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政党設立と駆け引き

そんなこんなで俺の滞在は、あっという間に予定の1週間となり、明日には東京へ戻るって事に。


「いや〜兄弟!もう帰るのかー。寂しーのー。」

次郎は今日も俺の実家で.....お前家帰ってねえんじゃね?


「そんなに長いこと仕事せんわけにゃいかんからな。」

俺も寂しい気持ちはある。


次のお盆にでもまた帰ろうと思う。帰ってくる理由もできた。


「次郎もよろしく頼む。人集めは任せるしかない。」

「おお、そりゃあ任しとけー。なるべく賢そうな奴探しとく。」


新聞を作る話は大原さんの出資を基に、俺たちで少しずつ進めていく事にした。

人材、設備、物流なんかは地元に居なけりゃできない仕事だ。


「それでもやっぱり誰か、新聞のやり方知っとる人が必要じゃろ?」

「うーん、ソコは考えておく。」


勝人はマサアキさんに紹介しちったしな。

あと誰か適当な人がいるだろうか?


ガラリと障子を開けて、おっかあがビールを持ってきた。


「マッタク、次郎は帰らんでえーのか?アンタ嫁も子供も放ったらかしてー。」

おっかあが揶揄うようにそう言って、次郎にビールを注いでやる。


「オバさんそんな心配いりゃーせん。ワシは家から離れとる事の方が多かじゃけー。」


「何か毎日付き合わせて悪かったな。」

でも一緒にいてくれて心強かった。本当に嬉しかった。


「何をオメー水臭いこと言っとんじゃ。ワシら兄弟の間でそげえなこと言うもんじゃね。」


いい奴すぎる...。この後もコイツの友情に助けられてしまいそう。


「アンタら昔っから、ホンマの兄弟みたいじゃねー。」


「やめてくれ。オバさんが俺のおっかあなんて怖すぎる。」


「フッ、口が減らねえのもそっくりじゃ。」

おっかあのチョップに、次郎がビールを撒き散らし派手に吹っ飛ぶ。


武家の妻のはずだが....手が先に出るのが犬養家。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


翌朝、おっかあは庭先までだけ見送ると言った。


「港までダラダラ付いて行っても、みっともなく泣いたりするだけじゃ。ワシャそんなんは好かん。」


小ざっぱりしたおっかあの姿は、何というかこの人の生き方をそのまま表しているようだった。

俺が2歳の時に親父は死んで、ソコから女手一つで育ててくれたおっかあ。


仕送りは欠かすまい。


「またお盆にでも帰るから。」

「嫁さん早う連れてきーんしゃい。」


嬉しそうに笑うおっかあ。


「孫の顔もはよう見たい。」

「あまり先走るな。」


おっかあは俺たちが小さく見えなくなるまで、ずっと手を振って見送ってくれた。



そう、『俺たち』というのはもちろん次郎の事だ。


「お前帰れって!東京まで付いて来る気か?」

「何でそんな冷たい事言うんじゃ?港までっちゅーか、ワシもついでに神戸くらいまで....。」


帰れって。


散々ゴネて名残を惜しんだが、次郎とは港で別れた。

次もよろしく頼む、兄弟。


全く予期していなかったが、次に来る選挙っていう大イベントを強く意識した帰省になった。

地元に帰るって事が、全く違う意味を持ってきそう。


俺って政治家なんだな。いよいよ。


大蔵省勤めはいつまで続けるべきなんだろう?史実では明治14年政変があったけど、如何やらそれも起きなさそうだしな....。まあ油断はできないけどね。


大隈卿が伊藤卿と対立しなきゃいいんだよな?でも政変が起きないと、政党も作らんのかあの人?

こんな話しないもんな。如何やって切り出せばいいやら....。


神戸からまたも三菱の汽船で横浜へ。

この間俺が考えていたのは、政党設立の事だけだった。


ソコでふと気づく。板垣退助の動きは?


横浜に着くとすぐに電信局へ。

大阪のマサアキさんに電報を打つ。


新橋の駅に到着すると....歯抜けの僧侶がニタニタ笑って立っていた。


東仁(ドンイン)テメエ....1人か?1人なのか?」

「イヌカイ今日カエル。ワカッテタ。」


いやまあ....迎えに来てくれたのは分かるが。

ダメダロ1人でフラフラで歩いちゃあ!


「オレはダイジョウブ。コトバもかなりイケる。」


いけてねえって。前よりマシだが。


「そうじゃなくってさ、オマエ一応極秘で来日してんだろ?国の奴らにバレたらまずいだろう?」


「イヤもうバレテル。コナイダ閔氏の一族トモアッタ。」


え?それで問題ないのか?


「国デ開化派ガ、ガンバッテル。オレ高宗ニ、会えるコトニナッタ。」


そりゃあ....凄い変化だな。よく分からんが開化派勢力が勢い増してきたってことか。


「花房公使、トテモ協力的。日本カラノ援助、トテモ期待サレル。」


なるほどね。帰ったらその辺曽根さんにも聞いておくか。


そんな訳で、新橋駅から怪僧ドンインと仲良く帰宅。

コイツの目立つよなー、ミンナ見てるよ。せめて僧服じゃなく普通の服着るとかなかったの?


もうどーでもいいけど。


久しぶりに部屋に戻ると、またまたヒゲのおじさん。


「ドンイン!やはりここにおったか!勝手に外出するなとアレほど.....。」


一応気にはしてたんすね。


「曽根さん、それよりドンインに聞いたのですが、朝鮮でイロイロ変化があったとか?」


曽根さんはジタバタ逃げ出そうとするドンインを取り押さえている。

どうあっても連れて帰るつもりらしい。


ハゲに抱きつくヒゲ。見苦しい。

どうか俺の部屋以外でやってほしい。


「ウム、花房さんが頑張っておられる。日本の援助の下で、新式軍隊を教育する話が密かに進行中だ。このドンインも帰国後、高宗陛下へ日本視察の報告をする事になった。」


うーんそれは...こないだコワシさんが言ってたフラグじゃないっすか?

それが進行中という事は、この後壬午軍乱ってヤツも起きる。


それじゃ朝鮮への援助そのものをやめさせる、ってわけにもいかないな。大体そんな力俺にはないし。

待てよ、予算要求にそんな計画入ってないが?


外務省機密費ってヤツか。

ソコには踏み込めないかな....どうせ元老院の裁可は取ってあるんだろうし。

大隈卿に聞いてみよう。


ハゲとヒゲは喧嘩しながらも帰って行った。

是非2度と来ないでほしい。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


翌日出勤、すぐに大隈卿(ボス)にご挨拶。


「閣下、長いお休み頂戴し、誠にありがとうございました。」


「ウム、ご家族はお変わりなかったであるか?」


「はい、お陰さまで。無事に結婚の報告も済ませて参りました。」


大隈卿は笑顔で頷くと、ふと気付いたように言った。


「結婚と言えば仲人の件であるが....。」


オウ!ちょっと待ったソレはまだ早い!心の準備が!


「そ、そんなことよりかっか!アレでございます!」


「アレ?」


思わず口走ったが、話ならいくらでもある。


「はい、アレです。板垣退助殿のことで。」


突然大隈卿は顔色が曇る。好き嫌いのはっきりした人だ。


「あやつの話は出来る限りしたく無いんである。」


「そうはおっしゃいますが、あの方の動きは注目せざるを得ません。」


俺の進言に仕方なく頷く大隈卿。


「彼が何かしでかしたんであるか?」


「まだ何も噂は流れておらず、私も今、情報を集めておるところです。ソレでも既に国会設立は宣言され、あの方がジッとしているはずがありません。」


「フム、以前から愛国社の再結成やら、国会期成同盟などの動きは見せておったである。」


「福島県議会蜂起がある直前は、むしろ非土佐派の動きが活発になり、土佐派は非主流へと追いやられておりました。ですが.....。」


「なるほど、非土佐派が収監されておる今が好機。土佐派を中心とした政党を作って来るのは確実であるな。」


必ずそうなる。その時ハチローさんはどう動けばいいだろう?

そして俺は、大隈卿はどう動くべきか?


「うむ、ソロソロその辺りの話を進めねばならん、と思っていたところである。今日はちょうどよろしい。」

大隈卿はデスクから応接用のソファへ移動する。


俺にもかけるよう促すと、葉巻を取り出して火をつける。


「当然我輩も政党設立を考えておるんである。だがその前に憲法制定という大事がある。」

大隈卿はそう話し始めた。

期せずしてデリケートな.....この後の伊藤卿との対立がどうなるか、っていう話になった。


俺は聞き漏らすまいと緊張する。


だが一つ言いたい。仲人話はゴマカシきったと!




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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでいます。 繁体字全く気にならないので変わらず書いてほしいですね。新規読者開拓のためにもそんなことよりはペースの方が大事だと思いますよ。
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