アツい熊本の男
沢山の感想を頂きました!
嬉しいですね〜。
是非皆様のご意見お聞かせ下さい!
「このような!このような失策の連続にあって!その失策を補うは、またしても!またしても増税である!」
論者は舞台でここぞとばかり息巻く。
ストレートに『政府が』と言ってしまうと、後ろで睨んでる官憲のオジサンが演説を中止させてしまうから、何処かボヤけた中身になるな。
それでもこの青梅村会場も、聴衆の熱気でムンムンだ。このところ地方の民権運動は、加熱気味に盛り上がっている。
マサアキが全国にばらまいた会報が、驚くべき効果を上げていた。コレに関しちゃあツヨシの働きを褒めてやりたい。
まずは『山城屋事件』の全貌とその処理内容だ。
関係者は裁判すら受けずに、軍内部の処分のみ。
明らかに関わっているっつーか主犯の山県卿は、降格処分で終わりという馴れ合いぶり。
次の号では軍内部から、幹部が不正融資に関わった証拠である『山城屋文書』を入手した、という記事。
コレの反響は凄かった。
陸軍の御用業者に過ぎない山城屋が....なんと65円の!公金からの融資を無担保で!
入手したっていうけどオメエこれって証拠あんだろうな?もう手遅れだが。
俺らの心配をよそに、普段月に一度発行されればいい方である会報が、発行部数を大幅に伸ばしていった。購読希望者が殺到しているんだ。
さらにさらには
①山城屋事件が、岩倉、大久保、伊藤の欧州視察の間に起きている事。
⓶不在の間に責任者であった西郷参議が、全ての処理をしてしまった事。
⓷最後に西南戦争があれほど長期化し、戦費が膨大なものになったのは、西郷に恩義がある山県が、手心を加えたためである事。
この事実を組合せて見せたあと、西南戦争の戦費の尻拭いが庶民の増税と、下士官以下の兵隊の待遇削減で埋め合わされる事を訴えた。
更に追い打ちをかけたのは、山県の受勲と年金、オマケに豪邸購入のすっぱ抜きだ。
.....文〇砲かよ?
この時代にどうやってそこまで調べられる?
マサアキの話じゃあ、これ全てツヨシに言われたまま書いたらしい。
スゴイんだなお前って....。
「更に聞いてくれ諸君!我らが同士はこの巨悪を見逃さず!粉骨砕身5年に及ぶ調査の挙句!やっと見つけたのだああ!『山城屋文書』をおお!!!」
いやお前が見つけたんじゃねえだろ。
俺も持ってねえからな?いい加減な事言ってんじゃねえ。
「演者!!中止!!!」
警笛の鋭い音が鳴り響き、官憲達は舞台上へ殺到した。
政府の高官とも軍部の首脳とも言っていないのに、『山城屋文書』と言っただけで中止と来る。
最近、官憲はこの言葉に特別敏感だ。
以前であれば、ここが演説会のクライマックスだ。
聴衆も混じっての大立ち回り。
発砲こそないが、ダンビラ振り回すヤツぐらいはざらにいた。
どっちも無事じゃあ済まない。
ある者は手足を失い、大勢の逮捕者を出して、愛国社系の地方組織はその都度ダメージを受けてきた。
ところが今はどうだ。
いや、コレは口幅ったいが俺の功績だ。
『後日を期せ』の合言葉と共に、非暴力徹底が広まった。
会報にも毎号デカデカと載せている。
コレが地方にも浸透した結果、演説会で暴れる者がいなくなった。
後日とは?もちろん国会ぶち上げだろ!
コレを徹底させるため、俺は土佐立志社と殴り合いに近い話し合いをまとめ、正月返上で地方を回って説得を繰り返した。
『非暴力』を訴えながら、暴力振るいまくる民権論者。さぞ不条理に見えたことだろう。
でも俺は命がけだった。
前世じゃあ詐欺まがいの土地商法で、一般人を泣かし続けてきた俺がだ。
ガラでもない民権運動に、銭にもならない意地の張り合いに、ここまで血が騒ぐのは何故だろう?
ともあれ俺の情熱的説得が実を結び、今や演説会で逮捕者が続出っていう光景は過去のものになった。
見てくれ、論者が1人だけが大人しく官憲に連れていかれ、ソレに殴りかかっていく聴衆は誰もいない。
俺の説得が実を結んだ後も、土佐立志社系の連中は静観の構えだった。
『ワシ等は今まで通りやるき、熊本モンで勝手にやってくれ』といった感じだ。
ところがだ、各所で俺達が発行する会報が大ウケ。
主催する演説会じゃ何時でも千を超える入会者を集め、熊本共同体のプレゼンスが上がりまくった結果、愛国社系のほぼ半数が俺たちと協調路線に入った。
土佐立志社も乗っかってくるしかなくなったらしい。板垣とは既に交渉が始まっている。
自分がテッペンに立てれば、国会規制同盟への参加を確約する、と言ってきやがった。
ここまで3ヶ月ちょっと。我ながらヨクヤッタ。
そうこうしてるうちにコワシさんから集合の知らせが届き、俺は上京がてら各地の演説会に参加して、様子を見て回っているという訳だ。この辺りの盛り上がりもスゴい。
多摩地区の豪農は、民権運動への意識が高いとは聞いていたが、想像以上の盛り上がり方だ。
そして....そいつは取材に来てくれていた。
「ハチローさん、何か顔の形変わってません?」
あたりめえよ、俺は命かけたんだぜ。顔ぐらい曲がるさ。
ツヨシは何か涙目だった。
「青梅くんだりまでよく来たな。演説はどうだった?」
「がなり声で何言ってんのか分かりませんよ。」
コワシさんみたいにべソかいてやがる。
「でも最高です。」
「そうだろ?熊本の男は最高なんだよ。」
「相変わらずしょっぺえ飲み方してんな。」
チビチビとビールを舐めるヤツを揶揄う。
青梅村の旅館の一室で、俺とツヨシは遅い晩メシを食った。
「前世じゃあソコソコ飲めたんですけどね。」
ツヨシは別に引け目を感じるふうもない。
「マサアキさんには、申し訳ありませんでした。」
マサアキは最後の会報を出したあと、とうとう発行禁止をくらって官憲にしょっぴかれた。
「なあにヤツも胸張って連れていかれたろうよ。ここまで大勢がヤツの言葉で燃え上がってんだ。冥利に尽きるというやつだろ?」
最もツヨシのネタが無ければ書けなかったわけだが。
「コワシさんが内務省勤務ですから、手を回して貰えるようお願いしましょう。」
「そうだな。拷問なんてされたら大変だ。」
全くあの人がいるだけで便利だよ。情報屋のツヨシに実力行使の俺。
俺たちは最強の3人だな。そういやあの人も熊本の男だ。
「軍の内部はどうなっている?」
「ネタの提供者には、もう隠れてもらいました。」
それに関しては何も聞かされていない。
徹底的に守る方針だろう。
「しかし軍内部は民権運動より遅くスタートします。コワシさんが言っていたように、竹橋事件は本来夏ぐらいに発生する筈ですから。」
「しかしこの状況じゃあ早まるかもな。」
「そうですね、可能性は十分あります。既にマサアキさんの会報が、兵士の間で読まれてるらしいという情報もあります。」
「それで早くなると、なにか不都合は出るかな?」
「規模的に小さな騒動で収まる可能性はありますね。でも国会規制同盟の行動も、早めなきゃいけませんよ。」
そうなるか。
この集合が終わった後、直ぐに立志社と話をまとめよう。
「コレで上手くいきゃあ、直ぐに国会設立か?おい?」
俺は笑いが止まらない。
命懸けの仕事が実を結ぶんだ。
少し調子に乗らしてくれ。
「イヤイヤ上手くいっても国会設立の詔が、史実より早めに出るくらいでしょう。」
「ナニそうすると、いつ俺達は議員になれるの?」
「まあ早くて10年後ってところでしょう。」
「いやもっと頑張れよオマエ」
多摩の山奥は未だ結構寒い。
でも俺達は未来に向かって、一晩中アツく語り合った。
明日は東京へ入って、久々に転生者たちの再会だ。




