表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/43

2:病院からの呼び出し

 病院からの呼び出しなんて、ろくなものではない。

 カティはドーム内の地面に敷き詰められた、色とりどりのレンガの道を進みながら、そう考えていた。


 耳の位置で短く切り揃えた、砂色のさらさらした髪が、歩調に合わせてふわふわと跳ねる。どこか蠱惑的(こわくてき)かつ肉感的な彼女は、歩くだけで異性の視線を集めていた。それは仕事着の、そっけないシャツとズボン姿でも変わらなかった。

 が、本人は一切気づいていない。いや、気にしていないのか。


 彼女の働くカフェから病院まで、歩いて十四分ほどかかる。

 いつもなら巡回型のトロリーバスを利用するが、あいにく停留所から出たばかりだった。

 また、常に温度と湿度が管理されているドーム内は、常春の状態を維持している。そんな気候の中、この程度の距離ならば、徒歩でも不快感はなかった。


 カティ自身、病院からの呼び出し──しかもその内容は「口頭でないと伝えられない」という代物だった──に不穏な空気を感じ取っていたので、できるだけ到着を先延ばしにしたかった、のかもしれない。


 それでも若い彼女の歩みはリズミカルで、速度もあり。

 何を言われるのだろう、この前の定期健診で何か引っかかったのだろうか、と首をかしげている間に病院に着いた。

 真っ白で四角い、しかしドーム創設期からあるため、老朽化の進んでいる病院だ。


 ドームが造られる以前のような、「○○クリニック」や「××診療所」といった固有名詞は存在しない。

 ドームにある、唯一の総合病院であるため、名前はそのまま「病院」で良いのだ。


 入り口で消毒液の噴霧(ふんむ)を受け、カティは院内をくぐった。

 ここは相変わらず、薄暗くどこかひんやりとしている。そして当然というべきか、清潔で消毒液臭かった。

 もっとも消毒液臭いのは、自分も同じである。


 小型の清掃ロボットが、通路のあちこちを往来しているのが見える。患者の数は少ない。

 ドームが造られる以前の病院も、こんな風に静かでひやっとしていたのだろうか、とカティは考えながら、受付へ向かった。


「あのう……カティ・アトルです、が」

 名前を告げ、次にカティを呼び出した医師の名前も口にしようとしたが、不要だった。

 受付の女性型ロボットは、カティの名前を聞くや否や、サッと身を乗り出して廊下奥のドアを指し示した。

≪あちらへお進みください≫

「ありがとう、ございます」

 図らずのVIP待遇に、場所が場所であるためカティは眉をひそめつつも、ロボットへ会釈(えしゃく)をした。

 滑らかに、女性ロボットも会釈を返す。


 緑の瞳で、それを横目に眺めつつ、カティは廊下の奥へと進む。

 ドアも電動だが、停電した際にも開閉できるよう、ドアノブもつけられている。ノブも真っ白だった。

 ここまで真っ白だと、遠近感がちょっと狂ってしまう、かもしれない。

 苦笑するカティはドアの前に立つと、その表面に手を添えた。

 全ドーム住人の、指紋情報や遺伝子情報は記録・保管されている。カティ本人であると判断した電動ドアが音もなく開いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「彼女の働くカフェから病院まで、歩いて十四分ほどかかる。」 この十四分という微妙な数字が、近未来的世界と主人公の機械的な正確さを予想させてくれました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ