友愛を語るより防御を固めよう
OLDTELLERさんより、力の籠もったレビュー頂きました。
ありがとうございます(´∀`)
感想も極力全部ご返事出してます。
こうやって読んでいただいた方にご意見いただけるのが、すごく良いですね♪
「福沢先生は皆さんの活動に対し、強く共感を持っておられます。ご自身の教え子は政府機関や財界などに数多く、花房公使や私もその1人です。この全てが独立党への協力体制を取るでしょう。」
俺は努めて冷静に事実を伝えた。
2人の喜びはコチラにも伝わってくる。
「それはありがたいです。大変期待しております。」
パクさんキムさんは通訳が伝える以上にいろいろ言っているが、通訳能力が追い付いてこないので雰囲気だけが訳される。
「国王陛下は、昨日私的に我々の報告を聞いてます。」
まあそうなるよね。公式には清国派が多数だろうから。
「陛下は大変ご関心を持たれ、近衛部隊の編成をお考えになられてます。」
近衛?俺と公使は顔を見合わせる。
花房さんは頷いている。そういや曽根さんもそんな事言ってましたね。
「朝鮮の政治体制は閔氏一族が取り仕切っており、陛下はそれに対して拒否する事ができません。我々は陛下直属の最新式軍隊を作ることで、陛下の発言力を増していきたいと考えてます。」
そーだよコワシさんの言ってたやつじゃん。旧軍が反発して暴動起こしちゃうやつ。
コレはよほど慎重にやっていかないと....でも花房公使の反応を見ると、大きく頷いて賛意を示してる。
「国王陛下は現体制に不満があると。そこに我々が協力する道があるわけか。」
いや花房さん、ほどほどにお願いします。
「武器提供や資金提供までは出来ないが....以前お話しした通り、兵隊訓練などならご協力出来るでしょう。」
そこも注意が必要ですよ!コレやばい奴ですから!
そーは言ってももうほぼ決まっている事なんでしょうね。
「それほど大きいモノは考えてません。2、3個中隊程度のもので始めればいいので、予算はそれほど掛からないと思います。」
キムさんが構想を語る。
「先ずはこの辺りから協力体制をと思っています。いかがでしょうか?」
花房公使は大きく頷いて同意した。
「良いでしょう、早速日本へ伝えます。犬養くんにも先生とご相談してもらいましょう。」
花房さんは俺を見てそう言う。
しかし俺には先に聞いておきたい事がある。
「先生にお伝えする件は承りますが、1つお伺いしたい事があります。」
「何でしょう?」
通訳挟むとどうも話が進まない。この人たちは中国語か英語話せないのかな?
「国王陛下が政権を確かなものにしたいとお考えなのは理解しました。しかし実権をその手に持たれた後、陛下が目指す国造りとはどういう姿になるのでしょう?」
俺の質問にパクさんはスラスラと答える。
「陛下は強い国を望まれております。清国は異民族の国であり、中華の伝統を継承しておりません。我国は長きに渡って望まぬ冊封関係を強いられておりました。」
コレが儒教的思考ってやつか。清国への恨みが出発点となる国造りって....どっかで聞いた事あるよね。
「今多数派を占める事大党には、陛下は何の期待も持たれておりません。開化派と口で言いながら、やる事は清国への従属関係を深める事になるのです。奴らのやる事には何の理想もない!何の大義も無いのです!我々こそが中華の継承者であり、彼らに忠義を誓うなどあって良いことでは無い!」
怒りをあらわにするパクさん。しかし....それだけ?
「その後の政治体制はどのような物を目指していますか?」
俺がそう聞くとようやく意図が分かったようで、パクさんは慌てて言葉を続けた。
「それは勿論、立憲君主制を目指します。清国から独立した強く、豊かな国を作っていきたいのです。それには隣国の日本との協力が不可欠です。」
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「どう思ったね?まあ聞かなくても大体分かるけどね。」
彼らが帰った後、花房さんは俺に尋ねてきた。
「君は良い印象を持たなかったろうね。」
「そりゃそうでしょう?公使は頷いておられましたが、あれで日本に友好的な政権ができるとお思いですか?」
俺には到底そうは思えなかった。論理的に『自分たちが中華の継承者である』ところからスタートする改革など、終わりもロクなものにならないだろう。
「確かに今は頭を下げてきても、あのような『小中華思想』の人々が相手では、友好的関係を作るのは難しいね。」
なんだ分かってんじゃん。そりゃそうか、10年付き合ってんだもんね。
「それでも我々には朝鮮内に味方となる集団が必要だ。彼ら以外に適任者はいない。」
公使は腕組みしながら、自分を納得させるように言った。
やはりこの人も焦っているのだ。無為に過ごした泥沼の10年を、一発逆転できるキッカケが欲しいのだろう。
「福沢先生は朝鮮半島が日本国の安全に大きく影響するので、この国を強く協力的な独立国にするべきと主張されています。」
「その通りだ。日本国の基本的な考えと一致している。」
花房さんはそこに疑問を差し挟まない。
「ですが今の状況でそれが達成可能でしょうか?彼らの思想からすれば、日本も異民族の非文明国である事には変わりありません。無事独立体制を築いた後に、日本を敵視する事がないと言えるでしょうか?」
「まさかに日本国を敵視するような事は無いだろう。それは全く理屈に合わんじゃないか?」
公使はそんなはずがあるか、という顔をする。
「自分たちが中華の継承者だという考え方自体、相当無理のある理屈です。」
俺は軽く反論するが、それ以上は言わないでおいた。
事態の進展に焦りを感じている花房さんを、そう簡単に説得できるはずもない。
「君の懸念は理解できる。それでもコレは現在の日本国の方針でもある。清国から日本のお陰で独立できた朝鮮が、日本の敵に回るなど考える方が難しいだろう?」
ここは先ず聞いておこう。
それでもどこかの段階で、俺がブレーキかけれるような仕組みを.....となると、やっぱり積極参加するしか無いか。
「帰国後先生には間違えなくお伝えします。それから軍隊の訓練の件ですが。」
「そうそう、曽根くんには話を通してあるけどね。」
アジア向けの諜報機関である振亜社を、ここで絡ませるのは都合がいい。
俺も参画できるからね。
「それについてもお任せください。陸軍参謀局にも話を通します。」
「陸軍?いや、それは別に曽根くんからでも....。」
何言ってんのコイツと言わんばかりの花房さん。
「児玉さんとはよくお茶飲みにいきますし。別についでですから。」
「あ、....そう。」
呆気にとられた花房さん。陸軍と繋がってんのは外務省だけじゃないっすよ。
「それはそうと、此処も防衛体制を整えるべきですよ。」
「ん?この....居留地を?」
ちょっと飛躍してしまったか?でも1000人を超える自国民を守るには、此処の体制は酷いからね。
朝方ぐるっと回って見たが、此処のザルっぷりでは何も守れない。
「これから日本国が、多数派勢力を相手取って少数勢力に肩入れするわけでしょう?一番最初に危険に晒されるのは、此処の住民だと思うんです。それでなくても米の買い占めで、敵視されたりしてるわけですし。」
「うん、まあ、それはそうだが。」
俺が見た限り、近隣の住民たちが襲おうと思えば、此処は数時間で廃墟になる。
花房さんが地元民に同情があるのは結構だが、自国民を守らない役人は職務を果たしているとは言えない。
「此処の自治会の人達へ、周囲の壁を修理し防御体制を整えるよう進言します。」
「う、うん。」
「それから振亜社の人材を派遣してもらい、武器なんかも備蓄しておきましょう。」
「武器い?」
花房さん....自衛を考えましょうよ。
「朝鮮政府だけではありません。いざ農民一揆でも起これば、物資豊富なこの居留地が真っ先に狙われます。女性は犯され子供まで殺される。花房公使は10年のご努力を踏みにじられかねない。」
花房公使は顔面蒼白になって言葉を失っている。
しばらくそうやって俺を凝視していたが、やがて考えがまとまったのかポツリと言葉を吐く。
「そんな事が.....いや、覚悟せねばならないか。非主流派に協力するってことは。」
「そう、独立党を信じるかどうか以前に、自分の身を守る事を考えねばなりません。」
どうにか分かってもらえたようだね。
まあ武器は密輸入になっちゃうけど、人命には代えられない。
「うむ、君の言う通り。私の10年をかけたこの町を、朝鮮政府に荒らさせるわけにはいかん。」
どっちかって言うと現地民の方が怖いっすけどね。まあそれも追々説明しよう。
「それじゃ自治会の顔役にご挨拶を。」
「おお、そうだね。私も同行しよう。」
花房さんは勢いよく立ち上がった。
膠着状態が続いた10年を経て、動き出した朝鮮情勢が嬉しいらしい。
昨日の夜とは随分違って、活きいきとした様子だった。
「加賀屋の釜山支店長で、峯佐吉さんという人がいる。此処らじゃ親分格だから、こんな話なら先ずその人だね。」
「加賀屋?」
そうだねー、勿論そういう展開だよねー。
「知ってるのかい?」
「そりゃもう、そういう運命ですからね。」
朝鮮でも官憲でもかかってこいよ。
こうなったら全部に関わるしかないだろう。(泣)




