第3話 減算
昨日の悲劇から1夜明け、今日は女神たちと4人で街中を散歩している。目的は情報収集だ。オレはこの世界に召喚されたばかりなので、この世界に関する知識がまったくない。ありがちな異世界転生かとも思ったが女神たちのネーミングセンスが全然地球基準で名前と呼べそうもなかったり、街の人たち全員服装がアバンギャルドだったりと、この調子だとスライムみたいなゲームで雑魚担当のキャラがこの世界ではものすごく強いモンスター……なんてこともありそうで正直不安しかない。それに、この世界の常識や言語、通貨などの知識も知っておきたい。
「今日はアタシがイッセーに手取り足取り教えてあげるね!なんたってアタシの国だからね♪」
「アタシの国……?」
一瞬理解できず、つい聞き返してしまう。
「この世界は大きな国は3つあるんだけど、その1つがここ、オーロペなの。ここの国教はアタシを崇めるシュガー教だから実質アタシの国ってこと!この国ではアタシは王様以上の最高権力者だからね!お姉ちゃんって呼んでいっぱい頼ってくれていいよ!」
さりげなく姉になろうとするのはやめろ。それはそれとして、パーティメンバーに権力者がいるのはかなり頼もしいな。異世界モノって設定次第では性悪な権力者に言いがかりつけられる展開もあるからな。
「大きな国3つってことは、他にも国があるのか?」
「大国はこことリエスのニャパンとハルのハール共和国の3つ。あとはそれぞれの周りに小国がある感じかな。国ごとに通貨とか違うから気をつけてね?」
通貨違うとか地球と似てるな……
「ちなみにこの国の通貨はどんなのなんだ?」
オレがそう言うとシュガーは数枚の硬貨と紙幣―おそらく硬貨が小銭であろう―を財布から取り出してオレに見せた。
「この国の通貨はこれ。単位はシュガーになってて、銅貨が1シュガー、大銅貨が5シュガー、銀貨が10シュガー、大銀貨が50シュガー、金貨が100シュガー、大金貨が500シュガー、こっちの特大金貨は1000シュガーで紙のお金が1万シュガー。お姉ちゃんが何枚かあげるからおやつ買うのに使っていいよ♪」
お前はお姉ちゃんではない、お姉ちゃんではない別のなにかだ!とツッコみたかったが、この世界の通貨を分けてもらえるのは素直にありがたい。ここは下手にツッコミを入れて機嫌を損ねるリスクを負うべきではないな……。
「ありがとう、お姉ちゃん。大事に使わせてもらうよ……。」
こちとら元の世界で仕事が上手くいかなくて上司に嫌われて一挙手一投足ダメ出しされる毎日だったからな。プライド?なにそれ、おいしいの?状態だ。今さら目の前の姉を自称する不審者をお姉ちゃんと呼ぶぐらい大したことない。
「イッセー、ついにアタシをお姉ちゃんと呼んでくれた!?」
次の瞬間、シュガーがオレに抱きつき、頭を撫でてくる。
「やっと素直になってくれたんだね!お姉ちゃん嬉しいよ!」
うん……もう、そういうことでいいから離れてくれないかな。
「そ、それでは私のこともリエスママと呼んでくれますか?」
えーい!もうやけくそだ!
「リエスママ……」
ちくしょう!羞恥プレイじゃねえか!
「それはそれとして…オレも勇者として戦いに慣れておきたいんだけど、何か買っておいた方がいいものある?」
ゲームだと回復薬とか洞窟から脱出するためのヒモとかは必須だからな。ゲーマー脳なめんなよ?
「それならあのお店がちょうどいいんじゃない?お姉ちゃんが1番いい装備を買ってあげるね!」
そう言って彼女は目の前の武器屋と思しき店で物色を始めた。
「イッセーはどんな武器が得意なの?」
いや、そもそも日本では武器は携帯すらできないんだが。
「そうだな……強いて言えば剣とか刀かな。ゲームでもそればっか使ってたし。」
「じゃあ、これとこれ、あとこれも買っておくね。」
シュガーお姉ちゃんが剣と鎧、回復薬を選ぶと店主のおっちゃんが合計金額を計算した。
「合計で5万3600シュガーです。」
「あ、これでお願いします。」
そう言ってオレが先ほどシュガーお姉ちゃんから貰った金の中から5万4100シュガーを出すと店主のおっちゃんも女神たちも途端にキョトンとしだした。
「兄ちゃん、会計は5万3600シュガーだぜ?この100シュガーは余計だ。財布にしまいな。」
「いや、わざとですけど。これで会計してください。」
なんかおっちゃんのオレを見る目が変なやつを見る目になってる気がするな。
「いや、仮にオレが5万4000シュガーで会計したとしたらお釣りは400シュガー、つまり100シュガー分の金貨4枚になる。ここまではいいですか?」
「ああ、それはわかる。5万3600シュガーを5万4000シュガーにするには400シュガー足せばいいからな。」
いや、そこは引き算でよくね?と思いつつ、オレは説明を続けた。
「それに対して、5万4100シュガーならどうです?お釣りは500シュガー。つまり、大金貨1枚で済むわけです。」
何言ってるんだ、コイツは?とでも言いたげな顔をしながらおっちゃんがお釣りの計算をしていく。
「えーと、まず5万3600シュガーに400シュガー足して5万4000シュガーだろ。5万4100シュガーにするには…そこに100シュガー足せばいいわけだから……400シュガーと100シュガーで……500シュガー………!?に、兄ちゃん……こんな計算をあの一瞬でどうやって?あれか、実は若き天才学者さんかなにかで趣味で武器を買いに来たとかなのかい!?」
いや、大げさすぎだろ。小学生レベルの引き算で俺TUEEEE展開ってどういうことだよ。
「いや、普通に引き算しただけっすけど………」
オレのその言葉におっちゃんと女神たちが初めて見る光景にワクワクしてる子どもみたいに目を輝かせていた。
「えっと……引き算、知らないの?」
「「「知らない!」」」
「兄ちゃん、引き算ってなんだい?それがあれば兄ちゃんみたいに素早くお釣りの計算ができるのかい?」
うーん、ラノベとかだと地球では小学生レベルの知識を披露して異世界でチヤホヤされるってよくあるけど、いざ自分が体験すると結構戸惑うなあ………。
「引き算ってのは足し算の逆ですよ。例えば剣が1本あって、そこに剣がもう1本増えれば剣は全部で2本…つまり、1+1=2ですよね?」
「ああ、その通りだ。」
「ということは逆に剣が2本あって、そこから1本なくなったら残りは1本ですよね?」
「ああ、1を2にするには1を足せばいいからな。」
「その『2本から1本なくなって残り1本』が2-1=1となるんです。」
「ほう……?」
うーん、イマイチ理解しきれていないらしいな。
「さっきの会計だとオレが出したのは5万4100シュガー。そのうち、商品の合計金額は5万3600シュガー。これを5万4100-5万3600と計算すれば一発でお釣りは500シュガーとなるんだ。」
「ほう。なんだか足し算より便利そうだな。ありがとよ!いいこと教えてくれた礼に代金はタダでいいぜ!天才学者様にマンツーマンで教えてもらえたんだからこのぐらい安いぐらいだ!」
気持ちは嬉しいがオレは別にこの世界でも元の世界でも天才でもなければ学者でもないんだよなあ……と思いつつ、おっちゃんの押しが強すぎて結局タダで貰ってしまった。そのあと宿でおっちゃんから貰った剣と鎧を装備したが……なんだか、いよいよ冒険が始まるって感じがするな。オラ、ワクワクしてきたぞ!




