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石の輝きは人を魅了し、意志の輝きは人に嫌われる

「なんやここ……? おい天パ、お前がなんかやったんか?」


「そうです。メガネくんが言ってた俺のスキル工房は、この場所……想像工房へ自由に出入りできて、あらゆる武器や防具、その他の道具を作り出せるというものでした。素材は必要ですけど、錬金術? の真似事もできるみたいです」


「錬金術ってのはよく分からんが……なんつーか、俺とはかなりベクトルの違う力やな」


 驚いた。ヤクザでもベクトルという単語は知ってるらしい。

 だが、今の俺はそれどころではない。すまない兄貴、後でもう1回ちゃんと驚くから許してくれ。


「あっちの部屋は訓練室で広いです。そっちがお風呂なんでそっちで洗ってからじっ……いえ、訓練室に集めるのがいいと思います。洗濯もできないし毛布もないですけど、この部屋にあるものは迂闊に触らず、あっちの部屋には入らない。それだけ、守ってください。……すみませんが、……俺はちょっと寝ます」


「あ? 寝るてなんや、お前も手伝わんか……おい!? 大丈夫か!?」


「あぁ……体質、なんで……また後で……」


 なんとかそこまで伝えてから、俺は意識を手放した。




 〇──〇──〇──〇──〇──〇──〇──〇




「息はしとる。体質やって自分で言ってたくらいや、大丈夫やろ」


「良かったです……」


 言うことだけ言って倒れるように気を失った天パ。心配する気持ちもあったが、本人が大丈夫と言うならそれを信じるしかない。

 それよりも、女性達を優先する。男の俺らが近付くことに怯える子が多く、そういった子は女性で動けた数人に任せることになった。が、任せ切りになどできるはずもなく、俺らも手伝う。

 幸い、お嬢の世話で着替えやら風呂やらは慣れている。問題はないし、欲情もしない。メガネが欲情しても俺が抑えられる。


「大丈夫か、お湯は熱くないか?」


「……」


 俺が世話できるのは、心を失ったように茫然自失とした様子の子らだけ。今男が肌に触れることすらやめておいた方が良いのは理解しているが、汚れたままにする訳にもいかない。

 幸い、局部は女性が処理してくれている。俺がやるのは力仕事、つまり持ち上げて体勢を変えたり風呂から引っ張り出したり、というような些細なことだけだ。


「災難やったなぁ……」


 思わずそんな言葉が漏れる。不幸中の幸いだったのは、誰一人として暴力を振るわれた形跡がないことだろう。

 ほとんど全員が未成年だと思われるが、そんな少女に欲情するなど俺からしてみれば考えられないことだ。この世界……いや、この城にいる連中は全員が異常者ということか。


 全員の体を清め終わると、()の言っていた訓練室とやらに運び込む。


 訓練室も、他の部屋と同じように床は石だ。他の部屋との最も大きな違いは何かといえば、その広さに尽きる。

 数メートルごとに並んだカカシや、弓道部の奴らが使うような的も置いてあったが、後はだだっ広い何も無い空間だった。


「お疲れ様です」


「おう」


「あの、彼の使ったこのスキルについてなんですが」


「…………何とも言えんな。俺らはまだ5つ程度しかスキルとやらを実際に見とらん。それでどうこうと講評はできんやろ」


「……それもそうですね」


 メガネが違和感を感じたのは、空間を造る力なんて自分より圧倒的に性能がいいとでも考えたせいだろう。

 確かに、それも分かる。何も無い空間ならまだしも、暖かいお湯が際限なく出るし何かに使うであろう金属やガラスでできた機器がそこらにある。


 だが、ぶっ飛んだ性能と言うのなら俺やメガネの力もそうだ。俺のは一度に2発しか撃てないデメリットはあるが、その威力には今のところ限界を感じていない。メガネの分析も、物体だけでなくデータや時間なんかも解析できる。


 ……ここの人間が力を使う場面を見ていないからなんとも言えないが、俺ら全員がそのぶっ飛んだ力を持っている、と考えるのが普通だろう。


 別の世界というのにはまだピンと来ていないが、これだけ人がいれば元の場所に戻る力にも期待できる。早く戻って、お嬢に会わなければ。


「天パの様子はどうや」


「変化なしです。分析でも異常なしでした。悪夢にうなされてもいませんし、息苦しそうな様子もなかったですよ」


「そうか」


 メガネとそんなやり取りをしていると、後ろから声をかけられる。


「なんのお話をしているのかしら?」


 黒髪ロングの女性だ。あの惨状を経ても動くことができて、他の女性を介抱する手伝いをした女でもある。

 見た目だけでの判断だが、他の女性より少し年齢が高めに見える。と言っても30にも届いていない程度だろうが。



「……あんたか。アイツらの様子はどうや」


「しばらく動けないのは確定でしょうね。受け止められない人は受け止められなくて仕方のないできごとだもの。無理はないわ」


「それもそうか。メシの準備でもしたいところやが、アイツが起きな食料の置き場もわからん。寝床に運ぼうにもその場所がわからん。お手上げやな。俺もメガネもやわい上着着とらんかったから布団にもでけんのは申し訳ないがな」


「ふぅん……? よく分からないけど、この家の持ち主があの子ってこと?」


「……まあ、そうやな」


 あの広間で目覚めてからこっち、なんとか矯正した関西の方言がたまに漏れるのが気になる。喋っているのは自分なのにな。

 中途半端に混ざるのがまた……いや、そんなことは今は置いておこう。


 やはり、女性たちはスキルとやらについてはよく分かっていないらしい。まあ、されるがままになって男どもに抗わなかったのを見ているからそれは分かっていたことだ。

 俺たち呼ばれた人間は全員異常な力を使えるという推論が当たっていれば、彼女たちも戦力になるのかもしれないが……精神をやられている大多数に期待はできない。


「そう。あの子が私たちを誘拐した犯人……ってことはないのかしら? 光って、次の瞬間には別の場所いる。あなた達が彼を信頼する根拠が知りたいのだけれど」


「そんなもんあるか。信用しないなら女は助けられない。下手したら自分も助からない。そういう状況やったっていうだけや」


「呆れた、男ってやっぱりガサツなのね。そこのメガネくんも見た目の割に思考停止してるみたいだし。とにかく、私はここの探索をしてくるから」


「……そこの部屋には入るなよ。家主命令だ」


「その家主を信じてないんだから、従うわけがないじゃない?」


「……ふん」


 せめて、天パが起きるまで待てよと思わなくもない。だが、そうなればその部屋を調べる機会は失われるだろう。

 しばらくここに留まることになるのはほぼ確定している以上、安全は確保したいという気持ちも理解できる。俺が止めることはできないか。それほどの義理もないしな。


 感謝を感じてはいる様子だった。不用意なことはしないだろうが、俺とメガネで監視くらいはしておくか。


「そんなら、あの部屋に入る時は俺とメガネもついて行く。拒否は認めん」


「……別にいいけどぉ。とりあえず、あっちの部屋……あなた達は訓練室って呼んでたかしら? あそこをもう一度調べてみるわね」


「そうか」


 その部屋に何があるのか気になっていたのは事実だ。メガネも、扉を見ただけで中に何があるかは分からないようだ。いくつか予測した候補はあると言っていた、やはり分析でも分からないことはあるらしい。


 何もせずただ部屋の機器を眺めていると、数分も経たずに黒髪ロングの女が戻ってくる。


「やっぱりあのヘンテコなカカシと的はものすごい硬さね。それ以外にはやっぱり何も無かったわ。お風呂はもう散々見たし、次はあっちの部屋を見てくるわね~」


 それだけ言って、黒髪ロングはまたすぐに動き始めた。

 この部屋から見える扉は多くない。中がどうなっているか分かっているのは風呂とトイレの部屋、訓練室だけ。入るなと言われた部屋と、あと1つの部屋はどうなっているのか分かっていない。


 奴が向かったのは、そのもう1つの部屋だ。女は躊躇なく扉を開けて、中へ入っていった。


「……」


 女が入って5分経っても、まだ部屋から出てこない。だんだんと不安が大きくなる。武器が置いてあって、男の俺たちを殺す算段を立てているのか。貴重な物があって、それをうっかり壊してどうするか悩んでいるのか。


 いよいよ我慢できなくなって立ち上がり、女が入っていった部屋へ突入しようとした瞬間、その扉が内側から開けられた。


「あら。あなた達も見に行くの? それなら一緒に入ればよかったのに」


「お前が変なことしてへんか心配になっただけや」


「ええ? 変なことってなによ……? まあいいわ、それより次はその部屋だけど。来るんでしょう?」


「……ああ」


「そ。じゃあ行きましょう」


 女性の先導で移動し、彼女はすぐに扉へ手をかけた。


「さてさて、なにが隠されてるのかしら……っ。なにこれ、扉が重い……」


 ギィギィと音を立てて少しずつ開かれる木製の扉。その重さは中にある物を守るためか。だが、それが余計に女の好奇心を煽っているのか、体重をのせてまで扉を開けようとする。

 そして、その野次馬根性による努力は実り、扉は完全に開け放たれた。


「これは……」


「……草? 鉱石もあるわね。というか、これどこまで奥に続いてるの? 向こう側の壁が見えないんだけど……」


 そう。中にあったのは、どこまでも向こうへ続く棚と、そこに並べられた何かの素材になると思しき植物や鉱石たち。いや、よくよく見てみれば途中から動物から採取できるであろう羽や骨なども混じっている。


 俺はひとり心の中で納得感に包まれた。天パの職業はクラフトマイスターだかクラフトマスターだかだと言っていた。クラフト、つまりは物作りだ。素材がなければ作るもなにもないだろう。

 つまり、何かを作るはずの職業としての能力に、その元となる素材までセットになっているということだ。


「……すごい。素材はランクを数字で表されるみたいなんですが、この鉱石を見てください。フロンダイト鉱石という名前で、ランクは8です。そこのミスリルがランク5なのに比べれば、どれだけ凄いか分かるはずです」


 メガネがそう言ってフロン……なんとかいう鉱石に手を伸ばす。灰色に輝くというよく分からない石に手が触れる瞬間、足元が覚束なくなるような感覚に一瞬だけ包まれた。


「今のは……」


「立ちくらみかしら? あら、見てよこの石。透き通ったピンクなのに、見るからに研磨していない状態だわ。……あら、思ったより軽いのねこれ」


「キスリルライト鉱石というみたいです。ランクは12、魔法に使ったり、薬にもなるらしいですね。明らかに希少な物です、あまりベタベタ触るのはやめておいた方が……」


「1つ小さなものをくすねるくらい気付かないわよ。見た目通りお堅いのね?」


 メガネと黒髪ロングが部屋を物色し始めるのを、俺は1人で見ていた。メガネの説明では、ミスリルという鉱石ですら日本でのダイヤモンドより価値があるという。それよりランクの高いものが、これほどまでに揃えられたこの部屋。

 明らかに異常だし、誰も入れたくないのも理解できる。


「なあ、そろそろ出ぇへんか……」


「……ねぇ、メガネくん? なんか、取ったはずの場所に同じ形の石がまたあるんだけど……え、気のせい?」


「え? そんなバカなことが…………あり、ますね」


 メガネが手に持った鉱石とカゴに入った鉱石を見比べて混乱した様子を見せる。

 それを見て、嫌な予感がした俺はこの部屋から一刻も早く出ようとする。が、2人は魅入られたように棚から離れない。


「なにしとんのや! 人様の家を物色するだけやのうて盗みまで! さっさと元の場所に戻して部屋から出らんかい!」


「それが……」


「……分からないけど。なぜか、戻せないのよね。なに、これ?」


「なにアホなこと言っとんのや! んなふざける余裕があると──」



「おはようございます」



 気付けば、俺の真後ろに天パが立っていた。眠たげな目で、少し猫背になって、入口によりかかって、だるそうな雰囲気をまとって、そこにいた。


「……いいですから、早くこの部屋から出てください。取ったものは仕方ありませんので」


 咎めるのも面倒だと言うように、横目で人睨みしてそう言う天パ。言葉から圧力を感じたのか、メガネと黒髪ロングもようやく部屋から出てきた。


 俺はこの時、初めて天パに恐怖心を抱いた。

石の名前適当すぎて後で後悔する予感がします

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