、適当にやるか。」


そう言い、スーツに着替え、革靴を履く。

今は相当、機嫌の悪い顔をしていることだろう。






























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


入学式と言っても簡素なものだ。

ミネルヴァ校長の挨拶。それと、新入生代表の挨拶。今回は俺の担当する魔獣クラスの生徒で、エルフのクレア・カリフルムという生徒が担当した。


凛と澄んだ声が大聖堂の中に響き渡る。

とはいえ、俺は気が気でなかった。魔獣クラスはグリモワール学園でも最も厄介なクラスだ。それは勿論、魔獣と人間では力の差が歴然だから。魔獣と書いて『モンスター』と呼ぶと言ったらわかるだろう。魔力も規模も…全くもってお話にならない差だ。


「はぁ…。」


「オスカー、大丈夫か。」


「大丈夫に見えるか、クレイン。」


職員室の自分の席で座りながら、名簿と睨めっこをしていると学園内でも数少ない友、クレイン・ヘンドリックが話しかけてきた。明るい緑の短髪とこの式典にもかかわらず、スーツではなく、丈の眺めの白衣でくるあたり、肝が座っている。


「相変わらず真面目だね。君は。」


「…20人くらい覚えられない方がおかしいだろう。そっちはどうなんだ。今年は。」


「あぁ。魔導士クラスも大体その程度だよ。魔法使い志望…は例年より少ないみたいだけどね。」


…まぁ、今の子は戦いなんて興味ないだろう。近年では、攻撃系の魔法はただの護衛術程度となってしまった。今や、勇者の伝説なんぞ信じる方が可笑しいと。誰もが嘲笑する。人間と魔獣の隔たりを無くす目的で作られたグリモワールで戦えっ!!なんて言ったらマズイだろうが。


「じゃあ、僕はもう行くよ。君もそろそろ。」


そう言い彼は爽やかな笑みを残して、職員室から出て行った。正直、今の俺にそんな余裕はない。しかし、怖気付いてはいけない。…毛頭、そんな気分はないが。


事務椅子を引き、廊下に出る。教室は三階。職員室から廊下を少し歩き、螺旋階段を渡り、上へと行く。締め切られちゃいるが、相当騒がしい。大方、問題が起きかねんのは魔獣の方だ。


「…ふぅ。」


息を落ち着かせ、ネクタイを整え、引き戸を開ける。そして、前の教壇に登る。こんなの、自分の授業でも登らん。ざっと…見渡す。種類は様々である。ドレイクに悪魔、ヴォルフガングにエルフ等々。


「えー…っと。皆さん、初めまして。これから、皆さんの担任を務めさせていただきます。オスカー・アインヅと…「死ねぇッ!!」


いきなりだな。

赤髪の男の子が爪を突き立て、俺の首筋を狙い、手を伸ばしてくる。


なんとか首の薄皮一枚を掠めた程度。少し血は滲んでいるが、まぁ、軽傷だ。


「…へっ。俺たちは俺たちより弱え奴の指図は受けねえぞッ!!先生よぉッ!!」


「…元気ですね。元気すぎるくらいだ。」


…この子は獣人だな。焼けた肌と、数多の傷。赤い長髪に頭頂部の犬耳。目つきは鋭い。ギザギザとした歯を見せて、戦闘態勢をとる。…だが、最初に怪我人を出すのは勘弁だ。


「…ふっ。」


「あ?何笑ってッ…!!」


「『縛り上げろ、血の鎖よ』」


詠唱とは名ばかりの言葉を虚空へと吐き捨て、傷口に触れる。勿論、指先に血がつく。


「舐めやがってェッ!!」


狼少年は地面を蹴り、また爪を突き出してくる。


次はまともには食らわない。俺は指先から血の鎖を出し、それを上から振り下ろす形で向かってくる少年に当てた。


「ぐぅっ…!!」


少年はいとも簡単に地面に転がり、手足を赤い鎖でぐるぐる巻きにされた…所謂、芋虫状態だ。


「ご満足頂けたかな?」


「ぐぅっ…。」


辺りからざわざわと騒ぎ声が聞こえる。新年度早々、これだと世話が焼けるな。俺は指をパッチンと鳴らし、鎖を解除する。狼少年はケッと吐き捨てると自分の席へと帰っていった。


「では改めて。君たちの担任となりました、オスカー・アインヅと申します。よろしくお願いします。」


…淡々とそう言う俺に返事を返すものは…いない。だいぶと警戒されているな。やれやれだ。とはいえ、ざわざわと騒いでいるのは変わらない。「狼、だせえ」だの、「先生、イケメン」だの…。


「では、呼名しますので、返事だけでもお願いします。アナーシャ・ポメラさん。」


「はーい。」


これまた、大胆な格好した女子生徒だ。先程の少年よりも明るめの赤毛の長髪で、胸周りと腰にしか服を着ていない。お腹やら脚やらが完全に露出している。見た目は人間だが、恐らくラミアの類だろう。


…彼女を筆頭に、名前を淡々と呼んでいく。

先程の演説を言っていたクレア・カリフルムや、狼少年こと、ランガ・ユージンなどなど。なんとも、個性の塊のような子たちを受け持ったものだ。


「では、募る話もございますがこの辺で。休み時間になりますので皆さん、楽にしてもらって結構です。では。」


…こうして、俺の担任初日は幕を閉じた。といっても、後は配布物があっただけなので特出はしない。


「ふぅ…。」


「お帰りなさい。アインヅ様。」


…家に帰ると当然のようにいるミネルヴァ校長を見て、ため息を吐きながらも、早々とソファーに体を預けた。こんなに疲れたのは何年振りだろうか。


「あら?アインヅ様、お怪我なさって。」


「犬に噛まれただけです。」


「へぇ?…そのワンコちゃんは、何方でしょうか?」


目にハイライトがない。本人曰く、アインヅ様が傷つくのは見たくないとのこと。傷つけるやつは皆殺しだとか。俺を子供かなにかと勘違いしているのか。


「大丈夫です。ご心配には及びません。」


「そ、それなら良いですが…。アインヅ様。いつでも頼ってくださいね。私、アインヅ様の為なら例え火の中水の中!!」


胸の前で小さく手を握る校長。

…元はと言えば誰のせいでこうなったのだろうかと密かに思いつつ、目を閉じた。

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