揺るぎ無き正義
久々に夕方投稿です。
いや〜ようやく話が進みそう!
内政が苦手なのはナイショ♪(´ε` )
朝起きると東仁がいる。
そんな生活にももう....イヤ慣れるわけねえだろ。
「なぜいる?」
「ニワからマワリコンダ。」
それは泥棒。
とりあえず喚くドンインを廊下へ追い出し、俺は着替えを済ませる。
朝飯を準備しようと廊下へ出ると、ソコにはふてくされた様子の朝鮮人が。
「お前も朝飯食うか?」
「クウ。」
そろそろ僧服でウロつくのはやめろ。
枕元にいるだけで悪霊が来たと思った。
しかしコイツは、同宿の仲間たちと既に顔馴染みである。
「おおドンイン!久しぶり!」
「ドン吉!また占いやれや。」
「ハイハイ、ダマッテスワレ、ピタリあたる。」
生意気に対応がおざなりになってる。
俺たちは飯炊き係が炊いてくれた白米に、俺の拠出品であるメザシ、野菜タップリ味噌汁という、豪華な朝飯を満喫した。
「今日は何だってこんな朝早くに来た?」
「オマエがオオサカニイク。オレモイク。」
何だそりゃ行かねえよ。いや、用がないわけじゃないが。
炊き立ての白米を、塩辛いメザシと一緒に頬張る。
流し込む味噌汁は誰かの拠出品の白味噌。コレまた誰かご提供の鰹節が効いている。
ホウレン草とダイコン、揚げの味噌汁、完璧。
「俺が大阪に行く未来が見えたか。」
「ミエタ。オオサカいくスコシアブナイ。」
大阪行きが危ない?
前歯の欠けた謎の僧侶が、庭から自由に入ってくる部屋の方が危ないと思うが。
「近くにいないヤツの未来まで見えるのか?いつもと違わない?」
「オレニモよくワカラン。オマエのコト、ヨクミエル。」
すごい嫌なんだが。まあコイツが親切から言ってくれてるのは分かるが。でも嫌なんだが!
「んで、具体的に何が危ないって?」
「ソンナコトはシラン。」
帰れ。
「オレコウベイク。ソコから、チョソンカエル。」
ええ?
「マエニいった、オレ国王ヘイカアウ。」
「おお、その段取り決まったか。良かったじゃねえか!」
東京の滞在は一月ぐらいだったか。
短い間だったが、インパクトありすぎて長い時間に感じられる。
「オマエオオサカいく。オレもイッショニイク。キケンおきそうなトキ、マモッテヤル。」
俺はなんか不気味な人に親切にされる運命なのだろうか。
でもコイツが良いヤツなのは、短い付き合いで分かってきた。
友情というには奇妙すぎるけども。
「サミシクなるナ....。」
イヤならねえ、事もないか。ちょっとな。
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流石にドンインは霞ヶ関に連れていけん。密航者だからな、一応。
1人で返すのもアレなので....まあいつも勝手に出歩いてはいるが、一応京橋に使いを出し、曽根さんに所在を伝えておく。
「迎えが来るまで勝手なマネすんなよ?」
「ワカッテル。でもオマエシンパイシスギ。オレ、ヒトにはアワナイデうごケル」
相変わらず何言ってるのかよく分からん。
だがこの意味不明なやり取りも、もうすぐ出来なくなると思えば腹も立たない。
大蔵省に着くと、俺宛にいくつかメッセージが。
1つは内務省警保局から。書記官がご相談ありとの事。
さらに他の省からもいくつかメッセージ、でも緊急の要件はない。
そして....大阪のマサアキさんから返信。
しばらくその文面を見つめる。
コレは行った方がいいか?ドンインはああ言っていたが、アイツの予言もおみくじみたいなもんだしなぁ。
そもそも一緒に行くつもりになってたってコトは、俺が大阪に行かない未来は多分無いわけだ。
統計局を覗くと、矢野さんがデスクに突っ伏しているのが見えた。
「矢野さん、ご無事ですか?」
昨日の夜は結局帰ってこず、一緒に食事は出来なかった。
どうやら追加の計画作成で夜を徹したようだ。
「いーヌーかーいー。」
顔を上げないが返事はある。
「昨夜はお疲れさまでした。ご首尾はいかがでしたか?」
まだ顔を上げないが、指差した先には書類の山がある。
ナニナニ....公明正大党、明治御一新党、渾身一撃党?何コレ?
「おおくまきょーが、止まらんかった.....。」
ああ、党名考えてて夜が明けたって事?
そこまで喜んでもらえて良かったじゃ....ないか。
てコトは、大隈卿も徹夜でお残りって事ですね。
お大事にと義兄を残し、俺は大隈卿の執務室へ。
「閣下、失礼いたします。」
生きてますか?
「おお犬養くん!いや昨日は矢野くんと、党名について語り合って大いに盛り上がったんである!」
元気じゃないすか....やっぱ常人とはエネルギーが違うんでしょうね。
「お疲れさまでした。良い名が見つかりましたか?」
「ウム、こういうのはどうであるか?」
『大日本一番党』『真実邁進党』『立憲正義党』......。
「.......結構なお手前です。」
「一切心がこもっておらん感想であるな。」
ソレは仕方ないでしょ、ネタかと思いました。
俺のシオ反応を見ても、大隈卿のご機嫌が崩れるコトはなかった。
徹夜ハイでもキテルのかもしれない。
「まだまだ考えるんである。コレは非常に楽しい!我が子の名前より気合が入るんである!」
程々にお願いします。
「それより閣下、大阪から少し気になる情報が。」
「うん?おお、聞こう。」
いつもの様に大隈卿はソファに座り、お気に入りの葉巻を取り出す。
テーブルに置いてあるハサミで吸口を切ると、ゆっくり時間をかけて火を付けた。
「やはり土佐派は結党を急いでいます。恐らく来月にも結成大会が開かれるとのこと。」
「早いな...それで、反土佐派はどう動くか?我々と同調する可能性はあるんであるか?」
「そこはまだ未確認です。電報のやり取りも限界があるので、私しばらく大阪へ行ってきてよろしいでしょうか?」
テレビ会議とか出来た時代が懐かしい。
当時は戦場での環境確保とか苦痛でしかなかったが、今にして思えばアレほど便利なもんない。
「是非そうして欲しいんである!何なら今すぐ行って良い!」
ヤッパそうですよね。
コレで不本意ながらドンインの予言は現実となった。
というコトは、もう一つの予言も?
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午前中に緊急の様は済ませようと、警保局へ立ち寄る。
「書記官の白根さんはご在席ですか?」
別に呼び出された訳ではないが、今日大阪へ発つとすれば、早めに用件を済ませたい。
「これはワザワザ申し訳ない、書記官の白根です。」
白根専一さんは俺より少し年上といったところ。30歳位だろうか。
警察っぽくない爽やかさん。
イヤ警察の方が不潔だと言っている訳ではないですよ。
何というか.....この爽やかさ、もしかして?
「私も慶應義塾卒業でね。皆から犬養くんの噂は聞いてますよ。」
やはり....隠しきれない慶應ボーイ臭が!
「お呼びたてしたみたいで申し訳ない。局長がちょっと犬養さんに、今後のご都合をうかがえと。」
「私の予定ですか?」
警察からマークされちゃいました?まあ既にお世話になりましたけどね。
「うん、予算は既に通していただいた訳だけれど、残念ながら内務省は予算を削られる方向にある。」
白根さんはチラリと俺を見ながら言う。
「警保局としては皇都東京はもちろん、地方の治安強化を進めていこうとしている矢先のことだ。何せこないだの福島事件では、警保局が無能だと世間に叩かれているのでね。」
うーん、いろんな意味で俺が悪かったのでしょうか....。
予算削ったのも、あの事件の責任の一端も俺にある....のは知りませんよね。
「もちろん必要な予算まで削る意図なんかありませんよ。」
他省と重複していた部分を調整したまでの事なんだけど。
「警保局長の清浦は、とても心配していてね。是非一度話をしたいって言うんだ。」
「直接ご説明いただけるのでしたら、いつでも参上します。ただ今日午後から大阪へ出張する予定ですので、帰り次第ご連絡するということに....。」
すると白根さんは顔を明るくして言った。
「もちろんその後で構わないよ。今から大阪?大変だね?」
「はあ、ちょっと大隈卿のご用件で。」
政党設立のための打ち合わせです、何ていうと踏み込まれそうなのでスルー。
「分かりました。それでは連絡待つ事にしましょう。道中お気を付けて。」
「ありがとうございます。来週には連絡差し上げれると思います。」
そして俺は白根さんの爽やかなお見送りを受け、内務省を後にしたのだった。
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「大阪だと?何を企んでおる.......。」
警保局長の清浦奎吾殿は、禿頭をそっとさする。
表情が少なく、普段から感情を読みにくい方だ。
「大隈卿のご用件でと申しておりました。」
「フン、民権かぶれのお調子者が。」
機嫌が悪かったのか、と口をきいて初めてわかる。
先の福島蜂起によって関係者は処分を受け、警保局建て直しに指名されたのが清浦局長だ。
私も司法局から異動となってやって来た。
2人で強固な組織を作り上げよう、と着手した矢先の犬養毅秘書官登場であったのだ。
正義感が人一倍強い清浦局長は、この様な採用を見過ごすことができなかった。
「大隈重信という人は、どうにも信用できぬ。自身も三菱との癒着が盛んに取り沙汰されるほど、公人としての意識の低い男だ。」
人の悪口を言う時も局長は無表情だ。だがその表情の下に燃える正義の炎は、悪人を焼き殺してやまぬほどの激しさだろう。
「そもそもあの犬養という男、煽動的なビラをばら撒き、東京を混乱に陥れた張本人ではないか?過激派との付き合いも多いと、密偵から報告が上がって来ておる。」
「一方で軍部との付き合いも多いのです。軍からの要請で過激派と連絡を取っている可能性はあります。」
私は冷静ですよ、局長殿。
「調べてみればわかる事だ。それも逮捕して丁重にうかがうのが最も効率的である。」
サディスティックな話になると、時折こうやってニヤリと笑う。
推して知るべしだ。
「大阪といえば過激派の巣窟です。いずれ接触する目的があるのでしょう。」
私は何事でもない様に言った。自明のことだからだ。
「直ぐに密偵を3組体制でつける事にいたします。折を見て過激派ごと取り押さえれば、大隈卿からの横槍も躱せるでしょう。」
「よろしい。」
局長は呟く様に言って、椅子に沈み込む。
「思い知るといいのだ。内務省を糾弾し東京の治安を乱し、あまつさえ予算を削り取ってくるなど!放置しておける奴ではない。過激派などより明白に我々の敵ではないか!」
私には局長の考えがよく理解できた。
組織は生物である。過激派などはただの獲物に過ぎない。
攻撃を仕掛けてくる明確な敵とは全く異なるのだ。
「直ぐに手配して参ります。」
私は局長室を後にした。敵を排除するために。




