立志社の切り札
前半は林正明、後半は宮崎八郎視点です。
分かりにくいというご指摘あったので、今後前書きで説明することにいたします。
気が利かなくてすいません( ;∀;)
梅雨前の最後の青空だろうか。
我らが大阪自由日報社はその真白な.....まあ真白だった姿を夏の日差しに晒している。
そりゃあ黄ばんだシミは残った。
それでも1週間にも及ぶ懸命な清掃作業の甲斐あって、どうにか悪臭は無くなった。
今日も職員が何名か、青空の下清掃作業に勤しんでいる。
「おんのれ〜、板垣のウ◯コ野郎が〜!」
そして夏空に宮崎の呪いが響き渡る。
当日のこの男は立派だったの一言に尽きる。
あれほどの嫌がらせを受けつつ、参加者の安全のために全力を尽くし、立志社の無頼漢たちを相手にもしなかった。その毅然とした態度に、返ってこの男の評判は上がった。
「いやさすがは福島義挙の義士殿よ!」
「八郎殿の貫禄が増して、自由党の未来は安泰じゃな!」
「この様な嫌がらせなど、逆にウンが付くというモノじゃ!めでたいめでたい!」
最後のDad jokeだけは、我々が出したモノでない事を強調したい。
1部の新聞報道で、まるで私が発言したように書かれていた。迷惑千万である。
ともあれ参加者からはそんな声をいただき、悪臭のため早めに切り上げた結党大会ではあったが、大成功に終わったと言って良かった。まさにLand SlidingVictoryという奴だ。
それなのに大会終了後、この男はグズグズ文句を言い続けている。
勿論私とてあの様な行為は容認し難いが、あの妨害行為のおかげもあって我等自由党は大いに評判を上げることができたのだ。
早い話がもう良いじゃないか。
「ゼンゼン良くねえぞ!マサアキ!この借りは百倍返しでもおさまらねえ!」
あの日の毅然とした男はどこに行ってしまったのか。
「さあさあ、そんな事より早く遊説日程を決めてしまってくれ。せっかく支持者が増えていこうとしている時に、こんな事で時間をとってしまっては勿体無い。」
私は今後もこの男の秘書として、支え続けるだろう。
我々の関係は実にうまくいっているじゃないか。
その時であった。
「いよう!2人とも元気にしているかあ?」
素っ頓狂な声を上げて、近づいて来る恰幅の良い男が1人。
日陰の少ない街道の真ん中で、暑苦しい洋装が人目を引きつける。
私は我が目を疑う。
「テメエええ!後藤!」
宮崎が襲いかかろうとするのを
私は必死で押さえ込む。
「よせ!宮崎!オオイ!お前たち!宮崎を抑えるんだ!」
清掃作業の若者たちは、私の声に驚いて駆け寄ってくる。
「馬鹿野郎邪魔すんじゃねえ!後藤がいるんだぞ!俺たちにウ◯コ投げつけた張本人じゃねえか!」
張本人ではないぞ。あの日、後藤象二郎は姿を現してはいない。
と言うよりこの数年、この人は民権活動には目もくれず、ひたすら事業に精を出していたはずだった。
今日に限って一体何の用だ。
暴れ回る宮崎が抑えられるのを見て、後藤さんはハッハッハッと高笑いだ。
それを見た宮崎がまた激昂して暴れようとする。
「後藤さん!そこに居られては宮崎の興奮が治まりません!今日のところはお引き取りください。」
「おや、林くんまで随分なご挨拶じゃないか。せっかく来たんだ、寄らせてもらうよ。」
後藤さんはそう言うとズカズカと社屋に入り込んでいった。
マッタク困った人だ。英雄豪傑であり過ぎる。
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「我等の党員が犯した罪は、全てこの僕の責任でもある。どうか許してくれ!」
この役者め、今度はとぼけて土下座ときやがった。
こういう事が出来ちまうから、コイツは大した役者野郎だっていうんだ。
コッチはあげた拳を下ろせずシラけちまう。
「宮崎よ、後藤さんもこうおっしゃっている。許す許さぬはともかく、制裁加えるだのバカなことを言うのは、頼むから堪えてくれ。」
マサアキがこちらを見て非難がましく言いやがる。
これじゃあどっちが理不尽な事をした側なのか分からねえ。
「クソ、勝手にしやがれ。」
だが後藤って奴は遠慮をする事がない男だ。
俺が勝手にしやがれと言えば、遠慮無く勝手にしやがるのだ。
「そうかい、それじゃまあそういう事で。いや本当に済まなかった。」
と言いながらサッサと応接のソファーに腰掛けてニコニコしている。
俺は口をきくまいと決めた。
「ヤレヤレ、いったいなんのご用件です?立志社の妨害行為でウチの者たちはピリピリしてるってのに、ノコノコ1人で顔を出すなんて!少しは気を付けて頂けませんか。」
「イヤそこよ。僕が大勢護衛を連れて来たら、一体どうなると思う?」
マサアキの馬鹿が。コイツと口喧嘩して勝てると思ってんのか。
「いやそれは勿論.....騒ぎが大きくなりましょうが。」
「そうだろう?ここは捨て身で飛び込む事こそ、誠心誠意の心は伝わるというモノじゃないか。」
伊達に幕末を口一つで潜り抜けた男じゃない。度胸も知恵の廻りも一級品だ。
「それで今日は、そこまでなさって一体何用ですか?」
「うむ、僕の不在中に精魂込めた愛国社が袂をを分かってしまった。退助は随分と動揺してな。」
「そこは仕方がありますまい。福島の義挙もお声はかけたが乗っていただけなかった。宮崎が不在の間に結党が進められていた。我等としては独自の道を進むしかなかった訳で。」
「君にも言い分はあると思うし、退助にも幾つも理由がある。腹を割って話していれば少しは誤解も解けたろうに。」
俺は黙っている事が出来なくなった。
「後藤さんよ、俺たちはもう支持者の承認も受け、新しい道を歩き始める。誤解だろうがなんだろうが、あんた方と歩調を合わせる事はもう無いんだ。」
後藤はギロリと俺を睨む。
「歩調を合わせる?そんな事を言いに来たのではない。国会設立を迎え、今我等が袂を分かつ事がどれだけ愚かなのかを説きにきたのだ。」
あーもう喋るんじゃなかった。コイツを言い負かせる気がしねえ。
「僕は一段上の観点から、民権論者の統合を呼びかけようと思う。それが僕の提案する『大同団結運動』だ。」
「だいどうだんけつ.....。」
マサアキがポカンと口を空ける。いかん、この男は苦手だ。
確かそれって史実でもあったはずだぞ。結果どうなったんだっけ?
「そうだよ、民党の力を集結して、政府に正面から挑んでいくんだ。まだ憲法は草案も出されてはいない今の段階で、我々から憲法案を提出して政府と民衆を引っ張っていく。そういう団体を目指そうというものだ。」
コイツはかっ飛んでいる。大した男だ。
「後藤さんお待ち下さい。それは政党を1つにまとめていこうというのでは無く.....。」
「そう、政党は別で構わない。大事なのは意見を1つにして政府と闘うという仕組みだよ。」
ヤッパリまずい、これ以上喋らせちゃあいかん。
俺は意を決して立ち上がった。こういう時は不意打ちに限る。
「後藤さんよ、ワザワザ説明に来てもらって悪かったな。十分聞いたから今日は帰ってくれ。」
俺たちは再び視線をぶつけ合わせる。
幕末の伝説的な男のメンチだ。板垣の眼力も途方もなかったが、コイツはまた一味違う。
汗が首をつたって流れ落ちたが、暑さで流れる汗とは違った。
夏が終わったかと思うほど長い時間の後、後藤はニヤッと笑うと膝にパンと手を当てて立ち上がる。
「まあ今日の今日で返事をもらおうとは思っておらんよ。ほんのご挨拶に寄らせてもらった。」
そう言って俺たちの返事も聞かず、スタスタと部屋を出て行った。
来た時と同じくらい手前勝手な退場だ。
俺はドサっとソファーに崩れ落ちた。
「よせよ宮崎。今、お前が斬られたかと思った。」
マサアキはため息と共にそう呟く。
「アイツは厄介だ。自分で言うことに信念を持っているように見える。ところが蓋を開けてみれば、テメエらのご都合でどうにか主導権を握ろうとしてるのさ。」
「主導権を握る?」
「今更俺たちを超える勢力なんぞ集められない、と覚悟を決めたわけだ。それでも民権運動の主導権は誰にも渡したくない。そこで思いついたのが大同ナンチャラよ。」
「そういう事か....。」
オマエ今説得されかかってたろ?
「急ぎで組織内に注意を促すんだ。支持者たちにも説明しろ。立志社が切り札を切って来たってな。ボケッとしてると切り崩されるぞ。」
「後藤象二郎はJokerか....。」
大人しく事業に邁進していればいいものを。
何だって今更しゃしゃり出て来たんだろうな?
アイツ....ツヨシのとこにも行くかもしれないな....。
まあ大丈夫か。ツヨシなら。




