長引く内戦
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満こと当間満男の読みがズバリ的中した。
大変悔しいが。
薩軍は正面作戦を諦め、ゲリラ戦法に切り替えている。
熊本との境に防衛戦を張り、征討軍の薩摩・日向侵入を塞いでいた。
本拠地を人吉盆地に置くところまで当たっている。はいスゴイスゴイ。
そして優秀な記者である俺は、早くから郵便報知新聞で連載中の“戦地直報“にこの事を書いていた。
別に満男の予想を丸々パクったわけではない。
綿密に戦局を分析した結果だ!気まずい事は大声で言え!
『熊本城攻略に失敗した反乱軍は、薩摩防衛にその目的を切り替えた模様。またその士気は落ちておらず、九州には西郷を支持する声も多い。戦局は秋まで続きそうだ。』
ってな感じ。
政府御用新聞も多いため『官軍大勝利!終戦間近!』とやる奴がほとんどの中、当局に目を付けられない程度にやっていたつもりだが.....その記事の評判がスゴイらしい。
大津の郵便仮局に届いた、藤田茂吉さん(この人が俺の上司で主筆)からの手紙によれば、俺の評価は世間でウナギのぼり。人が3人集まれば、郵便報知の戦地直報が話に上らぬ日はなく、最も正しく戦局を伝えていると大人気!
お陰で報知の部数も過去最高に伸びている、らしい。
そこまで言われるとウソっぽいけどなあ。
でも他の記者が書く記事が、軍発表の報告のみになっているのは何となくワカル。
取材なんてしている人見た事ないしね。
それに比べれば、俺の記事が面白くて当たり前だ。給料上げたりしてくれないんだろうか。
そんな訳で官軍の戦果ははかばかしくないが、俺の取材は絶好調だった。
戦地でも俺の名前はかなり知られてきたらしく、『書くことと書かぬことを明確にする』約束のもとで取材が大幅に認められる様になったのだ。
これまで近づけなかったところにも、取材許可が下りる様になった。
俺の記事に書かれる事が、プラスになると判断された.....というか、取込んでプラスになる事を書かせようとしている感じかな。話によってはこういうのも役に立つ。
アリもしない事を書かせようとするのは論外だが、幸いそんな要求は出てこなかった。
荷物の整理が進み、自分の状況についてもかなり理解が進んでいる。
俺は何と、22歳の慶應義塾現役の学生だ。マジか!
我ながらもっとオッサンに見えるぞ。
っていうか慶応ってこんな時代からあるのね。
そこを休学して従軍記者となったのは、藤田茂吉さんの推薦もあるが、給料が良かった事。
そしてこれをやり遂げたら、郵便報知が卒業までの授業料を全て持ってくれるという、破格の条件を貰ったようだ。
こんな長閑な戦場で?危険地手当つきまくりだな。
前の仕事に比べれば.....なんてつい比べてしまう。
中東はホントに危険だったのだ。
内緒だけど現地入りするときは、護身用の銃は欠かせなかった。
おまけに身を守るため、現地で手に入る大概の武器は扱えるようになった。そんなムチャな環境でも原稿料はゴシップ記事より安い。
......思い出すと死にたくなってくるな。やめよう。もう一回死んでるし。
忘れちゃいけないのが、犬養家の家族の存在だ。
備中岡山の実家には、まだお袋さんが存命だった。父親は早くに亡くしている。オマケに俺は長男で、実家に金がないからこんな危険な仕事も引き受けた経緯がある。
お母さんに手紙書かなきゃ。これ満男くん、候文を教えてちょうだいよ。
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とにかく戦局は長期戦に持ち込まれている。薩軍の指揮官は上手いね。
桐野利秋とか村田新八とかがやっているんだぜ。
俺みたいな奴じゃなく、歴史マニアな人が転生してれば随分と楽しめた事だろう。
この時期の日本で、彼らにゲリラ戦に対する知識とかあるってのがスゴイ。
幕末の戦いってそういうもんだったのだろうか。
大規模な戦闘は起きないので、小部隊に分かれての掃討作戦にくっついて取材するしかない。
戦闘に遭わない日もあれば、かなり危険な撤退を強いられる時もある。
「犬養さんアンタ、そげん前に出たら危なかばい!」
満男がかなり後ろの方から怒鳴る。
いやデカい音立てた方が危ないから。俺は慌てて元いた場所に戻って話をする。
「いや大丈夫だって。満男さんこそ、そんな後ろじゃあ何も見えないだろ?」
「しっかしそげん危なかこと....他の記者ばやっとらんじゃろう?」
満男は呆れ顔でテコでも動かない様子。
そりゃあ斬り込みされれば俺も危ないけど、こんな離れて撃ち合いしてる間は、それほど危ない事はない。
彼らの銃は派手な音がするし、呻りをたてて通過する弾丸は、慣れてなければビビるだろうけどね。
しかし薩軍は物資が不足しているらしく、弾も乱射してくる様子はない。
狙って撃ってくる弾なんか、この時代の旧式銃でそうそう当たりはしない。
弾幕張るくらい撃ってこなければ、恐れるほどのものではないわけだ。
戦場の場数が違うのだよ、満男くん!そんなこっちゃ暫くあっち側には行けないぞ!
「犬養さんアンタ、胆ばふとか男じゃねえ。」
駐屯所に戻りつつ、満男がそんな言い方で俺を褒めてる。
「弾が飛んでくるのには慣れているからね。」
「そげん言うても、兵隊まで感心しちょるたい。記者が兵隊の前に立っとると。」
そこまで無茶はしてないはずだが。
「オマケにアンタ、死体が山と積まれた横でも、平気で茶ば飲んどったろう?」
.....うん、普通あっちゃいかんね。そういう状況はね。
20年も戦場にいると、感覚が麻痺するもんなんだよ。説明はしないが。
「従軍記者ちゅうんは、恐ろしか仕事じゃ。」
いや反乱軍に加担するような奴に言われたくないよ。
それに俺が犬養毅として仕事始めたのは、最悪の被害が出たはずの、熊本城攻防戦の後だったしね。
本物のツヨぽんが書いた田原坂の戦いあたりの記事を見返すと、流石に気分も悪くなるような光景が頭に浮かぶ。
あそこまで叩かれれば、薩軍にはもはや回復する余力はないだろう。
戦さ巧者の薩摩軍だから長期戦も戦えるってだけで、もう戦局は決まっている。
奇跡でも起きない限り、薩軍の勝ちなどあり得ないのだ。史実からして負けてるのも知っているしね。
なのに薩軍からの投降者は驚くほど少ない。
取材しながら.....胸が熱くなってくる。同じ民族同士、もう戦うのをやめるべきなのに。
内戦っていうのは本当に悲惨だ。
しかしながら薩摩軍は抵抗を続ける。
熊本鎮台兵も転戦を続け、矢部浜町の薩軍駐屯跡地に入った。
俺は1日従軍してその日のうちに記事を書き、翌日は部隊長の所を回って戦況のまとめ。
時々戦闘から離れて町の様子を取材。こんな調子で取材を進めている。
薩軍がいた跡地は、何となく居心地が悪い。
鹿児島に近づいてきたからなおさらかも知れない。
住民の目がツメタイよね。やっぱ。
そうこうして5月の終わりが近づき、蒸し暑い日が続くようになった。
もはや着慣れないスーツなんか着てません。
満男と同じ単衣に帯締め、股引に裾をからげてわらじ履き。
1ヶ月以上にわたる掃討戦の末、征討軍はようやく薩軍を追い詰めつつあった。
熊本平野全域で悩まされたゲリラ戦も徐々に範囲が狭まり、人吉の本隊も陥落が近いと噂される。
ようやくです。兵力は5倍以上、武器や物資に至っては比較にならない違いがあるのに。
熊本鎮台兵はここに来てようやく前線から離れて、八代の駐屯地へ移ることになった。
熊本城攻防戦からずっと連戦に続く連戦で、ひどい環境にありましたからね。
鎮台兵側も沢山の兵士が亡くなったけど、この人達は日本初の徴兵による市民兵なんだよね。
平民は弱い弱いと言われながら、見事に日本最強14000名の薩軍から僅か4000名で城を守った用兵により、谷少将は一躍有名人!
薩軍大将西郷隆盛をして『あれほどの御仁がおったとは』と言わしめました。
ちなみにこれ全部俺の記事ね。
「そこでおまんさんはどうする?」
谷少将は社の駐屯地で夕食に招待してくれた日、俺にそう尋ねて来た。
「第3旅団の三浦少将は、気心知れた男じゃき。おまんさんが望むんじゃったら紹介しちゃるきに。」
「よろしくお願いします!」
引き続き取材はしていかなければならない。
本社とやり取りする中で、何をもって取材終わりとするのかを確認したら、『西郷隆盛の決着がつくまで』が条件らしい。デッドオアアライブ。
だとすれば熊本に居続けるわけにはいかず、前線に付いていかなければ。
満男の約束もあるしね。あくまでついでだが。
谷閣下からの紹介状をゲットし、翌日早速第3旅団へ。
早朝ご出陣前の三浦梧楼少将に御目通り願った。
谷少将からご紹介もいただいて、根回しはバッチリ。
オマケに郵便報知の犬養が来た、と駐屯地はちょっとした騒ぎになった。
「お前さんが犬養さんか、郵便報知の記事は拝見してるよ。」
出陣前という事もあって、きっちり軍服姿の三浦閣下。
気が短いとか気分屋だとか、事前に聞いていた感じとは少し違う。
俺を見る目は笑っており、少なくとも敵意を持たれてる感じはない。
「征討軍に随分と厳しい記事を書いてるな。山縣中将の作戦に文句があると見える」
「滅相もありません!」
俺をからかって遊ぼうというのだろう。それでも悪意は感じない。
「いや、構わんよ。こんな下手ばかり打っておれば、批判を浴びるのが当然さ。」
おや、この方確か長州出身のはず。山縣有朋と仲悪いんすか。
「薩軍は地の利を生かした局地戦を得意とする様子。大軍をもってしても、少々手こずるのは当然にございます。」
ベトナム戦争とかISとかね!時代違うし説明できないけど。
「おぬしかなりの戦術通じゃな?記事を読んでも伝わってくる。」
「とんでもありません!戊辰戦争の英雄であられる閣下に、戦術のことなど語れる知恵はありません。」
「まあまあ、あんまり謙遜するもんじゃ無いよ。」
謙遜してるわけじゃなく、本当に満男から教えてもらってるくらいのレベルだが。
でもなんか気に入ってもらえたみたいだから良しとするか。
「緩い作戦ばかりで気が滅入ってたとこだ。おぬしワシと同行しろ。戦術について語ろうではないか。」
......マサカの特等席頂きました!