輪廻はめぐる
夕方出したと思ったら.....
まさかの深夜投稿!
遊んでるわけじゃありません。必死で書いてます( ;∀;)
昼はソコらのうどん屋で済ませ、大蔵省に戻ると矢野さんは少し元気を取り戻していた。
「犬養よ、昨日は....どうだった?」
「すいません、すっかりご馳走になってしまいました。」
ご不満そうな矢野さん。
「オマエまさか.....私をワナにかけたんじゃあるまいな?」
「当然100%善意でしたことです。裏目に出てしまい申し訳ありません。」
大隈卿の反応なんて予想できる訳ないじゃん。
矢野さんは大きくため息をつく。
「大隈卿のご機嫌は極めて良かった。それに疑いはないが、ソレにしても良過ぎてしまった。」
まあまあその辺で。いいじゃないすか上司と共通の話題ができるなんて。羨ましくないけど。
「ソレより先ほど大隈卿にもご報告したのですが。」
俺は少し小声になって言う。
「愛国社の動きが大阪で活発になってます。反土佐派に接触してこようと思います。」
矢野さんも顔を険しくする。
「大阪へ行くのか?実家から戻ったばかりでご苦労だな。」
「長くはなりません。週末には戻れると思います。」
俺は移動することを苦にしない。前世でもずっと、生きる事とはすなわち移動する事だった。
「来週には戻らないと。先ほども警保局の白根さんにお約束して来ましたから。」
「白根専一か?内務省の?」
矢野さんはその名に反応する。
「そうです。あの方も慶應義塾卒業なんですってね。」
「白根と何か約束を?」
矢野さんは何か引っかかるらしい。
「ええ、清浦警保局長殿が、今後の組織拡充に向けた予算について話したいと。」
「そうか....予算。まあそんな事だろうね。」
何やら考え深げな矢野さん。
「何か気になる事でもありますか?」
そう尋ねる俺に、矢野さんはかぶりを振る。
「何でもないんだ。久々に聞いた名前だったからな。」
多分歳も近いから、よく知った人なのだろう。見た目も性格も大分違うが。
俺は矢野さんの薄めヘッドを見ながらそう思った。
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大阪への船は抑えることが出来たので、俺は書生くんに三田までひとっ走りしてもらい、ドンインへ迎えに行く事を伝える。三田にいなきゃ京橋にいるはず、とは言い聞かせておく。
さらに電信局に行き、明後日お伺いする旨をマサアキさんへ。
大隈卿に馬車を用立てていただき、三田経由横浜行きだ。
三田に到着すると、ソコにはお俊ちゃんと遊ぶドンインがいた。
ドンインは目隠しをして、近所の子とお俊ちゃんに追いかけられている。
何だこの遊び?しかし驚いた事に、見えないはずのドンインは、クルクルと器用に子供たちの突進を避けている。
「ミナノモノ!オレツカマエル、ひゃくネンハヤイ!」
歓声を上げる子供たち。しかし何言ってんだオマエ。
どうやらドンインを捕まえるだけの遊びの様だ。
「オイ!ドンイン!迎えにきたぞ!」
俺が遊びを中断しに来たと知り、お子様たちからはブーイング。
「ツヨぽんダメなの!ドンインもっと遊ぶの!」
お俊ちゃん、オレ....久々に会ったのに?泣いていいですか?
俺たちは逃げる様に馬車で脱出。
「オマエ子供に大人気だな。ちゃんとお別れして来たのか?」
「ソンナコトデキナイ....サミシスギ。」
イカツイ顔の怪僧が涙ぐんでいるのは、単に不気味なものである。子供好きだったんだね。
「しかしさっきの遊び何だ?オマエ目隠ししてたけど、実は見えてるってやつか。」
目隠しの素材がうっすいとかな。子供ならあっさり騙せそうだ。
「オレ、ジブンノみらいミエナイ。デモキケンチカヅク、ワカル。」
ああ、それも予知能力なんだ。
「ダカラ、オマエシンパイしすぎ。オレ、ツカマラナイ。」
「そういう事か。けどオマエ、こないだ曽根さんに捕まってたじゃねーか。」
「ア、アレはソネにメンツアゲタ。ワカッテタ。」
なんかムキになってやがる。捕まるときは捕まるって事だろ、負け惜しみ言うな。
馬車の椅子は硬かったが、2人で座る分にはゆったりしている。
横浜までは長い。のんびり行こう。
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夜発の汽船には充分間に合った。
俺たちは角度のキツいタラップを登り、船室へと入る。
ドンインには福沢先生が外務省へ手を回し、中国人僧侶としての身分証明をゲットしている。
こういう所で、ムダに権力を濫用する偉人。ソコにはしびれません。
早速食堂へ。前回発見したのだが、此処には何故かカレーがある!
「ウマッ!ウマッ!」
ドンインがめちゃがっついている。
本当に美味しい。懐かしくて涙出る。
「コンナウマイノ、クニニナイ。」
「そだろ?そだろ?いっぱい食っとけ。」
既に2皿目のドンイン。
『オレの国では、両班以外はビンボな生活してる。日本はイイ。』
突然中国語で喋り出した。コイツは元々中国語がそこそこ喋れる。
日本語で喋るより語彙が豊富だ。
『日本だってまだまだ貧しい国だ。列強に比べればな。』
『ソリャそう、デモオレたちよりマシ。』
ドンインは悲しそうに言った。
『福沢先生ガ言った。教育コソ大事だと。ソノ通り。』
彼はスプーンを握りしめる。
『オレ帰ったらコノ素晴らしい話スル。ビンボ人勉強デキナイおかしい。陛下にお願いして国変えてモラウ。』
俺たちは少しビールを飲んだ。
『オマエの国の事少し教えてくれ。開化派ってどれくらいの勢力なんだ?』
『開化派1つじゃない。清国派を事大党と呼んデル。オレたち独立党。』
ドンインの話から俺が理解した所で言うと.....これまで国政を支配していた大院君、彼はバリバリ鎖国主義者。
そして大院君を追い出し、親政を勝ち取った現国王とその妃一族の閔氏、これらは開化派であるらしい。
その中では清国寄りな勢力があり、やや多数である様だ。
列強に頼ろうとする彼ら、イギリスに無視され仕方なく日本にたよってきたのだが、コレがドンインも所属する独立党、勢力はつけているが数は多くない。しかし今のところ事大党と対立しているわけではなく、意見の相違がある程度だそうだ。
『清国に頼るって、今までもズッと属国だったろ?』
『冊封と属国はチガウ!冊封は自主ミトメル!明とはソウダった!』
ハイハイ、違いはわかんないけど、当事者が言うならそうかもな。
そう言えばコイツ酒飲んでイイのか?今更なんだけど僧侶なのにさ。
と思った瞬間、俺はある事を思い出した。
以前確かコワシさんが言っていた、俺の転生に関わる仏教的な言葉。
『なあドンイン、オマエ逆輪廻って聞いた事ある?』
『ギャクリンネ?何それウマイ?』
スッカリ芸風が身についたドンイン。帰ったら人気者だな。
『食いもんじゃない。仏教の教えであるだろ?死んだらその人生の徳によって、動物に生まれ変わったりするヤツ。』
『ああ、※〆£¥@*€。』
突然ハングルが出て来たらしく、俺には聞き取れない。
『それが逆に進んで、過去に生まれ変わるって言うこと。逆輪廻。』
『オマエ....ソレ、つまりオマエのコトカ?』
まあ分かるよな。俺の不思議な未来記憶をサンザン見てたわけだし。
『友と思ってくれるなら、他言無用に頼む。俺は前世の記憶がかなりある。しかもそれは未来のことだ。』
『ソンナコトガ!』
ドンインはかなり驚いていた。そりゃソウか。
しかし同時に納得もいった様で、仕切りに頷いていた。
『オマエの記憶ハッキリしてるの、それが原因。アノ恐ろしげな機械、ミライノものか。』
そうしてビールグラスを掲げる。
『オマエのヒミツ、ダレにも言わない。オマエオレの兄弟。』
グイッとグラスを乾した。イヤだからオマエ僧侶じゃない?飲んでイイのか?
そして又しても俺にはブキミな兄弟が。
『オレもこのチカラで、ガキのころからイジメられた。バケモノいわれた。坊主なるしかイキル道なかった。』
泣きながらビールを飲む僧侶。
『オマエの苦労ワカル。オレがオマエ助ける。』
俺は何となくバンバンとドンインの背中を叩いた。
慰められているのは俺の方だが、泣いているのはヤツの方だ。マッタク。
『逆リンネ、俺知らない。デモ仏教の教えで考えれば、それジゴク。』
へ?何を突然おっしゃるドン吉さん。
『リンネはそもそも、煩悩によるクルシミ連鎖。タチキルは煩悩ステル。コレ解脱。』
うーんとそうですね。何となく分かる。
生まれ変わること自体が前世の業で決まる、欲望と苦しみの連鎖な訳だ。
仏教の救済は解脱にある。輪廻の連鎖を断ち切る事なわけだ。
『そのリンネ逆転する.....ソンナ恐ろしコト、ジゴク以外ない。仏教でカンガエる、それ最悪のこと。』
なるほど...輪廻自体が苦しみであるのに、それが逆転するなんて。
『オマエ、ヨホド強い業をセオッテル。ダカラリンネ逆転した。ソウとしか思えない。』
『まあまあ落ち着け。俺に起きた事が輪廻に基づく事とは限らない。』
全く俺のことでナゼ他人をなだめなきゃならんのか。
それでもグチグチ言うドンインを、船室まで連れて帰った。
ベッドに寝そべった俺は、今のドンインの話を考える。
あくまで仏教的見地に立っての話だが、俺は転生したっていうより、前世に遡った可能性もあるという事だ。
つまり前世は前世でなく、今のこれが俺の前世だったと......ややこしいわ!
簡単に言えば、俺は元々犬養毅だった。
転生したのではなく、前世に戻ったんだ。
そんな事って.....いや無いだろうな。でもあんのかな?
頭が過熱している。チョット眠れそうになかった。




