憧れの男
何と私の住む街まで、春節が2/9まで延長....前代未聞です。( ´Д`)y━・~~
会社休みにすんのか?どーするどーする?
更新はかどっていーけどさー。
皆さまもどうぞお気を付けて!
中国は規制が強烈に効いており、比較的平静を保っております。(´∀`)
「ここは料理も出すんじゃろ?それに散々叫びおったら喉が渇いた。」
岩崎さんがガーガー声でそう言った。
声と共に言葉使いもかなーりカジュアルになってますね。
俺は下女を呼んでビールを持って来させる。
渋沢さんもしんどそうに柱にもたれかかり、岩崎さんの話を聴く。
「まあお前さん方がどう思ってるかは知らないが、トーマス・グラバーっちゅう男はすこぶる気のいい奴じゃでのう、明治になってすぐに素寒貧になっとるがじゃ。」
えーでも随分儲けたって、司◯遼太◯先生の本で読みましたー。
「そりゃあ幕末には武器商売で大いに儲けたぜよ。ところが金の回収がうまくいかん。大名たちはその座を追われてどこへとも知れず消えていくしの。いったい誰から取立てろっちゅうんじゃ?」
そりゃそうですね。その時代日本国内の借金が、相当な金額で踏み倒されたんすね。
「ジャーディン・マセソンからも見捨てられたグラバーは、結局ワシを頼ってきた。そうしてもう1人くすぶっておる方がいた。」
それが後藤象二郎ってことですか。
「お前さん方はあん人がどんだけ凄い人かは知らんじゃろ?ワシや坂本や中岡はそれぞれクセの強い男じゃったが、喧嘩もしつつ結局のところ皆あん人に憧れておった。」
「坂本...さんって後藤先生より年上ですよね?」
「おお、よう知っとるのう!ワシと坂本は同じ歳よ。あの時代生まれ育ちというのもあって、ワシらとあん人とじゃ活躍できよう場所も違うんじゃ。歳下じゃってもヤッパリ憧れたのう。」
そーゆーもんですか?なんかモノの本で読むと大分違うことが書いてございますが。
もちろん昭和以降のお話でございますけれども。
「そりゃあワシは商売となれば誰にも負けん。坂本や中岡も、志士として立派なもんじゃった。それでもあん人のした事を考えてみい。外様の陪臣の分際で、将軍様にアンタの権限を放棄せいと説教したんぜよ?その場で切り捨てられてアタリマエの状況でじゃ。」
俺の前世でわかりやすく例えると?任侠団体の親分さんに、説教するみたいなもんでしょうか?いや国家規模の任侠団体......ともかく怖いって事ですね!
「金ならワシが調達する。中岡も坂本も知恵やら仲間やらは頼りになる。ソレでもあの場で一世一代の大博打を打てる器は、後藤象二郎以外にありえんじゃった。」
「岩崎さんにとって、後藤さんはそんな人だったんですね。」
いや、まだ死んでないし。過去形で言っちゃあマズかった?
「誰も後藤さんに行くなとは言えんかったよ。あん人しかできん仕事だからじゃ。江戸表じゃあ、土佐の後藤を斬ってやると公言してはばからん奴らがウヨウヨしとる。そんな日にじゃ。」
岩崎さんは思い起こすように目を閉じる。
そしてまたカッと見開いて叫ぶ!
「後藤さんは当日の朝、『僕が明日まで戻らんじゃったら、西郷さんへよろしく言ってくれ。』なんぞとサラリ言いようんじゃ!どう思う!カッコよかろう?!ああ?」
コーフンしないでください岩崎さん、ビールめっちゃ溢れてますよ!
「よく分かったよ岩崎さん。アンタにとってどれほど後藤さんが特別な奴かってのはな。」
渋沢さんは冷やかす事なく、真面目に岩崎さんの話を聞いている。
「ソレが御一新の後となると....あん人は太平の世には向かん人じゃ。」
俺はビールをコポコポ注いで差し上げる。
岩崎さんはグイッとグラスを飲み干して、げふーとイッパツ。
「渋沢が言った通り、ワシにとっての大恩が出来たのは明治に入ってからじゃが、ワシがあん人に惚れ込んどるのはそんなケチな話が基じゃあねえ。」
渋沢さんは呼び捨てられた事に気を悪くする風でもなく、黙ってビールを飲んでいた。
「金なんぞワシは幾らでも都合をつける。なのに後藤さんは征韓論に敗れた後、もう政治は沢山じゃと言って、自分で商売をやるなんぞと言い出しおった。」
ふいーとため息をついて、岩崎さんは庭を見やる。
空には半月が美しく見えている。
「クサっとったのよ、あん人は。薩長の幅を利かせる政府の中で、何も思う通りには出来ず、そもそも政治なんぞとつまらん事には興味もない人じゃ。」
政治家になっちゃダメじゃないっすかそんな人。
「その時ワシは考えた。後藤象二郎をもう一度輝かせるためには、どうしたらええじゃろうかとな。」
岩崎さんは庭からコチラへ視線を戻す。
「そうして決めた。あん人を大陸へ送り込む。」
ゴクリと俺は唾を飲み込む。
「征韓論に固執しとったお人じゃ。きっと我を忘れて駆けずり回るじゃろう。乱世にしか向かないお人なんじゃ。」
今回の騒ぎは結局そこから始まったのか。行き場を失った乱世の英雄と、彼を信じる明治の豪商。
「ソレならそうと、後藤さんに直接おっしゃれば良いじゃないですか?」
「イヤイヤ犬養さんよ、アンタは間違いなく後藤さんを知らんね。あん人はワシから薦められてハイそうですかと、ホイホイ大陸に渡るタマじゃあない。」
岩崎さんはまたふいーとため息ひとつ。
「とんでもない捻くれもんなんじゃ。人がこうせえと言ったことだけは、何が何でも従わん。」
そんな後藤さんに....いう事を聞かせるため?
「その時に思いついたのよ。どうせ商売やらせてもこん人に出来るわきゃあない。後藤象二郎が炭鉱経営(笑)などと、悪い冗談じゃ。」
「そこでグラバー商会の出番で?」
「トーマス・グラバーは高島炭鉱の経営が、資金不足で潰れようとしとった。そこでワシは後藤さんにこれを払い下げさせたんじゃ。ホントはワシが直接受けようと思うとったが。」
「ソレで後藤は案の定経営ができぬと。」
渋沢さんは先を促す。
「結局借入が100万を超えたあたりで継続は断念、グラバーは借金を棒引きする代わりに後藤さんに証文を書かせたというわけよ。」
「朝鮮半島の交易を独占させるという?」
俺の言葉に岩崎さんは頷く。
「心配せんでもこの世には、もはやグラバー商会などと言う会社が存在せん。そんなもんは空証文よ。」
何と身勝手な理由でこんな騒動を.....とも思ったが、あまりの悪意のなさに腹も立たない。
「後藤さんはやはりイキイキしてきたよ。借金などあの人にとっては何の問題でもない。問題があるとすれば、有り余る情熱を打つける場所がない事なんじゃ。」
そこまで言うと岩崎さんは少々言葉使いを改めて俺に言う。
「アンタに迷惑かけたとしたらこの通りだ。悪いのはワシで後藤さんではない。どうか此処はワシの顔に免じて、許してやっちゃあ貰えんか?」
胡座のまま岩崎さんは頭を下げた。お安い頭ではないはずだ。
「いやー別に許す許さんの問題ではないんですよ。結果として起きてしまいそうな、朝鮮の軍事蜂起が問題でしてね。」
何を言ってる、と今度は岩崎さんが驚いた顔をした。
「偽証文の話がなぜ軍事蜂起になるって言うんだね?意味がわからん。」
わかりません?そーですよね普通は分かりませんよね。
「陸軍も絡む複雑な事情らしくてな、犬養さんもアタシらに詳しくは説明できんのよ。でも日本公使館も狙われるかもしれんし、最悪清国との戦争にも繋がりかねんらしい。」
渋沢さんがそう言うと、今度は岩崎さん腰抜かすほど驚いたらしい。
「だから何で!何でこんなささやかな話が、清国との開戦に繋がる!おかしいだろそんなん!」
「全くおかしな話だよ、犬養さん。」
渋沢さんが俺に言う。
「この岩崎さんはじめグラバーさんも後藤さんも、みんな悪気もなしにお互いの為を思ってやっているだけなのに、なんだか気づいたら戦争が起きちまうってんだから。」
渋沢さんの言う通りだ。
この一連のゴタゴタの中で、何というか悪意を持って動いている人はいない。
「ともかく岩崎さんが朝鮮を狙っていないと知って安心しました。」
「お前さんワシを見縊ってもらっちゃ困る。」
三菱総帥は襟元をグイッと直して胸をそらす。
「口はばったいが、ワシャ私利私欲ずくで仕事をやったことなぞ、生まれてこの方一度もない。船会社で独占企業を作り上げたが、あれあ外国船を駆逐するためにやった事だ。ワシャワシなりのやり方で、欧米と戦っとるんじゃ!」
渋沢さんはソレを聞いて、パシリと膝を叩いて言った。
「よくぞ言ったこの田舎ジジイ!アンタは天晴れ日本男児の鑑よ!」
ソレ褒めてんすか?なんか共感するとこがあったのは分かるけど。
「ソレではこの問題解決のため、後藤さんの誤解を解いていただき、朝鮮派遣は見合わせるって事でよろしいでしょうか?」
岩崎さんは困った様子だったが、ややあって深く頷く。
「お国のためとあれば是非もない。ワシの悪戯は中止しよう。」
渋沢さんがビールを岩崎さんのグラスへ注ぐ。
2人は笑いもせずにお互いの顔を見ながら、実につまらなそうに飲み干した。
一緒にいる事自体がミラクルな2人、楽しそうにせよとは言うまい。
今日の半月は上弦だ。
いずれは友情が満ちる日もあるだろう。
これで終わりと思わせて.....
どーしよーかは考え中(T . T)明日も更新しますー。
と、土佐山内は外様ですね!
直しました。




