福沢諭吉という男
いつもご覧いただきありがとうございますm(_ _)m
今日は日本はお祭り騒ぎでしょうね・・・・
テレビで雰囲気だけ味わう事にします。
そして俺は日常へと帰還し、暫くはあの熱い紅葉館の夜と俺に与えられた使命を考えずに、勉強に没頭することにした。
いくら前世で40過ぎのオッサンであったとはいえ、この世界では未だ学生だ。
重い、重過ぎるのだよ。その使命が。
福沢先生のお宅で家族に混じって子供たちと遊び、先生に怒られ勉強し、綾さんと手紙をやり取りして矢野さんに怒られ......なんてやっているうちに、ようやく落ち着いて来ました。
大久保卿暗殺の件だけは、あの翌日すぐに書状を出した。
そしたら夜には返事が来ました。曰く、言い忘れちゃってたゴメンなさい、だった。
いや勿論それだけじゃないが。
大久保卿が生き延びれれば、伊藤博文に権力が集中しないで済む。というより大久保卿主体の政治が続く。となれば山県卿がそれほど力をつける機会もない、ってな分析を長々といただきました。
じゃあそれでいいじゃん、反山県キャンペーンなんかいらなくねえ?とも思ったが、そちらは予定通りヨロシクと書いてあった。
いえそんな簡単には.......。
まあ来年の夏ぐらい?って話だったし、そこまでに少しずつ進めていきましょうかね。
先ずは反山県勢力の谷さんと三浦さんに会って、近況を聞くことにしよう。取り敢えず手紙でも書くとするか。
それと朝鮮関係は福沢先生の交友関係マチ。
えーっと、以上。
うっああー!こんなんでイイんか!無理無理無理!とてもじゃないが世界を変えるなんて出来ない!
はあ......あの2人は早速取り掛かっているんだろうな....。
行動力に差がありすぎるよ。まあ、俺学生だし。勉強しよ。
そんなある日、先生からいつもの調子で調べ物を頼まれる。
「ツヨシ、今日はおかしな奴らが来るから、チョット調べ物しておいてくれ。」
「分かりました。おかしなとは?」
先生の表情は、言葉と違って嬉しそうだ。
「昔の教え子が来る。曽根俊虎と渡辺洪基。妙な取り合わせだな。」
マッタク聞いたこともない方々で、妙かどうかすら分かりませんが。
「渡辺は外務省勤務、曽根は海軍だ。」
「お二人とも卒業生ですか?」
「うむ、出来の悪い奴らだった。」
センセイったら相変わらずツンデレ。
「それでお調べの件は?」
「この2ヶ月ばかりの支那・朝鮮がらみの新聞記事を書き出しておいてくれ。簡単なものは見出しだけでいい。複雑な件は要約を見出しの下に一行で頼む。」
あら?それくらいなら先生頭に入っているだろうに。
「分かりました。」
「これから外出して、3時には戻るからそれまでに頼む。奴ら夜は食事していくから、お前も同席しな。」
そんな訳で今日は古新聞と格闘です。
午前中は講義。昼メシは抜きで学舎内の図書室で調べものとメモ書き。
こういう時は時系列順でなく、重要そうなモノから書いていくのが福沢式。
腹減りました。
先生が帰って来たので、メモを渡してそのままトイメンに着席。
フーンと言いながら、俺の力作をサラサラ流し読み。ホント読んでます?
「お前は気になる記事があったかい?」
来たよいつものイジワル面接。
「いつも通り、私が重要と思う順に並んでおりますが。」
「重要と気になるはイコールなのか?」
ぇえええ、何か落とし穴でしょうか?
「ふん、お前は正直過ぎて面白くない。この程度の問答はユーモアでかわせ。」
ムリです。先生の圧力が強過ぎます。
「うん、コレだな。朝鮮弁理公使の件か。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「サスガ先生!お見通しでございましたか!」
曽根さんと渡辺さんは、そう言って旨そうにビールを飲む。
あんまり飲みすぎると、失言しちゃいますよ先生の前で。
ただ今は2人のヨイショがきいて、先生もご機嫌である。
俺は同席と言っても、先生の後ろで速記の係です。
先生は頭良すぎて話しながら新たな発見をすることが多く、後から見返せる様に会談を記録することが多いんですね。ゴハンは当然オアズケです。
腹減りました....スゴくね。
「支那狂いの俊虎と外務省が連んでくるのだ。オマケに花房が朝鮮公使となれば、ソレがらみと考えるのが当然だろう。」
お見通しさ!って言いたいだけで、俺を使いましたね。
「花房は元気でやっているのか?」
ハナフサって、その記事にある朝鮮弁理公使?その人ももしや生徒?
スゴイ人脈だよねこの学校の卒業生って。
その頂点に立つこの人は、何を考えているんだろうか?
未だに先生の凄さの底が見えない。
「いや今日も連れてこようと思っていたのですが、あやつは朝鮮の件で今大忙しで。」
「それで?俺が手伝えることでもあるのか?」
曽根さん渡辺さんは顔を見合わせて、何やら目配せをしているようだ。
大方どっちが口に出すか、譲り合っているといったところ。
ほら先生、卒業生もコワガッテマスヨ。ユーモアではかわしきれません。
「実は先生、我々花房から相談を受けまして。」
「よりによってお前らに相談か。外務省もよほど人材難だな。」
そういう事言うからだぞ。ミンナ喋れなくなるのは。
「朝鮮政府の改革派から、花房へ接触があった様なのです。」
キターーーー!!!
「ほう、どんな内容で?」
「改革派から密かに人を日本へ送り込みたいと。その上で日本語の学習と、法学・経済学の学習をしたいと言っております。」
「それはまた欲張りな事だ。」
先生はニヤニヤ笑っている。
ていうかキターーーーーーー!!!コレだ!!この機会逃すな!
「受け入れるのは引き受けた。」
「っとまた、随分と簡単にお引き受け頂けるのですな。」
「コ、コレ!俊虎!」
先生の目がキラリと光る。
ああ.......これは......言っちゃった。
終わったなこの人たち。気の毒に。
「お前らはそこまで重要な話を持って来ておきながら、その話の重要性にすら気付いておらんのか?花房がお前ら如きに相談を持ちかけたのも、悪くすれば奴のクビが飛ぶほどの危険があるからとは思わんのか!」
いかんコレはいかん。先生に説教の神が降りている。
1時間コースは覚悟せねば。
「俺はすぐに事の重要性に気がついた!奴が命懸けで人を送り込み、ソイツも命をかけて学びに来る!そんな男たちの気概を、この俺が尻込みして受けぬとでも思うのか!この唐変木め!」
「なぜそんな事も分からんのか、俊虎!!キサマそんな事だからいい歳こいて少佐止まり、薩長の奴らの後塵を拝さねばならんのだ。平素から覚悟がなさ過ぎる!いつ死んでもいいようにサムライとしても心掛けを忘れるなと、あれほど教えておいたのがお前らには何ものこっておらんではないかああっ!」
先生その辺で......曽根さんもう泣いてマス......。
っていうか慶應義塾の教育ってそんなのでしたっけ?
とにかく先生が吠え飽きるまで、俺の耳は右から左への空洞となる。
「先生誠に申し訳ございませええん!私共が愚かでございましたああ!」
30分ほど説教され、あやまる土下座ブラザーズ。
先生は疲れたみたいで、ビールをグビリと煽ると座椅子に深くもたれかかった。
「あーマッタクお前らみたいなのばっかりで疲れちまうぜえ。何年教えてもロクな生徒が出てこねえ。」
こんなカンジ悪い人が、日本の最高頭脳なんてあんまりデスヨネ。
「先生、実はもう一つお願いが....。」
おや....この人根性あるね。ここに及んでまだなんか言えるのか。
でもこういう最後の根性振り絞るみたいなのは、先生好きなんだよねえ。
「おお、言ってみろよ。」
「実はこの俊虎めが愚考しまして、支那・朝鮮の研究機関を我らで立ち上げる事に致しました。」
「フム、それで?」
おお、何か素直に聞いてあげている。ヤッパリこの人には捨身で飛び込むのが一番ですね。
下手な小細工すると血祭りになるけど。
「表向きは支那語と支那文化を学ぶ、友好組織です。しかしコレを利用し支那・朝鮮の内情を探る機関としたいと思っております。」
少しの静寂.......コワイ。
「お前らにしちゃあまともな事考えてんじゃねえか。少しは知恵もついたか。」
「あ、ありがとうございます〜!」
しかしそれが褒め言葉ですか?曽根さん渡辺さんも、嬉しそうな顔しちゃいけませんよ。
「お願いばかりで恐縮ではございますが、支那語の教育者となると意外と少ないモノです。慶應義塾の中で、人材がおればご紹介いただきたいと思いまして。」
「そうか、そんならコイツを連れていきな。色々と忙しい体だが、週に1日や2日は働けるだろう。」
「へ?こちらの方で。」
おや?私ですか?
「なんだお前ら、不満でもあんのか?」
「イエイエとんでもありません!先生のご推薦に間違いなどあるはずは!ただ随分とお若い方だったので驚ましただけでして!」
曽根さんもはや言いなりです、飛べと言われれば飛ぶでしょう。
「歳で判断せぬほうがいい。今、慶應義塾で英語・仏語・支那語にもっとも達者な者といえば、コイツをおいて他にいまい。犬養毅だ。」
「犬養!あの郵便報知の犬養毅ですか?」
「おお!戦地直報の!こんなお若い方でしたか!」
人を紹介するのは上手いんだよね。
まあハードル上げられた感はあるが。
「犬養と申します。よろしくお願いします。」
「いやこちらこそ!イヤあ先生ありがとうございます!」
朝鮮改革派と接触するのに、これ以上の機会はない。幸運と言っていい!
しかしまた俺の時間が削られる。腹減ったし......。
史実の福沢先生は人格者だったと思いますよ!
たかがフィクションですから、大きな心で見逃してください。