生まれながらのサムライなんていない
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本当にありがとうございます!!!
こんなに読んでいただいて、とにかく嬉しい!
続けて読んでいただけるよう頑張ります。
谷少将の宿舎へ訪問する時間が近づいたので、俺とアヤシイ脱獄犯の満男くんこと頭山満は、先程校正も済ませた記事を郵便飛脚に託すと、教わっていた宿舎へ急いだ。
「谷少将って何処の出身か調べた?」
「任せとかんね。土佐藩出身じゃ。」
おおー。薩長出身じゃ無いんだ。
それで少将だったら大出世組だよね。
駐屯所の門で通行証を見せ、宿舎の入り口で来訪目的を告げる。
「おお、谷閣下がお待ちである。」
「では失礼します。」
既に首尾よく宿も荷物も見つけたので、実は少将に会う目的は達成されているのだけど。
そうは言ってもこの人が、戦場の俺の行動を保証してくれている人なのだから、会っておく必要はありありだ。
案内されたのはやはり一軒の農家である。
離れの一室に、谷干城少将は平服で何やら書き物をしていたが、俺を見つけて破顔一笑、大声で叫んだ。
「おお!いや良かった!無事じゃったか犬養くん!¥」
睨みつけるような目の、40くらいに見える武人だ。飛び出すような口髭をたくわえ、この人もスゴく明治の男っぽい。でも笑った顔は何とも愛嬌がある人だった。
「申し訳ありません。ご心配をおかけしました。」
「マッコト心配じゃったぞ!オンシを殺してしもうたら、福沢さんに申し訳がたたん。」
そう言ってガハハと笑う。
愛嬌のある人だが、勝手に殺さないでほしい。
福沢さん.....って福沢諭吉?ツヨぽん諭吉と知り合いなんだ?
なんか結構凄い奴なんだな俺。
「福沢先生ともお知り合いでしたか。」
ちょっとカマかけてみる。
「うん?こないだ言わんじゃったかのう?岩崎の紹介で、何度か飲んだことがあるきに。あん人は酒飲みじゃからのう。ガハハハハ!」
イカツイ見た目とはちょっと違う、極めて陽気な人である。
岩崎って.....三菱の岩崎家か?土佐藩出身だったもんな(司○遼太○著書よりの知識)。
「よし、ここはもう終わりじゃきに、一緒に飯でも食おう!ところでお連れはどなたじゃ?」
俺は満男を紹介し、満男も丁寧な礼儀を見せた。
固いこと言わんと!飯じゃあ!と怒鳴って廊下に飛び出す谷閣下。
既に酒でも入っているかの様だ。
同じ農家の一室に食事が準備されていた。
ささやかだがとても美味しい田舎料理だ。物資が不足しているはずだが、鶏肉が出てきたのは谷閣下の心尽くしだろう。
食事中は熊本城籠城戦の一部始終を聞くことができた。ナイス!
早速明日の記事にまとめよう。
そして今後の進軍予定もチラホラ。少将いけません!この坊主頭は薩軍派です!
しかし驚くべき事態が発覚する。
犬養ツヨぽんこと私、酒が弱い!ちょっと......もう飲めん!
うっそだろ前世では人の倍飲めた俺が。
食事も終わる頃すっかりやられた俺は、満男に抱えられながら退場したらしかった。
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当然翌日はアレだ、二日酔いだよ。
満男に頼んで大津の駐屯地へ行ってもらい、怪我が癒えぬため今日は鎮台軍への同行を控えると伝えてもらった。
俺は前世でフリーの物書きしか出来ないオチコボレだったが、サラリーマンになっていれば、二日酔いの翌日ってこんな感じなんだろうね。
いやつまり後ろめたいってこと。
昼近くなってようやく起き上がり、顔を洗いに井戸端へ.....と思ったらこの部屋に鏡台がある事に気付く。女性のお泊まりもあるんだろうか?
まあこれ幸いと、自分の顔とご対面。
包帯がわりの布を外す。ヤッパリ怪我は大した事ないんだ。カスリ傷だな。
ただの裂傷で出血もなく、ちょっと痛々しいが布はもう巻かない事にした。
初めて見る自分の顔は......うん、一言で言えば栄養失調。
内戦中の国でよく見たような顔だ。
これは気をつけなければ。確かにこの身体、余りにも少食だ。
体力が無いから酒も受け付けないのかな?努めて食べ、運動するよう心がけよう。
いやいくら体力をつけたところで、いずれ暗殺されちゃうのが困るよね。困るどころじゃないが。
昭和に入ってからだから、ずいぶん後の話だよな〜。今が明治10年で、確か明治は45年ほど続いて大正が15年で......。暗殺まで後50年くらいあるか。
今俺は間違いなく20代だから、515事件の時に70歳を超えてるんだね。
前世の最後の記憶では、俺は45歳だった。
結婚もできず、収入も冗談みたいなものだった。何より人から尊重されず、遊んでいるのと変わらないように思われていたのが悔しかったよね。
若い時に海外ボランティアとかやっちまったのが失敗だったかな。
現地の子供達を見てたら、帰国して日本で仕事するなんて、現実から逃げ出すのと同じように思えた。
幸運で拾った2度目の人生、悔いの残らぬようにしたい。
ジャーナリストとして.....いやツヨぽんは政治家か。とにかく悔いのない人生送ろう。
70まで生きられれば御の字かも知れんが、暗殺されるなんて嫌すぎる!
この人生は畳の上で死ぬぞ!
......うん、人生の目標として少しおかしいな。
とにかく俺はうろ覚えながらも、歴史の流れは知っている。
人の先回りをする事も......おや?これは歴史変えちゃうのか?
人間としてのスキルは文章書くだけだが、これは正しく使えるスキルだ。
外国語もこの時代は有効だろう。
これだけは前世で俺頑張ったもんな。英語・フランス語・アラビア語・中国語がイケる。
凄いっしょ?
生きていくためだったから必死で覚えた。マア時々スケベ心にも支えられたけどね。
それにしてももっと歴史勉強しておけばな。
まーでも転生するから歴史やっとこう、なんて人生あり得ないもんねえ。
とにかく頑張ってこの時代生き抜くしかない。
井戸で顔を洗うついでに、頭も洗って体も拭いた。
体が小ちゃいから、手ぬぐい一本でラクラク!
その後奥さんに昼食をねだり、お魚付きの御膳をゲット。
午後は昨日の谷少将の籠城話を、読み応えある記事に仕立てようと考えていたら、満男が帰ってきた。
「犬養さん、ばり美味そうなもんば食べとるね。」
「美味いよ〜」
「ワシにも一口くれん?」
「お足が無いのは辛いね、ガンバレ書生!」
ふて腐れてジトッとこちらを見る満男を尻目に、俺は昼食を平らげた。
君ほど体格のいい人は2食で大丈夫よ。俺は身体作らないと。
「それでどうよ?満男さんの目的は達成できそう?」
茶を淹れてやりながら、満男の方の首尾を聞いてみる。当然午前中は薩軍への接触を考えていたのだろう。
「なかなかムズカシか。薩軍側の本陣がどこにあるのか、征討軍の下っ端あたりは知らんけん。」
「この後攻撃隊に同行して、いろんな将軍に取材してって繰り返していけば、そのうち機会もあるだろう。焦らず行こうよ。」
「アンタ、ワシが薩軍へ参加するん反対せんのか?」
「賛成はしないけどね。しかし満男さんの決意が固いなら、俺が何を言おうが関係ないでしょ?」
「そうじゃけどね。アンタおかしなヤツじゃ。」
満男はカッコ悪いくせに爽やかに笑った。
今さっき自分のこれからについて真剣に考えていた事もあり、お互い悔いのない人生を送ろうと伝えたつもりだった。
薩軍へ加勢するって事は、つまり死にに行くっていう事だ。
満男にとって悔いのない人生ってのはそういう事なんだろ、と俺は思った。
コイツってサムライなんだ、っていうかサムライになりたいが為に薩軍へ行くんだ。
「それで?前線までついていかなかったの?」
「今日は斥候が探るだけの1日になるんで、着いて行く意味はそれほどないんじゃ。情報集まったら犬養さんが取材ばしよるやろ。」
俺を利用するってこういう事ね。
「薩軍は今、本格的な抵抗ばしとらん状態らしい。」
「それってさ、もう戦争も終わりって事じゃないのか?」
「そやなかよね。むしろ逆じゃ。」
満男はニヤリと不気味に笑う。そうそう爽やかなのより、そっちが似合ってますよ満男くん。
「こっから正面衝突ば選ぶんは、死にに行くようなもんじゃ。ちょっと噂ば聞いたが、征討軍の3万以上に対して薩軍は8000じゃと。」
ほうほう。
「ワシなら分散して局地戦選ぶ。罠ば仕掛けて征討軍の足ば止める。作戦司令部は....。」
満男はそう言いながら、懐からガサガサと地図を取り出した。有能。
「ここがよか。」
指差したのは『人吉』という地名の場所だった。
「ココば拠点に薩摩・大隅・日向の3国で独立しようとするはずじゃ。」
なるほど。満男が示した場所は、確かに3国の要となる場所で防衛もしやすそうだ。
「ふーんなるほど。分かってるならここに行けば?」
「冷たっ!犬養さんそりゃあんまり冷たかろう?もうちっと優しい言い方あろうもん。」
「昼メシ貰ってきてやろう。」
俺は奥さんにもう1人分ねだるため、離れの襖を勢いよく開けた。