11:ずるいよ
打ちひしがれ、もそもそと進まぬ食事を摂るカティの眼前で、リーは満足げな笑みを浮かべていた。
「やっぱりカティの作る飯は美味いな。いくらでも食える」
その言葉に、カティは危うくフォークを取り落とすところだった。
──カティの作るご飯は美味しいよね。いくらでも食べられるんだ。
それは夕飯に招くと、よくリーが口にしていた言葉だった。
今のような、眩しい笑顔とは大違いの、どこか儚げな笑顔と共に発せられていた。
笑顔の種類は、違うけれど。
赤いタータンチェック柄のテーブルクロスの上に、少々お行儀悪く肘をつき。
そしてじっとカティを見つめる仕草だけは、事故に遭う前と何ら変わらなかった。
愕然、とカティはそんなリーを見つめる。
彼女は辛うじて、フォークを取りこぼさなかった。
しかし、
「カティ? どうした? 腹でも痛いのか?」
リーがギョッと目を剥いたように、彼女は驚きで強張った表情のまま、涙をこぼし始めた。
これには母のエダも、あらあら、と手に口を当てる。
「どうしたの? 辛いシシトウにでも当たっちゃった?」
母の頓珍漢な言葉に、カティは一時泣き笑いの顔になる。長いまつ毛に、涙の粒がくっついた。
「違うよ……だって、リー兄ちゃんが、ずるいんだもん……」
「ずるい? 俺が?」
「だって、お兄ちゃん、変わったのに、そういうところ変わってないんだもん……ずるいよぉ……」
泣かれているリーとエダからすれば、意味不明な主張であろうが。
カティの胸中もぐちゃぐちゃだった。
やっぱり手術に同意してよかった。
そう考える自分が主張を始めて来たため、それが浅ましくて、また泣けて来たのだ。
はらはらと泣き続ける彼女へ、リーが焦った様子でティッシュを差し出す。
「泣かないでくれ、カティ。君に泣かれると、俺は困ってしまう」
「うん、ごめん……」
「それに、俺は変わったのかもしれないけれど、でも、それでも俺なんだ」
丸めたティッシュで目尻を拭い、カティはリーを見上げた。
朗らかに、また彼は笑った。
「ずっとカティのことが好きだったし、今も好きだ。大好きだ! だから、カティとエロいこともしたいと、ずっと思っている」
照れるべきか、怒るべきか。
一瞬の躊躇の末、カティは後者を選んだ。ティッシュ箱を奪い取り、その角でリーへ襲い掛かる。
「そういうこと、今この場で言うべきなの!?」
「何を言うんだ! どさくさに言わないと、照れ臭いだろう!」
なんと。照れ臭いという概念があったのか。
「ちょっとは遠慮しなさいよ! お母さんだっているのよ!」
照れと怒りで真っ赤になった顔を母に向けると。
「母さん、今夜は劇場に泊まってもいいわよ」
ワインを一口飲んだエダが、ほほほと言ってのけた。
「そういう気は利かせなくていいから!」
母によく似た顔に怒気を塗りたくり、カティは吠えた。