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怪僧 李東仁

この時代は中国語の簡体字は無いでしょう、というご指摘をいくつかいただきました。

おっしゃる通りなのですが、


①私が繁体字での表記に自信がない

②ソレを言ったら明治の日本語も繁体字表記にしないと....


という点から、簡体字で押し通すことに決めました。

広い気持ちでお読みください♪


また今回結構長い会話となったため、『』の中は外国語であると致します。


明治12年(1879)年3月28日


俺は久しぶりに、自分の部屋で寝る事が出来ていた。

何しろ忙しかった.....予算編成って大変なんですね。


詰めれば詰めるほど、他省のブラックホールに巻き込まれていく。


時間のほとんどを他人に使われるっていう、とても不条理な経験をしました。

もはや思い出したくもありません。


来年もう一度同じ事やれって言われても無理。


寝る時間は当然無かった。


自分の机で気を失って、気付くと次の日が始まっている。

驚く事に予算局の全員が、ソレを当然としているのだ。


どうにか期限までに大隈卿へ予算案を提出、ウム!という一言と共に、予算局全員は休日に入った。

だが俺の無限地獄は終わらない。

このまま予算は元老会議へと提出され、俺は今度は元老たちからの質問地獄へ突入。


元老なんて言っているけど、みんな40代の働き盛りだ。

ゲンキゲンキ、質問おわんねーし。


3日間の審議を経て、いくつかの修正を言い渡され、ようやく予算案は可決された。


そうして俺は今、寝床から起き上がれないでいる状況。

朝少し目を開けた記憶はあるが、身体はいうことをきかずそのままダダ寝。

今はどうやら夕方時刻らしい。


寝過ぎて背中イタイ。


よろよろと起き上って着替えを済まし、部屋からどうにか表へ出た。

腹減ったのだ。


出たところでお隣のコムラさんとお会いする。


「犬養さん!いや暫くお目にかかってなかったけど、どうされてました?」

「いや、2週間ほど大蔵省で過ごしてました....。」


俺の言葉にコムラさんは合点がいったようだ。


「ああ、予算の時期ですもんね。」

気の毒そうに俺を見やる。

「お食事ですか?ご一緒しましょう。」


「はい...俺体力落ちてるんで....向かいの蕎麦屋でイイっすか?」


こうして俺はヨロヨロと、コムラさんに支えられて蕎麦屋へ。


春の夕暮れ時だ。

強い風が眠たいアタマに心地いい。


俺たちは道路に面した店先の卓に腰掛け、桜の蕾が膨らんだ枝を眺める。


俺は久しぶりにやって来たけど、コムラさんはしょっちゅう使っているようで、お店の人たちとも顔馴染みだ。


「お辰さん!ビール持って来てね。コップ2つ。」

コムラさんは給仕の女性に気軽に声をかける。

貧相な彼が言うと全くサマになっていないが、それでも女性は笑顔で応えていた。


「お忙しいようで何よりです。男はヤッパリ仕事が忙しいくらいの方がイイですよ。」

コムラさんは相変わらず仕事に不満の様子。


「ああ、私もう辞めちゃおうかなあ....。」


マッタクけしからん悩みだ。

「アメリカに留学されていたんですよね、確か。」


「そう、ハーバードのロースクールに通いました。死に物狂いで勉強したんです。でも帰って来てみれば法律学んだのだから司法省、なんて....あんまりだと思いません?私は国際法を勉強したんで、訴訟法をやったわけではないのに。」


贅沢言うもんじゃない、と説教しそうになったそのとき、店の女性がビールを持って来てくれた。


「ジュタローさん、またお役所辞める話ですか?折角お役人になったのに、勿体無いったらありゃしない!」


そう!言ってやってくださいよ。え?


「この人ったらいっつもその話ですからねえ!お客さんも愚痴聞かされて大変ですね。」


「でもお辰さんは、いっつも私の愚痴なんか聞いちゃあくれないじゃですか!」


それでもコムラさんは軽口叩くのが楽しそうに....ジュタロー?!


「コムラさん。」

「は?はい、なんです?」


急に真剣な顔をした俺に、コムラさんは若干気圧されたようだ。


「明日にも中上川さんを訪ねて、コムラさんの外務省行きを説得します。」

「へ?そ、ソレはどうも....しかし何でまた?」


コムラさんはキツネにつままれた、って顔だ。


「特に意味はありません。ですが希望が叶うまで辞めるなんてことを言わないように。」

「はあ....ありがとうございます...。」


納得いかんならソレでもいい。しかし辞めるとか言うな、ジュタロー!!


オマエは....日本外交の切り札じゃないか。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


蕎麦食って部屋に戻ると、俺の部屋の前に待っていたのはむさ苦しいヒゲオヤジ。


妖艶な美女とかが待ってたりすることはないのか。


「曽根さん!どうされました?」

「おお!犬養くん!よかった、お戻りの時間じゃったか。」


大蔵省へ寄ったら今日は休みであると告げられ、その足でここまで来てくれたと言う。


「ソレは失礼しました。何かお急ぎの御用でも?」


「そうなんじゃ、えらい面倒なことでな。」

あなたはいつも面倒なんです。しかも自分が原因であるとこに気付いている様子はない。


「例の朝鮮改革派、昨日の夜にやって来たんじゃ。」

「おお!ソレは吉報じゃないですか!」


ようやくやって来たのだ。

ココから如何に平和な時代を築くのか、俺の転生人生が問われる。


「ソレが吉報ばかりでもなくてな。」

「え?」


アナタはまた何ぞ俺に面倒のタネを.....。


「その朝鮮人、日本語を勉強してきおったはずじゃのに、全く何言っとるか分からん。今は何とか筆談で会話しとるトコじゃ。」

「いやー。そりゃあ数ヶ月じゃ覚えれませんよ。」


なんだそんな事か。


コミュニケーション難しいくらい分かってたろうに。通訳とかいないんすか。


「事は秘密裏に進められとるのでな。信頼できる通訳を探さねばならん。」


曽根さんやけにアツく俺を見つめる。


いや俺は朝鮮語なんぞ知りませんよ。


「聞けば奴は教養として、支那語をある程度喋れると言う。犬養くんチョットすまんが、今から少々時間をもらえまいか?」


いやです。とは言えんわなあ....。俺も会いたいと思ってたし。


「仕方ありませんね。」

「おお!さすが犬養くん!イヤ謝礼の方は...。」


プライスレスだ!このヒゲオヤジめ!思いっきり踏んだくるからな。


その朝鮮人、東本願寺に身を潜め、そこで日本語の勉強をしていたと言う。

なぜ寺か?と言えば、ソイツも僧侶であるとの事。


東本願寺が釜山に作った分院に出入りし、日本との交流のきっかけを作ったらしい。

日本の寺が朝鮮にあるの?と聞くと、真宗大谷派は海外進出に積極的という。


仏教の海外進出って..そもそも海外から入ってきたモンでしょうに。


そらあ真宗は日本で生まれた宗教かもしれないけどねえ。

なんか疑問には思わないのだろうか。


2人で表に出ると、其処には馬車が。


「は?」

「は?ではない。コイツで行くんじゃよ。何せ横浜じゃからな。」


「今から横浜ですかあ!?」

さっそく後悔するが時すでにオソシ!


馬車は結構なスピードで、東海道を疾走した。


道すがら俺はその朝鮮人について、曽根さんからレクチャーを受ける。


「何しろ坊さんという事もあってな、オマケにチョットおかしな御仁なんじゃ。」

「おかしなとは?」


まあ日本に来たりすんのは変わってるよね。


「うーむ言葉が通じておらんから、何がおかしいとも言えんのじゃが....強いて言うなら胡散臭い。」


うさんくせーのかよ!ダメじゃんそんな密航者。


「身元は確かなんじゃがな。筆談で話すことが全て何というか....占い師にでも占ってもらっとるようなんじゃ。オノレはこの先安泰じゃとか、家族の誰それが事故に遭うから気をつけいとか。」


うーんまあソレくらいならたまにいる霊感強い人くらいのもんじゃね?


「坊主も海を越えると少し違うんじゃろか?」

「そんなわけないでしょう。」


外国を何だと思ってるんだ。


「ところでココまでして会話したいことって何なんです?今日じゃなきゃダメなんですか?」


「いや何しろ向こうが言う事を聞かんのじゃ。この先不安じゃ話の通じる者を連れてこいとな。」


そりゃまあ不安でしょうよ。

特にアナタの仲間たちばかりの所じゃね。


馬車の中でついひと眠り。あれだけ寝たのにまだ眠いとは。


夜も深夜になろうという頃、ようやく到着した場所は、東本願寺の横浜別院だった。


「その人も寝てんじゃないですか?」

「まあまあとりあえず様子を見て....。」


中に入った我々は、ソイツが寝ていない事をすぐに悟った。

玄関まで響き渡るほどの大声で、何やら叫んでいる朝鮮人がいる。


時折混ざる支那語を聞き取ると、まだ到着せんのかとかそんな事を言っているようだった。


「どうやら我々の到着が遅いので、苛立っているようですね。」

「いや言葉は分からんが、ソレくらいなら伝わってくるわい。」


曽根さんはウンザリした様子だ。


騒ぎのする部屋へ駆けつけると、部屋の中は半紙が散らばり、中央に僧形の男が喚いているのが見えた。


让您久等了(おまたせしました)。すいません。」


俺が声をかけると、男はピタッと喚くのをやめた。

こちらを振り向き、ニヤッと笑う。キモイ。


终于到了(やっときたか)能说话的(しゃべれるやつ)。」

ナカナカアクの強い顔をした僧は、前歯の欠けた口でニヤニヤ笑っている。


『コイツらが話が通じん。オマケに俺、騙そうとしてる。信じない。』


見た目は確かに悪いけどね。曽根さんの仲間だし。

でも騙そうって事はないでしょ。利用しようとしてるだけで。


僧は和紙の散乱した床に、ドカリとあぐらをかいた。

『オマエは....ダマスつもりない。ミレバわかる....ン?』


僧は今度は目を剥いて、恐怖の表情を浮かべた。


『オマエナニモノ?この世のモノカ?ナンダそのおそろしげな機械は?』

俺は驚く。コイツ頭がおかしいのかソレとも.....。


怪僧の腕を掴んでグイっと引き寄せる。


『お前は何を見てる?俺の思考が見えるのか?』


怪僧は答えない。ただ怯えた顔でガタガタと震えている。


「どうしたんじゃ犬養くん!ソイツ何を言っておる?」


『オイ、俺の仲間が不審がっている。このままだと何方も怪しまれるが、俺は少なくともオマエを犠牲にすれば切り抜けれる。』


僧の震えはさらに激しくなった。


『だが俺はそうしないだろう。オマエが今見た通り、俺は危害を加えるつもりがない。』


僧は激しく頷く。むしろそう思いたいだろう。


『ココは落ち着け、悪いようにはしない。分かったな?』

『わ、分かった。』


『オマエが見たのは多分最先端の兵器だ。俺が味方すれば、オマエを救うことができる。』


仮説として、コイツに人の記憶が見えるとする。

()()()()()()()がシリアやイラクで見た戦闘機や戦車とすれば、コイツが恐怖しているのも辻褄は合う。


僧の震えが止まった。

『スゴイ....センタンヘイキ....。』


恍惚の表情に変わった。キモイ、ひたすらキモイよ。


「どうやら落ち着いたようですね。」

「そうじゃの、だがコイツ実に不気味な表情をしておるぞ。一体何を言っておったんじゃ?」


「いえ....ただどんな目に合うのかが不安だったようです。私が日本の要人に合わせてやると言ったら、安心したのかこんな顔に。」


「キモイの。」

「本当キモいっすね。」


いや、それだけじゃない。コイツには何が見えてるんだ?

こんな人史実にいたの?訳わかんないよ!


この後どうなってしまうんだろうか?



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