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アナタが見る新しい時代を②

恋愛モノが戦闘シーンより苦手だったと今知りましたorz


修行が足りない....


しかしながら精一杯書いております。


ご一笑ください。


第3部は結構先になりそうですが、休まず考えてます。

「ほ〜、ほーひっはんら....。」

お美沙は私の部屋でおハギを頬ばりながら、ほうじ茶をすすっている。

りつ奥様のお裾分けでいただいたおハギ。絶品である。


「そーなのよー。言っちゃったの....。」

私は好物に手も付けず、卓袱台に肘をついて湯飲みを両手で包むようにしている。

犬養さまとお別れした後、私はずっとこんな調子でモノが手につかず、始終ボーッとしている。


3月になって空気はようやく温まり、日中は火鉢など無くても過ごしやすくなった。

卓袱台の上には新聞が、犬養さまの記事の載ったところを広げて置いてある。


「アンタね〜、それって愛の告白ってヤツじゃない?」

お美沙はニヤニヤと私をイジる。

そんなこと、そんなことって......そうよねえ。


「そう思うわよねえ....そうなのよ。言っちゃったの。」


お美沙は不意にバシンと卓袱台を両手で叩き、キャ〜と嬌声を上げる。

「何なのお〜ちょっとお!いつの間にそんな事になってんのよ!アタシに何の相談もなくさあ!」


バタバタと両手を台に打ち鳴らし、お美沙はめちゃ笑顔。


「私にも何だか分からなくて、でも戦に行かれる犬養さまを見て心が....。」

自分の感情を説明しきれない。でもその時の事を思い出すたびに胸が締めつけられる。


フンフンと偉そうに友人は頷き解説する。

「アンタそれはね、母性ってやつよ。危険な場所に赴く異性を見て、可哀想に思う感情がこの人を失いたくないと思わせるのよね。」


何処でそういう知識を仕入れるのだろう。お美沙は何通りもの恋愛感情を、友人たちに説明して回る医者(ドクトル)のような権威である。


「それって恋愛感情とは違うもの?」

「安心おし。」

中腰になって卓袱台を乗り越え、お美沙は私の両肩をバシりと叩いた。


「完全無欠なまでに恋愛感情よ!アンタ犬養さまに恋する乙女、ベタ惚れ、腑抜けの小娘よ!」

キャアキャアと私たちはお互いを引っぱたき合う。

ひとしきり騒ぐと私たちはふい〜と卓袱台へ突っ伏す。


「んでどーすんのよ?お殿様の件は?」

友人は珍しくその件を持ち出してきた。もちろん解決しなきゃいけない問題だから。


「お断りするわよ....この話が....。」

そこでハタと私は我にかえる。

「犬養さまは.....ちゃんと分かっていらっしゃるかしら?私の気持ちが?」


静まり返る部屋の中。


「そりゃ〜アンタそこまで女子に言わせて、分からない朴念仁はいませんわ。」

お美沙はそー言うが、あの方はアヤシイ。絵に描いたような朴念仁。


正直あの時の反応自体、なんか世間話が終わってではまた、みたいな感じだったし!


「どーしよう!みさっち!あの方私の気持ちに気づいていないかも!」

私はまたしてもジタバタともがく。友人はうるさそうな顔。


「まーたもー。心配いらないって。帰ってくればまたゆっくり話もできるでしょーし?そんときゃまた雰囲気出して迫ってきゃあ良いじゃねーの。へっへっへっへ。」


何よ迫るって?オヤジじゃあるまいし。やーもーどうしよう....。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


3月の終わり頃になって、お兄様宛に犬養さまからお手紙が届いた。

身の回りのことや戦のこと、仕事はうまくいっていることなど、御自身の状況が丁寧に書いてある。


ちょっと、私のことは?なんか一言無いわけ?


イライラして兄が読むのを聴いていると、末尾に一言、奥さま、綾さまにもよろしくと.....。


わ か っ て な い ! !


ヤッパリ分かってないわあの方は!

ナニ?よろしくって!しかもお義姉さまと同列に書くってどーゆーこと?


私の渾身の告白を何だと思ってたの?単に土産話が聞きたいとでも?


ジョーダンじゃないわよ!


無言で立ち上がりドスドス部屋を出る私を、お兄さまは不思議そうに眺めている。

部屋から出がけにお義姉さまの声が聞こえる。


「アナタ....分かってませんねえ。あの娘は....。」


最後はかすれて聞こえない。でもそんなのかんけーありません。


しばらくして家中にお兄さまの声が響き渡る。


「な、なんだとおおお〜!!!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


イライラする。本当に。

こちらから手紙でも書こうにも、彼方は何処にいらっしゃるのやら見当もつかず。

新聞社へお願いして手紙を届けていただこうとも思ったが、そこまでして頂けるような間柄があるわけでも無し。


家族や例えば許婚.....そこまで考えて顔が赤くなる。

馬鹿みたいだ。相手がなんとも思っていなければ、そのような戯言通じるはずもないし


そうしてイライラすること4月、お兄さまへのお手紙が一度あった。

でもそのお手紙には...。


「ナニナニ、綾さまとのお約束もあり、必ずや無事東京に帰還せんと自らに言い聞かせ申し候.....ぅおお!綾っち!これ!」


「そーなのよー!!」

何たる勝利!よくやった犬養くん!あたしゃあ嬉しいよ!!


春っていーわねーと浮かれかえる私を尻目に、お美沙はほうじ茶をすする。

「ナニヨー。なんか面白くないわねー。」


「アンタ、親友の勝利を素直に喜べないわけ?友達甲斐ない!」

「何がショーリよ。馬鹿臭い。」


確かに一行の文にここまで浮かれるのも馬鹿くさかろう。えーそーですよどーせね。


でも想いが伝わっていたのが嬉しい。

あれだけ真剣に伝えたのだもの、タダの励ましではないのだもの。


「でもこのひと月ふさいでたアンタが、そんなに浮かれているのを責めらんないね。」

お美沙はニヤニヤと再び文に目を落とす。


「マッタクの朴念仁でもなかったって事だね。これ書くのも結構勇気が必要だったんじゃない?アンタの縁談も聞いての事でしょ?お兄さまにも確実に読まれちゃうわけだし。」


そーよね、そーよね。

犬養さまが私の想いに気づいてくれた。応えてくれた。もうそれだけで....。


「うおっし!やります!」

「あ、あら、随分と気合十分ね。」


りつ奥さまにも気合で勝るほどの学習意欲が!

お布団お座布団なんでもこい!裁縫など気合だ!


だって花嫁修行が意味ある事に思えるのだもの。気合も入って当然であった。


そんな浮かれた4月が過ぎ、5月に入ってその知らせが届く。


「犬養さまがお怪我を?!」

なんていうこと、なんていう事なの!

だから言ったじゃないのそんな危ない場所に行くなんて!無謀!


郵便報知もなんなのよ!犬養さまにばっかり危険な仕事させて!


「いや、これこの通り、手紙まで寄越すのだからもう大丈夫だよ。」

お兄さまは呑気なことばかり。


「この度はこれで済んだとして!このような危険なお仕事を続けられては、いつまた同じような事が!」


「イヤしかしな、犬養がとでも優秀な記者であることもまた事実。あの男の替えになるような者はいない。」


「それで犬養さまを失ってしまっては、取り返しが尽きませぬ!」

私はすっかり取り乱していた。きっと帰るとお約束したあの方が、遠い九州の地で帰らぬ人となったりしたら!


「お綾、お前に聞いておきたいのだがな。」

お兄さまは改まった口調で話し出す。

「奥平さまとのお話は、全く反故にしたわけではない。お前の気持ちが整理できるまで、向こうにはお待ちいただいているだけだ。」


私は都合の悪い話題に黙り込む。

この件ではお兄さまにもお義姉さまにも随分とご心労をかけてしまった。


「アナタ、福沢先生も奥さまも、この件は御断りしてかまわぬと仰ですし.....。」

お義姉さまが助け舟をだしてくれるが。


「お前は黙ってなさい。先生の主筋にあたる方からのお話だ。構わぬわけがあるまい。」

お兄さまは頑として譲らない。


「犬養の事が気になるというが、兄としてこれほどの良縁を断るほどの男とも思えん。いや、確かに見どころある若者ではあるが.....。」


私たち3人とも、感情的に怒鳴り合うことはもう無い。

そんな気の疲れる、お互い傷つけ合うだけの行為はこの前で懲り懲りであった。


「伯爵さまはきっと素晴らしい方と思います。中津藩のお殿様でいらしたときにも、賢君のご評判高き方であったと。」

私も落ち着いて話ができる。きっと時間を与えてもらったから。

そして与えてくれたのは、目の前にいるこのお兄さまなのだ。悲しませることはしたくない。


「それでも私は犬養さまをお待ちしています。あの方が見ている新しい時代を、私も一緒に見てみたいのです。」


きっと何を言っているか分からぬだろう。のぼせ上がった小娘が言う戯言と思っているだろう。

それでも2人は私の言う事に耳を傾けてくれた。

もう争いはしない。感情的にもならない。


この2人が祝福してくれぬ未来は、私にとっても不幸だから。


「お前の気持ちはよく分かった。」

しばらくしてお兄さまは切り出した。

「しかし今すぐ犬養と一緒になるなど許すことはできん。あの男は今、ただの切れ味鋭い刃物でしかない。何に使える男となるのか、見極めてからでなければお前を嫁になどやれはしない。」


そう言ってお兄さまは自室へと去っていった。


「一歩前進よね。想いを貫きなさい。」

お義姉さまはそう優しく言ってくださる。やるわよ私は!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


でもそれから...お手紙はパッタリと来なくなってしまった。

戦局は激しさを増す一方とのこと。


犬養さまが書かれている記事も、1週間音沙汰なしなんて事もある。

官軍の転戦に次ぐ転戦で、お仕事すら果たせていないような状況であるらしい。


「ダイジョーブよ綾っち。官軍は優勢だっていうし。記者って危ないところには近付かないもんでしょ?」


お美沙は相変わらず私の精神安定に必要。

今日はお琴のお師匠さんのところで、お稽古中に無駄話。


「そうだと良いのだけれど。あの方なんか危なっかしい....。」

お書きになる記事がどうにも臨場感溢れすぎ。

もしや1番危険なところに足を踏み入れているのでは?


「おーおースッカリ嫁さん気取りだねえー。」


ムカつく。人の気も知らないで。


「信じてお待ちなさいな。約束したのでしょう?」


うん......ありがとう。そうする。


いつも記事を読みつつ、何処かに私へ当てた言葉がないかを探している。

そんな事があるはず無いのに。


その代わり読み取れてくるのは、他の記事には決して無いあの方の優しさ。


戦の被害に遭っている民草への、溢れるような同情と戦に対する憤り。

そして官軍賊軍隔てなく、亡くなった方々への追悼の気持ち。


気づけば犬養さまの記事は世間中で評判になっていた。

3人寄れば郵便報知の犬養の記事、と言うのは決して大袈裟なことでも無い。

あの方はこの暑さの中、世間に戦争の惨さや悲惨さを伝えるために、必死で取材しているのだ。


「新聞記事がこれほど人の心を動かしたことはない。」

お兄さまはいつも感心して、犬養さまの記事を読んでいる。

「これ程の文章を書くとはな。漢学に秀でた男ではあったが、ジャーナリストとしても新しい境地に入ったようだ。」


おや、手放しの賞賛ってやつ?どーよ私の見る目は!

いやいや....浮かれてる場合じゃ無い。


お手紙がなくともお元気である事が知れるだけ、私は他の兵隊さんのご家族よりずっとまし。

犬養さまの記事を読んでいると、そんな思いが湧き上がってくる。


何もお手伝いできないけど、せめてご無事をお祈りしようと三田の春日神社へ毎日お参りするようになった。


「アンタ....変わったわねえ?そんな健気な女子だったの?」

お美沙はそんな私をからかう。なんとでもお言い。


そうして9月も終わりに近づき、とうとう!戦は終わりを迎えた!

犬養さまからもお手紙が届き、10月初旬の船でお戻りになると!


「少々気になる事もあるのだ。」

お兄さまが暗い表情で言う。

「5月ごろに聞いた負傷の影響が残っているそうだ。記憶に障害があるらしい。」


覚えておられない事もあるってこと?

私は...私とのお約束を覚えていらっしゃるかしら?


「綾さん、聞いてちょうだい。」

お義姉さまが真剣な表情で言う。

「もしかしたら犬養さまは、いろんな事をお忘れかもしれません。でもそれはあの方に沢山の助けが必要だってこと。仮にアナタを忘れたなんて事があっても、自分の想いを貫く事ですよ。」


私はお義姉さまの言葉に真剣に頷く。


「いやあ....忘れてるようなら....それで良いんじゃ無いのか?その...。」

お兄さまは何か下らぬことを呟くが、私たちの形相に怯え言葉は続かない。


「私を忘れてしまわれたのならとっても寂しい。でも今は、例え覚えておられなくても無事でお戻りのことがたまらなく嬉しい。」

私がそう言うのを、お義姉さまは肩に手を置いて優しく励ましてくださる。

不覚にも涙がこぼれた。


「も〜綾さんったら可愛い!大丈夫!きっと覚えてくれているから!」


私は横浜からの汽車の到着時間を調べ、その時間に言い訳を作っては新橋へ出向くようになった。

少しでも早く、犬養さまに逢えれば。

コレってちょっと執念深い女と思われるだろうか?


そして不審者の如くふらつく事3日目!とうとうお会いできた時には、世間体など完全に忘却の彼方、大声でお名前を呼び、走って近づいていった。


走って、走って近づいていく!私の知らない新しい時代を、アナタの口から聴くために。

口の悪いアナタを、優しさ溢れるアナタを、もっともっと知るために。


薄紅色の絞りの着物が、足に絡みついて駆けづらい。

はしたなく裾を乱し、でもアナタはそんな事気にしないと知っているから。


だってアナタは世界で1番未来に近い、心正しい人と知っているから。


特別編は以上といたします。


第3部は今月中に再開したいと努力中です。


是非読んで下さい!

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― 新着の感想 ―
[良い点] いきなり綾さん視点で面喰いましたけど、章の間にこういうの挟むのは良いですね。 [気になる点] >第3部は結婚先 物語的には、このままでも良いかw [一言] 犬養さんのおかげで、綾さん元か…
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