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怪しい男

お待たせしました〜。

明日も更新予定です〜♪

「木堂先生は確かに私どもの記者です。しかしご関連のハッキリしない方に、住所などはお教えする訳には参りません。」


事務の女性職員がナニやら入り口で話しておる。


我が社は男女平等を掲げ、設立以来一環して女子社員を雇っとる。

その点が政府御用新聞などとは違うとこなんじゃ。


大体あいつらときたら先日も......。


「何とも堅苦き申し様、そう警戒されては話にならん。ワシとあの男は兄弟同然、そう警戒される事は無かろう?」


おおいかん、なんぞ揉め事のようじゃ。


誰が助けに入ってやるヤツはおらんのかと見回すが、生憎ミナ取材で出払っておる。


ここはワシが一言言ってやらんとなるまい。

社長だからと言って踏ん反りかえっておるわけではない。こう見えてワシは函館におった時も....。


「そのようにおっしゃられても、お教え出来ぬものはお教え出来かねます!お引き取りください!」


イヤイヤしまった、早うあの娘を助けてやらねば。


「そこの方、我が郵便報知新聞へ何の御用かな?見ての通り今は記者が出払っておる。用件ならワシが伺おう。」


坊主頭の訪問者は、目つきの悪い顔でジロリとワシを睨みつけた。


「御身は何方で?」

「決まり文句で悪いが、まず名乗られるが礼儀じゃろう?」


武士の世は遠くなったものじゃ。


「コレはご無礼、ワシは高知県立志会の古賀吉之助と申す。」


立志会.....土佐に古賀姓などあったかの?オマケに吉之助とはまた.....。


偽名じゃな。しかもかなりウソくさい。


事務の娘が目で訴えてきよる。そりゃあこんな怪しい男に、ウチの看板記者が襲われるようなことがあれば、会社全体の問題じゃ。


「ワシはこの会社を経営しておる、栗本鋤雲(じょうん)というものじゃ。先ほどから聞いておれば、ナニかウチの記者にご用向きじゃという事じゃったが....。」


「うむ、実は少々込み入った事情があって、暫く犬養殿と連絡が取れんかった。貴社に勤めておられるのは知っておったので、こうして連絡先を伺おうと参った次第だ。」


歳の割には随分と落ち着いた物腰じゃ。


「さて...しかし御身のような怪しげな御仁に、看板記者の所在をお教えするわけにはいかぬ。昨今多少落ち着いてきたとはいえ、気に入らぬ者は斬るといった手合いはまだまだ多い。まして御身が()()()()()()者じゃと言うなら、尚更教えるわけにはまいらぬな。」


ワシの言い様に少々面食らった様子で、古賀なる若者はナニやら俯いてブツブツとつぶやいておる。


「ワシの何が怪しいと?」


呆れたものじゃ。ここまで怪しさ満点で、民権運動など務まるもんかのう。


「何もかもじゃよ。そのような偽名を名乗られても、小娘とて騙せまい。」


男はまだブツブツ言っておったが、やがてラチがあかぬと思ったか顔を上げると言った。


「さてそうなれば....まだ心当たりはある。では今日のところは引き上げるとしよう。」


ん?エエのか?まあワシが言うのも何じゃが、諦め早すぎない?


「1つだけ頼まれて欲しい。」

そう言うと男は1通の封書を取り出した。


「犬養がこちらへ寄るときに、これを渡していただきたい。」


まあ....その位なら断るいわれもなかろう。


「よろしかろう、お預かりいたす。」

渡すとは言っておらんぞ?


「ではよろしく。ご無礼した。」

坊主頭はアッサリと去っていった。ワシと娘は顔を見合わせる。


「何でしょうあの人?すごく怪しいのに随分アッサリ帰りましたね?」


「知らんな、悪人には見えぬ。だが表世界を生きておる顔でもない。」


ワシは暫く手に持った封に目を落としていた。何の関係か知らぬが、ろくな要件ではあるまい。


記者たるもの何処で誰の恨みをかっておるかわからぬ。一言注意しておくべきか。


そう言えば木堂は今日、例の講義で京橋に行っておるな。


「嬢ちゃんよ、1つ使いを頼まれてくれるかな。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


綾を嫁にはやれぬ。


私はこの数日妻との口論に、ホトホト疲れ果てている。


女とはすぐに仲間を作って攻撃してくる生き物だ。

綾はどうやら妻を味方に引き入れたらしく、2人して私に精神的圧力をかけてくる。


私は自宅から歩いて講義へ向かう途中だった。


大隈卿の元へ出仕してはいるが、統計局というほぼ業務のない部門に配属させられ、今はかなり時間に自由が効く。


週に一度は今まで通り、慶應義塾で講義を続けている。


それにしても困った妹だ。

あろう事か、犬養のところへ嫁に行きたいと言う。


自分には福沢先生を介して、旧主筋からの縁談があると分かっていながらである。


確かに犬養は将来有望だ。

あの男は西南戦争へ記者として取材へ赴き、多くの変化を持って帰ってきた。


その後の勉強ぶりには鬼気迫るものがあった。


と思えば、もともと漢文は達者であったがいつの間にやら支那語も大層上手に話す、仏語も話す。

先生の秘書として経験を積み、各界の要人とも交わって世界を広げておる。


更には経済の勉強が実り、今や大蔵省から出仕を求められておる。


妹の婿として....相応しいと....言えぬこともないだろー......。


しかしだ!だがだ!


先生の旧藩主からの、しかも先生を通しての御要望に、応えぬなどという事が出来ようはずはない。


今や華族として隠棲しておられる殿様だが、不義理な真似は元士分として到底出来ぬ!


「だから何で通してくんねんだ!」


何故と言われてそのような不義理が通せようか?


「俺と奴とは親友だって言ってんだろ!」


親友ではない!主筋なのだ!元士分として....え?


「親友だから、奴が此処にいるのを知っている!それ以上何の証明が必要だってんだ!」


私は正気に帰って眼前の光景をとらえる。


慶應義塾の門前で、数名の学生が男を取り囲んでいるのが見えた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


今天的内容是以上的(今日の授業はここまで)大家还有什么问题呢(なんか質問あっか)?」


俺の生徒は現在8名となった。


この3ヶ月で相当な詰め込みを行った結果、彼らの言語能力は飛躍的向上を見せ、今や意思疎通くらいは問題無い。


老师,我有一个问题(先生、質問があります)。」


手を挙げたのは荒尾くん。俺の最も優秀な弟子だ。


彼は陸軍士官学校に通いながらも、横浜のラーメン屋で週3回皿洗いを実行している。

ラーメン屋のオヤジさんの評価もすこぶる高く、最早単独清国へ潜入したところで、何の問題も無いだろう。


うん、何か...表が騒がしい。


「木堂先生は居られますか?」

そう言う声と共に教室の後ろの襖が開き、郵便報知新聞でよく見かける事務職の女性が入ってきた。


「コレ、先生は授業中だと申すに!」

振亜社の職員が必死に止めているが、彼女は意に介していない。


「やあ、今授業が終わるところだ。」

「あ....ご無事で!これは失礼しました。表でお待ちしています!」


俺の安否確認が目的だった様だ。

彼女は少し恥ずかしそうに、襖を両手で静かに閉める。


「おお、先生スミに置けんのお〜!」

生徒が歓声を上げる。


讲汉语(支那語で言え)!」

俺はスルドく言い放ち、生徒どもは再び沈黙した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「先生失礼しました。栗本社長より言付けをいいつかって参りましたので、気が焦ってしまい.....。」


「いーのいーの、んで?どうしたのー?」


男臭すぎる教室で授業をした後の俺には、女性との会話はご褒美である。


「はい、本日怪しげな男が先生を訪ねて来られました。社長が先生の身を案じ、十分ご注意される様にと....。」


「ナニ!怪しげな男ですと!」


後ろから突っ込んできたのは荒尾くんである。


「先生!十分ご注意ください!今や木堂先生は、我ら陸士改革派にとって最も重要な....。」

「あー!あー!で?どんな男が来たって?」


マッタク軍人ってミンナ口が軽いのか?

少なくとも俺の周りの軍人は、やたら口が軽すぎる。あの将軍とかあの将軍とか。


「古賀吉之助とおっしゃる高知県立志会の方で、何とも挙動不審な....。」


「古賀?知らないなあそんな人。」


「先生そんな名前は偽名でしょう、土佐に古賀姓などありませぬ。恐らくは先生の記事に恨みを持つ者の手先....。」


イヤそこまで恨まれる様な記事書いてないし。それでも確かに怪しいことは怪しいが、俺に恨みがあるとすれば、そんなイカにも怪しい人じゃなく、政府筋の人だよ?



「失礼します!此方に犬養毅くんは居られるか?」

ややこしい事に、また玄関の方で俺を呼ぶ声が聞こえる。


「ナニモノか?!」

完全に俺の護衛と化した荒尾くんが、スルドく叫んで玄関へ駆け出していく。


ここまでソイツがやって来たって?でもここで俺が働いてるのを知ってる人は、かなり限られてるよ!


「い、イヤ私は怪しいものでは無い!」

「怪しいヤツは大概そう言うのだ!」


荒尾くんのツッコミが切れる!イヤマテよあの声は.....。


「お待ち下さい、ええい待てと言うのに!私は慶應義塾の学生だ!怪しくなど無い!」


ああ、アイツだ。で、何でアイツがここに来た?


俺は急いで玄関へと向かう。


「荒尾くん!いいんだソイツは俺の知り合いだ!」

「見ろこの若造が!イヤ!すいません!ぶたないで!」


何ともオカシナ奴が来た。法律を専攻している、尾崎行雄である。


「尾崎くんじゃない、どうした?」

「ああ犬養くん、話の前にコイツを...いえコチラを何とかして....」


俺は番犬の様に睨みつける荒尾くんを引き離し、尾崎を客間へと連れて行った。


「どうした?こんなところまで?」

俺と尾崎は面識はあるものの、専攻も違うしそれほど親しくしてはいない。


「矢野さんが君に知らせる様にって、私を使いに寄越したんだ。今慶應の門前で、君に会いたいと言う男が暴れて困っているんだよ。」


「マア!」

報知の女性社員が声を上げる。

「何と!先生、コレは危ない!私が護衛を!」


まあ待ちなさいって。混乱するばかりだろうが。


「先に報知に行った人が、今また慶応までやって来たってことかな?」


「きっとそうです!他にも心当たりがって言ってましたし。」

「ぬおおおお、木堂先生!私が命に変えましてお守りいたします!」


うるさいよ君たち。


「そんな深刻な状況なのか?」

「イヤ、そんな事は....その人は既に応接間で君を待っているよ。特に刃物を持っている訳でもなかったし。」


尋ねる俺に、尾崎は事情も分からず戸惑いながら説明してくれる。


「名前を名乗ったか?」

「ああ、立志社の大阪太郎と....。」


「フザケてるのか!斬る!」

「うああああああ!!!」

荒尾くんが仕込みから白刃を抜き放ち、尾崎と女子は驚き叫ぶ。


「止めないか!騒ぐな!」

俺が怒鳴りつけ、混乱はさらに深まった。


イヤもう...何の騒ぎだよ!誰かどうにかしてくれ!



謎の男の正体やイカに! ϵ( 'Θ' )϶

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― 新着の感想 ―
[一言]  当時は漢字はまだ、普通で”簡略体?”など、まだ出来てないでしょう。  簡略体が出来るのは、日本が”当用漢字”など、 漢字の整理をした後、それを見習って作ったと記憶している。
[良い点] 尾崎行雄がついに出てきた [気になる点] 当時、簡体字はまだ存在しなかったのではないでしょうか?
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