反山県派結成
問題はまだ解決しておりませんが、携帯にVPNぶっ込んで、根性で更新しました。
お見苦しい点ありましたらご容赦下さい。
香港デモ以降、通信環境が酷いのです!
負けずに頑張りますが、しばらく不定期更新となります。よろしくお願いします。
座敷には暖を取る火鉢が置かれ、温かな料理が運ばれてくる。
俺たちは西南戦争の思い出話に花を咲かせていた。
鳥尾さんは当時京都臨時政府で、物資手配を一手に引き受けていたそうだ。
「大久保卿・伊藤卿の下でやりがいのある仕事だった。」
鳥尾小弥太中将は若い。まだ30歳だ。
見た目にもそうだし、その溌剌とした喋り方も、若い!という印象を与える人だ。
三浦さんと同じ歳だというので驚いた。
「俺が老けて見えるっつーことか?」
「老成されておられると思います。」
ゴロちゃんは悪者っぽいんです。それだけです。
「犬養君の記事はもちろん読ませて貰っている。私は民権運動にはイイ感情を持ってないが、それでも君の文章には引き付けられるものがあった。」
鳥尾さんは率直にモノを言う、軍人らしい人だ。
「昨今の軍規は乱れている。それは君も感じている事と思う。」
そんなに陸軍の内情に詳しいわけじゃないですけどね。
「私は今の陸軍上層部に嫌気がさしている。軍規粛清のため、彼らと一緒に改革を行っていきたい。」
俺が驚いて他の2人を見ると、悪そうな顔をした2人はウンウン頷いている。
この人達に騙されてないですか?鳥尾さん。
「2人から君のことを聞いて、是非会ってみたいと思った。君のような新しい仕事をしている人であれば、私達の思いの及ばぬ方法で、上層部の不正を糾す事が出来るのじゃないかと期待したのだ。」
不正と来ましたか。どうやら山県派と聞いて警戒したのは杞憂だったらしい。
というより谷さんゴロちゃんも、いきなり山県卿の失脚を目指して全力暗躍中のようだ。
『軍上層部』などと言っているが、これはズバリ山県卿の事だろう。
しかしご期待は嬉しいが、俺も確認したいことは多い。
「中将閣下の目的は分かりましたが、私はその正当性を判断できるほど事情に詳しくありません。あなた方が正しく軍上層部が間違えていると、私を納得させる根拠をお持ちですか?」
すると鳥尾さんは、具体的な名前を出してきた。
「私は山県陸軍卿の下で、長い間仕事をしてきた。その中で.....あの方の利を貪るような収賄行為に目を瞑り続けてきたのだ。だがっ!もうそれも我慢の限度だ!若く前途ある青年たちが、田原坂でっ!人吉でっ!命を散らせたと言うのにだ。」
何と言ってイイか分からないが......。
今まさにやらなければならぬ事、山県卿封じのネタが向こうから転がってきた。
コレどう扱えば良いの?なんかの罠とかじゃないよね?
するとゴロちゃん、俺に向かって話しかけてくる。
「ツヨシ、山城屋和助という男を知っているか?」
「いえ......寡聞にして......。」
「まあ軍と政府で決着付けちまった事だ。世間様には知られていねえ。」
「お聞かせいただけますか?」
「今日はその話をしにきちょるキニ。」
三浦さん谷さんは悪い笑顔を絶やさず、食い気味に話を横取りした。
鳥尾さんは感情が高ぶっているのだろうか、目が潤んでいる。
或いはこの2人と行動した事を後悔してるのかも?
「俺と谷さんは今の体制、つまり山県卿と大山による陸軍支配体制に納得がいかない。特に利権に群がる政商たちとの関係で私腹を肥やす山県卿にだ。小弥太はその体制の中で、コレ以上ヤツらの汚職に手を貸す事が我慢ならなくなった。そこで今回、俺達と行動を共にする事になったんだ。」
俺はジトっとゴロちゃんを見つめるが、本人は天使のような清らかな顔を装っている。
悪人面ですから無理がありますよ。
「んで?その山城屋さんってのは?」
そう問い質す俺を、ゴロちゃんはまあまあと身振りでなだめる。
「このネタはヤバい。心して聞いてくれや。」
その顔で言うと本当にヤバそうです。
俺は気を引き締めた印に、背筋を伸ばして3人に頷いた。
「山城屋和助ってのは、元は奇兵隊の兵隊だった男だ。戊辰で負傷して商人になってな。その後は陸軍に入り浸りのよく居る政商の2人だったが、山県とつるみ出してから羽振りが一変した。」
「ウハウハってやつですね。」
「ウハウハってヤツさ。陸軍から特別融資を受けることが出来たんだ。そんな奴他にいやしない。融資総額がなんと65万円!」
「ろく...?」
ちょっとアリエン数字だ。
一般的な勤め人の給料が5・6円の時代、65万円といえば....250億円以上かな?
「コイツがおフランス行って飲む打つ買う、お大尽振る舞いで遊んでいるのを、視察中の宮家の殿に見つかっちまった。流石に陸軍もとぼけ切れずにテメエたちで調査尋問、哀れ山城屋は書類を破棄して、陸軍本部の一室で割腹自殺。」
「いや、それ完全に始末されてマスよね?」
「そりゃーそーよ、上層部は皆ヤツから金を貰っとったんじゃ。表に出たら全員打首ぜよ。ところがヤツ1人死んでメデタシメデタシ。」
成程ヤバいくらいクソな話だ。
「それが全て陸軍の中で処理されたんですかあ?」
「全く...お恥ずかしい話だ。私が腹を切りたいよ。」
いやいやアナタは死んじゃ駄目でずよ鳥尾さん。真面目すぎて扱い辛い人ですね。
「ところでそのヤバい話、表に出そうにも...なんの証拠も残っていない。」
「だと思うだろう?」
またまた食い気味にゴロちゃんが聞き返す。
「その時『処分した』とされてた融資証文などなど、いわゆる『山城屋文書』というやつが、当時の一切を取り仕切ったヤツの元に残ってるとしたら?」
「マサカ....鳥尾さん....。」
「どうじゃ、ヤバい話じゃろ?」
なに得意げに言ってんだジジイ。
こんなヤバい話、新聞屋に持ってきたところで記事にする前に発行停止だよ!冗談じゃない!
「何だよシケた面だな?こんな大きいネタがあれば、お前さんならヒト騒ぎ起こせるだろうよ?ええ?」
ダメだこの人たち。この時代のメディアを過大評価してるんじゃないか?
検閲がどれだけ厳しいのか、全く分かってないだろう。
「三浦閣下、よろしいですか。」
「その呼び方が気持ちわりい、梧楼でいい。」
「イヤイヤ、そうはいかんでしょ。じゃあ三浦さん」
「ふん。」
「そもそも新聞社は自由にモノを書けるモンじゃ無いんです。バッチリ検閲されて、都合の悪い内容があれば発行差し止め。その日の利益がスっ飛びます。」
ちっせいこと言うな、って顔をしてるそこの2人!
コッチは生活と学費がかかってんだぞ!
「ソレにそんな証拠品が出てくるとしたら、鳥尾さんがスグ特定されてしまうじゃないですか!仕事はおろか命にも関わります!」
その時、空気が裂けるような叫び声がした。
「命など、惜しくはないっ!!」
鳥尾さんは泣いていた。
「命を惜しんでした事ではない!組織を、仲間を守らねなならぬ、その一心でした事だった。」
滂沱の如く、涙を流すサムライ。
今にも腹をかっ捌きそうな、いや既に死を覚悟してここに座っているのか。
「あのようなヤツらとは思わなかった...。救うべき価値のある男と信じておった....。私は...馬鹿者よ...。」
手をついて項垂れる、誇り高い男。
「犬養君、私は死など恐れていない。ただこのまま、あヤツらがのさばり兵士の命を食い物にするサマを、それが私の卑怯な行いのために起きている事実を....見逃す事こそを恐れるっ。」
胸を打たれる言葉だった。この人の決意を無駄にしてはいけない。
こんな立派な男を、無駄死にさせちゃあいけないんだ。
「どうだツヨシ?コレでもまだ検閲がどうたらちっせえ事を言い出すつもりか?」
「いや、梧楼さん冗談じゃないよ。」
俺はちょっと笑顔で言った。
ゴロちゃんもニヤリとした。
「ツヨシよ。ワシも...ワシも干城って呼んで良いんじゃぞ?」
いやそういう事言ってんじゃないんですよ。
「鳥尾さん、アナタの気合いは確かに受け取りました。」
俺は立ち上がる。
なんかジットしておれなかったのだ。
「この件、俺に預けてください。必ずや大騒動を引き起こし、ヤツらを引きずり下ろして見せましょう。」
皆、俺を見上げている。
なんかとても恥ずかしいが、勢いが勝ってしまった。
最早引っ込みはつかない!
やってやるとも。
そして皆が立ち上がって叫んだ。
「よく言った!流石は大記者先生!カッコイイぜ!」
「よろしく...よろしく頼む...。」
「なあツヨシ!わ、ワシも干城って....」
なんか一人おかしいぞ!
だがこれはいける!俺はこのネタで、俺の武器で山県卿を封じ込めるんだ!




