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首尾一貫した男たち

今日は更新遅くなってしまいました。m(_ _)m

いつもお読みいただきありがとうございます。

6月の雨が降り続くなか、征討軍の行軍は遅れ気味だ。


大関山で四散した薩軍は、その他の軍勢と共に都城へ集結しつつあるという。

もはやなりふり構わずに、ただ生き延びようとするかのようにも見える。


「そーじゃないんだな。薩摩のヤツらってのは。」


三浦少将はチッチッチと俺にダメ出し。


「一貫性を持つってのが、アイツらの生き方だ。つまり『生き延びるために逃げる』も『万策尽きて自刃』もアイツらにとって一貫性のない事なんだな。」


「ではこの逃走と再集結は何のために?」

「バッカだなツヨシ!抵抗し続けるために決まってんだろうが⁈」


我が事のように薩軍の心理状態を解説するゴロちゃん。

お互い梅雨空にウンザリしながらの行軍、薩軍に対する分析も雑である。


現在新聞を賑わすネタは、『西郷は何処にいるのか?』だ。


既に前線にはいない、清国へ亡命している説や、密かに薩摩に戻ってる説など、取材もせずにはしゃいだような記事が乱発されている。


もちろん俺はそんな記事書きませんよ。


結論はみんな分かっていながら、ただ話を膨らませて楽しんでいるようだ。

西郷って人が皆が言う通りの人物なら、一人で逃げ出すわけがない。


「西郷は必ずいるな。」


ゴロちゃんも確信している。


「逃げては一貫性が無くなりますもんね。」

「そういう事だよ。」


現在征討軍は3軍に分かれて行軍中。都城を三方面から攻撃しようとしている。


梅雨の間は大規模な作戦は行わず、ひたすら追い詰めていく方針だ。

そんなこんなで、たまの小競り合いが起きる他は、目立った戦闘もない。


暇を持て余した全国の読者が、西郷亡命説をひねり出すのも無理はなかった。


俺も話し相手が減って困った。

満男こと頭山満は、八代から俺に荷物を送ってよこしたが、本人は追いかけて来なかった。


別に置いてきぼりにしたから、拗ねちゃったわけではない。

何と八代の漁師と話を付け、漁船で薩摩へ乗り付けるという荒業に出たのだ。


“大変世話になった。しかしこのまま同行させてもらっても、薩軍に合流する隙があるとは思えず。百に一つを信じ、海より薩摩へ赴く。”


荷物と共にこんな手紙が添えられていた。

アイツなりに考えての決断だろうが、八代って熊本城解放の時に、征討軍の別働隊が上陸した港だぞ?

オマケに現在薩摩は政府の監視下にあると言う。


あんな怪しい奴を見逃してくれると思えないが.....。

アイツもまた一貫性に殉じる男なんだろうか。


妙な縁でひと月以上も一緒に行動した仲だ。


寂しくない訳はない。

梅雨と行軍と別れとで、俺の気分もふさぎがちだった。



軍の携帯する食料にはカビが生え、慣れない気候に関東から来た将校たちは微熱に悩まされた。


いや俺から見たら、衛生状態はかなりヤバイ。

石鹸は兵士に行き渡っていないし、そもそも飲用水も生水を飲むような奴が多い。

食中毒とかも頻発していて、誰が何の症状を発しているのかよくわかんない。


第3旅団の人達には、俺がゴロちゃんに注進した甲斐もあって、かなりの石鹸が確保されたが、そもそもの習慣が無いので手を洗わん奴がまだ多い。


ウンコ終わったら手を洗えよ!っていうかそこら辺にするんじゃ無い!


こんな事を言って回る俺が、男として細かい事を言い過ぎるように見えるらしい。

「ツヨシ、お前さん細かすぎじゃ。」

「そげん細かかこつどうでんよかばい。男の気にすることじゃなか!」


オマエらも俺を『ツヨシ』呼ばわりか?雑兵どもよ?

男らしく下痢してる方がみっともなかろうが!


東京への連絡も途切れがちだ。


この時代、電報は手段として使えるのだが、薩軍はそこら中で電線を切断し、飛脚による手紙のやり取りしか通信手段がない。


この間来た藤田主筆からの手紙では、1週間以上記事が届かなかったので、俺が死んだと会社内で騒ぎになったらしい。


ああ.....それぐらい空いちゃった事もあったかな?


いや飛脚の方が、大雨で足止め食らってたのかもしれない。

危うく藤田主筆が自ら取材に乗り出すところだったらしい。程なく記事が届いてホッとした、というお小言のような冗談のような便りだった。


知らんがな。


やがて7月に入りようやく梅雨空は去ったが、今度はうだる様な暑さがやってきた。


薩軍は都城を中心に、各要所に塁を築いて抵抗。征討軍は各個撃破を繰り返す。

そして7月24日、都城総攻撃。


やはり西郷はそこにいた。いましたよ。


彼を守るため薩軍の士気は見違えるほど高い。

それでも1週間ほど抵抗したものの、10倍違う戦力には抗えない。


大分方面へ逃走し、そこでも征討軍の後詰にぶち当たり.....それでもまだ抵抗し続ける。


改めて三浦少将の見識に脱帽する。

薩軍もすごいがソレの理解者であるアンタもすごいよゴロちゃん。


これで最後かと思うと再び何処かに薩軍は現れ、苛烈な攻撃を仕掛けてくる。

征討軍では戦死者の埋葬が定着した。

近所から坊さんを呼んでくることすらある。


俺のルーティンに埋葬者の確認という項目が増えた。


まさかと思うが満男が薩軍に合流した場合を考え、その死が確認できた時には埋葬に立ちあえる様にと思ったのだ。

兵士たちはそんな俺を不思議そうに見るが、なんといってもこの時代で初めて出来た友人だ。


一人ぼっちで死んでいくのは可哀想じゃないか。

だが幸いというか、満男らしき死体は未だ確認していない。


8月、延岡に集結した薩軍に対し、征討軍は総攻撃をかける。


いつも通り、三軍手分けしての攻撃。

三浦少将は将校を集めて作戦会議。

山縣総司令官の作戦を伝達するゴロちゃんは、あまり納得していない様子だった。


終わって直ぐに質問してみる。


「何か気になることでもお有りですか?」

三浦少将は俺を見て、小声で不満を口にした。

「山縣の野郎は気にくわないが、ここんとこの一連の作戦はもっと気に入らん。」


いや、そーゆーの記事に出来ませんし。もっと普通の感想お願いします。


「あのヤロウ薩軍に退路を用意している。西郷に対して何か遠慮がある様に思う。」

俺は目を見張って三浦少将を見つめた。


「長州じゃあアイツは薩摩との交渉方だった。当然西郷とも仲は良かった。それだけにやりにくさはあるだろうが.....あんなヌルさじゃあ西郷は捕らえられん!」


「山縣総司令官は.....。」


「西郷に武士の情けをかけてるのさ。自刃する機会を与えているんだ。」

そうして彼は吠えた。

「何もわかっちゃいねえ!薩摩男は違うんだ!オメオメ与えられた情けを受ける様な奴らじゃない!」


首尾一貫した男たち。

俺は記事にするべきだろうか?

それともこれを書くことは、立派な男たちを侮辱する行為だろうか?


翌日、延岡総攻撃。


5万の征討軍が押し寄せる中、3千の薩軍は果敢に戦った。

それでも3日ほどで長井村に包囲される。

これで終わった.....当然皆そう思った。


降伏勧告が薩軍に向けられ、回答を待つ間は交戦中止となる。

「本当に分かってないな。」


もはや諦めといった感じで、三浦少将は俺に言う。

「どうなるか見てな。」

「ここからどうにかなるもんですか?」


俺には想像できなかった。

この状況でまだ戦おうという気力が起きるものなのか。

答えは翌朝伝令によってもたらされる。


「西郷が逃走!第1旅団の包囲が突破されました!」


おおおおと陣内に叫び声が上がる。

5万の軍に包囲されながら、それを物ともせず軽々と突破する軍神。

恐怖の色を浮かべる者、何故か喜び叫ぶ者。


「静まれ!」

三浦少将が一喝し、陣内はようやく静まった。


「全くざまあないな。第1旅団は今頃切腹の準備だろう。」

「やめてください幕末じゃあ無いんですから。」

俺はゴロちゃんをたしなめる。下手なこと言ってると、自分がミスった時困りますよ。


「西郷は5百の兵士と共に、可愛岳(えのたけ)を越えて北側の包囲を突破した模様!食料弾薬を奪って逃走!」


続けて報告する伝令。

三浦少将はニヤニヤが止まらない。

「ほれ見ろ、これでも切腹は無しか?」

「ええーと、ど、どうですかね?」


第1旅団の皆さんカワイソス。


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