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出監!

久々なので2投します!

明日は遅い時間に予定してます。

明治12年(1879年)2月1日 早朝


小菅監倉の重い鉄扉がズリズリと開かれ、俺は殺風景な砂利道に足を踏み出した。


「旦那....お世話になりやした。」

「...犬養さん?ナニおっしゃってるんです?」


うん?ちょっと違うぞ?


「ダンナ.....お世話になりやした。」

「いや犬養さん、どうしちゃったんですか?」


ダメだな、この看守は。チェンジチェンジ。


「そこはアレです、『おう、もう戻ってくんじゃねえぞ』でしょ?チョットやり直し。」

「ナニ言ってんのか分かりません。」


こうして俺の出監は味気なくも終わってしまう。

何かもっとさー、モクつけろやとかマフラーくれるとか、色々あるでしょ!やんなきゃなんない事が!


そんなクダリを適当にすませ、俺は一路先ず福沢家へ。


「まあ!犬養さん!ご無事でもう出てこれたのね!」

福沢先生の奥様、りつ様は驚き喜んでくれる。

「チョットアナタ、事前にお知らせくれればお祝いの準備をしておくものを!ダメじゃありませんか!薄情な!」

そしてナゾの理由でしばし説教をくらう。


「申し訳ありませんでした。小菅の監獄が混乱しては危険なので、出監は極秘に行う様にと内務省から協力を要請されまして......。」


言い訳ではない。本当にそう言われたのだ。

俺が出監するのに、何故混乱が起きるのかは分からんが。


「まあ!そうだったのねえ。そりゃあそうよねえ.....。」

しかし何故か奥様はそれでご納得。

お子様たちは遊びに出ており、先生も当然ご在宅ではない。


夜は必ず福沢家で、一緒に食事を取るよう言われる。


「私の部屋はどうなっておりますか?」

「今は尾崎さんが入ってるの。アナタのお荷物は、寮の一室にキチンと保管してあるから。しばらくはそこにお住いなさい。」


相変わらず温かい福沢家だ。そして尾崎はどうやら俺の代わりの犠牲者(秘書)となったらしい。


先生へのご挨拶は夜にするとして、俺はすぐに他へと回る事にした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ツヨシ!お前という奴は何で事前に知らせておかんのじゃ!分かっておれば新聞の一面で告知しとったものを!」


いやダカラ教えないんですって。

そーかこういう人がいれば、確かに内務省も緊張するわな。


栗本先生は激おこなご様子で、藤田さんは相変わらず涙もろい。


「本当にご心配おかけしました。獄中にご面会やら差し入れまで頂戴して、誠にありがとう御座いました。」

「そんなもの礼には及ばないよ。我々も思いのほか軽い処分で済んだし、その後の売上は急増したんだ。ツヨシのおかげだよ。」


藤田さんは本当に嬉しそうに言う。

まあ主筆として、売上動向は1番気になるとこですよね。


「オヌシはこの後どうする?引き続き報知へ記事を書いてくれれば嬉しいが....。」

栗本先生は言い淀む。

だがその可能性があまり無いことは、面会に来ていただいた時に伝えてある。


「ありがとうございます。その事もあってご挨拶に伺ったのですが....。」

俺がそう言うと、藤田さんは気にするなと言った。


「先生、ツヨシはこの後、天下国家のために働かねばならない男です。これ以上報知にとどめておいて良い人材ではありません。」


「まあ...そりゃそうじゃがの。」

先生は少し寂しそうであった。


「申し訳ありません。俺は大隈卿のお誘いを受けようと思います。そうなれば記者として取材に行くような仕事は、当然できなくなると思います。」


それでも俺は、この新聞との関係を途切れさすつもりはなかった。

「そんな事になってしまいますが、寄稿は時々させていただきたいんです。今後俺には国会を見据えた動きも必要になります。」


「おお!」

「やるんかツヨシ!そうじゃオヌシがやらんでは始まらん!」

2人は突如蘇ったように飛び起きた。


やめてよオジさんたち、眼えキラッキラさせんのは。


「まだ決めた事は何もありません。時局を見ながらそんな行動もあり得る、と言うだけのことです。」


「いやあ党名はワシが決めてやろう!」

「先生また命名ですか〜?本当にお好きですよね。」

「何を言っとるか!そんな大事なことを決めるのに、ワシ以外の適任者がおるか!」


2人とも俺の話聴いてますか?


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「いやあ犬養くん!なんで一言教えてくれんじゃったあ〜!」


うーんズバリ言いますと、アナタには教えたくなかったんです。


「曽根さん申し訳ありませんでした。何しろ情報を漏らすなと.....。」


以下省略だ!


「大体ここの生徒たちが小菅の監倉に揃って来たら、周囲が緊張するでしょうが!みんな顔つきが怖すぎるんですよ!」

「いや.....そりゃあそうかも知れんが。」


大陸浪人(スパイ)養成所の生徒が、先生の出監を祝いに来るとか立ち会いたくない。

その見た目は完全に親分さんの出所祝いだ。


「曽根さんそんな事より、今日はお詫びに伺ったのです。こちらでの仕事も全うすることが出来ず、中途半端になってしまって申し訳ありませんでした。」


面会に来ていただいた時にもお詫びしているが、改めてお詫びが必要と思った。


「そんな、やめてくれ犬養くん!後任として支那商館の人も紹介してもらったし、授業には差し支えなかったんじゃから。」


確かに紹介はした。ソイツはラーメン屋のオヤジだがな。


「今後もこちらの教育には関わっていきたいとは思ってますが、定期的な授業はできそうにありません。」

「それは仕方ないことじゃ。それより関わろうとしてくれる事がありがたいわい。」


俺が此処とも連絡を取り続けたいのは、中国・朝鮮情報を今後も仕入れていきたいと思っているからだ。


「何が出来るかは分かりませんけどね。」

「いや大蔵省の知り合いができるのは、ワシにとっても願ったり叶ったりよ。」


それってとても大陸浪人っぽいセリフですね。


「こないだは流石にあの場で言えんかったがな、すでに京都に潜入しておる朝鮮の改革派がじゃ、予定よりだいぶ遅れたが春には東京へ来る事になっておる。」


「是非会わせてください。」

俺は瞬時に食いつく。


「勿論じゃ。福沢先生にもご了解受けているわけじゃから、慶應義塾は全員体制で彼らを援助していく。」


そう言えばそんな約束もありましたよね。


「私はもう慶應義塾を離れる予定ですから.....連絡先は決まり次第またお伝えします。」

「おお、そうじゃったか。まあ政府へ出仕となれば、もはや学生というわけにもいくまいな。」


話しながら寂しさがこみ上げてきた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「犬養くん!キミもあまりに薄情であるんである!」


あーもう皆いい人。


「誠に申し訳ありませんでした!ナイムショーが!」


説明以上。


「閣下!今後は是非こちらでお世話になりたいと思うのですが!」


「そんな事当たり前である。何なら明日から仕事を始めて欲しいぐらいである。」


何を当たり前の事を、と言いたげだ。

矢野さんと田口さんは横でニヤニヤである。


「さすがに明日からはチョット....先ずは宿から探さねばなりません。」


「部屋なら我輩の屋敷に余っておる。当面我が家に住めば良いんである!」


そーはいかんのである。24時間一緒とか、息が詰まって死ぬんである。


「ありがとうございます。しかし折角ですが....。」


「嫁でも貰うんであるか?」


素早く矢野さんを見るが、完全に目を逸らされる。


「縁談があるなら我輩が仲人に....。」

「イエ閣下!まだそう言うわけではありませんが....。」

「まだって何だ犬養!綾はお前にはやらん!」


「ナニ!矢野くんの妹さんがお相手であるか!!」

「違います閣下!私はそのような事認めてはおりません!」


大蔵省はただカオスだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「先生ご無沙汰いたしました。只今戻りました。」

「朝もうちに寄ってくれたんだろう?」


福沢先生は書斎のデスクから、応接用のソファに座る俺に言葉をかけてくれる。

出監を伝えなかった事で、1番怒られると思っていた先生は、意外にも優しかった。


「りつも娘も息子たちも、お前に会うのを楽しみにしていた。お俊などは面会に行くと言ってきかんかったよ。」


先生はそう言って笑う。でも何か寂しげだ。


俺も今日は寂しい気持ちが強い。先生には最後に厳しく怒って欲しかった。


優しくされるほど、寂しくて涙が出そうになる。


「大隈のところで働くか。」


コレは先日面会に来ていただいた時、すでに決めてお伝えしていた。


「本日挨拶してきました。住む場所を決めましたら、来週くらいから仕事を始めます。」


フームと先生は椅子の肘掛けを撫でる。


「この前も言ったように、お前を大隈卿のところへやるのは、彼をして政党政治を実現させようと思ったからだった。」

先生は噛み締めるように言う。

「しかしそれも、福島県議会の行動や陸軍の造反によって、あっさりと達成されてしまった。そこにお前も大きく関わっておったのだろう。」


俺はすっとぼけるが、この人を騙し切れる気がしない。


しかし先生はその事を深く追求せず、静かに話し続ける。


「俺はお前の行動を見て思ったよ。お前は官僚なんかではあり得ない、政治家だ。ソレも途方もない奥行きがある政治家になり得る。」


「はい。」


奥行きドウコウは知らないが、この数ヶ月の収監生活の中で、俺が出した結論もそうだった。

先生は俺の事をここまで理解してくれている。


「何なら大隈重信はほっぽって置いてもいい。お前自身でもいいから政党をつくりな。」


ソレは....どうでしょうか?


「おまえならできる。今回の事で確信した。」

先生は俺を励ますように言った。


「お前こそ俺の自慢の生徒だ。」


俺の...涙腺決壊。


「お世話になりました!せんせい!おれ!がんばりますから!」


「泣くな!メシだメシ。」


俺は先生とご家族との幸せな生活を、この記憶を一生忘れないだろう。



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