転生者たち②
今回少々戦場の描写があることから、R15の残酷な描写ありのフラグを付けました。
苦手な方は御注意下さい。
またブクマいただいた方の中でも、苦手な皆様は解除お願いします。
って言っても私も残酷な描写は苦手なので、大した事は書かないですけどね。
ご迷惑お掛けしますが、よろしくお願いします。m(_ _)m
程なくして入口にいた女性と若い娘が2人、料理とビールを運び込んでくれた。
手際良く配膳を済ませると、女性はカラリと正面の障子を開ける。
外には部屋の明かりにぼやりと浮かび上がる色付いた木々と、その向こうには美しく輝く月が見えた。
「このお部屋は月見の間と申します。三面の障子を開けると、必ずどちらかの方角に月が見えますことから、そんな名前をつけたのです。」
女性はコワシさんの傍で、澄んだ声で説明してくれた。
ボケッと聞いていた2人に、コワシさんは気まずそうに呟く。
「ええとそれでね、その、彼女はね、私のその、内縁の妻というやつで.....。」
ああ?マジか役人め?
「喜多と申します。よろしゅうお願いいたします。」
「コワシさんズルいっす。こんな素敵な女性を!」
そーだハチロー、言ってやれ。
「ハチローさんに言われたくないですよ。いつも違う女性連れてるくせに。」
ナニ!
「女遊びはそりゃあしますよ。でも騙したり泣かせたりはしてないですからね。」
「ううう、2人ともズルイ。俺なんて半年戦場に居て、女性なんて見る余裕すら無かったのに。」
「いやいやゴメンねツヨシくん。コレからいくらでも時間ありますよ。」
「そうそう、ツヨシくんは見た目も良いし、何と言っても今有名人だから。」
そーだ綾さんっていうカワイイ娘だって.....イヤ矢野さんが立ちはだかっているけど。
「そうだツヨシくん、今度2人で新橋の茶屋でも遊びに行こう。カワイイ娘呼んでもらってさ!」
「ホントっすか?やった!ありがとうございます!」
盛り上がる2人。フッフッ、役人は入れてあげないよ!
「その辺りについてなんですが、そろそろ今後の話をしましょうか?」
ひとり落ち着いて話始めるコワシさん。
喜多さんに目で合図すると、彼女は席を立って失礼しますと退室した。
「私たちの事は、彼女にも明かしていません。それにこの後のことを考えると、私たちが目立って会合するのはまずいと思うのです。」
「え?そうなの?」
ハチローさんは意外そうに言う。
「まず史実通りで言えば、私は帝国憲法草案を起草する立場で、議会政治体勢を進めようとする大隈重信を、明治14年政変で追放するような人間です。天皇の大権を重視した政治体制を目論んでいます。」
「そうなんですか?コワシさん自身、今もそう思っているんですか?」
思わず口を挟む俺に、コワシさんはにこりと笑って続ける。
「うん、先ずは史実的な皆さんそれぞれの立場を説明させてください。それから我々自身がどうすべきか考えましょう。」
「わかりました。」
一番正しいのはコワシさんだ。全く異論はない。
「そんな兼ね合いで、民権運動をこれから進めていくお二人とは、ハッキリ言って敵です。特に大隈卿の有力な協力者となる犬養毅にとって、親分の仇といえる存在でしょう。」
おやまあ。しかし俺はまだ、その親分にすら会っていない。
「宮崎八郎は史実ではすでに死亡してますが、生き残っていれば当然民権運動の最前線で活躍した人です。しかも明らかに板垣退助に近い。自由党で議員になると思われます。」
「そらあそうでしょうね。今やっている事も、それを見据えた動きだし。」
ハチローさんも同意する。
「となればハチローさんもツヨシくんも、敵同士ですよ。自由党と改進党として、ドロドロの政争をする事でしょう。」
「えええ......。」
俺もハチローさんもドン引きだった。折角仲間として巡り逢った俺たちは、敵同士として三つ巴の戦いを繰り広げる運命なのだ。
「でもねコワシさん、俺が生き残った事でもう既に史実は変わっているし、一緒に力を合わせていく筋書きだってアリなんじゃない?」
おお!ハチローさん意外と頭いいじゃないですか!
「そうですよ。その方が上手くいくんじゃないですか?」
俺も乗っかった。
コワシさんはニコニコしている。
「私もそれは考えたんです。それで上手くいくかもしれません。」
しかし彼の結論は違ったようだ。
「ですがその場合、恐らくツヨシくんもハチローさんも、政府に入って何らかの仕事をすることになり、歴史と違う人物になるでしょう。それでも政党は誕生し、政争し、混乱して軍隊が跋扈し、世の中は戦争へ突き進むでしょう。私たちはこの人生でナニをしたいか、ナニをすべきか、そこを考えてからそれぞれの道を決めるべきじゃないですか?」
俺とハチローさんは混乱した。
この人が見ているのはどのあたり先の事なのだろう?
「コワシさん、チョット待った!そんなに難しい話されても俺の頭じゃついていけないっすよ。結局のところどうすんのがいいと思ってるんですか?」
ふむ、とコワシさんは一声。
「ツヨシくんはここまでの話で、何か疑問点はある?」
「えーと、コワシさんがどうやら戦争を止めることを目指してるようだって事は理解しました。」
ふむふむ、とまた一声。
「いや、コレを2人にも押し付ける気持ちはないんですよ。」
そう言ってコワシさんは爽やかに笑う。
「ただね、私たちがいるこの時代、日本も世界も大戦争時代に突入していくところです。私たちはこの戦争が、どれほど悲惨で無意味だったかを知っている。その影響で21世紀に入っても、戦争の種が消えないほどです。私はこの事を憂う。」
彼の言葉は俺の心を打った。
その時微かな記憶が蘇った。シリアでの内戦の記憶だ。
民間人居住地の中心部へ、ミサイルが撃ち込まれた時のこと。
バラバラになった子供の体を抱いて、泣き叫ぶ親たち。血塗れの広場を這いつくばって、家に帰ろうとする10代の女の子。俺たち外国人記者は取材を放棄して、彼らの救助に命をかけた。
全ての戦争の元がこの時代にあるなら、最悪の元凶をここで断てるなら俺はどんな事でもするだろう。
そんな事がアジアの片隅のこの国で、現実的に可能なんだろうか。
「コワシさんが言っているのは、日本軍が起こした戦争のことですよね。」
「勿論そうです。ツヨシくんは世界中の戦争を止めたいだろうけど、先ずはこのアジアの戦争。将来的に可能なら、他国の戦争防止も考えましょう。」
「出来るんでしょうかそんな事。」
俺は卒直に疑問を口にする。
「分かりません。ハッキリしているのは、これから世界が戦争一色に染まる事だけです。」
「何で迷う事があんだ?この時代にあって、そんな大事な事ができるのが俺たちしかいないなら、悩む必要すらないんじゃねえか?」
ハチローさんは平然と言った。さっきまでナニ言ってるのか分かんなかったくせに、とてもカッチョいいのはずるいと思う。
「勿論です。コワシさん、俺ができる事は何でもやります。」
「ありがとう、2人とも。」
コワシさんは今度は泣かなかった。俺たちは乾杯してビールを飲み干した。いやあんまり飲めないんだけどね俺は。
「で?話を元に戻そう。その目標を持つとして、俺たちが一緒に行動するのとしないのとでどう違います?」
ハチローさんが話を先ほどの問題に戻す。
「ああそうでした。その話でしたよね。」
コワシさんは段々話に勢いが出てきたようだ。目が生気に溢れ、初対面の雰囲気とは感じがまったく違う。
「この3人のバランスが、実は凄く良いんですよ。それぞれが違う組織に属し、それぞれの組織をリードできる立場にある。つまり出来レース的な戦いをする事も可能なわけです。」
「出来レースですか?」
「そう。例えば右手でグー出して、左手でパー出すように。」
分かりにくい例えだ。
「コワシさん、もうちっと分かりやすく頼むわ・・・・。」
俺も同意見だ。
「ええとコレから国会が開設される可能性が高いでしょ?2人は別々の党に属する議員になるわけだ。」
フンフン。
「政府と自由党、改進党でイロイロと揉め事が起こる。でも私たちは繋がっているし、これから何が起きるかも分かっているんだから、対策は自由自在だ。」
「それがグーとパー?」
ハチローさんが声を上げる。
「そう、つまり争っているように見せて実は私たちの筋書き通り事は決する。コレが可能なのは私たちが別の組織に属しているときだけです。正直国会が開設された後の、国会運営のグダグダっぷりは目に余ります。これを我々で回避する事が出来るわけです。」
なるほど〜。頭悪い2人は頷くしかない。
「一方、私たちが一つの組織で一緒に行動するとなるとこうは行かない。」
コワシさんの説明は続く。
「まず犬養毅がいない改進党は、違う組織と言っていい。こうなるとかなり歴史が改変され、私の知っている歴史と違う事がドンドン起きて、先回りして手を打つ事すら難しいと思う。」
そういう事ですか。
「つまりこのまま史実っぽく我々は別行動し、裏で協力しあって戦争回避の方向へ政府を誘導していくと。」
「そういう事です。」
「それに決まりだな。」
どうやら俺たちの行動目標はコレで決まりだ。
大戦争時代に突入する日本を、出来る限り非戦争状態に持っていく。
そうかコレってもしや、俺が暗殺されなくて済む方向性じゃね?
一挙両得!反対する理由などないではないか!
........だが、コレを言うのはまた今度にしよう。