大陸浪人養成
たくさんの方にブクマ・評価いただきました。
ほんっとうにありがとうございます!
不定期更新ですが、ほぼ毎日を心がけてまいります。
後半は三浦梧楼視点です。
「支那語を覚えてどうなるもんでねぇ!ひと暴れして手柄ァ立てんのが大事なんじゃぁ!」
「そういうごっだぁ!!」
...いや、じゃあお前らナゼここに居る?
ここは確か支那語講座が開かれていて、俺はそこの講師であるはずだが?
曽根俊虎さんに招かれた、『振亜会』での支那語講座第1日目、生徒達の反応は『支那語なんぞやってらんねえ』だった。
お前らなあ....。
「あんた達何を言っている!かたじけなくも、曽根先生が我々のために奔走して頂いた、我らの活動に重要な知識じゃ!そんなやる気のないことでどうする!」
おお、真面目な方もいるじゃない!
せめてそういう義理人情からでもいいから、授業を受けるモチベーション作って欲しいね。
まあしかし、よくもコレだけむさ苦しい男を集めたものだ。
いや女性がいるとは思ってなかったけどさ。
「犬養先生、大変失礼申し上げました。どうぞ講義を続けて下さい。」
そういう雰囲気でも無いですけどね。
俺に要求されているのは、この人達の中国語レベルを、半年間で清国内の単独行動が出来るところまで引き上げること。
じゃあ皆さん今のレベルどれくらい?って聞いたところ、冒頭の反応が返ってきました。
ここはひとつ、心構えから仕込んでやるしかないだろう。
「諸君の任務については、俺もよく理解している積もりだ。」
チョット上から目線。慣れてないけどね。
「勝手知らぬ大陸で、単独行動しつつ現地の様子を調査、協力者を探し、拠点を作り、今後の日本国政府の活動を支える礎を作らねばならない。そうだな?」
どうやら軍から派遣されている人と、民間から選抜された人がいるようだ。
この教室内で自己紹介は禁止されているので、お互いの身分については分からないが。
当然軍人っぽい人は真剣味が違う。民間人は口を開けば、さっきみたいな手柄話だ。
「俺の理解している限りでは、ひと暴れしてどうにかなる任務はひとつもない。そんな奴が大陸に渡れば、カモられ身ぐるみ剥がされ、揚子江に浮かぶのが関の山だ。」
さっき喚いたやつが睨みつけてくる。
「俺の任務は、お前さん達を最低限、死なずに日本へ帰ることが出来るよう、言葉や習慣を覚えさせることだ。文句は生きて帰ってから聞こう。今は俺の指示に従え!」
言葉を教えるのは、実は初めてじゃない。
前世でも新米には良くアラビア語の授業をしてやったもんだ。
ここまで優しく教えてやれば、大半のヤツは心構えを理解する。
外国生活舐めてると死ぬよって事です。
場が静まったので、皆理解したとみなす。
「半年間で単独行動とは要求が高く、その上余りに時間が足りない。更に俺の授業は週2回のみ。なので特別な方法で授業を進める。」
既に曽根さんにはおっけー貰っている。
まあ少々驚いてたけどね。
「先ずは各人の予習だ。授業中は基本的に日本語を使わん。全て支那語で行う。」
全員意味が分からないようだ。
口を全開して、呆然と俺を見ている。
「つまり教科書の内容は、全て自習で理解して来いという事だ。その上で授業の内容を全て支那語で聞けば、理解は深まる。」
「我々の質問は何語で?」
さっきの真面目くんが質問する。そう、君は理解したようだね。
「無論支那語だ。」
ブーイングが聞こえるが、ソレは無視する。
「もうひとつ、各人週に最低1回、横浜の支那商館へ行き事務仕事を手伝うこと。場所は後で教える。」
ブーイングは更に大きくなった。場所を知れば、更に文句が出るだろう。
支那商館とは名ばかり、実態は俺の行きつけのラーメン屋で、一日中皿洗いをさせてやる予定だ。
中国に行った後、皿洗いでも厭わずこなして、生き延びる為の特訓でもある。
ちなみに報酬は俺のラーメン代へと消える。
「コレが出来ぬものは、私から曽根殿に言って今回の任務から外れてもらう。その程度の人間が行けば、どうせ生きては帰って来れんからだ。」
再び静まった室内。分かったみたいね?
「大家理解了?那我們開始上課!!」
しっかし俺が大陸浪人育成する事になるとはねぇ....。
ソレもコレも、朝鮮改革派と接触するためだ!我慢だ!
「先程はありがとうございました。」
やってきたのは真面目くん。
俺より絶対若いな。少年と言っても良さそうな年頃だ。
「荒尾精と申します。」
真面目くんが名乗る。
「軍人ですね?」
俺が聞くと、声を潜めて答える。
「陸軍士官学校で学んでおります。」
エリート!良いっすねえ、見るからに優秀だよ。
「先程の授業には感服致しました!さすが一流の方がする事には、無駄がありません。」
「時間が無いだけですよ。ソレに君みたいな優秀な人材、他国の露と消えさすには惜しい。」
荒尾くんはニコリと笑う。
大陸浪人にもこんな人がいるんだな。
~~~~~~~~~~~~~~~
新暦1月も終わりに差しかかるある夜。
俺は陸軍省のある市ヶ谷から、赤坂まで人力車を走らせていた。
何しろツヨシからは、軍服での行動はせぬよう念を押されている。
当然騎馬で駆けつけるわけにはいかない。
到着したのはかなり庶民的な居酒屋だ。
とにかく騒がしいので、密談には却ってもってこいだという。
入口の縄のれんを潜ると立ち飲み台で1人、ツヨシが呑んでいた。
店内は人でごった返しているが、そこには入り込む隙間がある。
呑めぬ酒をチビチビと舐めている。相変らずシケた呑み方だ。
「おうニイさん!隣に失礼するぞ。」
他人を装えとも指示が来ている。
これだけ騒がしければそこまで芝居する必要も無さそうだが、念には念を入れる。ソレは俺も幕末からやってきた事だ。
「ビールをひとつ。焼き鳥を適当に。」
看板娘に注文する。
「ゴロ....いやダンナ、この店は初めてかい?」
ツヨシがドンクサく話しかけてくる。アレほど頭のキレる奴だが、芝居の才能は無いらしい。
「うむ、あの娘ナカナカ上玉だな。」
仕方ないので乗ってやった。芝居ってのはこうやって打つもんだ。
着流の懐から手を出してアゴを摩り、浪人時代を思い出す。
「1杯奢ろう。」
「ありがとうございます!」
イヤそうな顔をしやがる。面白えから少し虐めてやるか。
「ゴローさん.....もう呑めないっすよ!」
ツヨシが小声で叫び声を上げる。
わかったわかった、冗談だって。
「.....で、なんですか突然呼び出して?」
「動きがあったら知らせろと言ってたろ?チョットした話があったんで、まあ顔を見がてらな。」
「そんなに気軽には呼び出さないで下さい。」
冷てえこと言うなよ。
「まあ聞きなって。コレも蜂起に関わる事だ。」
俺は更に声を低くして言う。
ツヨシも文句を言うのをやめ、俺の声に聞き耳を立てる。
「山県卿の受勲が決まった。西南戦争の功績により、勲一等旭日大綬章と年金七百円が支給される。」
ツヨシはビクリと肩を震わせる。
マア怒るよな。
「俺も干城さんも受勲は受けるんだ。それほど非常識な事じゃ無い。」
俺はビールをグイッと流し込む。
「ただ論功行賞から外された、下士官達はそうは思わねえだろう。」
ウンウンと俺たち2人は頷き合う。
「受勲はすぐ発表ですか?」
「いや、3月頃になるだろうな。オマケでネタをもう一つ。あの野郎、でかい庭付きの家を物色中だ。」
今度はニヤリと笑う策士。
「ナカナカの成り上がりモノっぷりですね。ジワジワと軍内部で情報を漏らして行きましょう。」
「なあ俺は思うんだがな。」
そう言って俺は再びコップを傾ける。
苦味が口の中で鎮まるのを待って、言葉をつないだ。
「コレだけのネタだ。今すぐ陸軍全体に言いふらせば、たちどころに暴動になると思うんだが。」
「それでは十分で無いのです。」
策士はビールをナメナメ呟く。
「暴動がどの程度の規模になるかは、コチラでは調節できません。又しても軍内部でナイナイに処理されてしまっては、蜂起した下士官も無駄死にとなるでしょう。」
まあそりゃあそうだが。
「このネタを民権運動の組織に漏らしたのは、軍の外にも騒ぎを広める為です。むしろ外から軍へ噂が流れるくらいでも良い。騒ぎが広まれば、誰も山県卿を庇う事ができなくなります。」
「なるほどねえ。まあお前さんに任せたんだ。最後までやり切ってもらうさ。」
策士は目線を合わせぬまま、前を見据えてまた頷く。
「軍内部に漏らすのは、恐らく叙勲のタイミングがいいでしょうね。そこまでに、地方も準備が整います。」
そう言ってツヨシはニヤリと笑う。
「オマエ、顔がすごく悪いぞ。」
「ゴローさんに言われたく無いですよ。」
緒方貞子さんの訃報が入って驚ました。
犬養毅の作品書いている時に....
もちろん偶然ですが......
謹んでご冥福をお祈り致します。




