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福沢諭吉という男②

タイトルを片仮名表記にしました!

・・・・特に理由はありません。


今後ともよろしくお願いします。m(_ _)m

年末はかなり慌ただしく過ぎた。

お正月まで後4日、大掃除が終わっても、ひと息つく暇はない。


先日三浦少将から........モトイ、中将から返事をいただき、年明けにも直ぐ会おうじゃないかとご提案いただく。

10日に皆の都合がつきそうだから、場所を用意せよとのお達し。


俺の都合は聞かれていない。


ハイハイ、場所なんてよく知らないから、この前の紅葉館でいいでしょ。

この場合俺のゴチになるんだろうか。

もしそうならコワシさんに必要経費として付けておこう。



そして曽根さん渡辺さんの土下座組からは、やはり年明けにも直ぐ授業開始をと言われ、打ち合わせに呼び出される日が重なっている。

京橋のハズレあたりに場所を確保し、いよいよ開講という運びになってしまうらしい。


俺のスケジュールもタイトにならざるを得ない。

給料いただけるんですよね?ボランティアじゃないですよね?


根掘り葉掘り問いただすと、どうやらこの組織は軍部の情報機関予算で運営されるもののようだ。

そんな訳だから心配すんなよ、くらいのノリな曽根さん。


民間人巻き込んどいてそれはないでしょう。陸軍のヒモ付きとか....抜け出せない悪の組織みたいなマイナスイメージしかありません。

この人つまり大陸浪人(スパイ)系なんすね。先生に支那狂いとか言われてたし。


肝心の朝鮮改革派は何時ごろ来るんでしょう?


それとなく聞いてみると、既に来日して関西に潜伏しており、日本語の学習中だという。

東京へは早くて秋ぐらいに来れるらしい。ヨシヨシ。


この日の打ち合わせで、年が明けた20日から講義を始めることとなった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「そんな訳でして、俺が此方へ原稿を収めるのにも若干影響しそうです。」


午後は有楽町の郵便報知で、藤田茂吉さんとこの件の相談中だ。

「そうかい。まあ福沢先生の肝煎じゃあ君も断れんだろうが........。ウチも看板記者が記事を書けないんじゃ困ったことになるね。」


藤田さんはそれでも随分と穏やかに相談に乗ってくれる。


「ワシが一言、言ってやろうか。」


本日の打ち合わせには、社長の栗本鋤雲(くりもとじょうん)先生も同席されている。コレが、いやこの方がヤバい。

福沢先生とは旧知の中で、かつては共に幕臣として活躍されていた。


元は医師として活躍されていたという事だが、蝦夷地へ派遣された時に、病院建設から薬屋経営、港湾開発に食肉牛牧畜と八面六臂の大活躍をしてしまい、いきなり箱館奉行に取り立てられたスーパーマンだ。


そこからはフランス人とのコネクションを活用して外交奉行を務め、製鉄所建設や軍事顧問招聘などに尽力。

維新後は再三の政府の招聘に『二君に仕えず』と応じず、新聞社経営に勤しむ。


まあこの『二君に仕えず』っていうのが、福沢先生と気が合う所なんでしょ。

郵便報知が慶応から人を紹介してもらっているのも、栗本先生と福沢先生との繋がりが基になっている。


「いや栗本先生に仰っていただきましても......。」

「揉め事が増えるだけろう?先生ほら、ダメです余計なことしちゃあ。」

「余計な事たあなんだ!」


栗本先生はチョー喧嘩っ早い。

幕臣で新政府に出仕している勝海舟や榎本武揚なんかは、喧嘩売られるのがイヤであからさまに避けて回るらしい。栗本先生に言わせれば、この偉人たちといえど、二股かける腑抜け野郎ということになってしまうのだ。


福沢先生とは仲良くお願いします。かえって俺の仕事が増えそうな気がします。


「代わりと言っちゃあ何だけど、もう1人ご紹介いただけるよう福沢先生に頼んでもらえるかな。」

「それでしたら直ぐにでも!」

両先生による最終戦争(ハルマゲドン)回避で俺と藤田さんの考えは一致。


まだブツクサ言っている栗本先生を放置して、俺は三田へと戻った。



早速矢野さんを捕まえて、この件をご相談。


「犬養も随分と忙しいからな。いいだろう、私から先生にご相談してみよう。」

「報知へもう1人紹介とすれば、勝人(かつんど)が良くないですか?」


箕浦勝人(みのうらかつんど)は慶應で俺と一緒に経済学を学ぶ学生で、俺とは比較的仲のいい友人だ。

実は前から新聞社で小遣い稼ぎがしたいと相談されていた。


「箕浦か。先生に聞いてはみるが、こんな話であれば恐らく尾崎を推薦しろと来るだろうな。」

「尾崎行雄ですか。」


法律を学ぶ尾崎とはあまり接点がない。

俺より年が下で、すごく優秀だということはよく聞く。

ここは俺の意向ではどうしようもないので、矢野さんへお任せする。すまんカツンド。



「それから犬養よ、30日に築地精養軒で卒業生の集いがある。お前と......そうだな箕浦でいいか、場所をとって当日の差配と速記を頼む。」


うええぇ、年末まで先生のお世話っすか?綾さんと一緒に買い出しとかなら喜んで。


「当日は先生含めて10人ほどだな。5時ごろから始めるから、よろしく頼む。」


ワカリマシタ。

一つ動くと一つ仕事が増える。ホント忙しい、もうどうとでもなれ。



慶應義塾の講義は既に26日に年内終了となっており、年明けは16日から。

明治の時間はゆっくりと流れているのに、俺の周囲は休むことを知らない人ばかりだ。


そして30日、俺と勝人は予定時間の少し前に、精養軒へ集合していた。


「ツヨシすまんかった!本当に恩にきる!」

のっけから勝人はヘコヘコ礼を言う。


「おや?郵便報知の件か?」

「ああ、お前が推薦してくれたんだろ?助かったよ、コレで今の労働から解放される!」


コイツが採用されたって事は、尾崎行雄は断ったのかな?

何にしても良かった、コイツには余計な事は言わないでおこう。


「そうだいかにも、俺が推薦しておいた。」

「ありがとうありがとう、今度支那そば奢るから。」

それはスバラシイ。横浜最高!オマエ朋友!


「今日の参加者って誰だか聞いたか?」


出迎えの客札を確認しながら、勝人が訪ねてくる。

店先に出された札には『福沢先生を囲む会』としか書かれていない。


「矢野さんから名簿をいただいている。給事は店側がやるし、オレたちは酒を切らさぬようにして、速記をしておけば大丈夫だ。」


勝人と2人で名簿を確認。

現在慶應義塾で講師を務めている、矢野さんと小幡篤次郎さん、後は知らない人ばかり。


「オレたちのメシは?」

「そんな暇があると思ったか?」



案の定そんな暇はなく、箕浦は先生のお話を必死に速記、俺はビールを皆さんに運ぶ係。

ボーイは何やってんだ!何でお酌まで俺がやんだよ!


「犬養は小泉に会ってなかったか。」

先生は上機嫌で紹介してくれる。

「大蔵省で働いておる。この前ロンドンから帰ったばかりという売出し中の秀才だ。」


「それが先生、もう売約済みでして。」

小泉さんが爽やかに笑う。こーの人わイケメンだぜ!


「何だそうか、何処に動く?」

「以前お話ししました、貿易銀行の構想がスタートします。」

「おお、おお、まさしくお前しかできん仕事だな。」


何だこの人、先生にここまで言われるなんて相当期待されてる人だな。

小泉信吉と名簿に書いてあった人だ。貿易銀行って横浜正金銀行かな?


「君が犬養君か。郵便報知の戦地直報、ロンドンで読ませてもらっていたよ。君の文章だけは本当に感心した。」

オマケにイイ人ですか?リア充過ぎて殺されませんか?


「マッタク見事な記事だったよ。留学生皆で、奪い合って回し読みしたもんだ。」

そう言うのは中上川さん。先生の甥だそうで、やはりロンドン留学組だ。


「彦次郎!お前はまだ浪人生活を続けるつもりか?」

先生が中上川さんへ厳しくツッコむ。


「いやあ伯父さんとんでもありません!僕も親に世話になるのはゴメンですよ。今度工部省へ出仕することにしました。」

「井上卿の誘いか?」

「はい、すっかりお世話になることに決めました。」


井上馨に世話になんのかよ!イイですねえ優秀なんですねえ!

なんか生きてる世界の違う人たちだ......前世では絶対同じ場所にいたことが無い。


「いやあ君があの郵便報知の?コレは逢えて嬉しいよ!ウチの家族は皆キミのファンでねえ!」

眼のギョロっとしたコチラのオジサマは?


「いや失礼、私は早矢仕有的(はやしゆうてき)という。慶應義塾にはいつも文具をお買い上げいただいている業者だよ。」


あああああ!!!丸善の早矢仕さん?!

名簿には林って書いてあったし、気がつきませんでした。

ハヤシライスの生みの親(諸説あり)じゃないですかー!


ミンナ卒業生ですか..........。恐るべし諭吉先生のネットワーク!


俺が早矢仕さんと西南戦争時の話をしていると、横からま11人話しかけてくる。

「あの記事は確かに真に迫っていた。俺は現場にいたからよう分かっとる。」


「え?従軍しておられたのですか?」

「しとったさ、熊本共同隊にな。」

熊本共同隊って?あれ?ハチローさんの作った部隊じゃないか?


って事はこの人、薩軍側で参戦したって事?


「まったく正明よ!オマエは何をやっておるのだ!」


先生がイ・キ・ナ・リ説教モードになった。最近はキレ方の速さが半端ない。

沸点が思い切り下がってきている。


しかし流石は卒業生の集い!全員既にワレ関せずモードであらぬ方を向いている。


「下らぬ戦争に危うく命を失いそうになり、九死に一生を得て戻ってきても、あの下らぬ民権論者と付き合いが切れぬ。」

「自由民権運動は、先生も支持しておられるではないですか......。」

マサアキさん必死の抵抗!しかし相手が悪かった!


「愛国社がらみの暴力に訴えるやり方が下らんと言っているのだ!あの中江兆民や宮崎八郎までが、最近では過激化しているというではないか?ただフランス人のやる通りにやっていればイイというものではない!自らの頭で考える事を放棄しては、維新の担い手にはなれんのだ!それがなぜ分からん!!!」


倍返しですよ、バイガエシ。

一言いえば百言帰ってくる。ああ、コレは百倍返しか。


しかし先生もハチローさん知ってるんですね。意外と有名人だな。


「お前も民権運動などやめ、実業家になれ!その恵まれた才能をムダにするな!」


静まり返る室内。怒られたマサアキさんは、まだブスッとしたまま不満げだ。


「よしこうしよう。此処にいる全員が、3年後には実業家となって、社交クラブを結成する。その時までに正明よ、イッパシの実業家になっておくんだ。いいな!」


場はざわつく。何言い出すんだろうかこの人......。


「俺が発起人だ。お前らの反対は受け付けない。」

福沢諭吉は高らかに宣言した。


凡人の及ばない高みからこの世を見渡せるその目に、一体何が見えているのだろうか。


教え子の1人が民権活動家であるのが不満、それでなぜ社交クラブを立上げるのか?


俺に分かるわけはないのだ。

多分此処にいる選良たちの誰にも分かっていない。


「役人になった奴も戦争に行った奴も、その時までに必ず実業家になっていろ。いつも言っている通り、日本を作るのは政治でも戦争でもねえ、経済だ!分かったな!」


なんかメチャクチャだ。でもこの場にいる全員が、この人の言葉にシビれている。

福沢諭吉は格好いい。

だからこれだけ多くの人材が、この人から離れられないでいるんだ。


俺も勝人も学生ながら、先生の言葉で胸に火がつくような、そんな感じを覚えていた。


でも先生、俺はやんなくてセーフっすよね?まだ学生だし?




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