仲人・盟友・義兄・党首
『仲人の言う事は聞くもんだ。』という福沢先生の謎理論によって、俺の婚姻は秋に実施と決まってしまう。
えぇ....式場とか招待状とか.....どうすんのよ?おっ母を呼んでくるわけ?
この時代どうすればイイのか?まあ前の人生でも結婚なんか縁なかったけど。
「まあ私に任しておけ!」
義兄は仕切るつもりのようだが、イマイチ不安が。まあ義姉さんがなんとかしてくれるか。
「そうとなったら党準備委員会も秋開催で、そのまま祝言になだれ込むって感じだな!」
部活の打ち上げじゃないんだから.....やはり義兄には任せておけん気がする。
時事新報からそのまま新橋の小料理屋へ直行し、その日は先生と中上川さんの創業お祝い&俺の祝言前祝いとなった。
翌日出社すると、事務方が来客を告げにくる。
「お通ししてイイでしょか?宮崎さんとおっしゃる方で。」
また〜ハチローさん、連絡ぐらいしなさいよ。
「イヤ急ぎだったしめんどくせえから。」
「理由になってませんよ。どーしたんです急ぎって?」
俺たちは改進党準備室でご対面。
「いよいよ政党立ち上げだな。準備は順調かい?」
「党機密です。ソレより要件を。」
自由党から数人頂きますとは言えない。ナイショナイショ。
「要件って程のもんじゃない。しかし気になる噂を耳にしたんでな。後藤のことで。」
ナルホド。やっぱり皆あの人の行動が気になってますよね。
「大同団結がらみの動きですか?ウチの参加予定者から数十人引き抜かれましたよ。」
「おお、結構被害あったな。俺らもそんなもんだ。近畿・中部で多いな。」
板垣・後藤が再度組むとなれば、そこそこの影響が出るのはやむを得ない。
そんな事でわざわざ来たの?
「イヤこれから東北で演説会を幾つかやるんでそのついでだ。」
ハチローさんは寝起きの顔だ。
横浜に昨晩着いて、朝一番の汽車でやって来たという。
ついでと言ってもこの時代、結構面倒な手間かけて来てるじゃないですか。
「いやアイツが金もねえのに民権運動へ戻ったのは何故だ?ちょっと気にならねえか?」
「その事ですか。勿論ミンナ気にしてますよ。」
考える事は一緒ですね。
「だってオメー聞いてるか?借金100万ドルあったらしいぞ!ドンだけ使ったらそこまで借金できんだよ、まるでソフ◯バンクだろが!」
そこまでいってないと思うが。でも個人の借金としては確かに桁が違う。
「グラバー商会が貸し付けてたらしいですけど、もう三菱が肩代わりしたらしいですよ。後藤さん個人に借金はもう無いでしょう。」
「だが身銭も無くなった。ソレでどうして金のかかる政治に戻るっていうんだ?」
ソレはそうですが。
「誰にだって居場所は必要でしょ?一度は捨てた立志社に戻ろうとして、手土産に大同団結なんていう景気の良いホラ吹いてるんじゃ無いですか?」
俺がそういうと、ハチローさんはフーンとソファーにもたれ掛かる。
「大同団結に関しちゃあ俺も同じ意見だ。後藤らしい大風呂敷だしな。」
そこは日本全国共通の理解ですね。
「でもアイツは単にヘボの商売で大損したんじゃねえ。イギリスと三菱にハメられたと俺は思う。借金でガンジがらめにして、自分に奉仕させるためによ。」
「な...ハメられた?そんな事って.....。」
いやそーかハナから後藤さんを思うままに操って使うため、出来るはずもない事業への投資を?
う〜ん陰謀論じみてるけどあり得ない話じゃない。
三菱もグルだっていう前提か。
「さすが元反社....中々思い付きませんよその悪知恵。」
「反社って言うな。」
褒めてるつもりだったんですが。
「しかも三菱もグル、周りで取引した奴も全部グルにしちまえば、グラバーの損失なんて実は数万ドルって仕組みを作る事も造作ねえ。」
アンタ悪いヤツですね〜、前世でハチローさんに会ってなくてよかった。
「そうまでしてイギリス人は、何を後藤さんにさせたいんです?」
「イヤそこなんだよ、オマエ何か気付く事はねえか?」
気づく事ってんじゃありませんが、やっぱり例の件でしょう。
ちょっと機密事項ですが。
「陸軍がらみの話なんで、他言無用に願います。」
俺は後藤さんと会って話をしたとき語った、朝鮮半島に燃やす執念について、そのための朝鮮半島への政治顧問就任という秘策についてを簡単に説明する。
「う〜んナルホド。笑わせやがるな。」
ハチローさんはそう言いながら笑顔ではない。
「後藤がどこ押したらそんな事喋りやがんだ。あのヤロウは下野した途端にスタコラ消えたんだ。朝鮮半島に執念燃やすだと?フザケたこと言っちゃいけねえよ。」
まあまあ、その辺はご一緒だった方しか知らない事ですから。
「そうするとグラバー商会の狙いは?」
「後藤が自分を売り込んで来たって事は、やっぱり狙いは朝鮮半島への進出だろうな。」
そーかいなと俺は首を傾げる。
「俺は自分で見て来ましたがあの国は貧しい。中国・日本に拠点を持つジャーディン・マセソンが、興味を持って小細工するような場所じゃありませんよ。」
「まあ全力出したって仕掛けじゃないな。こんな小細工が当たれば多少儲けも出るだろ、くらいの腹じゃないか?何にしても他に奴らが後藤をハメる理由は無さそうだ。」
確かに数万ドルで朝鮮政府に自分の操る政治顧問が入れば、貧しい国だろうが多少の利益にはなる。
あるいは他国を排除して独占することもできるし、やがては企業が国を植民地化する事もあるかもしれない。
ジャーディン・マセソンの前身とも言える、東インド会社ってのはそういう組織だったとも聞く。
「その策が成功すれば日本国としては?親日政権が出来さえすれば、問題ないでしょうか?」
「う〜んそうだな....別に実害はねえのか?でも前世の俺らの経験から言って、あの国に親日政権とか想像もつかねえだろ?利益は持ってかれる侵略の悪名は着せられるで、メリットは無さそうだぞ。」
となれば阻止する一手か。
「ですが今の話は、後藤さんがハメられてるという仮説の上の仮説です。チョットこちらも動きのとりようがない。」
「そいつは甘い。奴らが動いてからじゃ遅れをとるに決まってる。どう出てくるか予想しろ。」
またも対策は俺に丸振りのハチローさん。
ウム.....どう出てくるか......分からんぞ。
「分からんぞじゃねえ!オメエは謀略得意なんだからもっと考えろよ。」
謀略担当だの民衆扇動だの、ひとり諜報部か俺は。
現地の様子を見ておきたいが、今は動けないな....。
ミツルは一回日本に戻れないかな?手紙出しとくか。
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そんな簡単に対策など出るはずもなく。
ハチローさんは『帰りに寄るからそれまでに考えとけや』と捨てゼリフ残して去った。
ムカついたので、俺の祝言の話は教えずにおく。絶対呼んでやらん。
そして俺は党準備委員会の開催のため、再び地道な作業へ突入する。
ここまで参加を表明していただいた方々へ、準備委員の任命受諾と会合への参加をお願いする手紙。
言うと簡単だがコレを100枚ほど書くわけで。
会場は三田の慶應義塾講堂だ。他に場所思いつかん。
福沢先生及び慶應義塾事務室にも了解を取った。
諸事考慮して、日付は9月15日。その後....俺の祝言?
いや流石にコレは今決めるわけにもいかん。結納だってまだじゃんか。
おっ母と次郎に手紙を書き、次郎に代人になってもらって東京で結納済ませる旨を連絡。
おっ母は祝言の時に来てもらおう。今は暑いからな。
「ナニ9月15日?えーとえーとおお!良いではないか!大安ではないか!ヨシ決まり、コレでイコウ。」
義兄はどーしても同じ日に決行したいようだ。時間遅くなっちゃわないっすか?
「大丈夫じゃ!そこんとこは私が取り仕切ってだな!」
それが不安なんですが。
「面白い趣向なんである!」
悪いことに大隈卿もノリノリだった。
「我が党の記念すべき第1回準備委員会と同じ日に、犬養くんの結婚式が行われる。参加者も全て参列するんである!実にめでたいんである!」
イカンこのままこの2人に押し切られそうだ。
せめて綾さんと相談してから決めたいし、おっ母になんて説明しよう......。




