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急進派の面々

愛国社をはじめとした民権団体の大阪拠点は、北浜のいくつかの地域に点在している。


新政府が旧藩の借金を棒引きにさせた事で、多くの金融業者が倒産した。

そんな事情が、大阪の貸金業界を反政府の色に染め上げたともいわれる。


我々の新しい新聞社『大阪自由日報』は、阿倍野界隈に社を構えた。


土佐派とは明確に一線引きたいと思っていたのが理由の1つ。

さらに言えば、宮崎がなぜか阿倍野に土地を持っていた.....というより、土地付きの未亡人と懇ろになっていた。


結果としてこの社屋を格安で調達できたというわけだ。

いつもは悩まされるヤツの手癖の悪さだが、コレには素直に感謝した。


本人は感謝された事に複雑な気分だったようだが。


こうして大阪自由日報は、愛国社反土佐派の機関新聞として順調に滑り出した。

当初2000部から始めた発行部数も、今では30000部へと飛躍した。地方からの購読希望には、まだまだ応え切れていない。


信じられない成果だ。


一昨年の暮れに築地精養軒で福沢先生に散々説教され、その後犬養くん、箕浦くんと共に軍部高官糾弾のキャンペーンを行った。

地方は燃え上がり、そして私は監倉行きとなった。


アレからわずか1年。大阪で新聞発行に挑戦し、箕浦くんと共に見事やり遂げている。

この間に起きた全てのことが、およそ普通の事じゃない。


宮崎は福島の義挙に参加、というより扇動したような形跡もあるが、ともあれ主犯格の河野広中と共に生きる伝説となってしまった。

この間に我が社の主筆である箕浦くんは、情報源を独占するため現地入りし、記事を書きまくって大反響を得た。部数が10倍に伸びたのは、この事があったおかげと言っていい。


何しろ主犯格が全員身内の地方蜂起だ。

面白く書けないはずがなかった。


「犬養の奴、遅いですね。」

箕浦くんがジリジリした様子で言う。1年ぶりの再会、それほど久しく会ってないわけじゃない。


しかし私にも彼の気持ちが分かる。

この1年間の密度の違い。


お互いの近況を分かち合いたかった。喜び合いたかった。

船を遠くに見ながら、友がやって来るのを待つ。


「あの便に乗っているのは間違いないんだ。ゆっくり待とうじゃないか。」

私はそう言って、紙巻きタバコを一本差し出す。

箕浦くんは受け取って口に咬え、港特有の風の中で消えぬよう、慎重にマッチを擦った。


2人並んで紙巻きを吸いつつ、遠くから続く人の列を眺めていた。

初夏の青空と海の交差する手前を、次第に近づいて来る旅行者たち。


一段の中に友の姿を見とめる。


「マサアキさん、来ましたよ!見えます?」

はしゃぐ箕浦くんの声に、私は破顔した。


「ああ、見えるよ。」


おお〜い!イヌカイ!と叫ぶ箕浦くん。

友も気付いた様子で、遠くから手を振り返す。


しかし.....横にいる怪しい僧侶は何だ?


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「彼は上海から来た僧侶で、李東仁(リドンレン)といいます。曽根少佐の諜報戦略に協力してくれています。」


つまりスパイという事か。


俺とマサアキさんは、犬養の連れてきた胡散臭い坊さんを紹介してもらう。


「ニホンゴスコシネ。ヨロシク。」


ニヤッと笑うと前歯の欠けた歯並びが露わになる。

だが別段不快な感じはしない。


我々は自己紹介を済ますと、馬車の方へと歩き出した。


「元気そうだ。収監中は支障なかったか?」

俺が聞くと、犬養は笑顔で答える。


「まるで西洋のホテルみたいだった。あんなに結構な場所ならまた行ってもいい。」


俺たちは声を上げて笑う。全く冗談のきつい男だ。


「カツンドの記事は獄中よく読んでいた。いい文章書いているな。」

真っ直ぐに褒められ、俺は甚だ照れる。


馬車は俺たちを乗せ、市内へ向けて動き出す。コンクリートに蹄の音が小気味よく響いた。


「早速だけど土佐派の現状について、簡単に教えてもらえますか。」

犬養はそう聞いてきた。


ガタガタ揺れる車内は喋りにくい。マサアキさんはゆっくりと喋り始める。


「今年に入ってからだろうか。宮崎たち福島義挙参加者が、夏前に釈放されるという噂が流れたんだ。その頃から土佐派の活動は活発になってきた。」


そう、犬養もまだ監倉に入ってた頃だ。


「何と言っても福島義挙で英雄となってしまった河野広中、そして以前から反土佐派の組織を作り上げ、愛国社を乗っ取った宮崎八郎、この2人が出て来る前に、土佐派を中心とした結党をしなければならない。彼らの意見はそこで一致している。」


マサアキさんは続けて言った。


「早ければ5月の終わりに、愛国社全国大会が決行されるだろう。このままいけば、板垣退助と後藤象二郎、もしくは中島信行の支配体制が確立する。」


「土佐派の勢力は今のところどれ位なんでしょうか?」

犬養は質問する。


「全国の愛国社党員1万8千名のうち、明確に土佐派と言い切れるのは4千程度だろう。」

マサアキさんは説明する。

「ただし反土佐派と言い切れるのも同じ位の数字しかない。残りの1万名は浮動票と言っていい。」


そんなところだ。

「ソレでも俺たちの読者を忘れちゃいけませんよ。」

俺も話に入って指摘する。


「そうだな。党員ではないが、大きな支持層予備軍だ。」

マサアキさんも頷く。

「結党大会に向けて、紙上で党員キャンペーンをやってもいいだろうね。今までそんな事やったことも無いのだから。」


「うちの購読者3万名のうち、すでに党員になっている層も多いと思うんです。だから反土佐派のキャンペーンやるだけでもかなり違います。」

俺は確信を持って言った。


馬車は大阪自由日報社へと到着し、俺たちは馬車をゾロゾロと降りる。

初めて訪れる2人は、新社屋を前に唖然とした表情だった。


「カツンドこれ...すっごい立派だなぁ。」

犬養も驚いた様子だ。広いだけの報知の社屋と違い、洗練された建物でもある。


ハチローさんのおかげであるが、そんな事を喋るつもりも無い。


我々は2階奥の社主の執務室へと入る。

そこにはすでに、数名の仲間たちがいた。


「みんな待たせて済まない。コチラが()()犬養毅くん、お隣が李東仁さん、どちらも我々の味方だ。」


おお〜と数名の歓声が上がる。


「田代栄助です。お名前はよく存じてます。」

「柴田浅五郎と申します。」

丁寧に2人が挨拶する。


「末広重恭です。」

「大井憲太郎だ。ヨロシク。」


チョット挑発的な2人。

まあそれぞれの立ち位置は、そのまま挨拶の様子に反映されている。

犬養にも分かり易かったろう。


「今日集まってもらったのは、我々愛国社反土佐派が今後の結党の流れの中で、どういう動きをすべきかを相談したかったのだ。それぞれ少なくない派閥の首領が集まったと思う。」


「ソイツらは何の関係もなくないか?」

大井さんがマサアキさんの言葉を遮るように言う。


「有名人なのは違いない。だが愛国社系の組織にすら入ってない男だろ?なぜここにいるんだ?」


「彼らはもちろん愛国社系ではない。」

マサアキさんが言う。

「犬養くんは大蔵卿大隈重信の下で働いている。今後独自に政党設立も考えているが....今日は我々との連携の可能性を話に来られた。」


「なんだって?」

末広さんが驚いて叫ぶ。

「ソイツは素晴らしい!」

田代さんは喜びで顔を輝かせる。


言うなれば4者4様、それぞれの思惑で反応も違うと言うことか。


「大隈重信が立つか...悪くないミコシだが。」

大井さんも頷き呟く。

「俺たちと歩調を合わせて行けるのか?板垣の野郎みたいに、『政府の役職大スキ』なことにならねえ保証は?」


そんな心配は.....俺が発言しようとしたとき、犬養が立ち上がって発言する。


「すいません、ご紹介いただいた犬養です。」

そして一同を見渡して話を続ける。


「少々議論が先走ってしまった様です。もちろん大隈卿は皆さんとの連携も可能性に入れてますが、ソレ以前に大井さんが言われる通り、『一緒にやって行けるかどうか』こそが大事。」


コレには誰も異論がなく、皆一様に頷いている。


「我らが党首となる大隈の方針は6つ、1つに皇国と国民の発展、産業振興、地方自治、普通選挙、不平等条約改正、通貨制度改善。」


コレにも反対者は出ない。というより出しようがないかな。


こんなに簡潔に主張をまとめるなんて、誰もやっていないのだ。

皆声を張り上げるのが議論、というだけの壮士である。


「さりとてこの様な項目、どなたの意見もたいして違いはありますまい。」


演者はササッと見得を切るかのよう。

慶應義塾で弁論大会をしたときに、犬養のコレは有名だった。


「我らが他と異なるのは、物事を議論によってのみ解決するという一点にございます。したがって実力行使、武力蜂起などは、党の理想と反する物とお考えください。」


コレには満場、納得いかぬ雰囲気で満たされた。


()()犬養毅がどの口でそんな事を言う?

お前こそ実力行使・強行突破の大策士ではないか!


マサアキさんの口も大きく開かれていた。

急進派揃いの愛国社反土佐派の前で、実力行使は認めないと言う。その狙いは何か?


福島義挙の英雄たちは実力行使をしたからこそ、その果実を得たのではないか?


コレはひと荒れ起きそうだ。俺は大荒れの議論を覚悟した。


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