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俺が何をすればいいのか知ろう

サブタイとかメチャメチャでした。

٩( ᐛ )و

修正してお詫び申し上げます…

多分翌朝、俺は藁の寝床から起き上がった。

時間の感覚が無さすぎて不安になる。


小屋の扉を開けて表に出ると、そこは一面の畑だった。

戦場からは随分と離れた所のようだ。

こんな長閑な生活の横で、万を超える人々が殺し合いの真っ最中なのだ。


「犬養さん、起きたんかい。気分はもうすっかり良かと?」


用水路の土手に寝転んでいた当間満男が、半身を起こして話しかけてきた。


「おはよう。満男さんはどこに寝泊まりしてたのさ?」

「ここに決まっとうくさ。野宿しとったけん。」

「ですよねー。」

その臭さは野宿で磨かれたモノでしたか。


「もしすっかり良かとじゃったら、ボチボチ仕事ば戻らんといけんかろう?」

満男はやや遠慮気味に聞いてきた。


一応身体を気遣ってくれているようだが、早く行動を開始したいってとこだろう。


俺も当然早く動きたかった。この身体が果たしていた社会的役割を知り、早いとこ引き継いでいかなければこの時代で生きていけない。


「そう、今日からちょっとずつ行動を再開したい。未だ思い出せない事がたくさんあるので、整理しながら少しずつね。満男さんも手を貸してくれ。」


「おお勿論たい!そういう約束やけん!」

満男は笑顔で応えてくれた。


「先ずは朝飯を食おうか?ミナさんに何か準備してもらおう。」

「おお!朝飯!すまんがワシ金はないけんね!」


ですよねー。知ってました。


俺たちはミナさんたち家族が住む母屋に上がり、朝食をいただいた。

お粥と漬物という簡素な食事だったが、戦争に巻き込まれた地域でコレは十分ご馳走だろう。

満男くんは何倍もお代わりしていた。

こら満男、俺が食べづらくなるだろうが。


「ありがとうございました。お陰様で身体には支障ないようですから、この後出発しようと思います。」

些少ですが.....と言って、俺は和紙で包んだ金を差し出す。


ミナさんのお母さんだろう老婆が、黙って包みを受け取り拝むように押し頂いた。


そんな入ってないから。


でも金銭感覚が掴めてないから、あまり自信はない。

満男が“10銭も包んどきゃよかばい”と言ってたので、素直に従ったまでだ。


「さて、ここから熊本城までどれくらいかかりますか?」


俺の質問に、老婆とミナさんはギョッとしたようだった。


「こげんいくさの最中にお城ば行きなさるか?」

心配そうに老婆が言うが、こっちも事情がある。


「熊本鎮台司令官の谷少将に会わなければならないので。」

「はあ〜、そらしょんなかばい。お城まで10里はありますが。」

10里ってえと40キロですね?

1日じゃ無理だなぁ。


それでも行かなければならないのは、まず俺の仕事について調べなければならないという理由が一つ。


それには誰か俺を知っている人を探さねばならないが、従軍記者だから軍に接触するのが早そう。

さらに俺の持ってた通行許可証は、熊本鎮台司令官の谷少将が出してくれたものだったこと。


コレらの理由でまず熊本城まで行こうと思ったのだ。

熊本鎮台って熊本城の事だったよな?


すでに通行証を頂いてるって事は接触出来ていたわけだから、熊本鎮台を巡る薩摩軍の包囲網は突破されている訳だ。


俺の日本史力はかなり低いが、九州出身の友人からその辺聞いた事がある。

確か西南戦争は熊本城の攻撃から幕を開け、包囲が解けるまでかなりの時間を籠城してたはず。


あと当然、司◯遼太◯先生の作品から得た知識な!


俺は新聞記者なわけだから、荷物はある程度持って来てるだろう。

自分がどんな記事書いて、誰に送んなきゃいかんのか、その程度のことは分かるんじゃないかという期待もある。


「さてそれじゃあ出発前に、満男くん。」

「ワシ?」

「井戸で水使わしてもらいなさい。」


ザブザブと水をかけて、満男のアタマを流していく。

予想通りどす黒い水が流れ、全身も擦るほどに垢が浮き上がってくる。


「どんだけ風呂に入ってない?」

「まあ.....半年以上は。」

俺は無言で水をかけ続けた。


聴けば今日は新暦の4月末という事だ。

未だ肌寒いが少し我慢しろ満男。

俺と行動したければ、その致命的な臭さはNGだ。


手ぬぐいを借りてすっかり拭った後、俺と満男はミナさん家族へ別れを告げて、何となく西に向けて出発した。


「さっき話した通り、先ずは俺の荷物探し出しだ。記憶が戻らないなら荷物から調べるしかない。」

「そりゃあ事情は分かるけど、何とも遠回りな作戦じゃ。」


2人はテクテク歩きながら、今後について話し合う。

満男は俺の舎弟として付いてくると言うが、書生と名乗れと言っておいた。


書生!いや〜明治っぽくて良くない?

しかし考えてみれば、俺も満男もさほど歳は変わらなそうだ。

俺っていくつ⁈

調べないと迂闊に口もきけないな。


田園の続く道をひたすら歩き続ける。

後ろに見えてるのって阿蘇山か?

なんか長閑すぎて戦場って感覚がない。

同じ内戦のシリアは農業なんてやっている場合じゃあなかったよなぁ。


そんなこんなで1時間ほど、見ると前から人力車が走ってくる。

こんな所に何故人力車が?


「そこの旦那!新聞の記者さんやろう?」

「そうだけど?」

「どこまで行くんじゃ?乗ってきんしゃい!」

おお!コレはラッキー!

明治の田舎ってこんな便利だったの?


「軍関係者目当てに、車屋が増えとるねェ。」

「そうなのか。まあ折角だから使わせてもらおう。」


満男が熊本城と言うと、流石にちょっと遠かねえとオッさんは呟く。


「お城ば何の用があっと?」

「鎮台司令官へ会いに行こうと思って。」

「司令官ばいうたら谷少将のコツやなかか?谷閣下なら大津の駐屯地ば入られとうばい。」


「ホントに?そりゃあいいこと聞いた!大津の駐屯地って遠いっすか?」

「こっからやけん1里とちょっとじゃ。」


大ラッキー!


オッさんは細い体の割に力強く、俺と満男の乗った車をいとも容易く引いて行く。

舗装されてない道はダイレクトな振動を伝えてくる。

試乗レビューとしては.....星一つだなあ。

口を開いたら舌噛みそうなので、2人とも黙り込んでしまった。


オッさんは益々加速しながら、大津の駐屯地へ砂利道を駆け抜ける!


1時間ほどだろうか、俺たち2人がヘトヘトになった頃、ようやく人力車は駐屯地らしき場所へとたどり着いた。ココからは歩いて行けとオッさんが言う。

俺たちは逆らう気力もなく、ゼニを言い値でカッパがれて駐屯地へ放り出された。


「犬養しゃん.....。こ、こらあ歩いたが良かったとじゃなかか?」

「悪かった.....。つい観光地気分になっちまって。」


地べたに這いつくばる2人。

そこに通りかかった将校らしき人が、俺を見て声をかけて来た。


「おい!キサマ!」

ふえっ!何すか?

「キサマ郵便報知の記者ではないか!無事だったか?」


.....ああキサマって普通に軍人さんの使う二人称なのね、怒ってるわけじゃなく。


「はい、おかげさまで。爆発に巻き込まれましたが、軽傷ですみました。」

「そうか良かった!谷閣下も心配しておいでだったぞ。」


マジ?将軍とそんな親しかったの?ツヨぽんやるよね!


「それはご心配をおかけしました。谷閣下は今どちらで?」

「今は会議中である。17時頃に仮宿舎に伺うと良い。小官が伝えておこう。」

「ありがとうございます!」


どうにか立ち上がって礼を言う。

早速知り合いっぽい人に会えて良かった。

あれ?もしかして俺の投宿先もココなのか?ああ.....行っちゃったよあの人。


「俺の宿泊場所もココなのかなあ満男.....おや?」

満男が見当たらない。

辺りを見回すと、馬が繋がれた柵の後ろからコソコソ出て来た。


「さすが記者ばやっとうと、将校にも知り合いばおるんか。便利じゃねー。」

「いやアンタいま隠れてなかった?」

「さあ次は犬養さんの荷物ば探さんとね!」


満男はそう言って、自身の行動をうやむやにしてしまう。

まあ何ぞ事情はあるんだろう。今後も助けてもらう事もあるだろうし、余り突っ込んだことも聞けないが。


だが.....兵隊を避けて隠れる事情なんて、マトモな理由ではないな。


この後も同行を続けるのであれば、少なくとも目的だけは聞き出そう。

そう決めて俺はメガネ坊主の後姿を追っかけた。



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