地元の雄
なんかPVがすんごいと思ったら、日間の5位になってたんですね。
ポイント置いていただいた皆様、ブクマいただいた皆様、誠にありがとうございました。
こんな地味な話ですが、これからもコツコツ積み上げてまいります。
m(_ _)m
俺の歓迎会は、大袈裟でなく3日3晩続けられた。
結婚の報告までしちまったので、親戚中集まる、近所中集まる。
知り合いもそうでない奴も混ざって、エンドレスな大騒ぎとなってしまったのだ。
次郎は俺がでーれー出世した、なんて言っていたが、俺の消息は俺の手紙によって家族から地元へ、ささやかに流出していたに過ぎない。
地元の新聞はあるが瓦版に毛が生えた程度、オマケに実質県庁が運営している。
公正な報道なんていうものにはまだまだ遠い。
したがって全国区に有名になったと東京で言われている俺も、やっぱり全国ではさほど知られてないわけ。
まあそりゃそうだ。少し安心した。
じゃあ何でいろんな人がやって来るのかって言うと、東京じゃ今どーなっとるんじゃという事が知りたい。
つまりアレだ。土産話みたいなモンだ。娯楽が少ない時代なんだよ。
次郎も仕事は放っぽってフル参戦だ。
おかげであの人誰でしょ?って事が大幅に防げてうれしいが、仕事は大丈夫なのか次郎。
「ウチはアニキが国許仕切ってるんじゃ。ワシは荷運びしよる時に、表で商売しよる役回りじゃけん。」
よそに出張が多いって事か。この前船で遭ったのもその仕事帰りか。
「元々はウルシを卸とったんじゃが、長崎の外国商館が塗の器やらなにゃら、随分買うてくれるんじゃ。ワシも紀州や地元の漆器をまとめて買うて、長崎まで送っとるんじゃ。」
ん?長崎の?
「その外国商館なんて名前?」
「おお、グラバー商会っちいいよる。」
出たよグラバー商会。それジャーディン・マシソンの別名だろ。
そーか漆器!めちゃ売れ筋じゃんか!何で思いつかなかったんだ。
吉田のオヤジ......アイツワザと言わなかったな。って事はコレが1番儲かるに違いない。
ホント信用できねえわあの人。
まあ商売人から儲け話を聞き出そうとした俺が悪いって事だ。
「次郎よ。その商売、もっと利益を出す仕組みが作れるぞ。」
「む、うめー話なら乗せてもらう。」
「いいか、今外務省では日本の商品売込みって事をやっててな.....。」
俺初の地元利益誘導だ!まあ何処かでやる事になんだから、それがたまたま地元だったってだけさ。
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「ごめんください。」
玄関からやたらハキハキした声が聞こえたので、俺は戸を開けに立った。
生憎皆留守にしているが、この5日ほどでご近所さんにはほぼ挨拶を済ませている。
は?どちらさま?というパティーンはすでに無さそうだ。
ガラリと戸を引くと、其処にはなんと....いや知らねー人来ちゃったよ!
「初めまして。私倉敷から来ました大原孝四郎と申します。」
おおー、セーフ。ホントに知らない人だった。
「犬養毅です、どんなご用件で?」
「おお!あなたが!いきなりお会いできるとはついている。」
ニコニコとシブイ相好を崩す大原さん。
「いえ実はですね、私昨日港で商用がありまして、遅くまで仕事をしておりました。そこにいた玄馬さんとこのセガレが貴方の話を聞かせてくれましてね。」
次郎は今や俺のボディガード兼広報担当だ。
「大蔵省で働く幼馴染みが、儲かる話を聞かせてくれたってえらい自慢ぶりでした。詳しい話を聞いてみれば、そりゃあ大そう魅力的な商いだ。」
「どなたでもご参加いただけるよう取り計らいますよ。まあ立ち話も何ですから。」
俺は大原さんをお通しし、茶をお出しした。
「コレはどうも。いえ私は儲け話に乗っかろうなんて、思ったわけじゃあありません。漆器の取り扱いもしてませんしね。今この辺りじゃ玄馬さんのお取引が1番ですよ。」
どうやら兄弟は充分儲かってるんだね。要らぬ話だったかな?
「私がうかがったのは、その儲け話をする風変わりなお役人と、話をしてみたいと思ったからです。」
そう言ってさらに笑う大原さん。
それほど珍しいモノでもありません。未来から来たっていうだけで。
俺より20ほど上だろうか?シブイ男前の顔は日焼けしている様子もなく、港へ行っていたというが船関係の仕事では無さそう。
「面白いお話が出来るといいんですが。」
「私がお聞きしたいのは、私個人の事ではありません。この岡山という場所に、豊かさをもたらすためにはどうすればいいのか。そんな話を犬養さんとしてみたいと思ったんです。」
大原さんはズズッと茶を啜る。
「別に答えなんか出なくてもいい。ただ地方にいると見えないものは多い。貴方からそれを聞き出せれば私は充分満足です。」
つまるところこの人も、東京じゃどーなっとるんじゃ話が聞きたいって事だね。
でもやたらカッコいいなこの人。
この時代地方のために活躍する、郷土愛の強いこんな人も多いんだろうね。
「実に面白い趣向です。是非お時間潰していってください。」
俺は茶を追加するために、ヨイショと立ち上がった。
「私は手広く商いやらして貰ってますが、扱い多いのは綿ですね。」
ああ、それは...ちょっと大変ですね。
開国以来、日本には大量の綿糸と綿織物が輸入されるようになった。
工業化が進んだ外国製の糸は安く、太さも均一で糸として優れている。
「今は外国製品に押されっぱなしです。このままでは日本の綿花生産も危機に晒されます。」
「工部省では来年までの間に、綿紡績機を海外から購入する予定です。官営工場を設立しようとしています。」
「おお!やっぱりそんな動きが....。」
大原さんは今度は苦々しそうに頷く。
「この10年ほどの間に、商売の差が政府に近いかどうか、で決まる事が増えてるように思います。政商たちは言うに及ばず、そうでない者にとっても、情報が無い事で競争に負けてしまう。」
そうですよね...うん?コレってもしかして?
「大原さん、1つ検討していただきたい事が。」
俺は背筋を伸ばして話を切り出す。
「ほう。」
大原さんは自然体だ。
「私は大蔵官僚ですから、今のままでも情報という面であればご協力は出来ると思います。」
「うむ、私もそこに期待させていただきたい。」
「ですがこの先です。経済は恐らく公共工事が中心の時代になる。」
「こうきょうこうじ....ハテ?」
「簡単に言えば官費で建物や街道を作ることです。港や鉄道も建設される。ソコに漏れた地域は発展から取り残されてしまう。」
大原さんの顔色が変わる。まさにその事に危機感を持っていたのだろう。
「この後どうなります?」
「今は国の予算が元老院によって審議されています。コレが国会での審議に変わっていく。」
「国会....ですか。あの民権運動家たちがよく言う、札入れで議員を選ぶってやつですな。」
国会開設は国民の関心がとても高い、と新聞などでは書いてあるが、実際にはこんなもんである。
こんなに問題意識の高い人ですら、国会では何がされるかハッキリと知らないのだ。
「何と、あの札入れでそんな重要な事が決まってしまうとは!民権運動家は誰もそんな事言っておりゃーせん!」
大原さんがやや興奮気味に話す。
「ソコでご検討いただきたい。5年後には国会開設のため、第1回の札入れが行われます。」
投票って言うんですけどね。ココは大原さんに合わせよう。
「私はその札入れに名乗りを上げます。そのための下準備を今からしていきたい。」
立候補って言うんですけどね。
「なるほど....ソコで私は何をすれば?」
大原さんは完全に乗ってきている。この人は私利私欲って感じがしないのがいい。
本当に地域のために、っていう気持ちが溢れている。
「私は今後定期的に、国会の説明をしにやってきます。岡山で人を集めて、私の説明会を運営してください。」
「それは....官憲の取締りを受けたりしませんか?」
うーん、受けるね。ゼッタイ。
「大人数で実施するとそうなるかもしれません。近所でお茶を飲む感じでいいんです。10人20人くらいの人数で、茶飲み話をしましょう。まだまだ時間があるから、ゆっくり進めて大丈夫です。」
「なるほどなるほど。そして犬養さんが我々の代表になると。」
「人が集まってくれば、政党を作ってもいいと思います。複数人の代表を出す事だって可能なんです。」
大原さんは嬉しそうに頷いた。
「こういう話が聞きたかった。それにしても10人ずつは少なすぎませんか?」
「うーんしかし逮捕者が出たりするのは馬鹿馬鹿しいし....。新聞でも作りましょうか?」
名付けて林マサアキ戦法。幸い競争相手は県庁が出してるツマラン新聞しかないし。
ソコで大原さんポンと膝を叩く。
「それはいい!やってみましょう。」
この人かなりの資産家だな....。
新聞出版なんて話にひざポンで即答。動揺する気配すらない。
「私が出来るのは資金の提供ぐらいのもんです。貴方が地元のために働いてくれるなら、私はどんな協力も惜しみませんよ。」
「ありがとうございます!俺も出来る限り帰ってくるようにします!」
やった!後援会ゲット!帰ってきて良かったぜ!
しかしまた俺の時間が....イカン俺新婚さんなのに!要らんことしたかも!




