転生者たち④
よし見えてきた!この後1回ぐらいでこの回終わります。
もう少々お付き合いください。
コワシさんが叫ぶ声のデカさに、俺もハチローさんもちょっと驚く。
「ど、どーしたんすかコワシさん?」
「いえ、すいません。あまりに豪華な名前が無造作に出てきたので......。」
またワタシが悪かったんでしょうか?
「それにしてもそのメンバーは凄い。ツヨシくんよろしくお願いします。」
「イヤな予感しかありませんが、念のため何をよろしくお願いされたか聞いていいですか?」
コワシさんは悪い笑みを浮かべて、何やら考え込んでいる。
怖い、とてもコワシ。
「今名前が上がったのは、陸軍内の反山県有朋派で有名な谷干城と三浦梧楼ですよね。何方もこの後中将になりますが。」
「反山県....なんですか2人とも?まあ三浦さんはそうでしょうね。」
俺は山県有朋に不満ブーブーだったゴロちゃんの顔を思い出した。
「それから児玉少佐と言われてたのは、児玉源太郎で間違いないですね。この人を知っているのはデカイ。」
「コダマさんが?そうか児玉源太郎?あの?」
俺でも知ってる陸軍大将、日清・日露戦争勝利の立役者だ。
名刺交換したわけでもないし、頭の中でそこは結び付いていなかった。
そうか、そうなのか。
「そのメンバーにあと少し加われば......山県を抑えることも可能かも知れない。」
「山県を抑える?それって今までの話と関連あるんすか?」
ハチローさんの質問に、コワシさんは頷く。
「直接の影響じゃないけど、この後『参謀局』は西南戦争の反省を基に、戦時中の作戦立案部署として強化されていくんです。そこの頂点に座るのが山県で、彼がい続けることで『参謀本部』の権力が増すんですね。」
「山県陸軍卿が参謀本部へ行くんだ。降格じゃないすか?」
「そう!そうなんだよ!実はこの後軍内部に反乱が起きるんです!それだ!」
コワシさんが何やら思いついたようだ。
さっきより更にワルい顔をしている。
「竹橋事件ですよ皆さん!!」
デスヨネ。知りませんが。
無反応な我々の様子を見て、すぐにそうと悟ったコワシさんは続けた。
「竹橋事件はこの後すぐに起こる、軍人の反乱です。来年夏ぐらいだったかな?西南戦争後の予算不足が、軍人の待遇を引き下げてしまうため起きるんです。オマケに西南戦争の褒賞は上級士官のみにしか出ず、ソレを取り仕切った山県は、高額な年金を得て目白に豪邸を建てちゃう。ここは攻めどころじゃないですか?」
俺は理解が追いつかない。
「ええと、コワシさん的には山県を抑えることが、将来的に参謀本部を弱体化させれると?」
「そうですね。オマケにこの人残しておくと、議会や官僚への影響力がデカいんです。しかもめちゃ長生きです。力を削れるチャンスに削っとく方が良いと思います。」
「具体的にはどの様に?」
明治大正の最強政治家を封じ込める?
「うーん、ツヨシくんに動いてもらって、中将二人にひと騒ぎしていただきましょう。伊藤博文は山県擁護に動くでしょうが、新聞でも一発キャンペーンぶち上げていただいて......イヤまたツヨシくんの仕事ばっかりだな?とにかく山県が降格どころか、暫く謹慎状態に追い込まれるまでいきましょう!」
「頑張れよツヨシ。」
「ハチローさんは何かやること無いんですか?」
反山県キャンペーン?殺されませんかそれ?いくら犬養が暗殺されるにしてもまだ早すぎます!
「さて、山県対策が出てきたところで、この後の国内対策を話したいと思います。」
「コレは俺の出番だな、きっと。」
「是非そうであって欲しいです。」
ハチローさんは退屈していたらしく、身を乗り出してきた。働け、ハチロー。
「国内は当然この後盛り沢山ですよ。ナントっ言っても西南戦争後の日本は国費が足りません。さっきの竹橋事件の如く、数多くの民衆蜂起事件が起こります。」
「それだよ。そこで俺が暗躍しちゃいますか?」
民権運動というよりテロの打ち合わせのようだ。
「ハチローさんはそれらの事件に参加するんじゃなくて、抑えに努めて下さいね。」
「ええ〜、そうなんっすかあ?」
ヤル気マンマンだったみたいですねハチローさん。
「コレらの蜂起は、始まりが生活に困窮する民衆の蜂起です。あまりに厳しい圧政から立ち上がって、民衆の窮状を訴えるために起きてますね。福島事件と秩父事件何かが有名です。」
それは聞いたことありますよ。
「ところが自由党系の引き起こす事件は段々とエスカレートします。飯田事件や名古屋事件は、活動資金目当の強盗が中心ですし、その後起こる大阪事件に至ってはアウトですね。民衆から支持される範囲を逸脱しています。」
あーそうなりますか。銀行強盗とかハマり役っぽいですけどねー。
「ハチローさんがやらなくてはならないのは、
①コレら急進派の蜂起計画を食い止めて、自由党系の社会的な信頼感を作り上げる事。
②板垣退助の首に鈴をつけて、政府側にすぐ擦り寄らせない事。
③国会期成同盟の先頭に立って、自由党結成時に良いポジションを確保する事。
コレが大事です。」
「①の話はどんな意味があんです?起きちゃうもんはしょうがなく無いっすか?」
コラコラ、後ろ向きすぎですよ。
「コレら一連の事件が、新聞条例や集会条例などの民権運動弾圧の言い訳に使われます。また元老たちに政党アレルギーを植え付けるのも、この時期の蜂起が原因です。結局成功しないのが目に見えているのに、閉塞感の打破のために、破れかぶれで実行されてるものが多いんです。」
「別の解決方法があればいいんですよ。自由党系でも新聞出してるじゃないですか。アレもっと一般大衆向けに改変しましょう。」
俺が提案する。
「えー、俺そういうの向いてねえし。」
「向き不向きじゃありませんよ!あんな闇新聞みたいな政府批判ばっかの記事出してるから、新聞条例が出来ちゃったんじゃないですか!もっと読者を考えて、影響力持って下さい。俺も手伝いますから。」
いや、そんな時間はないかもな?でも言っちゃった。
「ホントね!ツヨシ、絶対だかんね!」
「イヤハイ、俺自身はダメでしょうけど、誰かにやらせますよ。まあ、きっと。」
「でもそれは良い考えです。自由党の欠点は、あまりに先鋭化してしまう事と、板垣さんがフラフラしすぎる事です。ここを押さえて頑張って下さいね。」
「うん、俺はこの後板垣のオッサン、期成同盟、新聞、地方の抑制だな。分かりやすい。」
「そうだ、ハチローさん。俺、戦争取材中に妙な奴と会って。」
え?という顔で二人はこちらを見る。
「ソイツ薩軍に参加するって言うから、途中で別れたんですけど、結局最後まで投降者の中にも戦死者の中にもいなかった。ですからまだ生きてるかも知れませんし、生きてれば福岡出身なんで、ハチローさんの近くで活動してると思うんです。」
「お、おおそう。んで、ソイツを探して欲しいってこと?」
「そうですね。無事だったら是非会っておきたいし。」
「うん、かまわねえよ。仲間にも気をつけてもらうよう言っとこう。」
「ありがとうございます!」
「ソイツの名前は?」
「頭山満っていうんです。」
その瞬間、コワシさんがお膳ごと転倒しているのが見えた。
「あああ、コワシさん!どうしたのさ!」
「大丈夫ですかコワシさん!」
動く様子もないが、コワシさんは笑っている。
いやほんとにコワイですって。やめましょうよそういう反応。
「まったく君って人は......。頭山満が何で熊本に?そんな事あったっけ?」
「コワシさん、率直に言ってその状態で独り言はコワイです。」
「ホントっすよ、ホラ。起きましょうって。」
二人でコワシさんを抱き起こす。彼はまだ笑っている。
「ツヨシくん、その出会いはちょっと早い。でも重要な出会いだよ。」
「そう......なんですね。何かピンときませんが。」
あのボウズ頭を思い起こす。愉快な奴だったが、今の計画にどう絡んでくるのか、見当もつかない。
「将来的に、君は彼と一緒になって孫文の革命を支援するんだ。」
.......チョット何言ってるか分かりません。
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