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2人の両班

朝鮮半島編、ご時世がら皆さまからヒートアップしたご感想頂いてます!


筆者極力フラットな目線で、史実から情報引きだす努力をしております。


時局はとりあえず置いて、小説としてお楽しみいただければ幸甚です。


まあお気持ちわかりますけどね( ´ ▽ ` )

翌日はよく晴れて気持ちのいい日和。


日本公使館の部屋からは、眼下に釜山港の様子が一望できる。

この早朝から荷下ろしをしている船が停泊している。多勢の人が荷を運び下ろし、その怒声や騒音が波音にまじって聴こえてくる。


海の向こうには幾つかの島影が見えた。

日本の島も見えているのだろうか。残念ながら歴史以上に地理が不得意な俺は、どの島が何かなどという知識がない。


公使館の皆さんは、すでに執務に当たっているという。

俺は寝すぎですね。すいません。

朝食は外で饅頭でも買ったらどうかと、家政婦のおばさんが勧めてくれた。


「トウキビのお焼きみたいんがある。美味しかよ〜。」

「居留地内で売ってるんですか?」

場所がよくわからないので、おばさんに色々と教えてもらう。


港湾労働者や居留地内の建築従事者のために、朝から行商に来る朝鮮人が多いらしい。


「居留地は出ちゃいかん決まりじゃけど、そげん堅いこと言う人もおらんたい。」

朝鮮人は出入り禁止じゃないって言うし、割とその辺アバウトなんすね。


俺は草履をつっかけ居留地の散策がてら、朝飯を買いに行くことにした。

あ.....でも俺金ねえし。何処かで両替しないと。


「大丈夫じゃき。日本のお金で何でも買えよる。」

そーなんですね。

親切なおばさんは玄関先まで来て、あれこれ表を指差し道を教えてくれた。

「現地民の集落へは近寄らんほうがよかよ。何されるか分からんけん!」



表へ出てみて改めて思うが、これは広い。

道を歩いていると、子供たちの一群とすれ違った。引率しているのはどうやら教育者のようだ。

学校らしき物もあるって事だね。


遠くの民家で女性が洗濯物を干しているのが見える。

俺はおばさんに教わった通り、港の方を目指して丘を下っていく。


すると大通りにぶつかったあたりで、多勢の人が何やら群がっているのが見えた。

台の上にクレープみたいなモノが並べられ、みなそれにキムチっぽい漬物を挟んで食っている。


俺も一つ貰うことにした。

お茶も付いて一銭払い、お釣りは現地通貨で返して貰う。価値がよく分からん.....。


分厚いクレープはトウモロコシを焼いた物のようだ。キムチもすごい美味い。


「美味いっすねこれ。」

職人風のオジサンに話しかけると、毎日これじゃから美味いとも思わんとの事。


満腹の俺はついでに居留地の入り口まで散歩。

昨日は気付かなかったが、門らしき物はあるけど門番はおらず。

そこから見渡す居留地の周囲は、簡単な壁に囲われているが所々崩れており、ほぼ壁の意味をなしていなかった。


人の出入りはすごく多い。

やっぱり住んでる人が1000人でも、港湾労働者を含めれば倍くらいの人がいるようだ。


「アンタ、ココらじゃみない顔やな。」


突然何やら旦那風の人が話しかけてきた。

「はい、昨日からやって来ました。公使館にお世話になってます。


「おや、お役人さんでしたか。えろう失礼しました。」

深々お辞儀をするダンナ。物腰が商人っぽい。

「米商いやっとります、加賀屋の佐吉と申します。どうぞよろしゅう。」


米問屋さんね。居留地のメインビジネスですよね。


「大蔵省秘書官の犬養です。」

俺もちゃんとお辞儀をする。


「おや....大蔵省の方が、釜山に何の御用であらします?」

少々疑り深い人のようだ。実は官憲から高飛びを....なんて言えませんね。

「何の用というほどの用はありません。後学のため居留地の見学をさせていただいてます。」


佐吉さんは眼に疑惑の色を滲ませながら、お時間あったら是非お立ち寄りをと言って去っていった。

米問屋さんは維新の変化の中で、最も割りを食った人々だ。

役人を毛嫌いしているのかもしれない。


俺はそのままふらりと散歩を続け、現地住民の居住地に立ち寄った。

オバちゃんの助言には従わなかったわけだ。申し訳ない。


集落の道は土が剥き出しになって、荷車の轍が出来ている。雨でも降れば泥道になるのだろう。

現地の人は道端に座り込んだり、寝転がっている人が多い。

栄養状態が悪そうだ。


俺は前世で見た、内戦の国々を思い出した。

アレと違うのはこの人々が、恐らく生まれてからずっとこの状態で暮らしているのだろうということ。

内戦の土地で見た避難民たちは、それでも生きる気力を感じさせた。

この人々にはそれが無い。


住まいは竹を編んだものに、恐らく泥を塗って壁としているようだ。

柿渋を塗ったような布が屋根代わりにかけてある。


俺が西南戦争時に取材先で雨を凌いだ掘建て小屋でも、これに比べれば貴族の暮らしのように見えるだろう。


彼らの肌はどす黒く、衛生状態もお話にならないものに見えた。


コレはひどい。花房さんも怒るわ。


彼らの眼は虚で、俺に対する敵意こそ感じなかったが、それだけでなく何の感情も感じられなかった。

この人々が一度暴動を起こせば.....恐らく被害に遭うのは物資が豊富な日本人居留地だ。

彼らは慈悲もなく根こそぎ奪い尽くすだろう。


しばらく集落を歩き、荒れた田畑を見物し、汚物で汚れた川のようなモノの臭気に鼻をやられた。


ツラツラと考え事をしながら公使館へ戻ると、もう昼時になっていた。

さっき食べたばかりで腹も減っていない。


部屋に戻って福沢先生と綾さんに手紙でも書こうと思った矢先、さっきのオバちゃんが俺を見つけて来客だと言った。


「朝鮮人のお役人が来とるよ。」

恐らく独立党の人だろう。早いな。


公使館の別室で待っているという。

俺がそこへ入ると、朝鮮風の仰々しい服を着込んだ男性が2人、通訳を通して花房さんと談話中だった。


「おお、やっと帰ったか。」

花房公使はにこやかに言う。


「失礼しました。お待たせしたようで。」

俺が簡単に詫びを言うと、男の1人は手を振って気さくに言った。


「ダイジョブ、ダイジョブ。」

人懐っこい笑顔の青年。歳は俺と同じくらいかな。背は割と大きい。


「ワタシタチ、イマキタ。」

もう1人の男も片言で言う。日本語勉強しているのは友好の証なんだろう。


コチラは小柄だ。ナマズのようなヒゲが変過ぎる。


「彼らが独立党の指導者だ。朴永孝(パクヨンヒョ)くんと金玉均(キムオッキュン)くん。」

「犬養毅と申します。」

通訳を通してご挨拶。


「花房公使よりそのご高名を常々おうかがいしております。この度は私どもの派遣した者を、ご面倒見ていただき誠に感謝に耐えません。」

通訳さんも随分と丁寧。


「あのような者に大層御親切にしていただきましたそうで.....本人も大変感激しておりました。」


()()()()()()?なんか奇妙なほどへりくだった言い方するね。

確かにアヤシさ満点のオッサンだけどもね。


「それで....今日はドンインはご一緒では無いんですか?」

確か昨日連れてくるって言ってたよな?


するとナマズの(パク)がフッと小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「あのような卑しい男は、公使館のような重要な場所へ立ち入る資格がありません。」


へ?イヤでも日本に派遣した仲間でしょ?


「アレは仲間などではありません!密行するとなれば生命の危険もあるという配慮から、死んでも惜しく無いものを選んだまで。」


あ?今....何つったコイツ。


「全く賤民の分際で増長したもの。陛下に報告するなどと寝言を申しておりました。今頃鞭打ちで反省しておるでしょう。」

背の高い(キム)も爽やかにドギツイ事を言う。


「イヤ....ちょっと待ってもらっていいかな。」


俺は冷静になろうとした。このまま話を続けるのが、困難なように思えたのだ。


「花房さん、この人たちは.....。」

俺は公使へ状況を確認しようとした。


花房さんは頷いている。

「犬養くん、気持ちは分かる。私も同じ気分だ。」


ギロリと2人を睨みつけ、花房さんは言葉を続ける。

「しかしココで躓いていると話が先に進まない。コレは10年彼らと付き合ってきた、私からの助言だ。気持ちを抑えて話を続けたまえ。」


「分かりました。」

俺は公使の助言を素直に聞くことにした。

事は花房公使の職務に影響する事であり、福沢先生のご用件にも関わる事だ。


冷静に行こう。感情的になってはいかん。


しかし俺の兄弟を侮辱して鞭打ちにしたって件は、いずれオトシマエ付けてやるからなテメエら。



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― 新着の感想 ―
[一言] 金玉出てきて割と感動しました、自分が世界史で学んだ人物が出てくるとマジで感動します
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