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楽しめるものを作れ

いつもありがとうございます!

たくさんの方に評価いただきました。めちゃ嬉しいです!

ランクは気にしないようにしてますが、上がればやっぱり嬉しいですね!( ・∇・)


今後ともよろしくお願いします。

1878年(明治11年)1月10日

寒い日が続く中、この日は風もなく穏やかな小春日和といった具合。


夜には三浦中将・谷中将とお会いする事もあって、寒くならないのはありがたい。

前世の東京より寒い気がする。

温暖化が進んでいたって事なんだろうか。


福沢先生のご家族もすっかり日常生活に戻られ、毎朝のお子様方の襲撃も無事復活。

賑やかな毎日に戻った。

そろそろ授業も始まるし、20日には支那語の授業を俺が始めなければならない。


あの安らかだった正月は終わったんだね.......。


今年はいよいよ山県包囲作戦の段取りを考えねば。


さて、日中は箕浦勝人とマサアキさんへの企画案を考えることになっている。

宿舎の部屋を訪ねると、当人コタツに潜って何やら書物をしていた。


「カツンド!やってるな。」

「ツヨシか〜。まあ座れよ〜。」

コイツの方が一つ年上なのだが、知った事ではない。


「ほう、企画書か.......どれどれ。」


「マサアキさんの置いていった会報を参考に、少し親しみやすい内容を考えてみた。」

嫌な予感がしたが、とりあえず読んでみる。

うん、0点だな。


「何が0点だよ!必要事項は網羅してるだろ!」


「その発想からしてすでに間違っている。お前は誰を読者にするつもりだ?」

「え?そ、そりゃあお前、民権運動支持派の.......。」

「だーめだーめ、もうゼンゼンだめ。」


何不満そうな顔してんだよ!

丸めてポイされないだけ有難いと思え。


「一般市民啓蒙のための、全国版新聞を作ろうって言ったろ?何だこの『改革ヨロズ解決』ってのは?」

「身の回りで起きた民権運動の揉め事を、力尽くで解決する読者相談だ。」


「『全国県庁観察記』ってのは?」

「抗議運動に備え各県庁の出入口や人数を報告し合う、情報交換の場だ。」


「『勧誘イロハ』」

「活動家の勧誘手口を紹介する......。」


「オマエふざけんなよ?」

「マジメにやってるなつもりなんだが。」


ブラックなパロディとしては面白いが、コレでウケるのは愛国社のテロ予備軍くらいだろう。

勝人はマジメな奴なので、バックナンバーをベースに面白くしようと考えたら、こんな方向に進んでしまったらしい。


「ふ〜っと、先ずアレだ。俳句、和歌の読者投稿欄を作るぞ。」

「俳句?和歌?」

この時代の少し後だったと思うが、正岡子規が始めてバカ受けした俳句コーナーがあったはず。

アレをパクろう。


「それに演芸だ。歌舞伎の評論や落語・浪曲の批評。」


「そんなん誰が読むんだ?」

「馬鹿め、女子供に決まってよう?」

「そんな読者を作ってどうする?」

「そんな読者こそ、民権運動から一番遠い、要啓蒙の一般市民だろうが!」


勝人はキョトンとしている。

いーから企画書作れ。ちゃんとメモしろよ!


「そこに民権演説会の日程も入れておくんだよ。」

「おお、なるほど。」

「さらにアレだな、料理講座と美食紹介!コレは絶対必要。」

「そーかー?」


全くセンスがないやつだ。


「社説やら民権運動支援やらは、別途キチンと記事を掲載すれば良いんだよ。大事なのは如何に読者を獲得するかってところだ。お堅い内容だけじゃなく、楽しめるものを作れ。」

企画書の作り方まで指示して、明日までにやっておくよう言いつける。



午後は郵便報知へ記事を届けた。

栗本先生もいらしたので、新年の挨拶も済ませておく。


「おお、ツヨシか。」

「先生、本年もよろしくお願いいたします。」

「ウンウン。そうじゃオマエに号を考えておいてやったぞ。」


新年早々何ですか?先生に考えられたら、断れないじゃないですか!


「ウン?何やらありがた迷惑的な事を考えたりしとるじゃろう?」


「まったくもって誤解です。ありがとうございます。」

やたらカンがいい先生である。福沢先生とは違った意味で気が抜けない。


「『木堂(ぼくどう)』というのはどうじゃ?論語にある、『剛毅朴訥(ごうきぼくとつ)仁に近し』から取ったものじゃ。」


....あれ?なんかイイじゃない。コレなら使えるな。


何しろツヨぽん今まで『古剣堂』なる厨二っぽい号を使っていたのだ。

『木堂』の方が数倍良い。


「ありがとうございます。早速記事の記名にも使わせていただきます。」

「うん、そ、そうか?ソンナ気に入った?いや、そうじゃろ!ワシ的にも中々の出来じゃと思うとったんじゃ!」

なんか不自然だなジジイ、盗作じゃねえだろうな?


「ところで本日はご依頼のあった仕事ではないんですが、新しい企画をと愚考しまして。」


「ほ?忙しいお前さんが珍しいのう?どれちっと読ませてもらうぞ。」

栗本先生は無遠慮に原稿を取り出して読み始める。

原稿用紙で10枚ほどの文章だったが、読み進めるうちに表情が険しくなってくる。


「お前さんコレは.......書籍批評か?」


「と申しますより、報知の誌上で公開討論をしては如何でしょうか、という企画のご提案です。お相手は大蔵省の田口卯吉さん。先ごろ『自由交易日本経済論』なる本を出版され、たいそうな評判です。」

「なるほど。そこにケンカを売って話題になろうという魂胆か。」


ダレが炎上商法だ。


「話題にもなりましょうが、それだけが目的ではありません。私は同じ経済を研究する者として、彼と議論する機会が欲しいし、その一部始終を新聞で読めれば読者にとっても面白いと思うのです。」


「フム、趣旨は面白い。中身はどの様に進むのかな?ワシは専門的なことは分からぬが、簡単に説明してみい。」


いいでしょう。ジイサマ1人説得できない様では、公開討論などできません。


「先ずはこの方の自由交易主義、余りにも原則論でありすぎるところが問題です。貿易が自由である方が良いのは当たり前。しかしそれには幾つもの前提が必要になります。①に実力の均衡、⓶にその正当性、⓷に将来的展望の有無です。」


「まだワシには理解できておらんぞ。」


「コレからですよ。さて田口さんが主張するのは、保護主義の欠点です。保護した産業はいいが、国家全体は物価が上がって損をする。オマケに手段は関税だが、コレは最終的に消費者の負担増になる。最後に国家は規制によって、特定財閥が儲かるように誘導しているだけだと。」



「おお、コレはわかりやすいわ。」

「そう、田口卯吉さんの優れているのは、この分かりやすさです。」


「勝ち目はないな。」

なんて事言うんだジジイ。


「とんでもありません。何故産業を保護するのかといえば、①の実力均衡の問題があります。実力の違う内外の産業を同列に並べると、国内産業が疲弊する。そして⓷の将来的展望に欠け、国力を伸ばせなくなる。この点、田口さんは短期視点に過ぎるのです。」


「ほうほうなるほどなぁ。しかし彼がいう通り、関税の最終負担者が国民であるのは間違いない。それが⓶の正当性っちゅうヤツじゃろう?」


「それも一面的な見方すぎます。輸入品の原価が関税で上がり、販売価格に影響する場合、価格をそのまま上げれば安い国産が売れる。」

「そうだな。」


「それが品質も同じならば、輸入品は価格を調整せざるを得ません。その場合販売元は海外輸出元へ原価交渉する事も可能です。実際の商売とはこういうもので、田口さんの描く商売は何やら机上の話のように見えます。」


「ふむふむ。」

栗本先生は食いついてきた。ココからがキモである。


「つまりお題は自由交易でありながら、彼は『自由』のみを論じ『交易』を論じていない。そこに大きな問題があるのです。」


「うむ!よろしい!採用決まり!」

さすが社長、判断早いな。


俺はこの先生の操縦方法にかなり精通してきたと思う。

トリセツ作って藤田さんに売ってあげようかな?


「誌上公開討論とは面白い、必ず部数は伸びるじゃろう。」

「ご期待に沿えるよう頑張ります。」


「オヌシの学問もいよいよ実用まで来たわけじゃな?先が楽しみじゃのう。」

「申し上げておきますが、勝敗を付けるのが目的ではないですからね。議論と啓蒙が重要なのです。」


この時代まだケインズも出てきていないし、経済学はどちらかといえば経済政策学というような感じ。

だから言葉の使い方も慎重にやらなきゃあね。


俺はこれから発言力を強め、自身の武器としなければならない。

福沢先生は正しい。これからは軍事や政治じゃ世は動かない。


経済が世界を動かすんだ。



さて、夜は約束の時間前に芝大門へ。

「コンバンハ、御無沙汰してます。」

「いらっしゃいませ。お寒い中ありがとうございます。」


お喜多さんが玄関で出迎えてくれる。

相変わらず綺麗な人だ。


「お客様は2名様とうかがってましたが、何やら3名様お越しになってまして。」

「え?聞いてないな。じゃあ準備がなければ俺の分は違う料理でも。」

「板場と話してあります。お料理は問題ございません。」


部屋はこの前の部屋とは違い、真ん中の座敷だ。寒くないようにとの心遣いだろう。


「お連れ様お着きになりました。」


お喜多さんが部屋に声をかける。

部屋の中には見慣れた顔が2人、谷さん三浦さん。


「おお〜、懐かしいなツヨシ!」

「マッコト久しぶりじゃき!」


2人の声が上がる。

「御無沙汰いたしました。本日はわざわざお越しいただき、誠にありがとうございます。」

「堅いのはなしじゃあ!飲もうぞ!」


「えーその前に恐れ入りますが......。」

俺は目でもう一方をうかがう。


おおそうだったと三浦さん。


「ツヨシの事を話したら、ぜひ会いたいと言ってな。急で悪いが連れてきた。」


「いや勝手申し上げて済まない。鳥尾小弥太と申す。」


おおアナタは知ってますよ。この世界に来てからの知識だけど。

陸軍中将の鳥尾さんですよね?山県さん直系の部下じゃないっすか?


何やら風向きが違うような。

今日は作戦会議は無理?でしょうか?





ちなみに箕浦勝人さんは、史実では犬養と同じ時期に郵便報知で働いてます。

法に触れる記事で投獄されたり、カナリ過激な文章も書いた人のようです。

林正明さんも実際に出版物を発行した方で、前回書いた社交クラブは、実際には2年後に『交詢社』として実現しています。


すいません!少々通信環境に問題があり、解決するまで投稿ができなくなってしまいました。

なるべく早めに解決し、再開したいと思います。

ご迷惑おかけします!

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